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副業していると労災保険の給付が少なくなる?

副業と労災

 

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山口社会保険労務士事務所
(2019/9/9号 no.325)

 

 

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副業していると労災保険の給付が少なくなる?
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仕事を分散化する時代。何が本業なのかを固定しない

1人につき仕事は1つ。朝から夕方もしくは夜まで8時間ほどの時間を投入し、週に5日。2000年頃まではこのような働き方が主流だったようですが、2019年現在では変化が起きています。

会社員として働きつつ、仕事が終わった夜や休日に別の仕事に取り組む。他には、会社員と自営業の身分を同時に持ち、2つ以上の仕事を手掛けている方もいらっしゃるでしょう。

さらには、パートタイムの仕事を2つ持っている、自営業とパートタイムの仕事を持っている、こういう方もいらっしゃるかと思います。

収入を得られる仕事は増えていますし、選択肢も多いです。ビデオ制作で収入を得る人もいれば、デジタルコンテンツを販売して収入を得る人もいます。インターネットがなければ成立しなかった商売ですが、これらは今や当たり前のものになりました。

「休みの日に寝転がってテレビを見たり、延々とスマートフォンをいじっているぐらいならば、何かもっと有意義なことをしようか」と考えたとすれば、ずいぶんと健康的な考えの持ち主です。

副業といっても、「副業 = 仕事」と考えているとは限らず、趣味や気分転換などを理由に取り組んでいる方もいらっしゃるのでは。もちろん、収入を得られるのは大前提でしょうが、それプラスαを求めていくのが副業の面白いところ。

これは本業、これは副業、と分ける方もいますが、その境目は不明朗なもので、何を基準に分けているのかは人それぞれです。

収入の多さで序列を決めているのか、それとも投入する時間量で決めているのか。さらには、好き嫌いで決めているのか。それぞれの主観で分けている傾向があるようで、客観的な基準というものはなさそうです。

両者を分けずに、自分がやることは全て本業という気持ちで取り組んだ方が分かりやすいと思いますが、ここは個人の好みの問題でしょうか。

 

労災保険に2つ以上加入している人たち

どのような副業をするかによって、労災保険にも複数加入する場合があります。

例えば、平日はフルタイムで働き、休みの日にパートタイムで働いている方がいるとしましょう。また、どちらの仕事も、どこかの会社に所属して雇用されているという前提で考えてください。会社員としての身分が2つあるというイメージです。

雇用されて働いている方は、フルタイム雇用であれパートタイム雇用であれ、全員が労災保険に加入しています(勤めている事業所に労災保険が適用されていれば)。保険料は事業所が負担するため、労働者本人は保険料を支払っていません。給与明細には、雇用保険料の項目はありますが労災保険料の項目はありません。

手続きや保険料が無く、労働者にとっては自動で労災保険に加入しているような感覚になります。フルタイム雇用とパートタイム雇用で働いていれば、労災保険もそれぞれの会社で加入しているとの扱いになります。

ちなみに、3つ目、4つ目と副業を増やせば、それに伴い労災保険の加入数も3つ、4つと増えます。

では、労災保険に2つ加入していると何が起こるのか。

「たくさん加入していれば、労災保険の給付も増えるんじゃないの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そうはならないのです。場合によっては、増えるどころか減ることもあります。

 

低い収入で労災保険の給付額が決まってしまう

先程の例として挙げたのは、フルタイム雇用とパートタイム雇用の組み合わせでしたが、前者が月収50万円、後者が月収10万円の仕事だとしたらどうなるのか。前者の事業所を会社A、後者の方は会社Bとしておきます。

仮に、後者のパートタイムの仕事中に怪我をして、しばらく休業しなければならなくなったとします。その場合、労災保険から休業補償給付というものが支給されます。

ここで、休業補償給付の給付額が収入の60%だとすれば(実際の給付内容はもう少し複雑ですが簡素にしています)、支給額はいくらになるか。

労働災害が起こったのは会社Bですから、給付額を決める際は、月収10万円が基準になり、休業補償給付は月6万円となります。

※休業補償給付の給付額を計算する際は、給付基礎日額というものを算出して、そこに給付率や休業日数を掛け合わせるのですが、分かりやすくするためにデフォルメしています。

労働者本人の収入は合計で月に60万円なのですが、労災で休業すると月に6万円しか給付されないわけです。怪我をする前に比べて収入が1/10に減っていますから、何とかならないかと思うところです。

なぜこのようになるのかというと、労災事故が起こった事業所での収入が基準となり、労災保険の給付額が決まるためです。それゆえ、収入が少ない方の事業所で怪我をすると、労災の給付額も少なくなってしまうのです。

本来ならば、月収60万円なのですから、その6割だとすれば、36万円程度は労災から給付されないといけないはずですが、そうはならないため困るわけです。

 

副業先の賃金も含めて労災の給付額を決める

労働者が得ている賃金の総額を基準に労災保険の給付額を決めれば、給付額は妥当なものになります。

先程の例だと、月収10万円ではなく月収60万円が労災給付の基準になると、支給額も適正だと思えます。

ただ、労災事故を起こしていない事業所の賃金も含めるのは不合理なのではという考えもあるようです。会社Aでは労災事故が起こっていないのに、さも労災事故を起こしたかのように、労災の給付額を計算していくのはおかしいのではないかと。

労働者が仕事中に怪我をすると、その事業所の使用者は責任を負います。それに対して労災保険でフォローするのが原則です。しかし、副業先の賃金を合算して労災保険の給付額を決めるとなると、労働災害を起こしていない事業所の保険料が増加することもあります。

労災保険料を決める際には、過去に労働災害がどれだけ起こったかを考慮し、保険料を上げ下げする仕組みがあります。複数の事業所での賃金が合算されると、労災事故を起こしていない事業所であっても、保険料を引き上げる方向に計算されてしまうというわけです。

労災事故を起こしていない事業所に対しては、保険料を計算される際に影響が出ないようにすれば、保険料の増額を回避できます。

労災の給付額を計算する部分に限定して、合算された賃金額を利用するという案もありますし、マイナンバーを利用して複数の事業所での賃金額を把握することも可能でしょう。

それぞれの事業所から労災保険料は回収できているのですから、賃金の総額を基準にして給付をすること自体は支障がありません。

話は変わりますが、労働時間を通算して時間外労働に対する割増賃金を支払うかどうかという点では解決方法がありませんでしたが(副業の残業代を出したくても出せない事情。)、労災保険の場合は、保険料を回収できていて給付はできる状態です。つまり、財政上の問題は無いのです。

使用者の責任をどうするかなどと話も出ていますが、副業する人が増えるのが気に入らないから、何か理由をつけて阻んでやろうという意図を感じます。

 

会社員の身分を2つ以上持っている人は「複数事業労働者」に

フルタイムで働きつつ、休みの日にパートタイムでも働いている。
昼はフルタイムで勤務し、夜にパートタイムで勤務。
パートタイム労働を2つ以上掛け持ちしている。

こういう方は今回の労災保険に関する話に関係してきます。

雇用される身分を2つ以上持っていて、労災保険にも2つ以上の事業所を通して加入しているとなると、どこで労災事故が起こるかによって給付額が変わります。

一方、フルタイム雇用 + 自営業、自営業 + パートタイム雇用、これらも複数就業者に該当するのですが、労災保険に加入している事業所は1つです。そのため、労災事故が起こった場所で給付が変わることはありません。

雇用されて働く身分が1つだけならば、労災保険の給付額は変わりませんから、特に心配することもありません。自営業の方は、独自に所得保障保険に加入している方もいらっしゃるでしょうし、自分が怪我や病気をしても収入が途絶えないような商売を構築している方もいらっしゃるでしょう。

いずれは賃金の総額で労災の給付額が決まる状況になるかもしれませんが、まだそうはなっていないため、副業をされる方は仕事中の怪我には注意が必要です。

 

参考:

複数就業者 他社賃金加味して給付 労災保険で方針示す 厚労省

複数就業者への労災保険給付についての検討状況(案)

複数就業者への労災保険給付について

 

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