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時間に給与を付けているのが問題の核心。副業先の労働時間を通算して残業代を払えるの?

メールマガジン 本では読めない労務管理の"ミソ"

(2020/9/1号 no.329)

 

副業の労働時間

 

 

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時間に給与を付けているのが問題の核心。副業先の労働時間を通算して残業代を払えるの?

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複数の仕事を持っている人の労働時間をどう集計するかが焦点。

2020年6月25日、第161 回 労働政策審議会労働条件分科会にて、副業・兼業の場合の労働時間管理について検討が行われました。


第161回労働政策審議会労働条件分科会(資料)

どのような内容かというと、1つの職場、1つの会社だけで働いている場合は、その職場での労働時間だけを把握すれば十分なのですけれども、2つの会社、3つの会社で働いていると、それぞれの会社、つまり事業所での労働時間を合算するのか、別々で扱うのかが問題となるため、そこをどう解決していくのかという点が議題となっています。

複数の会社での労働時間を合算すると、1日8時間を超えたり、1週40時間を超えたりすることもあるので、その際の割増賃金の支払いをどうするのか。その割増賃金をどの事業所が支払うのかを考えないといけなくなります。

他にも、労災保険や雇用保険、さらに社会保険も、複数の会社で働いていると、どのように適用されていくのかで悩むところです。被保険者資格を2つ以上持つこともあり得るのか、それとも1つだけなのか、など。

仮に、他の会社での労働時間も合算するとなると、どうやってその勤怠情報を集約していくのか。勤怠データは個人を特定する情報になるので、そう容易に他の会社へ渡すわけにもいかないものです。

さらに、副業をしている本人がその事実を職場に伝えないこともあります。副業がバレるかどうかを気にする方もいらっしゃいますから。休みの日に何をするかどうかは会社には関係ないことですから、勤務時間外なり休日にやっていることをなぜ報告しなければいけないのかと考えるのは当然です。競合他社で副業をしているとなれば話は別ですが、競合しない仕事ならば、あえて介入する理由もありません。

それゆえ、他社の勤怠情報を正確に集めるというのは難しいのです。その難しいものを、何とかして、理屈を組み上げて、半ば強引に、労働時間を通算してやろうというのが労政審の基本方針のようです。

 

 

 

労働基準法38条1項が出発点。他社の勤怠データをどうやって集めるの?

副業先の労働時間を通算する際に、まず考えるのが労働基準法38条1項(以下、38条1項)です。

『労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する』

これが条文ですが、素直に読むと、本業だけじゃなく副業先の労働時間も合算して計算するのが正しいんじゃないかと思えます。

最も気になるのは「事業場を異にする場合」という部分です。ここをどう解釈するかによって判断が変わってきます。

事業場を異にするというのは、全くの別会社(事業主が異なる)も想定してるのか、それとも支店とか同じグループ内の店舗(事業主は同一)での違いを意味してるのか。ちなみに、行政通達では、同一事業主の異なった事業場であれ、事業主も異にする事業場であれ、各事業場での労働時間を通算するとされています。

前者の場合は、チェーン店の外食や小売を想定すれば、当然に労働時間は通算すると判断するのが正しいです。しかし、後者の場合は、お互いに全くの別会社ですから、他社の勤怠情報にアクセスできないため、副業している人の労働時間を把握できません。にもかかわらず、労働時間を通算するよう求めるのは無理な要求ではないかと。

労政審の検討では、労働者の自己申告で他社の勤怠データを集めようとしているのですが、自己申告というものが当てになるとは思えません。副業・兼業の事実を隠そうとする人が自己申告に協力するとは考えにくいです。

全く知らない会社から、「あなたのところで勤めている今井さんの勤怠データを教えていただきたいのですが」と連絡があって、ホイホイと社内の情報を他社に伝えるかというと、それはありません。特定の個人を識別できる情報ですし、勤怠データは社内で扱うもので、外部に漏洩させてはいけないものです。

事業主が異なっていれば、2020年8月時点では、他社で働いている事情について知らんぷりしたところで、38条1項違反に問われるケースは現実にほぼ無いのではないかと思います(他社の勤怠情報を集める手段が無いため)。同一企業内で通算しなければ、未払い賃金なり未払い割増賃金が発生するでしょうが、事業主が異なる他社の労働時間まで把握できるものではありませんから。

「勤務時間外の活動にまで関わっていません」と会社側が言えば、それは間違った判断ではありませんし、自然なことです。知らぬ存ぜぬの一点張りで押し通しても、会社側の責任を問うのは困難です。

1947年に作られた労働基準法ですから、2020年現在のような働き方を想定して法律案を作っていたとは思えません。テレワークでの働き方が拡大し、労働時間を基準に労務管理するのは限界が見えています。

時間に賃金を付けるのではなく、仕事に報酬を付けていく労務管理に変えていく必要があるのに、強引にでも労働時間による管理を通そうとするところに無理を感じます。

 

 

 

 

被雇用者の身分を複数持っていると介入される。副業をするなら自営業なり個人事業主で。

副業・兼業の場合の労働時間管理について

これが第161回労働政策審議会労働条件分科会での検討内容をまとめたものです。

使用者は、労働者からの申告により、副業や兼業をしているかどうかを確認するとのこと。労働者に副業や兼業をやっていると自主的に届出をさせることで、副業先の情報を把握しようとしているようです。

会社側から相手側、つまり副業先に、従業員の情報を直接に求めることはできないので、労働者経由で間接的に情報をやり取りをしようとしています。それを通して、労働時間の通算もやっていこう、というのが狙いらしいです。

 

社員が副業先の残業を事前申告 政府、9月に新ルール: 日本経済新聞.

副業をする人の残業時間について、厚生労働省は働く人が勤務先に事前申告するルールを9月から始める。働き手が本業と副業とでどう働くかを自由に検討できるようにし、副業を促す狙い。企業による就労時間の管理もやりやすくなるとみられるが、働きすぎる人が増える恐れもあり、厚労省は企業に健康チェックなどの充実を求める。

 

副業・兼業の促進に関するガイドライン が改定され、2020年9月から副業の事実を申告するように求めるようです。ただ、自己申告がどこまで機能するのかが気になります。

副業していることを申告させたり、副業先の労働時間を強引に通算していくような仕組みを作ると、副業を促すどころか、むしろ副業を抑制する効果があるのではないかと。

副業してる本人にとってみれば、余計な詮索はしないで欲しい、副業の仕事の内容を届け出るようなことはしたくない、自分の意思で職場に関係なく好きなように副業をやっていきたい。だから報告だの届出を求めるだの、労働時間を通算をするだの、といった形で介入してほしくない、と思ってるのではないでしょうか。

秘密保持義務、競業避止義務で懸念があるのでしょうが、それぞれ個別に契約を締結し、トラブルが起これば民事訴訟で対処するものです。この点への対策のために、職場全体で副業を制限するような仕組みを作るのはやりすぎではないかと思います。

労働時間の通算についても、「事業場、事業主を異にしていても通算する」と繰り返すばかりで、「どうやって通算するのか」という点では、労働者の申告に頼ったものになっています。

正確に申告しなければ牢屋に入れられるとなれば、渋々ながらでも申告するでしょうが、特にペナルティも無いならば、勤務時間外にやっていることを申告しないでしょう。使用者としても、他の会社での出来事に責任を負いたくないものですし、本人が自分の意志でやっていることに関わりたくないでしょう。

厚生労働省の労働政策審議会が想定している副業や兼業は、会社員としての身分を2つ以上持って取り組んでいる場合を想定しています。つまり、「フルタイム雇用+パートタイム雇用」、「パートタイム雇用+パートタイム雇用+パートタイム雇用」、このように会社員としての身分、つまり被雇用者としての身分を2つ以上持っている場合は、労働時間を通算して、行政としても介入していくという姿勢なのでしょう。

一方で、会社員としての身分は1つだけで、その他に個人事業主として仕事をしている、自営業で仕事をしている、会社を経営をしている。このように被雇用者としての身分は1つしかない状態で、副業や兼業をしていれば、勤怠情報を名寄せできませんから、行政は手出し出来ません。

副業される方は、フルタイム雇用やパートタイム雇用という形で、複数の仕事をするのではなく、会社員としての身分は1つだけにしておいて、プラスαで何かしたいなら、自営業なり個人事業主、もしくは自分で会社を設立して、会社員としてのものとは別身分で、副業や兼業をしていけば、お節介を避けられます。 パートタイムの仕事を2つやる、というような選択はおすすめできません。

 

 

 

どの会社が法定時間外労働への割増賃金を払うのか。残業していないのに残業代を払う?

労政審の文書 では、簡便に労働時間を把握できる管理モデル案が示されているのですが、一読しても仕組みが理解できない方もいらっしゃるのでは。

どこらへんが簡便なのか分からないのですけれども、事業所ごとに労働時間に上限を予め設定し、その範囲内で働けば、実労働時間を把握する必要がない、というのが利点のようです。

気になるのは、「他の使用者の事業場における実労働時間の把握を要することなく法を遵守することが可能となる」という文言です。他社での実労働時間を把握できないから、この管理モデルを用いることで、労働時間を通算できない(38条1項を守れない)ことを労政審が暗に認めているのではないかと思えます。

実労働時間を把握しないならば、労働時間を通算していないのですから、38条1項に適合していないと言えます。通算、通算と言うわりには、実労働時間を把握しない方法を提案しているのですから不思議なものです。実労働時間を把握しないなら、通算する必要もないと思うのですが。

労働時間を基準に労務管理をするよう労働基準法が求めているため、それに従うよう強引に労働時間を通算しようと試みているのでしょうが、無理なものを押し通すと、上記の管理モデルのように、おかしな結論に至ってしまいます。


38条1項の「事業場を異にする」という部分には2つの意味があり、「事業所を異にする、事業主は同一」というのが1つ目で、「事業所を異にする、事業主も異にする」この意味が2つ目です。

新型コロナウイルス感染症が拡がり、職場に通勤せずにテレワークで仕事をするようになった方もいらっしゃるかと思います。通勤する時間をカットできるため、時間に余裕ができて、副業する時間も捻出しやすいでしょう。

会社員+自営業の組み合わせならば、38条1項が適用される場面ではなく、労働時間を通算する必要はなく、問題は起こりません。個人事業主は労働者ではなく、労働時間を管理するかどうかは任意ですから、38条1項に基づいてその時間を通算することもありません。

一方、「会社員+会社員」、「会社員+会社員+会社員」のように雇用契約を2つ以上締結しているケースでは、労働時間を通算するかどうか、割増賃金を支払うのはどこの会社なのか、が問題となります。

例えば、2つの会社で働く人がいたとして、

事業所A:週30時間
事業所B:週25時間

このような労働時間になったとすると、合計で週55時間労働になります。ちなみに、1日あたりの労働時間は8時間以内に収まっているとします。

1週40時間を超えると割増賃金が必要ですが、それをどちらの事業所が払うのかが悩ましいのです。

事業所AとB、どちらも法定労働時間を超過していないため、どちらも割増賃金を払う理由はありません。1日8時間、1週40時間、いずれも超過していないならば法定時間外労働に対する割増賃金はありません。

しかし、両方の労働時間を通算したとすると、週55時間になりますから、15時間分の割増賃金が必要になります。ここまでは良いのですけれども、問題はどちらの事業所が割増賃金を負担するのかという点です。

事業所AもBも、どちらの事業所でも法定労働時間は超過しておらず、割増賃金を支払う理由がありません。個別に労働時間を区切って考えればそれでいいのですけれども、他の事業所の労働時間を通算されると、本来ならば発生しないはずの法定時間外労働が生じます。

先に雇用契約を締結した方が本業、後から契約すると副業。このような優先順位が付けられているようで、「労働契約の締結の先後によって所定外労働時間を通算する」のが労政審での判断基準になっています。

雇用契約の先後ではなく、投入している時間量、収入の多さ、仕事の楽しさなど、本業と副業を分ける基準は人それぞれです。中には、何が本業で何が副業なのかを分けていない人もいます。

事業所Aで先に働き始め、その後に副業として事業所Bでも働き始めたとすると、Aが本業、Bが副業となります。この前提で労働時間を通算すると、まずAでの労働時間である30時間が計上され、その後にBでの25時間が上乗せされます。その結果、40時間を超えた15時間分の割増賃金を事業所Bが負担することになります。

Aは割増賃金を負担せず、Bは全面的に割増賃金を負担する。この不均衡な状態を事業所Bの使用者は受け入れるでしょうか。「ウチでは25時間しか働いてもらっていないのに、何で15時間分の割増賃金を払う必要があるのか」と反発するのは確実です。

労政審では、管理モデルで事業所ごとに労働時間の上限を設けて、それをお互いに守るようにすれば、実労働時間を把握せずとも法違反にならないと提案しています。しかし、事業所同士で連絡はできませんし、労働者の勤怠データを事業所同士でやり取りすることもできず、労働者を経由して間接的に連絡させるなり勤怠データを申告させて仕組みを回そうとしています。

労働者の自主申告に基づいた仕組みがうまく機能するとは思えませんし、真面目に副業の情報を伝える労働者も多くないのではないかと思います。副業していると職場に知られれば、嫌がらせを受ける可能性もあり、なるべく秘匿しておきたいと考える方も少なからずいらっしゃるはず。

副業先の労働時間を通算して残業代を払えるのかというと、強引に労働時間を通算したところで、割増賃金の負担で使用者は納得しませんし、労政審の提案する管理モデルも分かりにくく、労働者の自己申告で労働時間の情報を集める仕組みが機能するとも思えません。

労働者のためという名目で、労働時間を通算しようとしているのでしょうが、使用者の負担を増やすと、そのしわ寄せは労働者に向かい、労働者の待遇が低下します。

事業主が異なる他の会社での労働時間は本人の自主管理に任せて、行政が介入しない、という形でも良いのではないかと思います。労働時間が長いと思えば自分で仕事を減らすでしょう。

無理に労働時間を通算させて使用者の責任を増やすと、面倒なので副業・兼業を一律に禁止しよう、副業者を解雇しよう、人をなるべく雇わずに商売をやっていこう、と労働者が望まない結果を招く可能性も考えておかないといけないでしょう。使用者を追い詰めると、最後に困るのは労働者なのです。

労働者を守るつもりが労働者を追い詰めている。そんな皮肉な結果になるのではないかと心配です。

 

 

 

時間管理の限界。労働時間に賃金を払っていたら人はサボる。

労働時間に対して賃金を支払う仕組みになっている事業所は多くあり、時間給、日給、月給など、仕事ではなく職場で消化した時間に応じて給与を払っているわけです。

時間と賃金を結びつけると、人事評価をする手間を省けますから、給与計算はラクですし、人事評価で職場の人から嫌われることも避けられます。固定で支給している時間給、日給、月給は、会社が人事評価を手抜きするために設けられた方便ではないかと。

しかし、仕事に報酬を付けて給与を決めていかないと、労働時間に賃金がリンクしているなら、サボったもの勝ちになります。頑張って仕事をした1時間。手を抜いて仕事をした1時間。給与がどちらも同じならば、働くのがバカらしくなる。

忙しい日には出勤せず、暇な日に出勤する。繁忙日にこそ働いてもらいたいのですが、時間に給与が連動しているなら、忙しい日を避けるのが合理的です。大忙しでも、暇でも、給与は同じなのですから。他にも、新しい仕事はなるべく覚えず、決まったルーティンワークをこなして給与を受け取る。これもまた合理的な判断となってしまいます。

暇な日を狙って出勤する。新しい仕事はやらない。使用者にとっては困る状況ですが、労働時間に給与が連動していたら、このような職場になります。

ゆえに、労働時間を給与計算に含めると、インセンティブが歪みます。労働時間が付加価値を生み出すのではなく、仕事が付加価値を生み出すのですから、それを評価するようにしないといけないわけです。

例えば、店頭販売を1時間やったら、1時間に対する時間賃金だけでなく、仕事に対する報酬、1時間の店頭販売で500円のように付ける。時給1,000円だとすると、インセンティブをあわせて1,500円になります。やらなければ労働時間に対する賃金の1,000円だけですが、本人の意志でタスクに取り組むと収入が増えます。

完全成果報酬は、雇用契約だとできない働き方なので、労働時間に対する評価を下げて、仕事に対する評価を高くします。

労働時間に対する賃金は、ほぼ最低賃金にしておき、仕事に対する報酬をそこに上乗せしていく。この2層式の給与がテレワーク時代には合っていると思います。ちなみに、仕事に報酬を付けるのであって、いわゆる成果報酬とは違います。上手く成果を発生させれば、それはまた別の評価、例えば賞与で反映させれば良いです。特定の仕事に取り組んだことでもって報酬を上乗せするのがミソで、それがうまくいったかどうかはまた別の問題です。

更衣室の掃除をやったら500円とか、トイレ掃除を担当したら300円とか、すべての仕事を時間給や日給にごちゃまぜにするのではなく、仕事に報酬が付いていると分かるような給与になっていると、サボる人は減るのではないでしょうか。他にも、繁忙日に4時間以上出勤した人は給与を1,500円加算する、というのも1つの方法です。

テレワークだから裁量労働制、などとしてしまうと、法律違反を誘発しますから、雇用契約である以上、労働時間に対する賃金を残す必要があります。

リモートミーティングのときだけ仕事をしているフリをして、あとはサボっている。そんな人に労働時間に応じて1時間2,000円だの3,000円だのと払っていたら、どれだけ予算があっても足りません。付加価値が低くなり、賃金がそのままだと、キャッシュは回りませんから。

労働時間だけでなく、年齢、役職、勤続年数を給与に加味していると、これも問題を起こします。取り組んでいる仕事に報酬が付くのであって、労働時間、年齢、役職、勤続年数を評価するとしてもウェートを低くしておく。

仕事以外の要素で給与を加算すると、上手くいかないものです。

42歳だから給与はこのぐらいかな、家族がいる人だから給与はこのぐらいかな、前の職場では部長だったから給与はこれぐらいかな、このような決め方をすると、他の従業員が不満を持つのは当然です。

 

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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