- 社会保険料を考えて退職日をいつにするか
- 社会保険料がかかるのは「退職した月の前月まで」
- 退職する日は月末でいいの?
- 退職時に残った年次有給休暇を使うときの対応
- 在職時の社会保険料は1ヶ月分減るが、任意継続健康保険の保険料がかかる
- 退職したのに社会保険料は満額支払っていると思うのは誤解
- 健康保険証は退職日まで使える
- 雇用保険料は日割り計算できる
退職するとなると、
いつ退職するか、悩むところです。
仕事の引き継ぎがあって、
退職書類を書いて、
残った有給休暇をスケジュールに入れ、
退職日を決める。
さらに、
退職した後の健康保険や年金をどうするか。
退職すると、
家族の健康保険も変わる場合があり、
こちらの手続きも必要でしょうね。
健康保険証はいつまで使えるのか、という疑問も退職するときに出てきますよね。「健康保険証が手元にあるうちは使ってもいいのかな?」と思ったり。
普段は会社任せで事務処理が進むところ、
退職するとなると自分でやらなければいけない
ことがドドッと押し寄せてきて、
「さて、どうしたものか」
と困ってしまう。
社会保険料を考えて退職日をいつにするか
本人が決めることですから、
どの日に退職するするかは自由です。
給与計算の締め日を退職日にする。
月末日を退職日にする。
任意で適当に決めた日に退職する。
10日に退職、
15日に退職など、
人によって退職日はバラバラです。
他に、業務の引き継ぎをきちんと終わらせることができる時期に退職日をスケジュールするのも大事ですね。
どの日を退職日にしてもそれは有効なのですけれども、社会保険のことを勘案して退職するとなると、適当に決めるというわけにもいかないところ。社会保険のことを考えたりしなきゃいけないんじゃないかと思いますよね。
給与の締め日や月末だとキリが良く、
退職日にする人も多いのではないでしょうか。
もちろん、そういう決め方でもいいのです。
では、社会保険料のことを考えて退職日を決めるならば、
いつがいいか。
社会保険料がかかるのは「退職した月の前月まで」
社会保険料(健康保険・厚生年金保険)は、その月の末日に在籍しているかどうかで納付の対象が決まります。
例えば、
7月20日を退職日としたら、
社会保険料はどうなるか。
この場合、
社会保険から脱退(被保険者資格を喪失)するのは、
退職日の翌日である21日。
退職日までは社会保険に入っていますから、
7月20日までは健康保険証を使えます。
ですから、会社で保険証を回収するのは21日以降になるんですね。健康保険証を使わないだろうと思うときは、前倒しで19日や20日に会社に健康保険証を渡しても構いません。出勤日との兼ね合いで決めるところですね。
7月20日を退職日とすると、社会保険料がかかるのは、前月である6月分まで。7月の末日に在籍していませんから、7月分の社会保険料はかかりません。
つまり、
7月20日に退職すれば、
6月分までの社会保険料が必要になるわけです(7月分は不要)。
6月分の社会保険料は翌月7月の給与から支払いますので、
「20日まで健康保険証を使えるのだから、7月分の健康保険料は日割りになるんじゃないか」と思うかもしれませんが、社会保険料は日割りになりません。
ちなみに、社会保険料とは、
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 介護保険料
この3つがセットになったものを意味します。
退職する日は月末でいいの?
退職するとなると、退職日をいつにするか悩むこともありますね。月の途中か、給与の締日までか、月末で退職するか、選択肢がいくつかあります。
月末(31日や30日など)に退職したら、その月の社会保険料はかかる
7月20日じゃなくて7月31日の月末に退職したら、社会保険料は何月分までかかるのか。キリがいいですよね、月末だと。サッパリした感じがしますし。
退職した日の翌日に社会保険の被保険者資格を喪失(「社会保険を抜ける」とも言いますね)しますから、7月31日に退職すると翌日の8月1日に被保険者資格を喪失したと扱われます。
ですから7月の末日に退職すると、社会保険から抜けるのは8月1日ですから、7月分の社会保険料が必要になります。
社会保険料は、退職月、7月分の給与から天引きされます。
月末退職したときの社会保険料は2ヶ月分をまとめて徴収することも
社会保険料の当月分を翌月徴収する職場だと、月末退職になったとき、退職月の翌月分もまとめることになるので、退職月の給与から2ヶ月分を徴収しておく必要があります。
7月の末日に退職したとすると、7月の給与から6月分の社会保険料を控除しますね。さらに、被保険者資格を喪失するのは8月1日になりますから、7月分の社会保険料を本来ならば8月の給与から控除する必要があるはずです。
しかし、7月末で退職しますから、8月の給与支払いはなく、8月の給与から7月分の社会保険料を控除できないのですね。
そのため、7月に支払う給与から2ヶ月分の社会保険料(6月分と7月分)を控除しておく必要があるわけです。
「当月分翌月徴収」の場合、退職時には退職月分と前月分の2か月分を最終給与から控除する必要があります。
最終月に欠勤や控除が多いと、給与額が社会保険料の2か月分をカバーできないことがあります。その場合は不足分を別途徴収する必要があります(会社が立替えて後から回収するケースもあり)。
「退職時には最終給与から2か月分の社会保険料を控除する」ことを事前に説明しておきます。突然手取りが減るとトラブルになりやすいですからね。社会保険料が急に増えると、「なぜこういうことになるのですか?」と問い合わせが来ますので。
月末退職のときに社会保険料の控除忘れが発生しやすい
「当月分翌月徴収」の場合、月末退職時に社会保険料の控除忘れが発生しやすいため、実際に徴収漏れをしてしまう事業所もあります。
給与計算のルーチンでは「毎月1か月分の社会保険料を控除する」ため、特別対応を忘れやすいのですね。「退職月の給与で2か月分控除する必要がある」ことを知らずに、いつも通り1か月分だけ控除してしまうわけです。
そこで、月末退職のときは、月末の1日前を退職日にする。就業規則にこのように定めておけば給与計算ミスを減らせるでしょうね。
月末退職ではなく、月末の1日前を退職日にするというルールを就業規則に定めることで、給与計算ミスを減らせる可能性が高くなります。
さらに、退職月の給与から2か月分の社会保険料を控除すると、手取りが大きく減り、退職者が不満を持つ可能性がある。そのため、月末の1日前を退職日にすると定めておくと、1ヶ月分の社会保険料で足ります。
給与計算のミスを減らして、退職者の社会保険料負担を減らせるので、一石二鳥ですね。
月の途中(20日など)に退職したら、社会保険料は前月分まで
7月20日に退職した場合は、退職した月の前月までの社会保険料がかかりますから、6月分までの社会保険料で終了となるわけです。
この点は上記で説明した通りです。
退職する時は月末退職。キリがいいですし、これはよく行われているのかもしれませんが、月末に退職すると社会保険料が退職月の分までかかるというのは知っておきたいところです。
1日在籍しても1ヶ月分の社会保険料がかかる
たった1か月分の社会保険料ですけれども、保険料率は健康保険と厚生年金を合わせておよそ30%ですから、1か月分であっても絶対額に換算するとなかなかの金額になりますよね。月収50万円だと社会保険料は15万円ですので、これが0円になるとすれば、そうしたいと思いますよね。雇用保険料は無視してもいいぐらい安いのですけれども、社会保険料は収入の30%を持っていかれますから、1ヶ月分の社会保険料が発生するかしないかというのはなかなかの違いではないかと。
月末の1日前(例えば30日が月末なら29日)以前に退職すると、その月の社会保険料は不要
月末の1日前、7月だったら7月30日に退職すれば、社会保険料は6月分までになります。
参考:保険料について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
退職した月の保険料は発生しません(最終給与からの天引きなし)。
退職後は国民健康保険や任意継続保険などの手続きが必要ですね。退職後、すぐに他の会社で雇用された場合は、社会保険の資格取得手続きをします。
退職時に残った年次有給休暇を使うときの対応
補足事項として、退職する時に残った年次有給休暇を使うこともあるかと思います。この年次有給休暇を使っている間は在職している状態になりますから、年次有給休暇を全部使い終わった日が退職日です。退職日の後で年次有給休暇を使ってしまうと、年次有給休暇を使い切るまで在職していることになり、社会保険料もかかりますから、この点は忘れないようにしたいところです。
7月30日を退職日にしたにもかかわらず、残っていた年次有給休暇が20日分あったので、7月31日以降その年次有給休暇を使ってしまうと、退職日が8月の中旬頃になりますから、社会保険料は7月分もかかります。
年次有給休暇を使っている間は、会社に在籍している扱いになります。そのため、社会保険の資格喪失手続きはできませんので、社会保険にも加入した状態が続きます。
社会保険に加入している人は、月末の1日前に退職日を指定して、1ヶ月分の社会保険料を減らせますので、どうしても月末退職にこだわりが無いならば検討してみてはいかがでしょうか。
在職時の社会保険料は1ヶ月分減るが、任意継続健康保険の保険料がかかる
ただし、月末の1日前で退職した場合、1ヶ月分の社会保険料は減りますが、退職後に健康保険を任意継続した場合は、そこで健康保険料がかかります。
7月30日で退職すると7月分の社会保険料(健康保険料と厚生年金保険料)はかかりませんが、任意継続した健康保険料はかかりますので、カットできるのは厚生年金保険料です。厚生年金保険は任意継続制度がありませんので、健康保険だけ7月分の任意継続健康保険の保険料がかかります。
任意継続健康保険ではなく、国民健康保険に入った場合も、7月分から国民健康保険料がかかります。
さらに、健康保険を任意継続している間に国民年金に入る方(20歳以上60歳未満の人)は国民年金の保険料も支払います。健康保険を任意継続せずに国民健康保険に入った場合は、国民健康保険料と国民年金の保険料がかかります。
家族の社会保険に被扶養者で加入すれば、健康保険料はかかりませんが、ここでも国民年金の保険料は必要になりますね。
逃げ道はキッチリと塞がれているんですね。
1ヶ月分の社会保険料が無しになるわけではなく、厚生年金保険料が1ヶ月分なくなるだけ
月末の1日前に退職しても、健康保険料自体は何らかの形で支払う必要があるため、実際にカットできるのは厚生年金保険料のみです。
任意継続健康保険に入ると、退職前の健康保険(協会けんぽや健康保険組合)を最長2年間継続できます。保険料は全額自己負担(会社負担分も負担するため、通常の2倍の金額)。さらに、退職月の保険料はかかります。今回の例だと7月分の任意継続健康保険の保険料がかかるわけです。
国民健康保険に入れば、退職日の翌日から加入するため、退職月である7月から保険料が発生します
したがって、厚生年金の1か月分の負担を軽減できるのが、月末の1日前退職のメリットとなります。
退職したのに社会保険料は満額支払っていると思うのは誤解
健康保険料は、被保険者資格の取得・喪失で切り替えるとき、資格喪失した月の保険料は発生しないため、二重払いにならないような仕組みになっています。
給与明細を見ると、退職した月は制度に加入していた日数が少ないのに、満額の社会保険料がかかっている、と思ってしまいがち。その気持ち、分かります。
例えば15日に退職した場合、1ヶ月の半分だけ在籍しているわけだから、社会保険料も普段の半分だけ支払えばいいんじゃないか、と思ってしまうもの。せめて日割りで社会保険料を計算してくれたらいいですよね。
しかし、給与明細を見てみると、普段と同じ金額の社会保険料が天引きされている。
これはおかしいんじゃないか、と考えてしまう方もいらっしゃるのでは。
社会保険料は当月分を翌月に支払うのでタイムラグがある
社会保険料は、当月の保険料を翌月に支払う、という形になっています。例えば、6月15日に退職したとすると、5月分の社会保険料を6月の給与で支払います。そのため、退職月である6月の給与から満額の社会保険料が控除されるわけです。1ヶ月のズレがあるため誤解を招くときがあります。
ならば、退職した月である6月分の社会保険料はどうなるかというと、被保険者資格を喪失した月の社会保険料はかからないことになってるので、退職月である6月の社会保険料は0円です。6月15日に退職したので。
健康保険を切り替えるときも二重払いにならないようになっている
国民健康保険から健康保険に切り替える時、または、健康保険から国民健康保険に切り替える時も同じような問題が起こります。
例えば、国民健康保険に入っていた人が協会けんぽの健康保険に切り替える時、切り替えたその月の保険料は、協会けんぽの健康保険の保険料だけになり、国民健康保険料は必要ないのです。
逆に、協会けんぽの健康保険から国民健康保険に切り替える時は、切り替えた月の保険料は国民健康保険料だけになり、以前加入していた健康保険料はゼロです。
このように、健康保険を切り替えるときに保険料が二重払になることはないのですね。
健康保険証は退職日まで使える
退職日の翌日に社会保険から脱退します。
つまり、
退職日までは社会保険に加入している状態です。
先程の例だと、
7月20日までは健康保険証を使えるんですね。
21日以降は、保険証を会社経由で返却します。退職日までは使えますので、退職日の翌日以降に健康保険証を会社で回収して、都道府県の健康保険協会に郵送します。
もう退職するからといって早めに保険証を回収するわけにはいきません。退職日までは本人に持っておいてもらって、その後に会社で回収し、健康保険協会に被保険者資格喪失届と一緒に郵送します。
手元に健康保険証があるからといって、
使ってはダメですよ。
「まだ手元にあるから健康保険証を病院に出せば3割負担でいけるんじゃないか?」と思えますが、窓口で3割になっても後から残りの7割を請求されます。資格喪失後の給付になりますから。
返却が数日遅れても支障はありませんが、
21日以降は保険証を使えなくなります。
「使えなくなる」と書きましたが、
病院の窓口に保険証を出すと、
3割負担で利用できてしまいます。
しかし、
後から残り7割(保険で支払われた部分)
を請求されます。
20日までは保険証を持っておき、
21日以降は、早めに保険証を返却します。
マイナンバーカードが健康保険証になれば、
保険証を返却する必要もなくなります。
被保険者資格を取得するときに保険証を発行する必要は無いし、
事業所まで郵送することもなく、
本人に渡す必要もない。担当者不在で受け渡しができないなんてこともなくなりますね。
さらに、
退職時に返すこともない。保険証を健康保険協会に郵送する必要が無いので、事務を省けます。
被保険者資格取得の手続きが終われば、マイナンバーカードを健康保険証として使えるようになります。退職時は、被保険者資格の喪失手続きが終わるとマイナンバーカードの健康保険証の機能は止まりますから、カードの実物を送ってもらったり、送り返したりする事務作業はなくなりますよね。
早くマイナンバーカードを保険証
として使えるようになるといいですね。
健康保険から脱退した後は、
- 今の健康保険を任意で継続する。
- 国民健康保険に入る。
- 親族の健康保険を使って被扶養者になる。
- しばらく無保険で過ごす(非推奨。後から健康保険料を遡って請求されます)。
選択肢は4つあります。
1の任意継続を選んだ場合は、
保険料は全額負担になりますけれども、
保険料に上限があります。
在職中だと、
健康保険料は、会社負担分と本人負担分を合わせて月額14万円ぐらいまで上がります。
一方、
退職して、
任意継続で健康保険に入った場合は、
標準報酬月額の上限が30万円と仮定すると、
健康保険料率は10%で、
月額3万円程度が任意継続被保険者の健康保険料の上限になります(都道府県ごとに違いがあります)。
ちなみに、令和7年度(2025年度)の標準報酬月額の上限は32万円です。
そのため、
在職時に健康保険料を
毎月10万円(会社負担分と本人負担分を合算したもの)
ほど払っていた方は、
退職後、健康保険を任意継続すると、
在職時よりも保険料が下がるはずです。
保険料が全額負担になると、
在職時よりも健康保険料が上がると思われがちですが、
全員がそうなるわけではありません。
在職中の標準報酬月額が上限額を超えていた方は、任意継続被保険者になると健康保険料は少なくなります。ただし、会社負担がなくなりますから、在職時より健康保険料が増える可能性の方が高いですが。
【知ってました?】税金に上限は無いが社会保険料には上限がある。
雇用保険料は日割り計算できる
社会保険料は退職月の前月までですが、雇用保険料は退職月も支払います。
雇用保険料は、実際に支払われた給与で計算します。
雇用保険料は、健康保険や厚生年金とは異なり、実際の賃金額(給与額)に対して計算されるため、日割り計算が可能です。
社会保険料のように、収入が増減しても一定というものではないです。
毎年7月の算定基礎届で標準報酬月額が決まると、1年間は社会保険料が原則固定されます。
しかし、雇用保険料は、「支給された賃金 × 雇用保険料率」で計算します。退職月の給与に応じて計算されるため、勤務日数が少なければ、その分だけ保険料も少なくなるのですね。
仮に、雇用保険料が0.3%だとすると、
1ヶ月働いて、月収50万円ならば、雇用保険料は1,500円。
月の途中(20日)で退職したとしたら、月収を34万円と考えて、雇用保険料は1,000円です。
一方、社会保険料は、仕事をしない日があって給与が減ったとしても、減りません。病気や怪我で1週間ほど休んでも、給与明細を見ても社会保険料は変わりませんよね。
社会保険料30%で計算すると、月収50万円でも、退職月で勤務日数が少なくて月収34万円でも、社会保険料は15万円です。
ゆえに、雇用保険料は、社会保険料のように前月までではなく、実際に支給された給与で計算するのですね。
雇用保険料の額が小さいですから、影響はほとんどありませんけれども。