上限に達すると社会保険料は増えなくなる
健康保険料や厚生年金保険料はパーセンテージで保険料を集めるため、収入が増えると、それに応じて保険料も増加する。
2015年10月時点では、健康保険料は約10%、厚生年金の保険料は約18%。合わせて28%なので、可処分所得の1/4以上を社会保険料で持っていかれる。
パーセンテージで保険料額が決まるので、収入が増えれば増えるほど社会保険料は増加するのだが、ある一定の水準を超えて収入を増加させると、社会保険料がフラット化する。
税金は青天井、累進性を振りきれば上限がある社会保険料
健康保険、厚生年金ほ保険料は算定方法が決まっており、標準報酬月額テーブルという表を見れば分かるようになっている。
健康保険料を調べるための標準報酬月額 簡易閲覧表
厚生年金の保険料を調べるための標準報酬月額 簡易閲覧表(H29/9 - )
まず健康保険の方を見てみると、最大で50等級あり、保険料(料率10.22%の場合)の最大額は142,058円(半分だと71,029円)になる(大阪府の場合)。収入が1,355,000円以上だと、標準報酬月額は1,390,000円になり、保険料は142,058円に固定される。仮に月収が200万円であろうと、500万円であろうと、健康保険料は142,058円。
つまり、135万5千円以上の月収だと、健康保険料が一定になるわけだ。
他方、厚生年金の場合はどうなるか。
厚生年金の場合は、等級は31が最大であり、保険料の最大額は113,460円(折半だと56,730円)になる(こちらは健康保険とは違い全国共通)。収入が605,000円以上の場合、標準報酬月額は620,000円になり、保険料は113,460円で固定される。ここでも、収入が月収100万円であろうと、400万円であろうと、保険料は同じ113,460円となる。
健康保険料と厚生年金保険料を合わせて、保険料は最大でも月額255,518円までで止まる(介護保険料が加わる場合はもう少し増える)。
一方、所得税や住民税、法人税となると、パーセンテージで数字が決まるという点は同じであるものの、上限は無い。
税金についてブーブー言う人はいますが、社会保険料についてはさほどものを言わない。なぜならば、上限があるから。超えればフラットになるので、一定以上の所得層には社会保険料は誤差程度のものとして処理できる。
超低空飛行(1等級)でいくか、それとも超高度飛行(最大等級)で振り切るか。社会保険料の負担を減らすにはこの2つの道がある。
社会保険料は年に1回だけ、変更するかどうかの手続き(社会保険料算定)があり、保険料が決まると1年間は同じ額で固定される。上記の標準報酬月額テーブルに収入を当てはめれば、給与明細に書かれている数字と合致する。
社会保険料
毎月の給与に社会保険料はかかりますけれども、年に数回支給される賞与に対しても社会保険料はかかります。ならば、その額がいくらになるのかを自動で正確に計算してくれると、給与計算が楽になりますよね。
国民健康保険料の上限額が2万円引き上がる
2023年に国民健康保険料の上限額が2万円引き上げられる予定ですが、この引き上げでどのような影響があるのか。
上限額が上がるといっても国民健康保険に加入している全ての被保険者の保険料アップするわけではなく、高所得者で国民健康保険料の上限額に達している人は、さらに年間で2万円引き上がる可能性があるというもの。
令和2年度 国民健康保険実態調査では、国民健康保険料が上限に達している世帯は全体の約2%(年間所得700万円以上の世帯)。国民健康保険料の上限額が2万円引き上がることで影響を受けるのは、国民健康保険に入っている全世帯の2%と言えます。ですから、残りの98%の世帯には影響がないというわけです。
国民健康保険に限らず社会保険、会社経由で入る健康保険や厚生年金も同じですが、社会保険料は収入に応じて増えていくのですけれども、ある一定水準まで達すると、それ以上は保険料が上がらなくなるのが特徴です。
国民健康保険は、医療部分、後期高齢者医療制度の支援分、介護保険の分という3つに分かれて保険料が計算されています。それぞれ8.71%、2.66%、2.48%で(2022年10あ月時点の国民健康保険料率の所得割)、合算すると国民健康保険料の料率は13.85%。さらに、均等割と平等割が定額で加算されますが、それを含めるとすると、およそ15%程度が国民健康保険料と考えて良いのでは。
この国民健康保険料には上限があって、令和4年度は賦課上限額が設定されていて102万円。この賦課限度額に達すると、それ以上に保険料は上がらなくなります。
国民健康保険料を15%と考えると、所得が300万円の人は、その15%の45万円が年間の保険料になります。
所得が1000万円の人は、国民健康保険料はいくらになるかというと、その15%は150万円ですけれども、賦課限度額を超えているので、その額は102万円です。所得が1000万の人の国民健康保険料は年間102万円で上限に達しています。
さらに所得を増やして、年間所得5000万円の人だと、国民健康保険料はいくらになるかというと、所得1000万円の人と同じ年間102万円が保険料になります。年収が5倍になっても国民健康保険料は同じなんですね。
つまり、所得水準が上がれば上がるほど、ある一定水準までは社会保険料は上がってきますけれども、その数字を超えてさらに所得が上がっていくと、所得に占める社会保険料の割合が下がっていきます。山の形をしたカーブをイメージすると分かるのではないかと。
ちなみに、税金にはこのような上限額が設定されていませんから、所得税や法人税で15%と決められている場合は、上限額なしで15%になります。所得1000万円だと150万円ですし、所得5000万円だとその15%で750万円です。
ですから収入が増えていくと高所得の人たちは税金については苦言を呈しますけれども、社会保険料についてはさほど物申すことがないのは、賦課限度額に上限があるからというのが理由です。
年収でいうと500万円とか700万円ぐらいの人は社会保険料がそのまま所得に連動して発生しますから負担感が大きくなります。
一方で、年収5000万円とか7000万円ぐらいになると、社会保険料が所得に占める割合が減ってきますから、ほぼ誤差程度の支出と感じるようになります。
所得水準を引き上げていって、社会保険料の負担感を減らしていくところまで振り切っていく。こういう状態になれば富裕層と言ってもいいでしょうね。
給与は基本給だけでなく雇用保険料や健康保険料も含めて計算しなければいけないものですから、それらの保険料を自動で計算してくれる給与計算ソフトは便利ですね。
社会保険料は収入を基準に決まり、税金は所得を基準に決まる
社会保険料を減らそうとすれば、所得ではなく収入の段階で減らさなければいけないので、税金よりも調整が難しい。
所得税や法人税だと、先に経費や損金を発生させて、その後に税金を計算していき、途中で色々な所得控除もあるため、後からコントロールすることが社会保険料よりも容易。
社会保険料は収入として入ってきた数字を基準に計算するので、収入が報酬月額として扱われ、そこから標準報酬月額が算定され、標準報酬月額に社会保険料率をかけて社会保険料の額が決まる。
所得を抑えるのは経費や損金、所得控除で可能だが、収入を抑えようとすると根っこの部分の数字を抑えなければいけないので難しくなる。
個人事業主や法人代表者ならば自分自身の収入をある程度制御できるかもしれないが、それ以外の方だと収入を自分の意志で変えていくのは難しい。
個人事業主と法人を両方利用できる立場ならば、社会保険料を節約することもできるが、それ以外の方が社会保険料を節約しようとするのは労多くして益少なしとなる。