労務管理のツボをギュッと押す方法を考えます

会社で起こる労務管理に関する悩みやトラブルを解決する方法を考えます。

休業中に収入が減ったら、算定基礎手続きで社会保険料も減るのか。

保険料決定

 

 


社会保険料は、標準報酬月額を基準にして決まり、標準報酬月額は報酬月額を基準にして決まります。報酬月額は、簡単に表現すれば毎月の収入のことです。

毎月の収入にあたる報酬月額から標準報酬月額という数字を出して、その標準報酬月額に保険料率を掛けると、社会保険料の数字が分かるわけです。

「収入 × 社会保険料率」で社会保険料を計算しているわけではなく、標準報酬月額という数字を間に入れて、保険料を等級方式にすることで被保険者の社会保険料を管理しているのです。

これらの数字の関係については、健康保険料の一覧表を見ていただいて、毎月の収入を当てはめると、標準報酬月額や社会保険料の額が分かるかと思います。

 

 

収入が減っても、社会保険料はすぐに減らない。

収入に連動して社会保険料は決まるのですけれども、毎月の給与に連動しているものではなく、年に1回実施する「標準報酬月額の定時決定」で9月から翌年8月までの社会保険料が決まるのです。

毎年、7月になると、4月から6月までの収入を算定基礎届という書面で報告します。ちなみに、労働保険料も7月に概算保険料と確定保険料を算定する手続きがされます。

算定基礎届というものを提出して、収入を報告することで、標準報酬月額という数字が決まり、その標準報酬月額に対応する形で毎月の社会保険料(厚生年金保険料と健康保険料)が決まります。

仮に、社会保険料が30%だとすると、月収50万円なら、社会保険料は24万円。厳密には月収ではなく、先程書いたように標準報酬月額を使って社会保険料は決まりますが、あえて月収のままで表記しています。

ここで、何らかの理由で、月収が半分の25万円になったら、社会保険料も半分になるのかというと、そう単純ではないのです。一時的に収入が減っても、社会保険料はそのままで、25万円の月収で、社会保険料が24万円なんてことも起こりえます。社会保険料を引くと、月収が1万円になるわけです。

普段は手取りの月収が26万円(ここでは税金や雇用保険料を考慮しない)の人が1万円に変わってしまったら、これは生活できませんよね。

急に収入が減ったときには、社会保険料もそれに連動して減ってもらわないと、手取りの収入が少なくなってしまい困ります。そのような場合に、標準報酬月額の随時改定という制度があるのですが、通常の随時改定だと、収入が減ってから3ヶ月後に標準報酬月額が変わり、社会保険料が下がっていくものですが、3ヶ月間も社会保険料が据え置きだと収入の減少に対応できません。

そこで、新型コロナウイルス感染症対策として、随時改定の特例が設けられ、収入に応じて、早い段階で社会保険料を改定できるようになっています。

 

 

7月の算定基礎届で標準報酬月額が変わるのかどうか。

新型コロナウイルスを理由に、仕事が休業になった方もいらっしゃるかと思いますが、休業手当の支給率が100%であれば、収入が減ることはさほどないのでしょうけれども、それでも休業前に比べて少なからず変化があると思います。

通常時の報酬に比べて、休業中の報酬が少ないとなれば、社会保険料も減るだろう。そう思いますよね。収入に連動するのが社会保険料ですから、休業中に収入が減ってるなら、社会保険料もそれに連動して減っていくだろう、と考えるのが普通です。

4月、5月、6月の報酬を基準にして、7月に算定基礎届の手続きをして、標準報酬月額が決まり、9月以降の社会保険料も決まります。毎年、6月の下旬、給与の締日を経過してから集計作業をして、7月の初めに算定基礎届を出すのが通例です。

毎月の賃金に連動する雇用保険料と違って、社会保険料は年に1回の算定基礎手続きでもって決まり、保険料は原則として年間を通して一定です(随時改定という例外はあります)。収入の変動に関わらず、社会保険料はずっと同じなのです(原則として1年間は)。

4月と5月は、緊急事態宣言が発令されていて、地方自治体からも休業要請が出され、職場が休みであった方もいます。

その休みがゆえに、通常時に比べて報酬が下がっているわけだから、算定基礎届の手続きでも、報酬が減った月を含めて標準報酬月額を算出するのかどうか。それとも、休業手当を受けていた月を除いて、標準報酬月額を算出するのか。どちらの処理をしていくかによって、標準報酬月額は変わりますから判断に悩むところ。

日本年金機構の標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集によると、7月1日時点で、一時帰休、つまり休業が解消しているか、解消していないかによって判断が分かれます。

仮に、4月の報酬(余談ですが、社会保険では「報酬」、労働保険では「賃金」という言葉を使います)が減少して、標準報酬月額を随時改定するとしても、普段の制度だと7月に標準報酬月額が改定され、社会保険料も変わります。しかし、これでは遅いため、4月に報酬が2等級以上下がったときは、翌月の5月に特例で標準報酬月額を改定し、5月から収入に応じた社会保険料に変わるようにできるわけです。

3ヶ月ほど高い社会保険料のまま過ごす必要はなく、可処分所得の減りも抑えられますので、被保険者には有り難い特例です。

 

 

社会保険料が減ると、健康保険や年金の給付も減る。

社会保険料は安ければ安いほどいい。そう考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、社会保険料に連動して給付も増減するように設計されています。

社会保険料を削減する方法を教える方も世の中にいらっしゃいますけれども、事業所にとっては社会保険料はコストでしかありませんが、加入している被保険者にとっては、社会保険料の高さで給付額が決まりますから、闇雲に社会保険料を削減されると不利益になります。それゆえ、コスト削減を目的に、安易に社会保険料を削減するわけにはいかないのです。

例えば、病気や怪我で休む際の傷病手当金は標準報酬月額つまり社会保険料に連動していますから、社会保険料が減るということは、傷病手当金も減るという結果になります。

出費は社会保険料控除という形で税制面で優遇されていますし、さらに、保険料と給付と連動させることで、社会保険料を下げにくくしているとも考えられます。

つまり、社会保険料が多い人は給付も多く、社会保険料が少ないと給付も少なくなります。例えば、健康保険の傷病手当金は標準報酬月額に連動して支給額が決まります。また、産前産後休暇中に給付される出産手当金も傷病手当金と給付内容が同じですので、標準報酬月額に連動しています。あとは、厚生年金の給付額も標準報酬月額を積み重ねたものになりますから、社会保険料が下がると年金の給付も減ります。

このように不利益になる面があるため、今回の特例による随時改定を申請する場合は、被保険者本人の同意を取っておく必要があり(同意書を作って保存しておく)、事業所側で一方的に手続きをするわけにはいかないのです。

 

 

7月1日時点で休業が解消している、通常営業に復帰している場合。

『7月1日の時点で一時帰休の状況が解消している場合の定時決定では、休業手当等を除いて標準報酬月額を決定する必要があることから、通常の給与を受けた月における報酬の平均により、標準報酬月額を算出する』

つまり、休業手当を受けていた月を除いて、算定基礎届を作成しますから、休業による影響の除いて標準報酬月額を算出していきます。


7月1日時点で休業が解消していない、まだ休業が継続している場合。

4月、5月、6月に休業手当が支払われていたならば、その月も含めて、つまり休業手当を含めて算定基礎届を作成します。

つまり、休業中の報酬を基準に標準報酬月額を決めるというわけです。

7月1日時点で休業が続いているのか、それとも終わっているのか。ここが判断の分かれ目です。

すでに休業が終わっているならば、休業の影響を除いて社会保険料を決めますよ。一方、まだ休業が続いているならば、休業中の状況を織り込んで社会保険料を決めますよ。このような違いがあります。

 

特例で随時改定する場合は、休業で報酬が無い日も支払基礎日数に含める。

随時改定をするには、1ヶ月あたりの報酬支払基礎日数が17日以上必要ですが、通常の随時改定だと報酬の支払いがない休業日は支払基礎日数から除くところ、特例での随時改定を実施する場合は、休業日に報酬が無くても支払基礎日数に含めることができます。

報酬が無い日を支払基礎日数を含めることができれば、1ヶ月あたりの報酬月額も下がりやすくなり、特例での随時改定を実施する要件である「2等級以上の報酬低下」という点をクリアしやすくなります。

 

 

標準報酬月額の随時改定が特例で迅速化。社会保険料を早く変更できるように。

【事業主の皆さまへ】新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業で著しく報酬が下がった場合における標準報酬月額の特例改定のご案内

収入が減って、社会保険料が変わるまでには、しばらく時間が必要で、一定期間を経過してからでないと随時改定の手続きはできません。

例えば、4月に収入が減って、その期間が3ヶ月続き、4ヶ月目の7月から標準報酬月額が変わる。これが通常時の随時改定です。

新型コロナウイルスを理由に休業し、報酬が2等級以上(健康保険料の一覧表で確認できます)下がった場合、下がった翌月に随時改定が特例で可能となっています。

従来の保険料のまま3ヶ月間待たないといけないのが随時改定ですが、特例での随時改定だと、4月に報酬が2等級以上減ったとすれば、翌月の5月から標準報酬月額を改定でき、社会保険料が変わります。

対象となる月は2020年の4月から7月ですので、4月以降の報酬が減ったとなれば、特例での随時改定の対象になる可能性があります。

ちなみに、会社から休業手当が出ない場合に支給対象となる「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金」を受給した場合、それは実際に支給された給与には含まれず、特例での随時改定を実施しやすい方向になるよう扱われています。

社会保険料が最も低くなる1等級の標準報酬月額は、健康保険では5.8万円、厚生年金保険では8.8万円です。この標準報酬月額で保険料を出すと、健康保険料が10%だと考えて、月額5,800円。厚生年金の保険料は18.3%ですから、月額16,104円。この保険料を労使で折半するので、本人の社会保険料は月11,000円程度。

毎月の報酬がほぼゼロだと、社会保険料は月11,000円程度まで下がるのです。

社会保険料を早く変更できるのが利点ですが、一方で、標準報酬月額が下がると、傷病手当金や出産手当金、年金の受給額も下がりますので、その点について被保険者からの同意を取っておく必要があります。

社会保険料を削減すれば、会社には利点がありますけれども、加入している被保険者本人には、給付なり手当の額が減るという副作用がありますから、どういう対処をするかは、その都度、考える必要があります。

一時的に、可処分所得の減少を回避できるという利点がある一方で、健康保険や年金の給付が減るという欠点があります。もし、現状で給付を受けていない被保険者ならば、前者を選択し、特例による随時改定で標準報酬月額を改定する方が合理的です。

被保険者の給付や手当に影響が出るという「人質」を用意しておき、簡単には社会保険料を下げさせないように仕掛けられているのですから、上手に制度が作られていると感じます。

 

 

追記(2020年10月21日)健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額の特例改定が延長されました

新型コロナウイルス感染症の影響で、仕事が休業になり、毎月の収入が減った方に対して、社会保険料をそれに連動して下げていくという特例。

本来、社会保険料は、収入に連動しているものの、収入が減ったからといって、すぐに保険料も下がるというものではないのです。収入が下がった後、3ヶ月間の期間をおいてから、標準報酬月額を改定して、社会保険料も下がっていく、というのが通常の手続きです。これが標準報酬月額の随時改定という手続きです。

一方で、新型コロナウイルス感染症による影響への対策として設けられた標準報酬月額の特例改定では、その特例を利用すると、収入が下がった翌月から標準報酬月額を改定して社会保険料も下げることができます。

標準報酬月額の特例改定

日本年金機構ウェブサイトより

社会保険料が3ヶ月ほど高いままであるよりも、収入が下がった翌月から社会保険料が修正される方が支払う保険料を少なくできます。

労働基準法26条では、休業手当の支給率は60/100以上とされていますので、標準報酬月額が2等級以上下がる方もいらっしゃるはず。そういう方は今回の特例改定の対象者に含まれます。

その標準報酬月額の特例改定の対象となる期間が、以前は2020年4月から7月までだったところ、延長されて8月から12月までの期間も対象となりました(【事業主の皆さまへ】新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業で著しく報酬が下がった場合における、健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額の特例改定が延長等することになりました 日本年金機構)。つまり、2020年12月末まで、休業で報酬が減った方は、標準報酬月額の特例改定を利用できる可能性がありますから、雇用調整助成金を利用するのと並行して、特例改定の手続きも行っていく必要があります。

休業する前の社会保険料だと、保険料が高いままになってしまうので、休業開始した後の収入を基準にした社会保険料に変えていって、妥当な水準に早い段階で保険料を修正することができるのがこの特例の特徴です。

社会保険料を変更するには、標準報酬月額を改定する申請手続きが必要ですから、何もせずにいると、社会保険料が高いままになってしまいますので、対象者がいる事業所では忘れずに手続きしたいところです。

 

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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