- 厚生年金の保険料はどのように決まるのか
- 厚生年金保険料を決める報酬月額、標準報酬月額とは
- 厚生年金保険料には国民年金保険料が含まれている
- 高所得者の厚生年金保険料が5,490円増える
- 社会保険料には上限があり税金と違って青天井では上がらない
2020年9月から厚生年金保険料の上限額が変わります。
厚生年金の保険料はどのように決まるのか
毎月の収入に連動して、労働保険料(労災保険料、雇用保険料)や社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)は決まる、と思われているフシがあります。
労働保険料は実際の賃金額に連動して算出されるものですが、社会保険料は、年に1回、保険料を決定する手続き(社会保険料の定時決定)があり、その手続きが済むと、1年間は保険料が固定される仕組みになっています。
収入が大きく増加したり減少すれば、社会保険料を変更する手続きがある(標準報酬月額の随時改定)わけですけれども、増減が一定の水準に達しない場合は、決まった保険料のまま変わりません。
仮に、今月まるまる1ヶ月休んだとしても、社会保険料は前月分と変わらないのです。
月ごとの収入に連動するのではなく、1年に1回、決めた保険料が毎月発生するというのが厚生年金の保険料の仕組みです。
厚生年金保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけて、保険料が算出されます。
給与明細に記載されているのは収入で、社会保険料を決める際に使うのは「報酬月額」や「標準報酬月額」というものです。
収入は分かるけれども、報酬月額や標準報酬月額は難しい言葉ですから、よく分からない方もいらっしゃるでしょう。
「月収に保険料率を掛けて厚生年金保険料を計算しているのでは?」と思うところですが、それは少しだけ違うのです。
厚生年金保険料を決める報酬月額、標準報酬月額とは
報酬月額というのは、言い換えれば月収です。労働保険では賃金と表現しているものですが、社会保険では報酬という言葉に変わるのです。
ですから、報酬月額という言葉に遭遇したら、「あぁ、月収のことだな」と考えていただいて構いません。
次に、標準報酬月額とは、報酬月額に対応する収入基準のようなものです。
厚生年金保険料の一覧表を見てみると、月収400,000円、つまり報酬月額400,000円の人の標準報酬月額は、410,000円になっています(表に当てはめると分かります)。
つまり、月収400,000円の人の厚生年金保険料は、400,000円 × 18.3%ではなく、410,000円 × 18.3% で計算するのです。
ちなみに、報酬月額が395,000円から425,000円の人も、標準報酬月額は410,000円になります。
一定の範囲内に報酬月額が収まっていると、その範囲内の人は同じ標準報酬月額になり、厚生年金保険料も同じになるというわけです。
一覧表に自分の収入(報酬月額)を当てはめると、標準報酬月額が分かり、厚生年金保険料も分かるのです。
厚生年金保険料には国民年金保険料が含まれている
厚生年金の保険料を支払うと、国民年金の保険料も支払ったものと扱われます。
国民年金の保険料は、2020年度は毎月16,540円。これが厚生年金の保険料に含まれていると考えてください。
給与明細には、厚生年金保険料と書かれているため、自分自身は厚生年金の保険料を払っているのであって、国民年金の保険料は払っていないのではないか、と思ってしまいがちですけれども、厚生年金保険料には国民年金保険料が含まれています
つまり、厚生年金の保険料払うと、国民年金の保険料も払っていると扱われるわけです。
支払う保険料は1種類だけですけれども、加入できている年金制度は2つになっているというわけです。
仮に、毎月の厚生年金保険料が40,000円だとすれば、その内訳は、厚生年金保険料が23,460円、国民年金保険料が16,540円となります。
高所得者の厚生年金保険料が5,490円増える
今回変わるのは、標準報酬月額の等級が1つ追加されるという点。
厚生年金保険料は、標準報酬月額の等級表に、個々の収入を当てはめて求めることができます。
一番低い等級が1等級で、最も高い等級が31等級です。
この最も高い等級が、31から32に増えるというのが今回の変更点です。
つまり、厚生年金保険料の上限額が上がるという意味です。
今までの基準だと、毎月の収入、つまりは報酬月額が605,000円以上の人が、等級表の31等級に該当し、この水準が上限でした。
31等級の標準報酬月額は620,000円で、厚生年金保険料は113,460円(これが上限額)。これを会社と従業員で半分ずつ負担します。
収入が605,000円以上の人は、同じ保険料ですから、月収65万円の人も、月収80万円の人も、月収160万円の人も、厚生年金保険料は同じ金額になります。
新たに32等級が追加されると、標準報酬月額の上限も650,000円になり、この650,000円に18.3%を掛けると、118,950円。2020年9月分からは、この水準が厚生年金保険料の上限になります。
変更前に比べて、上限額が5,490円増えます。
保険料の上限に達するほどの収入ならば、月に5,490円増えたところで誤差程度です。
この制度変更によって影響を受けるのは、月収60万円代前半の方です。
一方で、上限に達していない方は、以前と変わりありません。
社会保険料には上限があり税金と違って青天井では上がらない
社会保険料は、収入が一定水準を超えると、保険料は一定になります。
厚生年金保険料も、収入が月に60万円台半ばを超える方は、同じ水準になります。月収70万円でも、月収260万円でも、月収510万円でも、厚生年金保険料は同じです。
一方、所得税や法人税、消費税、住民税は違います。
税金には、税率だけ設定されていて、課税される金額の上限額については定めがありません。つまり、パーセンテージで計算されるだけ税金が発生するわけです。
とある税金の税率が18.3%だとして、課税される金額が500万円だとすると、税金の金額は915,000円になります。
一方、厚生年金の保険料として計算した場合、単純に915,000円にならず、保険料の上限額118,950円で止まります。
社会保険では、1人の人間が受け取れる便益に上限がある(所得が多いからといって、病気や怪我が多いわけではない)ので、保険料にも上限が設けられているのがその理由です。
税金と考えて計算すると、915,000円になるところが、社会保険料と考えて計算すると、118,950円になるわけです。
ある程度の収入までは社会保険料は連動しますけれども、標準報酬月額の上限水準を超えて収入が増えていくと、社会保険料は上限額で止まります。厚生年金保険料に限らず、健康保険料や介護保険料も同じ。
国民年金保険料に至っては所得水準に関わらず一定です。
つまり、収入に占める社会保険料の割合は、高所得になるほど減っていきます。
月収500万円で、厚生年金の保険料が118,950円だと、収入に占める厚生年金保険料の割合は0.02%になります。
表面上の保険料率は18.3%ですけれども、実質的な保険料率は0.02%に変わるのです。
高所得の人が社会保険料の対策にはさほど熱心ではないのは、税金のように上限額が設定されていないものよりも負担が少ないからです。
社会保険料が最も負担に感じる所得水準は、この上限額よりも低い水準、つまり60万円代前半よりも月収が低い場合は、社会保険料が負担に感じるのです。