副業・兼業している人の労災給付が少なくなっていた
会社で働く人が仕事中に怪我をしたり、仕事を理由に病気にかかると、労災保険から給付が出ます。
また、通勤中に怪我をした場合も、労災保険からの給付が出るようになっています。
働く人の怪我や病気に対して、給付をしていくのが労災保険なのですが、この労災保険の給付額を決める際の基準となるのが賃金です。
賃金が多いほど、労災給付の額は多くなり、賃金が少なければ、労災給付の額もそれに応じて少なくなります。
副業や兼業という形で、2つ以上の会社に所属して働いている人の場合、仕事中に怪我をしたとすると、どちらかの会社の賃金を基準に労災の給付がされていました。
2つの会社、会社Aと会社Bがあるとしましょう。この2つの会社でとある人物が働いているとします。
会社Aでの月収30万円。
会社Bでは月収10万円。
合計で月40万円です。
賃金がこのようになっているという前提で、仮に会社Bで働いている時に、怪我をしたとします。
会社Bで怪我をすると、その会社での賃金(月収10万円)が基準となり、労災給付の額が決まります。
例えば、仕事中に怪我をして休んだ場合、収入の60%が労災給付として出るとしましょう。
会社Bでの収入は月収10万円ですから、その6割となると6万円になります。
しかし、この人の月収は、全てを合わせると40万円になります。
本来ならば、月収40万円の6割となる24万円が給付されるのが妥当でしょう。
ですが、会社Bで起こった労災事故だから、その会社での賃金が基準になってしまい、月収10万円の6割が労災給付額になるのです。
どちらか片方の賃金を基に計算されると、働く人にとっては困るわけです。
本来の収入は、すべての収入を合わせた額だから、その額を基準に、労災給付の額も決めて欲しいところです。けれども、どこの会社で労災事故が起こったかで判断されてしまうと、収入が少ない方の会社で事故が起こったと判定されてしまったら、労災給付の額も想定よりも少ないものになります。
副業や兼業で働く人、つまり2つ以上の会社に所属して働く人にとってみると、このような労災給付では給付額としては満足できません。
賃金を合算して労災給付の額が決まるように
そこで、複数の会社で働く人の労災給付額を決めるときは、その他の会社の収入も合算して、それを基準に労災の給付の額を決めていく、というように法律を改正する案が第201回 通常国会に提出されています。
2020年3月時点では、まだ法律案は審議中で、成立していませんけれども、この労災保険の改正案が成立すれば、複数の会社で働く人の労災給付が以前よりも多くなるため、より望ましい労災給付額に近づきます。
ちなみに、この改正案によって影響を受ける人は、会社に所属して働く人です。
会社員+会社員とか会社員の身分を3つ持っているとか、そういう方が対象になります。
一方で、会社員と自営業を兼業している方の場合は、会社員の身分が1つですから、従来通りの労災給付になります。
会社員の身分が2つ以上がある方が、今回の改正によって影響を受けます。
給付の名称は、複数事業労働者療養給付、複数事業労働者休業給付というものになり、「複数事業労働者」という言葉が付くのが特徴です。
労災の給付は、給付基礎日額という数字に基づいて給付額が決まるようになっています。賃金が多くなると給付基礎日額も高くなり、労災保険からの給付も多くなる。という仕組みです。
2021年9月1日以降は、全ての勤務先の賃金を合算した額を基礎に給付基礎日額を決定するように変わりました。