- 会社で働く学生でも労災保険の対象になる
- 労災保険の保険料は事業主が払う。給与明細から労災保険料は控除されない
- 2つの会社で働けば、労災保険も2つ加入する
- どこで労災事故が起こったかで、労災保険の給付額が変わる。
- どの事業所での収入を基準に労災保険の給付が決まるのか
- 52万円なのか、それとも12万円なのか。
- 収入が少ない職場で労災事故が起こると、労災保険の給付も少なくなる
- 副業で労災保険の給付額が少なくなる問題を解決する方法
- 副業者に朗報 副業先で病気や怪我をした際の労災給付が増える
- 複数の職場で就業する人に対する労災給付とは何か
- 恩恵を受けるのは、会社員の身分を複数持っている人
- マイナンバーで収入を名寄せできる?
- 社会保険でも労災保険と同じ問題がある
仕事中に怪我をしたり、
業務が原因で病気になれば、
労災保険を利用して治療できます。
この点はご存知の方も多いハズ。
会社で働く学生でも労災保険の対象になる
ちなみに、
フルタイムで働く社員だけでなく、
パートタイマーや学生のアルバイトであっても
労災保険は適用されます。
時折、
「学生は労災保険が使えない」
と思っている方もいますけれども、
学生であっても使えます。
労災保険の保険料は事業主が払う。給与明細から労災保険料は控除されない
雇用保険や健康保険、
厚生年金の保険料は、
本人も支払いますけれども、
労災保険は事業主が保険料を支払っています。
従業員に支払った賃金の総額に
労災保険料率を掛けて、
支払う保険料を決めます。
例えば、
毎月、全従業員を合わせて、
総額で3,000万円の給与を払っていれば、
そこに、
労災保険料率、仮に0.3%だとすれば、
9万円が1ヶ月分の労災保険料になります。
ちなみに、
労災保険料は業種別に分けられており、
怪我をしやすい業種ほど保険料率が高く、
サービス業など労災事故が起こりにくい業種だと低く設定されています。
【改正】平成30年4月からの労災保険料。上がるのは3業種。下がるのは20業種。
2つの会社で働けば、労災保険も2つ加入する
副業や兼業で働く複数就業者の労災保険給付については、
労働政策審議会でも話し合われているところ。
労災保険は、
労災保険が適用されている事業所で働いている人は全員が対象で、
従業員は保険料を負担せず、
事業主が保険料を負担します。
もし、
2つの会社で勤務していたとすれば、
労災保険にも2つ入っている状態になるんですね。
ただ、
2つといっても
給付が二重になるわけではないのが
問題になっているところ。
労災保険に2つ入っているならば、
「仕事で怪我をしたら二重に給付を受けられるんじゃないか」
そう思うところですが、
実際はそうなりません。
どこで労災事故が起こったかで、労災保険の給付額が変わる。
通勤途中で怪我をした。
仕事場で怪我をした。
業務が原因で病気になった。
仕事を終えて、帰宅する途中で怪我をした。
これらの場合に労災保険から給付が出ますけれども、
2つの会社で勤務していると、
【どちら側の労災保険を使うか】
が問題になります。
どの事業所での収入を基準に労災保険の給付が決まるのか
とある人物が
2つの会社で働いていると仮定して、
会社A:月収15万円
会社B:月収50万円
このように収入があるとしましょう。
さらに、
AでもBでも労災保険には加入しているとします。
午前から夕方までは
Bで仕事をして、
その後、
BからAに移動して
夜まで仕事をしています。
Aでの仕事が終われば、
その後は帰宅しています。
1日のスケジュールは
上記のようになっていると
考えてください。
朝
|
|Bに出勤。
|
|Bで勤務
|
昼
|
|
|
|
|
夕方
|
|Bでの仕事が終わり、
|Aへ出勤。
|
夜
|Aでの仕事が終わる。
|
|
帰宅
図で表すとこういうイメージです。
先にBで仕事をして、
終わったらそのまま
Aに移動している。
では、
会社Aで怪我をしたらどうなるか。
高いところに登っていて、
落下してしまい、
1ヶ月ほど治療が必要な怪我をした。
この場合の労災給付はどうなるか。
52万円なのか、それとも12万円なのか。
怪我で仕事を休むと、
労災保険から収入の80%が給付されるとすれば、
その給付額はいくらになるでしょうか。
会社Aでは月収15万円。
会社Bでは月収50万円。
合計すると、この人の収入は月65万円です。
付け加えると、
怪我をした場所は、会社Aです。
収入の80%が労災給付となるのですが、
金額はいくらになるか。
「月収65万円の人だから、
52万円が労災保険から給付されるんだろう」
「いや、Aで労災事故が起こったんだから、
月収15万円を基準にして、
12万円が労災保険から給付されるんじゃないか」
どちらもなるほどと思える判断ですよね。
では、現実はどうなるか。
収入が少ない職場で労災事故が起こると、労災保険の給付も少なくなる
Aで怪我をしたり、
Aに行く途中で通勤中に怪我をしたら、
月収15万円で労災の給付額が決まってしまうのです。
この人の収入は合計では月65万円ですから、
この水準で労災の給付を決めないといけないはずですが、
それができないのが現状です。
ゆえに、
Aで怪我をしてしまうと、
月収15万円の80%、
12万円が労災給付の額となってしまうんですね。
「え〜! 月収65万円なのに、
労災給付は12万円になっちゃうの?」
と理不尽な感じですけれども、
そういう仕組みなのですね。
また、
保険料を二重に払っている(AとB、両方から労災保険料は支払われています)のに、
給付する段階になると片方の会社での収入しか考慮されない。
ゆえに、
「副業や兼業で働く複数就業者の労災保険給付をどうするか」
が問題になっているわけです。
副業で労災保険の給付額が少なくなる問題を解決する方法
まず、会社AとB、
どちらからも労災保険の保険料は支払われています。
保険料率が0.3%だとすれば、
会社Aでは15万円に対して保険料は450円。
会社Bでは、50万円に対して1,500円。
どちらの会社でも労災保険料は支払われており、
月収65万円を基準にして労災の給付を受けられる条件は整っています。
ということは、
全治1ヶ月の怪我で仕事を休めば、
収入の80%である52万円(65万円の80%)が
労災保険から給付されても良いのではないかと思えますよね。
収入が多い就業先で怪我や病気になれば、労災保険の給付額は多くなります。
収入が少ない就業先だと、労災保険の給付額も少なくなる。
どちら側の会社で労災保険が使われるかで
給付額が変わってしまう。
ここを何とかできないかが
最大の考えどころです。
副業者に朗報 副業先で病気や怪我をした際の労災給付が増える
厚生労働省は10日、労働政策審議会の部会に複数の職場で就業する人に対する労災給付の方針を示し、了承された。休業補償については、労働災害が起きた職場と他の職場の賃金を合算して金額を決め、実際の収入額に応じた給付が受けられるようにする。政府は労働者の兼業や副業を促進しており、働き方の多様化に合わせ、セーフティーネットを拡充する。
厚労省は来年の通常国会に関連法の改正案を提出し、来年度中の施行を目指す。
これまでは労災が起きた職場の賃金に基づき給付額を決定。このため、他の仕事を休むことになってもその分の賃金が反映されず、複数就業者に対する給付額は少なくなっていた。
1人につき1つの仕事、というのが今までの当たり前の考え方、というか働き方でしたが、
1人で複数の仕事、つまりは副業する人が増えつつあります。
例えば、フルタイムで仕事をしつつ、空いてる時間や休みの日に、パートタイムで仕事をする。他には、パートタイムの仕事を2つやってるとか、3つやってるとか、そういう働き方もあります。
さらに、フルタイムの仕事と自営業を組み合わせる、自営業の仕事とパートタイムの仕事を組み合わせるとか、このような副業の形もあります。
収入が増えるのはもちろんですが、普段とは違う仕事ができて気分転換になるでしょうし、副業と思ってやっていたことが大きくなって、メインの仕事に変わったという方もいらっしゃるのでは。
何が副業で、何が本業なのか。そこを厳密に分けるのは、難しい時もあって、単純に収入だけで主従関係を決める、というのも何だか実態に合っていない感じがします。気持ちの込め具合だとか、コミットの程度とか、自分の好き嫌いで主従を決めるなど、基準は人によって変わるでしょう。
本業が疎かになる、情報の漏洩が、などの理由で副業を禁止する事業所もあるでしょうが、「仕事が終わった後に何をするかは勝手だ」、「休みの日に何をするかまで会社は介入できないだろう」と反発を受けると、これに対して会社側が切り返すのは困難です。
複数の職場で就業する人に対する労災給付とは何か
普段はフルタイムでの仕事だけしかしてない方だと、イメージしにくいのですが、労災保険というのは、会社で働く人は自動的に加入するもので、従業員本人は保険料を負担していません。会社が労災保険の保険料を全額負担しています。
雇用保険料や健康保険料、厚生年金保険料は、給与明細に記載されていて、本人もその半分を負担してるのですが、労災保険の場合は、会社が保険料を全て払っています。
そのため、給与明細に表示されておらず、加入してるのかどうかが従業員には分かりにくいのです。労働保険が適用されている事業所ならば、自動的に従業員は労災保険に入っていると考えて良いでしょう。稀に、労災保険や雇用保険が適用されていない事業所がありますが、未適用事業所と言われ、労働基準監督署から指導を受けます。
仮に2つの会社で働いてるとすると、労災保険にも2つ入っている状態になります。
「ん? どういうこと?」と思うでしょうが、労災保険は事業所ごとにアカウントが分かれていて、A事業所とB事業所で働いている方がいれば、その人はAとB、両方の事業所で労災保険に入っているわけです。
健康保険だと、保険証は1枚だし、公的な保険に2つ入ると言うのはイメージしにくいですが、労災保険は、働いている事業所の数だけ加入するようになっています。従業員の立場では。
ですから、3つの職場で働いていれば、労災保険に3つ加入しているわけです。5つの職場で働いていれば、5つの労災保険に入っているのです。労災保険は1種類だけですが、それに重複して加入していると考えてください。
労災保険は、労災事故が起こった事業所での収入を基準にして、その給付額が決まる仕組みです。特に、「労災事故が起こった事業所での収入を基準にして」という部分がポイントです。
例えば、月収150,000円の収入を得ている職場(副業先の仕事だとしましょう)で、病気や怪我をすれば、その月収150,000円を基準に、労災保険の給付額も決まるわけです。
ここまでは何も問題ありませんよね。。
では、他の職場で、月収500,000円の収入を得ていたとすると、この人の総収入は、合計で月に650,000円になります。
650,000円ということは、その収入を基準に、本来だったら労災保険の給付を決めてもらわないといけないはずです。
労災事故で休業して条件を満たすと、休業補償給付が支給されます。
これは労災の事故によって、休業することになった場合に給付されるものですが、おおよそ収入の8割になります。厳密には給付基礎日額という数字に支給率を掛け合わせて、給付額を算出しますが、ここでは収入の8割が休業補償給付として支給されるとします。
この休業補償給付が支給されるとして、月収150,000円を基準に支給されると、月120,000円の給付額になります。
一方で、月収650,000円を基準にすると、520,000円が休業補償給付の金額になります。この両者の違いが問題だと指摘されてきました。
副業先の収入を基準に、労災給付の中身を決められてしまうと、本来支給されるべき金額よりも少なくなってしまいます。そのため、その人が得る収入の総額を基準にして支給した方が良いのではないか、と議論されてきました。
制度が改正され、労災給付の金額を決める時は、副業先だけでなく、他の仕事からの収入も勘案する、というのが改正の中身です。
恩恵を受けるのは、会社員の身分を複数持っている人
会社員としての身分を複数持って働いてる人は、今回の改正によって利益を受けるでしょう。
フルタイムでの仕事とパートタイムの仕事を組み合わせている人。他には、パートタイムの仕事を2つやっているとか。複数の会社で働いているというのがポイントです。
ですから、自営業者とか、自分で法人を持って働いてる人が、他に副業で働いた場合は、今回の改正の対象外になる場合があります。複数の会社で、労災保険に複数加入する必要がありますから。
複数の会社で、労災保険に加入しており、主な収入を得る職場がまず1つあって、その他に1つ、2つ、細かな収入、月収100,000円位のものがある方は、良い意味で影響受けるでしょう。
なぜこの改正が実現できたかというと、まず労災保険は事業主から保険料を回収しているし、実際に支払った賃金をベースに保険料を決めていますから、副業をしている人がいたとしても、労災保険料はきっちりと回収できます。
そのため、副業者に対して、複数の就業先の収入を合算して、労災の給付を実施したとしても、財政面では問題ないのです。
なお、制度が変わる時期は、2020年度中と予定されています。
一方、社会保険に関しては、複数の就業先での収入を合算して、保険料をどうのこうのするには解決し難い点があって、おそらく実現はしないだろうと思います。
労災保険には加入条件というものがなく、従業員側に、例えば週25時間以上働いてる人が加入対象になるとか、月に 70,000円以上の収入がある人が対象だとか、そういう基準がないので、複数の就業先の収入を合算して加入者を取り扱っても支障があまりないのです。
一方で、社会保険には、従業員側に加入条件があり、月収88,000とか、月に30時間弱働くなどの基準があり、副業先もそういう条件を満たせるのかどうか、足並みを揃えるのが難しいのです。加入条件を満たしていない事業所から社会保険料を回収することはできませんから。
そのため、社会保険の場合は、複数の就業先の収入を合算して加入する、という仕組みにするのは難しいわけです。
マイナンバーで収入を名寄せできる?
会社AとBでの収入をマイナンバーを使って合算すると
収入総額が分かります。
その総額を基準に労災の給付額を決めると、
先程のように収入に比して労災給付が少なくなりません。
労働保険や社会保険では、
手続書類にマイナンバーを含めるようになりましたから、
賃金情報を名寄せすることは可能です。
名寄せとなると、
副業や兼業をしていると就業先にバレてしまう
という心配がありますが、
事業所単位では名寄せ情報が分からないようにして、
労災保険の手続きを処理する労働基準監督署と
本人が分かるように限定すれば良いのではないでしょうか。
労災保険では、労働者側には保険料がありません。
また、保険料も社会保険に比べて安い。
さらに、
労災保険が適用されている事業所ならば全員が労災に加入しており、
社会保険のように加入条件がありません。
マイナンバーを使って、
複数の事業所での賃金を合算し、
その賃金を基準に労災から給付する。
解決法としてはこの方法が妥当なところだろうと思います。
社会保険でも労災保険と同じ問題がある
2つの会社で働いていると、
社会保険に加入するかどうかで
労災保険と同じ問題が起こります。
ただ、
社会保険には個々に加入条件がありますが、
労災保険は、事業所に労災保険が適用されていると、
全員が加入するという点が違います。
保険料も、
社会保険だと本人と会社で半分づつですけれども、
労災保険は本人が保険料を払いません。
社会保険だと、
異なる会社間での調整ができず、
収入を名寄せするだけでは問題を解決できません。
しかし、
労災保険ならば、
保険料は安いですし、
財政状況も黒字で安定しています。
また、
あっちの会社では加入するけれども、
こちらでは加入しないなどと考える必要はありません。
2つの会社で働いていれば、保険料はそれぞれで回収できますし、
3つの会社でも、さらに4つの会社で働いていても、
保険料は全て回収可能です。
給付のための保険料は集められているのですから、
それぞれの事業所での収入を合算して、
労災保険の給付額を決めても支障は無いはずです。