国民健康保険と協会けんぽ、どちらにも加入できる状況になったら
おそらく、ほとんどの人は1つの組織に所属して、もしくは1つの職業で仕事をしているはず。1つの会社でフルタイム勤務。1つの会社でパートタイム勤務。1つの職業で自営業など。仕事をする環境を1つに限定している人が多いわけです。
ただ、全ての人が上記のように仕事をしているわけではありません。
例えば、フルタイム勤務とパートタイム勤務を兼ねている人がいるのではないでしょうか。例えば、朝から夕方まである会社でフルタイム勤務し、他の会社で夜だけパートタイマーとして働く方もいるかと思います。
他にも、パートタイマーとして複数の会社で仕事している方も。例えば、早朝4時から6時まで弁当を作る仕事をして、10時から14時まで飲食店で仕事をするというパートタイマーの人もいるのでは。短時間で働いているなら、2つ、3つの仕事を組み合わせられますからね。
さらに、パートタイム勤務と自営業という組み合わせもあるかもしれない。また、少ないかもしれませんが、「フルタイム勤務+自営業」とか、「派遣勤務+自営業」などもあり得ます。考えれば、他にも違う組み合わせがあるでしょうね。
上記のどの方も、国民健康保険(以下、国保)か協会けんぽを経由して健康保険に加入しているはずです。どちらか片方だけ加入しているのであって、国保と協会けんぽの両方に加入しているということは無いはず。二重に健康保険料を払うわけにはいきませんから。
そこで、自営業側で国保に加入している人が、どこかの会社でパートタイマーとして勤務し、週25時間程度の勤務時間で仕事をしているとすると、会社の方で協会けんぽに加入する可能性があります。パートタイマーが社会保険に加入する基準は緩和されていますので、週30時間以上働かなくても、被保険者になる方が出てきます。
となると、国保と協会けんぽのどちらに加入するといいのかが疑問になります。
社会保険の「事業所選択届」は使えるか
複数の健康保険制度が競合すると、事業所選択届を使うことを思い浮かべるはず。しかし、事業所選択届は、2つの事業所(社会保険の適用事業所)同士で協会けんぽが競合したときに使う届けであって、自営業と会社員の身分を同時に有している人には使えません。自営業には事業所がありませんからね。もちろん、任意適用や法人化して適用事業所になっていれば話は別です。しかし、そうでなければ、事業所として扱うことができないため、選択もできないわけです。
複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き 日本年金機構
さらに、国保には「標準報酬月額」という概念がありません。平等割、均等割、所得割といった指標で保険料を決めますから、会社経由で加入する社会保険のように標準報酬月額の算定基礎届を出すことも無いのです。
協会けんぽだと、標準報酬月額を算定し、保険料を決めるのですが、国保は標準報酬月額という数字を使いません。協会健保と国保では保険料を算定する基準となる数字が違うので、双方で調整したくても調整できないのですね。同じ標準報酬月額を使っていれば、尺度が同じなので、お互いに比較でき、事業所の選択もできるわけです。
また、協会けんぽは政府が一括して運営しており、国保は市町村が運営している制度(2018年からは都道府県が運営。窓口業務は市町村になっています)です。そのため、両制度の間で事務処理を調整できないという点も事業所選択届を使えない理由です。
上記のように、国保と協会けんぽでは、鯨と魚ほど違うのですね。
よって、自営業の国保と会社の協会健保が競合するときは、本人が選択することになります。おそらく、より負担が少ない方を選択するかと思いますが、そうせざるを得ません。選択届は使えませんからね。どちらかに加入していれば、無保険は回避できます。
会社の方での仕事を減らして、国民健康保険に入るのは1つの選択ですし、会社側で社会保険に加入する基準を満たせば、そちら経由で社会保険の被保険者になり、国民健康保険には加入しない、もしくは資格喪失することになります。
「自営業者と会社員の身分を同時に有しながら仕事をする人はいないだろう」という前提で協会けんぽも国保も制度が設計されているために、両者間での調整はすこぶる苦手なのです。苦手というよりも、想定していないと言うべきかもしれません。
ちなみに、退職後に健康保険に任意継続で加入するとき、健康保険と国保を自分で選択しますよね。この場合と同じです。
保険料の高い方に強制的に加入させるわけにはいかないし、保険料の低い方を選んではいけないわけでもない。そのため、協会けんぽの任意継続を選択するか、それとも、国保を選択するかを本人が決めるのです。
ただ、国保と協会けんぽが競合すれば、会社側で加入義務が発生します。つまり、国保には加入義務がないのですが、協会けんぽには加入義務がありますからね。となると、国保から脱退するパターンが多いかもしれません。会社側から協会けんぽに統一してくれと言われるかもしれない。加入義務があるのに加入しないと指導されますし、遡って加入しないといけなくなりますから。