仕事を辞めたり、解雇された時に失業給付が出る雇用保険。
就業先が1つだけの人ならば、その職場で雇用保険に入るのですけれども、仕事を掛け持ちしている人は雇用保険に二重、三重に加入するのかというと、そうではありません。
- いずれかの職場で雇用保険に加入
- どちらの会社でも加入条件を満たさない
- 失業しても失業手当が出ない可能性がある
- 副業の組み合わせは複数ある
- 複数事業労働者への労災保険給付 掛け持ちで働く人に対応した労災保険改正
いずれかの職場で雇用保険に加入
もし、2つの会社で掛け持ちして働いている場合、
週20時間以上の契約で働いている職場で雇用保険に加入します。
例えば、
事業所A:週15時間勤務 事業所B:週24時間勤務
だとすると、
この場合は事業所Bで雇用保険に入ります。
ちなみに、雇用保険料は事業所Bでの賃金で計算します。
事業所Aで受けた給与は、雇用保険料の計算に含めません。
また、
事業所A:週29時間勤務 事業所B:週22時間勤務
だとすると、
この場合は、主たる賃金を受けているのは事業所Aなので、事業所Aで雇用保険に入ります。
事業所Aでも事業所Bでも、雇用保険に加入する条件を満たしていますが、二重に加入することはなく、いずれか1つの事業所を経由して雇用保険に入ります。
また、雇用保険料は、事業所Aでの給与を基準に計算します。
事業所Bからも給与を得ていますが、この給与は雇用保険料を計算するときには除外します。
ここまではさほど難しい事例ではないのですが、どちらの事業所でも加入基準を満たさない場合が問題になります。
どちらの会社でも加入条件を満たさない
事業所A:週15時間勤務 事業所B:週18時間勤務
もし、勤務時間数がこのようになっていた場合、
事業所AでもBでも雇用保険には加入しません。
労働時間を合算すると、週33時間になりますが、雇用保険に加入するかどうかは事業所単位で判定するため、週15時間と週18時間で別れていると、雇用保険には入らないのです。
週33時間勤務だったら雇用保険どころか社会保険にも加入するぐらいの時間数ですが、勤務する事業所が別れていると、公的保険に加入しないケースもあるんですね。
労働政策研究・研修機構の調査では、15万7,000人を対象に調査したところ、
副業をしている人は9,299人
本業と副業を合わせて週20時間以上働いている人は371人
とのこと。
上記の例のように、
事業所A:週15時間勤務 事業所B:週18時間勤務
のような形で働くひとは371人だったというわけです。
この数が多いかどうかは判断しにくいところですが、
本業と副業を合わせて週20時間以上働いている人が雇用保険の適用を希望するかどうかの調査では、
43.1%の人が雇用保険の適用、つまり雇用保険に入りたいと回答しています。
適用を希望しないが23.7%、分からないが33.2%
という結果です。
雇用保険は、事業所単位で加入条件を満たすかどうかを判定する制度であるため、上記のように週15時間と週18時間で分散している場合、雇用保険に入るのは不可能です。
ただ、
マイナンバーを利用して、労働時間を通算し、保険料は事業所ごとに按分することで、強引に雇用保険に入れてしまうことは可能です。
社会保険と違って雇用保険料は安いですから、事業所からの反対もほとんど無いでしょう。
失業しても失業手当が出ない可能性がある
仮に、何らかの仕組み(マイナンバーで名寄せする方法でも良いですが)を設けて、複数就業者が雇用保険に加入できたとしましょう。
雇用保険に加入した後、いざ失業した場合、すんなりと失業手当が給付されるかどうか。
複数就業者の雇用保険に関する最大の問題点はここにあります。
事業所Aで雇用保険に加入し、事業所Bでは雇用保険に入っていない。
この状況で、何らかの理由で事業所Aを辞めたとします。
この場合、雇用保険から失業給付は出るのかというと、出る場合と出ない場合があります。
事業所Aでの仕事を辞めたけれども、もう片方である事業所Bでの仕事は続けているとしたら、失業給付は出ません。
事業所Bで就業しているわけですから、この人は失業していないと判定されます。
その結果、事業所Aを辞めたけれども、失業手当は支給されないという事態になります。
事業所AだけでなくBも一緒に辞めたとなれば、もう仕事をしていないのですから、これは失業と判定して問題ありません。
厄介なのは、いずれかの仕事を辞めたけれども、他の仕事は続けているという場合です。
雇用保険に加入している方の会社を辞めたとしても、失業手当が出ないのですから、払ってきた雇用保険料が掛け捨てになります。
「失業手当を貰いたければ、全ての仕事を辞めなさい」
こう言われているのと同じなのですね。
雇用保険の失業給付のために、辞めなくてもいい仕事まで辞めないといけないのですから、これは困ります。
何らかの方法でもって複数就業者が雇用保険に加入できたとしても、いざ失業した時に上記のような壁が立ちはだかります。
副業の組み合わせは複数ある
副業といっても、会社員の身分で働いているだけでなく、自営業の人もいますし、実家の家業を手伝いする人もいるでしょう。
会社員の身分が2つある状態(会社員 + 会社員)。
これは確かに副業ですが、
会社員 + 自営業 会社員 + 家業
こういう形の副業もあります。
「会社員 + 自営業」という組み合わせでも、先ほどと同じ問題が生じます。
自営業には失業という概念がありませんから、会社員として失業しても、失業手当が出ないんですね。
教育訓練給付制度など、在職中に利用できる制度を使えば、失業しなくても雇用保険から給付を受けられますけれども、その金額は微々たるものです。
このように、複数就業者には、雇用保険に加入できるかどうかという問題もありますが、失業給付をする段階にも別の問題があります。
失業の定義が「全く仕事をしていない状態」だとすると、
複数就業者が雇用保険に加入できたとしても、恐らく失業給付を受けるのは難しいでしょう。
かといって、
失業の定義を変更し、「一部の仕事を継続していても失業と判定する」となれば、
失業手当を受け取りながら働く人が続出します。
雇用保険になんとか加入できたとしても、肝心の失業給付を受けられないならば、何のために保険料を払っているのか分かりませんからね。
複数就業者が失業給付を受けるには、全ての仕事を辞める以外の方法がないのが現状です。
複数事業労働者への労災保険給付 掛け持ちで働く人に対応した労災保険改正
※法改正により、複数事業労働者への労災保険給付が施行され、掛け持ちの副業で働く人への労災給付が改善されました。
複数事業労働者への労災保険給付 わかりやすい解説(厚生労働省)
複数事業労働者の方への労災保険給付は、2020年9月の法改正により、より保護が強化されました。従来、一つの事業場での業務が原因で労災認定されることが難しかったケースでも、複数の事業場での業務全体の負荷を総合的に評価し、労災認定される可能性が高まりました。
複数事業労働者への労災保険給付の利点は?
労災保険の対象になる範囲が広がる:
複数の事業場の業務負荷の総合評価: 一つの事業場での業務のみならず、複数の事業場での業務全体の負荷を考慮することで、より多くの労働者が労災保険の対象となる可能性が広がりました。
労災保険の給付額が増加:
保険給付額は、複数の事業場での総賃金に基づいて算定されるため、従来よりも増える可能性があります。
労災保険制度の透明性向上:
複数の事業場での業務の負荷をどのように評価するのか、具体的な基準が明確化されました。これにより、労働者は自分の状況が労災保険の対象となるかどうかをより把握しやすくなりました。
