平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がっています!(社会保険の適用拡大) |厚生労働省
Q5 現在ダブルワークをしていますが、両方の会社で加入要件を満たす働き方をしています。この場合、どのような手続きが必要になりますか。
A5 同時に2ヶ所以上の事業所で社会保険の加入要件を満たした場合、厚生年金については、被保険者の方は、いずれか一方の事業所を選択していただき、その事業所を管轄する年金事務所(及び、当該事業所を管轄する健康保険組合がある場合は、当該健康保険組合)へ届け出ていただくこととなっています。届出様式など、詳しくはこちらをご覧ください。(※日本年金機構のホームページに移動します。)健康保険については、保険者(健康保険組合や協会けんぽ)が複数である場合は、いずれかの保険者を選択し、当該保険者に届け出ていただくことになっています。
なお、社会保険の加入要件を満たすか否かの判断は、各事業所単位で行うこととしており、2ヶ所以上の事業所における月額賃金や労働時間等を合算して判断することはしません。
フルタイム勤務とは違い、パートタイムだと2つ以上の事業所で働く人もいらっしゃいます。
平成28年10月から、パートタイマーが社会保険に加入する基準が緩和されましたので、2つ以上の会社で働いているパートタイマーの人が社会保険に加入するのかどうかが疑問になるかと思います。
複数の会社で働くパートタイマーの場合、社会保険への対応は4パターンあります。
Case 1
会社A:社会保険の加入要件を満たした。
会社B:社会保険の加入要件を満たした。
まずCase 1から。上記Q5の内容は、これに当てはまる場合です。つまり両方の会社で、いずれでも社会保険に加入する条件を満たしている場合ですね。例えば、会社Aで週24時間勤務、月収は92,000円。また、会社Bでは、週26時間勤務で、月収は102,000円。こういう場合がCase 1に該当します。
この場合は、どちらか1つの会社を選んで、その会社から社会保険に加入するわけです。もし、会社B経由で社会保険に加入する場合は、社会保険料は月収102,000円をベースに計算されます。ちなみに、会社Aからの月収92,000円は社会保険料の計算対象になりませんので、収入が2つあるからといって、社会保険料も2つ分というわけではないのですね。どちらか片方でOKというわけです。
ここまでの説明でチャンチャンと終わるかと思いきや、もう少し考えるべきポイントがあります。
それは、健康保険法44条3項の内容です。
健康保険法44条3項(以下、44条3項)
同時に2以上の事業所で報酬を受ける被保険者について報酬月額を算定する場合においては、各事業所について、第41条第1項、第42条第1項、第43条第1項若しくは前条第1項又は第1項の規定によって算定した額の合算額をその者の報酬月額とする。
つまり、2つの会社で同時に働いている場合は、それぞれでの収入を合算して、その合算された収入を基準に社会保険料を決めますよ、という意味です。例えば、会社Aでの収入が92,000円で、会社Bでの収入が102,000円だった場合、この人の収入は194,000円だと扱い、この金額を基準に社会保険料を決めるわけです。
44条3項の内容を踏まえると、社会保険料は会社Bからの月収102,000円をベースに計算されるのではなく、会社Aの収入92,000円も合算して、194,000円を基準にして計算されちゃうんじゃないの、と思えますよね。
確かに、44条3項を読めばそう解釈できます。間違いないです。
しかし、法律の条文では合算すると書かれているのですが、では実務でそのようなことが可能なのかどうか。その点に疑問を抱いています。
報酬月額(収入のこと)を把握するには、「算定基礎届」というものを年に1回、提出する手続きがあるのですが、ここに記載された報酬月額を基にして、社会保険料を計算します。ちなみに、算定基礎届というのは、労働者に支払った報酬がいくらだったかを記載して提出する書類です。
上記のウェブサイトから一部を抜粋すると以下の通りです。
7月1日現在で使用している全ての被保険者に4~6月に支払った賃金を、事業主の方から「算定基礎届」によって届出いただき、厚生労働大臣は、この届出内容に基づき、毎年1回標準報酬月額を決定します。
算定基礎届の提出の対象となるのは、7月1日現在の全ての被保険者です。
赤字の部分は筆者が付けましたが、算定基礎届に記載されるのは被保険者であると書かれています。反対解釈すると、被保険者でなければ、算定基礎届には記載されないということになります。
被保険者資格取得届を出して被保険者資格を取得すると、報酬月額の情報を提供するわけですが、会社で被保険者資格を取得しなければ報酬月額の情報も行政側に伝わりません。そのため、被保険者資格を持っていない側の会社での報酬月額を合算することはできませんので、社会保険に入っている会社の方の報酬月額で標準報酬月額が決まります。
「被保険者」というのは社会保険に入っている人を意味しますので。
上記の例だと、会社B経由で社会保険に加入しているので、会社Bでは被保険者になりますので、その会社で作成する算定基礎届に記載されます。Bでの報酬月額は標準報酬月額の算定に利用されます。
一方、会社Aでは社会保険に加入していません(この会社では被保険者ではない)から、会社Aで作成する算定基礎届には、このパートタイマーの報酬月額は記載されません。被保険者ではありませんので。
となると、日本年金機構が把握できるのは、会社Bでの報酬月額(102,000円)だけであり、会社Aでの報酬月額(92,000円)は把握できないはずです。
報酬月額に関するデータが出ていないのに、どうやって2社の報酬月額を合算するのか。44条3項は実務的にできないことを規定したものではないか。そういう疑問を抱いています。
2つ以上の会社でパートタイム勤務をする場合、事前に勤務時間を調整するものですので、どちらの会社でも社会保険に加入できるような働き方はしない傾向があります。
社会保険に加入しないように、勤務場所を分散させるのがダブルワークの目的ですから、Case1のような働き方をする人は少ないはずです。もし、社会保険に加入したいならば、あえて職場を分散させるような手間はかけないでしょう。
また、仮に報酬月額を合算するとして、どちらの会社が社会保険料を負担するのか。この点も不明です。もし、会社Bが全ての社会保険料(合算後の194,000円を基準にして計算されたもの)を負担するとなると、会社Aで得た報酬に対しても社会保険料を負担しなければならなくなり不合理です。
となると、実務では、会社Bの報酬月額のみを利用して社会保険料を計算するのが現実的です。会社Aでの報酬月額は算定基礎届に記載されないので、合算するためのデータが集まらないはず。
44条3項では上記のように決められているものの、実務で実際にその法律が適用されているのかどうか。法律で決まっていても、実現できない内容なのではないかという疑問が残ります。
では、残り3つのパターンも示しておきましょう。
Case 2
会社A:社会保険の加入要件を満たした。
会社B:社会保険の加入要件を満たしていない。
Case 3
会社A:社会保険の加入要件を満たしていない。
会社B:社会保険の加入要件を満たした。
Case 4
会社A:社会保険の加入要件を満たしていない。
会社B:社会保険の加入要件を満たしていない。
(ただし、AとBの収入や勤務時間を合算すると社会保険の加入条件を満たす)
ダブルワークで社会保険に加入するかどうかを考える場合は、上記4つのパターンがあります。
Case 2の場合は、会社Aで社会保険に加入。また、Case 3の場合は、会社Bで社会保険に加入。この2つは特に問題ないでしょう。
最後のCase 4の場合。これは少し説明が必要です。
2つの会社での労働時間や収入を合算すると社会保険に加入する条件を満たすが、単独だと条件を満たさないというケースです。
人によっては、2つの会社での収入や労働時間を合算して社会保険に加入すると言っている人もいますが、加入するかどうかは会社ごとに判断するので、1つの会社単独で加入条件を満たしていないと、社会保険には加入しません。
例えば、会社Aで、週17時間勤務、収入が月収74,000円。さらに、会社Bでは、週19時間勤務、収入は83,000円だった場合。この場合は、どちらの会社でも条件を満たしていないため、社会保険には加入しません。
2つの会社でのデータを合算すると、週36時間勤務になりますし、月収は157,000円になるのですが、社会保険に加入するかどうかを判定する場合には、個別の会社ごとに区切って判断するので、合算で判断はしないのです。
もし、合算で社会保険に加入できるとなってしまうと、会社AでもBでも、社会保険に加入する条件を満たしていないのに加入してしまい、それぞれの会社で社会保険料の負担が発生します。こういう不具合が発生しますので、合算で加入するかどうかを判定しないのです。他社での事情は自社には関係ありませんからね。