あやめ社労士事務所 - 労務管理のツボをギュッと押す方法を考えます

会社で起こる労務管理に関する悩みやトラブルを解決する方法を考えます

社会保険適用促進手当には社会保険料を抑える利点あり

社会保険適用促進手当の効果

社会保険料の負担を軽減する社会保険適用促進手当とは

年収の壁・支援強化パッケージでの特徴の1つが「社会保険適用促進手当」です。

いわゆる「106 万円の壁」の時限的な対応として、臨時かつ特例的に労働者の社会保険料の負担を軽減するために事業主が支給する手当です(政府が社会保険適用促進手当を支給するわけではないので注意)。社会保険適用に伴い新たに発生した本人負担分の保険料相当額を上限として、従業員の保険料負担を軽減するために事業主が支給する手当で、保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないというものです。

手当を支給すると、その手当も社会保険料を計算するときに考慮されるため、本来は手当を新たに支給すると社会保険料は増えます。しかし、社会保険適用促進手当は社会保険料を計算するときの標準報酬月額・標準賞与額の算定から除外されるため、社会保険適用促進手当が支給されても社会保険料が特例扱いで増えないようにすることができるのですね。

社会保険適用促進手当を支給する利点

1.年収の減少を回避できる

社会保険適用促進手当と社会保険料を相殺して被保険者の年収が減るのを回避できる。これが社会保険適用促進手当の利点です。被保険者本人が負担する社会保険料を実質的にゼロにするので被保険者には有利な手当です。

2.社会保険料を抑えることができる

さらに、標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないため社会保険料を抑えることもできます。

パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者の方が新規で社会保険に入って被保険者になると社会保険料がかかります。その社会保険料を相殺するために社会保険適用促進手当を会社が手当として本人に支払うと、社会保険に入った人の年収が減らないという効果を発揮します。

先程も書きましたが、社会保険適用促進手当は、政府が支給するものではなく事業所ごとに個別に条件を付けて任意に支給する手当です。そのため必ずしも支給されるとは限りません。

例えば、月収88,000円で社会保険に入ると、健康保険と厚生年金を合わせた社会保険料は月額で26,400円。これを労使折半して本人が給与から支払う社会保険料が13,200円。ここで会社から社会保険適用促進手当を13,200円支給すると、社会保険料と社会保険適用促進手当、この両者が相殺されて本人の収入は減りませんよね。これが社会保険適用促進手当の効果です。

ただし、本人負担分の社会保険料が免除されるわけではない点に注意。社会保険料と社会保険適用促進手当を相殺しているところがポイントです。月額で26,400円だと年間で316,000円の社会保険料ですので、これは事業主が支払います。

3.就業調整する人を減らせるため人手不足対策になる

社会保険適用促進手当で社会保険料の負担部分を補助すると年収は減らないので、就業調整せずに出勤してもらえる人が増えます。

4.社会保険適用促進手当は標準報酬月額・標準賞与額の算定から除外

他の効果としては、社会保険適用促進手当が標準報酬月額・標準賞与額の算定から除外されるため、手当の分は将来の厚生年金の年金額に反映されません。標準報酬月額等に含まれないため、厚生年金保険の給付額の算出基礎にも含まれないというわけです。社会保険料が増えないのだから厚生年金も増えないと考えることもできますね。

年収106万円だと年間の社会保険料は316,800円、本人負担分の社会保険料がその半分で毎月13,200円。標準報酬月額・標準賞与額の算定から社会保険適用促進手当を除外した場合と除外しなかった場合を比較すると以下の通り。

算定から除外しなかった場合は、年間で163,200円の報酬月額が増えますから、年収106万円に16万円を加え122万円になり、社会保険料が増えます。社会保険適用促進手当が算定除外にならない場合は、88,000円に13,200円が加わりますから、報酬月額が101,200円になり、標準報酬月額等級は第6級の104,000円になります。 標準報酬月額104,000円ならば、社会保険料は月額31,200円です。

一方、除外した場合は年収106万円のままですので社会保険料は変わりません。社会保険適用促進手当が標準報酬月額の算定対象除外になる方が社会保険料は少なくなります。

社会保険適用促進手当で標準報酬月額・標準賞与額の算定除外になる対象者

社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外になるのは、標準報酬月額が104,000円以下の方が対象です。標準報酬月額等級では第6級以下に収まっている方です。

本人負担分の保険料相当額を上限として保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しない措置の対象となるのは、令和5年(2023年)10月以降、新たに社会保険の適用となった労働者だけでなく、すでに社会保険に入っているパートタイマーやアルバイトの短時間労働者も対象です。

事業所内での労働者間の公平性を考慮し、事業主が同一事業所内で同じ条件で働く他の労働者にも同水準の手当を特例的に支給する場合には、同様に、本人負担分の保険料相当額を上限として、保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないこと、とされています(社会保険適用促進手当に関するQ&A Q1-2)。

以前から年収106万円の基準で社会保険に入っていた方、 1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上になっているパートタイマーやアルバイトで社会保険に入っていた方も算定除外の対象になる場合があります。

社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外になるのは、標準報酬月額が104,000円以下が対象ですので、標準報酬月額等級 第6級以下の方が社会保険適用促進手当を会社から支給されると、その手当の分だけ保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額から算定除外することができます。

標準報酬月額110,000円以上(第7級以上)の方は、年収が128万円以上となり、社会保険料の保険料負担を考慮してもなお、手取り収入が106万円を超えます。「年収の壁・支援強化パッケージ」では、壁を超える後押しを目的とする趣旨に反するため、社会保険適用促進手当の対象外になります。

月給88,000円にピッタリ合わせる必要はなく、報酬月額が107,000円未満だと標準報酬月額等級 第6級以下になりますから、算定除外の対象になります。月給10万円を少し超える程度までが対象だと考えておくといいでしょう。

なぜ標準報酬月額が104,000円以下を対象にしているのかというと、標準報酬月額等級 第7級の110,000円になると、年収が128万円を超えていて、第7級の社会保険料110,000円 × 30% = 月額33,000円、年額396,000円、年収128万円から本人負担分の社会保険料198,000円を除いても年収が106万円を超えています。そのため、標準報酬月額が104,000円以下までの被保険者を社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外の対象にしているのです。年収の壁を超えるための施策ですから、すでに年収の壁を超えている人は対象外になるのです。

算定除外にできる期間は最大2年間です。 労働者ごとに最初の対象月から最大2年間が期限です。例えば、令和5年(2023年)10月から社会保険適用促進手当を支給されたならば、そこから2年後が算定除外とされる期限となる見込みです。

標準報酬月額が110,000円以上になってしまうと、社会保険適用促進手当を支給しても算定除外にできなくなりますので注意が必要です。算定除外の特例を利用するには、第6級までの範囲で社会保険適用促進手当を支給する必要があります。

社会保険適用促進手当の支給条件は事業所ごとに決める

算定除外にできる上限額は本人負担分の社会保険料負担までですから、例えば、社会保険料が26,400円ならば13,200円まで、社会保険料が31,200円ならば15,600円まで算定除外にすることができます。上限額いっぱいに設定せず、10,000円にするとか、本人負担分の半分までというように、就業規則や賃金規定でもって条件を付けることも可能です。

給与と一緒に毎月支給することができますし、2ヶ月ごとにまとめて支給しても構いません。その場合も就業規則や賃金規定などで決めておく必要があります。割増賃金を考えて2ヶ月毎にまとめて支給する方法を選択する事業所もあるのでは。他には平均賃金の計算や年次有給休暇の賃金の計算も考慮して、どれぐらいの間隔で支給するか検討しましょう。

保険料の算定から除外できるのは最大で2年間です。2年が経過した後は、他の通常の手当と同様に標準報酬月額・標準賞与額の算定に含めて社会保険料が計算されます。

社会保険適用促進手当を支給するのは2年間だけにするのか、その後も別の手当に変えて支給を続けるのか。手当がなくなった後は基本となる賃金を引き上げていくのか。どういう扱いにするのかも就業規則や雇用契約でもって決めておきます。2年後に元に戻ってしまって年収が減るのでは効果が減衰しますから、元に戻らない賃金体系に変更しておくのが良いですね。

保険料の算定から除外されるのは健康保険と厚生年金保険で、所得税や住民税、労災保険や雇用保険などの労働保険は対象ではありません。

社会保険適用促進手当を支払うと、会社は1.5倍の社会保険料を払っていることになる?

ここで、社会保険適用促進手当を支給すると、会社は余分に社会保険料を払っていることになるんじゃないかと思えます。支払う社会保険料は変わりませんし、追加で社会保険適用促進手当が加わりますから、社会保険料は実質1.5倍になっていると思ってしまうところ。

どういうことかというと、会社負担分と本人負担分を合わせて社会保険料を1とすると、会社が0.5を負担して本人が残りの0.5を負担する。さらに会社は社会保険適用促進手当として 本人負担分の0.5相当を手当として支給する。そうすると合わせて1.5になり、社会保険料を1.5倍払ってることになるんじゃないかというわけです。

社会保険適用促進手当を支給したといっても、本人が負担する社会保険料が免除になるわけではありませんから、会社は従来通り社会保険料を会社負担分と本人負担分を合わせて支払います。そこに追加で社会保険適用促進手当を支払うとなると、社会保険料の負担が実質的に増えてるんじゃないかと感じてしまいますよね。

キャリアアップ助成金で社会保険適用促進手当が補助される

2023(令和5)年10月以降、新たに社会保険の被保険者の要件を満たして社会保険に入った従業員がいれば、キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コースを受給して、社会保険適用促進手当として支払った分が助成金として補助されます。つまり、社会保険適用促進手当と助成金を相殺できますので、事業主が支払う社会保険料は会社負担分と本人負担分で従来どおりです。助成金を利用することを前提にすれば、社会保険料は1.5倍になりません。

繰り返しになりますが、本人負担分の社会保険料が免除されるわけではないという点は重要なところです。

月収88,000円の人の社会保険料は、社会保険料率を30%で計算すると、月額26,400円です。この金額は会社が社会保険料として支払います。社会保険適用促進手当(本人負担分を手当で支給するなら13,200円)を支払った分は、本人が支払う社会保険料と相殺しますので(キャリアアップ助成金で13,200円が補助される)、会社が支払う社会保険料は会社負担分と本人負担分を合わせたものという点は変わりません。

キャリアアップ助成金は労働者本人に支給されるものではなく、事業所に支給されます。

支給額は、3年間で労働者1人あたり最大で50万円です。

短時間労働者の区分 報酬月額の算定除外特例(最大2年間) キャリアアップ助成金 (社会保険適用時処遇改善コース)
新規で社会保険に加入
既存の被保険者

報酬月額の算定除外特例は、新たに社会保険に加入した短時間労働者の方だけでなく、すでに社会保険に加入している短時間労働者の方も対象になります。

一方、キャリアアップ助成金は、年収の壁・支援強化パッケージ政策が実施された後に新たに社会保険に加入して被保険者資格を取得した短時間労働者の方が対象になります。そのため、2023年9月以前に被保険者資格を取得して社会保険に入っている方に対して社会保険適用促進手当を支払ったとしても助成金の対象にはできないのが注意点です。

ということは、すでに社会保険に加入している短時間労働者の方に対して社会保険適用促進手当を支払うと、報酬月額の算定からは除外できるものの、キャリアアップ助成金の対象にならないため、支給した社会保険適用促進手当の分だけ会社側の負担は増えます。助成金が出れば、その助成金で社会保険適用促進手当を相殺できますが、それが支給されないとなると、手当の原資は会社から持ち出しになります。

とはいえ、すでに社会保険に入っている人たちにも何らかのフォローをしないとモチベーションが下がったり離職につながりますので、キャリアアップ助成金の対象にはならないものの社会保険適用促進手当を支給するのも1つの方法です。 

キャリアアップ助成金の対象になる労働者は、社会保険適用時の前日から起算して過去6か月以上の期間継続して雇用されている、支給対象事業主の事業所において過去2年以内に社会保険に加入していなかった者です。そのため、雇用契約を一旦解除し、再度締結して、助成金の対象にすることはできません。

新たに社会保険に加入した人だけ社会保険適用促進手当を支給するのも一つの方法ですが、すでに社会保険に入っている人たちからすると不公平感が残ります。ここをどのようにして解消していくのかを考えなければいけませんよね。

社会保険適用促進手当を支給してキャリアアップ助成金を受給する手順

社会保険適用促進手当を支給するか労働時間を増やす、もしくはその両方を組み合わせて賃金をアップさせ、社会保険に加入しても年収が減らないようにするのがキャリアアップ助成金の目的です。

では、どのようにして社会保険適用促進手当を支給し、助成金を申請していくか。もしくは労働時間を増やして助成金の申請をしていくか。実際に数字を当てはめて事例を検討してみましょう。

まず、社会保険適用促進手当を支給して助成金を申請する例を考えてみましょう。

社会保険適用促進手当を支給して賃金をアップさせてキャリアアップ助成金を申請するには、1年目に15%以上の社会保険促進手当を支給し、2年目も同様に15%以上の社会保険適用促進手当を支給します。

実際には、標準報酬月額を基準に15%以上を計算します。標準報酬月額とは、毎年7月に報酬月額の算定基礎届を出すことで決定されるものです。

標準報酬月額が88,000円ならば、その15%で13,200円。この金額を社会保険適用促進手当という名称で給与明細に記載し支給します。前提として、就業規則や賃金規定でもって社会保険適用促進手当を支給する根拠をあらかじめ定めておく必要があります。 

社会保険に加入して、そこから社会保険適用促進手当を支給し、6ヶ月を経過した時点で1回目の助成金の支給申請をします。助成金の支給申請は、6ヶ月時点、1年時点、1年6ヶ月時点、2年時点、2年6ヶ月時点、計5回に分けて手続きします。なお賃金増額の取り組みを前倒しして3回目で支給申請を終えることもできます。

2年までは保険適用促進手当を支給し、3年目に入った段階で賃金が18%以上増加するようにすると、5回目の支給申請まで手続きできます。

18%以上増加したかどうかを判断するときは、社会保険が適用された後の6ヶ月目時点と比較して3年目の賃金が18%以上増加しているかを確認します。

6ヶ月目の時点で基本給が時給1016円だとすると、賃金を18%以上増加するには、3年目の時点で時間給1,199円以上にする必要があります。 時間給1,199円だと、年収換算すると、週所定労働時間が20時間ならば、約125万円になります。月収は10.4万円で、標準報酬月額は10.4万円です。

1年目と2年目は15%相当を社会保険適用促進手当で支給し、3年目以降は基本給を18%以上増加させる。 この流れで賃金を増加させていくと、1人当たり最大の50万円の助成金が支給されます。

労働時間を増やすことなく社会保険適用促進手当を支給する、さらに、3年目以降は基本給である時間給を増やす方法で助成金を申請するならば上記の通りです。

労働時間を増やすのが難しい方には、社会保険適用促進手当を支給する、さらに基本給を増額することでキャリアアップ助成金を利用して社会保険に加入すると年収の減少を回避できます。

労働時間を延長して賃金をアップさせキャリアアップ助成金を申請する手順

労働時間を増加させると、それに比例して賃金も増額しますので、この方法で助成金を申請することもできます。

キャリアアップ助成金の労働時間延長メニューは、取り組み期間は6ヶ月で、助成金が30万円(大企業は22.5万円)支給されます。社会保険適用促進手当を支給して助成金を申請する方法だと、短くとも3回目までの支給申請が必要ですし、5回目まで支給申請していくと2年6ヶ月を少し過ぎるぐらいまで時間が必要です。

短期間で賃金増加と助成金手続きを済ませるならば、労働時間延長メニューが適しています。助成額は減りますが、時間を短縮できる利点があります。

週所定労働時間の延長の時間数によって対応が変わります。

1.労働時間を4時間以上延長して助成金を申請する

まず、週所定労働時間を4時間以上延長させた場合は、賃金の増額はなくても助成金を申請することができます。

例えば、週所定労働時間が20時間で、時間給が1,016円だと年収は106万円です。20時間×1,016円×52週で計算すると年収が出ます。

ここで週所定労働時間を4時間延長すると、24時間×1,016円×52週、年収は126万円になり、賃金は18%以上増加します。

ゆえに、週所定労働時間を4時間以上延長するならば、賃金を増額せずとも18%以上の賃金増加が可能です。

2.労働時間を3時間以上4時間未満の間で延長して助成金を申請する

週所定労働時間を3時間以上4時間未満の間で延長した場合は、賃金の増額は5%以上必要です。 

一例として、週所定労働時間を3時間延長して、賃金を5%増額するとどうか。

計算すると、23時間×1,069円×52週、年収は127万円になります。この場合も賃金は18%以上増加していますから、社会保険に加入しても年収が減りません。

3.労働時間を2時間以上3時間未満の間で延長して助成金を申請する

週所定労働時間を2時間以上3時間未満の間で延長した場合は、賃金の増額は10%以上必要です。 

週所定労働時間を2時間延長し、賃金を10%増額して計算すると、22時間×1,128円×52週、年収は129万円になります。この場合も賃金は18%以上増加していますから、社会保険に加入しても年収が減りません。

4.労働時間を1時間以上2時間未満の間で延長して助成金を申請する

週所定労働時間を1時間以上2時間未満の間で延長した場合は、賃金の増額は15%以上必要です。 

週所定労働時間を1時間延長し、賃金を15%増額して計算すると、21時間×1,195円×52週、年収は130万円になります。年収106万円から賃金は22%増加(18%以上)していますから、社会保険に加入しても年収が減りません。

所定労働時間の延長と賃金の増額を組み合わせて、社会保険に加入しても年収が減らないようにしていく方法も可能なのですね。

取組期間が6ヶ月で済むのが労働時間延長メニューの良いところです。現状よりも週所定労働時間を延ばして働ける方がいる事業所ならば、キャリアアップ助成金 労働時間延長メニューを選択するのと良いでしょう。

社会保険適用促進手当を出して助成金を申請するか、労働時間を延長して助成金を申請するかは労働者ごとに分けることができます。労働時間を延長できる方は労働時間延長メニューで、労働時間を変えられないならば社会保険適用促進手当を支給する。このように対応を分けていくのも一案ですね。

社会保険に加入して年収が減らないようにできるならば、どちらの方法でも効果は同じですので。

年収の壁について理解するための関連ページ
年収の壁とは 社会保険に加入する利点を解説

社会保険料をカンタンに計算。法改正にも自動で対応。
給与は基本給だけでなく割増賃金や雇用保険料、さらに社会保険料も含まれますから、電卓で計算していると、給与計算を間違ってしまうことがあります。自動で給与を計算してくれるソフトを使えば、そういうミスも防げますね。

年収の壁とは 社会保険に加入する利点を解説

年収の壁と社会保険



年収の壁とは何か

年収の壁とは、日本の税制度や社会保障制度において、特定の年収を超えると税負担や社会保険料の負担が増加することを意味する言葉です。これにより、働き方や収入に影響を与える可能性があるため問題となります。

年収の壁による影響を受けると、税金や社会保険料が変わって、給与の手取り(所得税や住民税、社会保険料などを除いた後の給与額)が減ってしまうので、働く時間を減らして、収入を意図的に制限するような働き方を選んでいる。そういう方がいらっしゃいます。

年収106万円と年収130万円が年金の壁について話すときに関係する数字です。

2023年10月20日から年収の壁・支援強化パッケージ政策が実施されています。パートタイマーつまりは短時間労働者の立場で社会保険に入り、社会保険料が発生すると収入が減ることがあります。その負担を軽減するための施策が年収の壁・支援強化パッケージです。

年収の壁・支援強化パッケージによって年収の壁に対してどのように対応するのか、この点についてやさしく解説します。

社会保険の年収の壁は106万円と130万円

社会保険の年収の壁について考えるとき、106万円の壁と130万円の壁、この2つの年収の壁が問題となります。他にも所得税や住民税に関連する年収の壁がありますが、今回は分かりやすくするため社会保険に関連する2つの年収の壁について説明します。

106万円の年収の壁とは

職場が特定適用事業所もしくは任意特定適用事業所(特定適用事業所や任意特定事業所については下記にて説明します)になっており、

  1. 週の所定労働時間が20時間以上あること(臨時で発生する残業時間は含めず、労働条件通知書や雇用契約で決めた所定労働時間。契約では週20時間未満でも実労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上になって、それが継続すると見込まれると社会保険に加入する条件を満たします)
  2. 賃金の月額が8.8万円以上であること(後述)
  3. 学生でないこと

この3つの条件を満たし、かつ、2ヶ月を超えて、つまり3ヶ月以上働き続ける方は社会保険に加入します。そのため、3つの条件を満たしても、2ヶ月以内だけ働く人は社会保険に入りません。例えば、8月の1ヶ月だけ集中して働く人や年末年始だけ働く人は対象外になるんですね。ちなみに、2ヶ月以内で仕事を終えるならば、労働条件通知書や雇用契約書で契約期間を明記して、終了後は契約を更新しないと書いておく必要があります。

106万円の内訳は、8.8万円 × 12ヶ月 = 105.6万円 になるので、端数を繰り上げて106万円。「各諸手当等を含めた所定内賃金の額が8.8万円以上」になるのが収入の条件です。

ただし、賞与や結婚手当など、臨時に支払われる賃金および1月を超える期間ごとに支払われる賃金は8.8万円から除外されます。さらに、時間外労働、休日労働および深夜労働に対して支払われる割増賃金も8.8万円の算定から除外され、精皆勤手当、通勤手当、家族手当など最低賃金法で算入しないことを定める賃金も除外して8.8万円以上かどうかを判定します。

割増賃金と通勤手当が除外されているので、パートタイマーやアルバイトの方の収入で8.8円以上を判定する時は時間給で判断することが多いのでは。ちなみに、後述する社会保険適用促進手当は8.8万円に含めて算定します。社会保険適用促進手当を8.8万円に含めたとき、含めないときの比較も一緒に後述します。

特定適用事業所ならば年収106万円以上で社会保険に入る

年収106万円以上になれば、どこの会社でも社会保険に入れるわけではありません。条件を満たした会社で働いている方が対象です。

特定適用事業所とは、1年のうち6月間以上、適用事業所(社会保険が適用されている事業所のこと)の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない)の総数が101人以上(令和6年 2024年9月まで)となることが見込まれる企業等です。厚生年金に入っている人が101人以上ですから、それなりの規模の会社ですよね。

ちなみに、短時間労働者に対する社会保険の適用拡大は、令和6年2024年の10月以降も実施されます。令和6年2024年の10月以降は、厚生年金の被保険者の総数が51人以上の事業所が特定適用事業所になります。

この101人以上の中には、フルタイムで働いて社会保険に入り、厚生年金保険の被保険者になっている人はもちろん含まれます。

さらに、1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者(フルタイムで働く社員、いわゆる正社員のこと)の4分の3以上になっているパートタイマーやアルバイトだと、年収106万円に関わらず社会保険に加入し、厚生年金保険の被保険者になります。この両者の人数を合わせて101人以上だと特定適用事業所になります。

通常の労働者の方が1週間に所定労働時間として40時間で働いているならば、パートタイマーやアルバイトの方が週30日間以上の所定労働時間で働いていると、このパートタイマーやアルバイトの方も社会保険に加入します(3/4条件と表現されることもあります)。

社会保険に加入すると健康保険の被扶養者にはならず、自分自身で社会保険料を払って被保険者になります。年金も国民年金だけ入る第1号被保険者から国民年金と厚生年金にセットで入る第2号被保険者になります。

  国民年金 国民健康保険 協会健康保険
組合健保
厚生年金
特定適用事業所(任意特定適用事業所)に勤めていて年収106万円以上    
年収130万円以上(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円以上)    
1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上    
被扶養者、年収130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)   ◯ 被扶養者として加入  
上記以外の場合    


◯:加入するもの

特定適用事業所でなければ労使合意に基づいて任意で社会保険を適用できる

1年のうち6月間以上、適用事業所(社会保険が適用されている事業所のこと)の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない)の総数が100人以下の事業所は特定適用事業所にならないため、106万円の基準で社会保険に加入することはありません。

ちなみに、届け出て任意特定適用事業所として社会保険の適用事業所になることもできます。小規模な事業所で短時間労働者を社会保険に加入させたい時は、任意特定適用事業者になって、従業員の方を社会保険に入れることができるのですね。任意特定適用事業者になれば、厚生年金の被保険者の総数が100人以下の事業所であっても、短時間労働者は年収106万円以上で社会保険に加入できます。

任意特定適用事業所というのは、厚生年金保険の被保険者が101人以上いないけれども、会社のパートタイマーやアルバイトを社会保険に入れたいと考えている会社が任意で手続きをして特定適用事業者になると、この任意特定適用事業所になります。社員数が少ない会社で社会保険に入ることができる人を増やしたいときは、任意特定適用事業所になる手続きをします。社会保険に入れる職場で働きたい方もいますからね。

会社が特定適用事業所や任意特定適用事業所ではないならば、年収106万円の基準で社会保険には入りませんが、先程書いたように、1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者(フルタイムで働く社員、いわゆる正社員のこと)の4分の3以上になっているパートタイマーやアルバイトだと、年収106万円に関わらず社会保険に加入し、厚生年金保険の被保険者になります。

パートタイマーやアルバイトが社会保険に入る条件は2つ

パートタイマーやアルバイトが社会保険に入る基準は2つあります。

1つ目は、【1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者(フルタイムで働く社員、いわゆる正社員のこと)の4分の3以上になっている】という加入条件。

2つ目は、【職場が特定適用事業所となっていて、週の所定労働時間が20時間以上あること、賃金の月額が8.8万円以上であること、学生でないこと、これらの条件を満たした】という加入条件。

この2つの加入条件のどちらかを満たすと、パートタイマーやアルバイトなどの短時間労働者も社会保険に入ります。

 

社会保険に入るメリットとは

社会保険に加入する利点は以下の通り。

1. 健康保険料の半額は会社負担

会社で社会保険に入ると、社会保険料の半分は会社負担で、残りの半分が本人負担になります。ただし、会社が負担している部分も人件費と扱われていますから、表面的には被保険者本人は半分だけ社会保険料を負担しているように見えますけれども、実質的に本人が社会保険料を全額負担していると考えておくのが実態に合っています。

社会保険料を織り込んで人件費の予算を決めていますから。給与明細で見えているのは社会保険料の半分ですけれども、会社が支払っているのは会社負担分と本人負担分を合わせた社会保険料です。会社負担分と本人負担分、この両方を合わせたものが人件費として認識されています。

2. 生活保障のための傷病手当金、出産手当金制度がある

病気や怪我をした時に収入を補填するために健康保険から傷病手当金が出ます。この傷病手当金は、被扶養者として健康保険に入っている人には無い給付です。また、国民健康保険に入っている人にも傷病手当金はありません。

これは会社で社会保険に入る利点ですね。傷病手当金の手続きをするときは、待機期間の3日間に年次有給休暇を利用し、4日目移行から傷病手当金を申請するのが良いでしょう。

出産前と出産後の産前産後期間に健康保険から支給される出産手当金。これも健康保険に被保険者として加入している人に支給されます。被扶養者として健康保険に入っている人には出産手当金はありません。

3. 扶養制度があるため、世帯における健康保険料を抑えることができる

会社で社会保険に入ると自分自身が被保険者になるので、家族を被扶養者にして健康保険に入るという選択肢があります。国民健康保険だと個々に保険料がかかりますけれども、健康保険の被扶養者になると毎月の保険料はかかりません。

4. 厚生年金加入により、将来もらえる年金額が増える

社会保険に入ると健康保険と厚生年金はセットで加入するようになっています。国民年金のみ加入している場合よりも、会社で社会保険に入って厚生年金と国民年金を同時に入っている状態にする方が将来の年金は増えます。給与明細には厚生年金保険料と表記されますので、厚生年金だけ入っていると思ってしまいますが、国民年金の保険料もそこに含まれています。

5.社会保険に入る方が社会保険料が減ることも

国民年金と国民健康保険に入っている場合よりも会社経由で社会保険に入る方が保険料が少なくなる場合があります。

仮に、国民年金保険料が毎月16,000円として、国民健康保険の保険料が毎月10,000円だとすると、社会保険料は毎月26,000円です。

一方で、標準報酬月額88,000円で会社で社会保険に入った場合は、毎月の保険料は26,400円で、その半分の13,200円が本人負担です。

国民年金と国民健康保険に入っている場合は毎月26,000円。会社で社会保険に入ると社会保険料が13,200円になりますから社会保険に入った方が社会保険料が減ります。

ただし、会社負担分の社会保険料も含めると話は変わるかもしれませんが。本人負担分だけで比較すると社会保険料が安くなるのは確かですが、会社負担分も本人が実質的に負担していると考えれば、上記の例だと400円だけですが社会保険料は高くなっています。

6.社会保険に加入できる職場に魅力を感じる

パートタイマーやアルバイトなど短時間労働者であっても社会保険に入れますとアピールして、人手不足への対策にできます。社会保険に入れる職場に魅力を感じる方もいらっしゃいますから、人手不足対策として社会保険の適用を伝えていくのも良いですね。

社会保険に入れる職場だと、ちゃんとした職場なんだなというイメージも持ってもらえる可能性があります。社会保険料はかかりますが、働く人への魅力を買っていると考えることもできますね。


年収の壁・支援強化パッケージ政策で実施された社会保険適用促進手当についてさらに理解できます。社会保険適用促進手当には社会保険料を抑える利点あり

 

給与計算をラクに。社会保険料を自動で正確に計算。
毎月の給与に社会保険料はかかりますけれども、年に数回支給される賞与に対しても社会保険料はかかります。ならば、その額がいくらになるのかを自動で正確に計算してくれると、給与計算が楽になりますよね。

交通費浮く!1日乗車券の方が切符やICカード乗車券より安い 通勤手当の不正受給になる?

切符やICカード乗車券よりも1日乗車券の方が安いならば交通費は浮く

通勤手当として支給される金額よりも1日乗車券の購入金額の方が安ければ、切符を購入したり、SuicaなどのIC乗車券で電車に乗るよりも1日乗車券を購入して通勤する方が安上がりになります。

ちなみに、通勤手当をどのように計算して、いくらの金額で支給するかは会社ごとに基準が決められています。

税金でも通勤手当に非課税限度額が設けられていますから、その非課税限度額の範囲内で交通費を全額支給する。このような通勤手当の支給条件にしている会社もありますよね。

No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当(国税庁)

通勤定期券を買ってもらう職場もあれば、出勤するごとに切符を買ってもらう(もう少数派ですかね)、ICカード乗車券を使ってもらうという職場もあります。

どこの鉄道会社や路線を利用するかにもよりますけれども「1日乗車券」というのが販売されていることもありますよね。

例えば、1日乗車券が800円で販売されているとして、この1日乗車券を買えば1日中乗り降り自由ですから、自宅の最寄り駅から職場の最寄り駅まで電車に乗って行くことができます。帰りもこの1日乗車券を使って電車で帰ることができます。さらに途中下車してお店に立ち寄ることもできるので便利なものです。

自宅の最寄り駅から職場の最寄り駅まで、仮に切符やICカード乗車券だと運賃が1000円かかるとしましょう。往路で500円、復路で500円、往復で合計1000円。

切符なりIC カード乗車券で電車に乗ると往復で1000円かかります。一方で、1日乗車券を使って往復すれば1日800円で足ります。

となると、切符なりIC カード乗車券で電車に乗るよりも1日乗車券を買って、それで電車に乗って行った方が安上がりですよね。

もし、この会社で就業規則や賃金規定、通勤手当規定などに基づいて通勤手当が実費支給で支払われるものだとして、切符やICカード乗車券で電車に乗った場合の金額で通勤手当を支給してるとすると、1回出勤するごとに1000円の通勤手当が支給されます。切符やICカード乗車券での運賃を基準に実費を算定しています。

通勤手当は1回出勤するごとに1000円ですから、ここであえて切符やIC カード乗車券を使わずに1日乗車券を買って通勤したら差額の200円が本人のものになります。

ここで問題になるのが浮いた200円です。

200円ぐらい、いいじゃないか。電車で実際に通勤しているんだし。と考えるのか。

いや、通勤手当は実費支給で支払われるものだから、金額を浮かせるようなことをしちゃいけない、と考えるのか。

判断が分かれて悩む所ですよね。

通勤手当の支給条件は会社ごとに決めるもの

この差額の200円が通勤手当の不正受給になるのかどうか。それとも誤差と考えて対応するのか。

通勤手当の計算根拠が自宅の最寄り駅から職場の最寄り駅までの乗車券代で算定されているならば、会社は通勤手当を1000円支払う必要があります。支払う根拠がありますので。

一方で、労働者側は、受け取った通勤手当でもって通勤費用を賄いますけれども、電車に乗って通勤すればいいのであって、必ずしも切符やICカード乗車券を利用することを求められていないならば、1日乗車券を購入して通勤してもいいわけです。

おそらく会社としては客観的に調べられる方法、ネットで検索すればこの駅からこの駅までの運賃がいくらかかるかは調べることができますから、その金額でもって通勤手当の支払い根拠とします。

ですから会社としては、就業規則や賃金規定もしくは通勤手当規定といったものに基づいて通勤手当を支払えば、切符であろうがIC カード乗車券であろうが1日乗車券であろうが、電車に乗って通勤してくれればいいという解釈もあります。乗車する手段までは指定していないならば。ところで、青春18切符の残数で通勤するなんて人はいるのでしょうか。さすがにいませんかね。

差額の200円は発生しますけれども、この金額を不正受給と考えるか、他方でその程度の金額ならばあえて放置するのも判断としてはあります。非課税限度額の範囲内ならば、細かい金額を問い詰めなくても非課税にできますから、会社としても僅かな金額のために熱心に調査はしないでしょう。

1日乗車券を使うところまで想定して通勤手当に関する規定を作るなんてことはおそらくないでしょうね。

切符やICカード乗車券で通勤した場合の費用よりも1日乗車券の金額が安くなるという関係が成立しないとできない方法です。「切符やICカード乗車券の運賃額 > 1日乗車券の購入額」になっていれば1日乗車券で通勤するのが合理的です。

仮に、切符やICカード乗車券で通勤した場合、往復で500円、つまり片道で250円だったとすると、1日乗車券は800円ですから、この場合は1日乗車券を買わずに切符なりICカード乗車券で通勤します。わざわざ追加の料金を払って1日乗車券を買う人はいません。

小さな金額のために調査して本人を問い詰めて、不正受給として対応していく必要があるのかどうか。そこまで手間や時間をかけてまで対応していくようなことなのかどうか。

手間や費用を考えつつ、どこまで対応するのかは会社ごとによって違います。

切符や ICカード乗車券ではなく1日乗車券で通勤する方法もあるんだなと、その方法について会社が把握しておいて、あえて差額が発生しているという点については問い詰めないようにして様子を見ておくのも労務管理上の対応としてはあります。

電車で通勤すると申告しておきながら通勤手当を受け取り、実際は電車には乗らずに自転車で通勤しているのは不正受給として対応します。しかし、1日乗車券で通勤しているならば、電車に乗っていることは確かですし、交通費も支払っています。実際に電車代も支払っているわけですから、不正受給として対応するのかどうかは人によって判断が分かれます。

誤差と考えてあえて問題としないのか。
1日乗車券で通勤しているならば、その購入代金で通勤手当を支給するのか。

不正受給と判断した場合は金額が小さくても懲戒解雇、こういう対応をする会社もあります。 お金に関する不正に対して厳しく対応する会社だと、小さな金額であっても懲戒解雇として処分される可能性があります。

通勤手当を支給するかどうか、その支給条件をどうするかは会社ごとに決めることです。

1日乗車券を購入して通勤したことに対してどういう対応を取るかは会社で決めた規定類、就業規則や賃金規定、通勤手当規定といったものに基づいて判断することです。

通勤手当を含めてラクに給与を計算してくれる給与計算ソフトは?
通勤手当だけでなく各種手当には、残業代を計算するときに含める手当と含めない手当があって、そういった区別をしていかなければいけないのが給与計算ですから、自動で楽に給与を計算してくれると助かります。

【在職定時改定】10月分から厚生年金の受給額が毎年増える?

メールマガジン 本では読めない労務管理の"ミソ"

山口社会保険労務士事務所
(2023/8/29号 no.331)

増える年金

10月分から厚生年金が増えるのはどういう人?

年金制度で最も興味のあることは何かと聞かれて、それは何かというと「自分がもらえる年金はいくらなのか」という点に興味を持つ方が最も多いようです。これは公的年金加入状況等調査で分ります。

公的年金加入状況等調査

自分が払うものよりも受け取るものの方が興味を集めるのは当然のことですよね。

人によっては毎年10月分から老齢厚生年金の受給額が増える方がいらっしゃいます。 全ての人が対象ではないのですけれども、 厚生年金を受け取りつつ社会保険に入って厚生年金の保険料を払っている方、 そういう方は毎年10月分の年金額から増額改定される可能性があります。

年金を受け取って保険料を払っているというのは不思議な感じですよね。年金を受け取っているならば、もう年金の保険料を払っていないだろうと思うものですし、年金の保険料を払っているということはまだ年金を受け取っていないだろうと想像するものですからね。

10月分から厚生年金の受給額が増えるのは、65歳以上の方で老齢厚生年金を受け取り、社会保険に入って厚生年金保険料を払っている方が対象です。

すでに退職して厚生年金を受け取ってる方は保険料を払っていませんから年金が増えることはありませんし、国民年金だけ加入してきた方も対象外です。

令和元年 公的年金加入状況等調査によると、65歳以上で厚生年金に加入している人は約103万人います。ちなみに厚生年金全体では約3,978万人ですので、40人に1人の割合です。

払った厚生年金の保険料はいつ年金額に反映される?

厚生年金を受け取りながら厚生年金の保険料を払うというのはなんだか変な感じですが実際にあるケースです。65歳以上だともう仕事をやめて年金を受け取っている生活している方が多くなっていますからイメージしにくいのですけれども。厚生年金の被保険者で、同時に厚生年金の受給者でもある、そういう方がいらっしゃいます。

厚生年金の保険料を払っていれば、それが年金額に反映されるのですけれども、いつ反映されるのかが疑問になるところです。保険料を払うだけで年金の受け取り額は変わらない。そんなことはありませんので、保険料が年金に反映されるタイミングを知りたいですよね。保険料は毎月払っているけども、年金はいつ増えるのか。

年金を受け取り始める時期は人によって違います。60歳から受け取る人もいれば63歳からの人もいますし、65歳や67歳から受け取る人もいます。

今回は、老齢厚生年金を受け取りつつ、厚生年金に入ってその保険料を払っている方は、年金の受け取り額が毎年増えていく、そういう仕組みを説明します。

退職しなくても年金が増額されるようになった

以前は、仕事を辞めて厚生年金から抜けないと厚生年金の受給額が増えなかった(退職時の改定)のですけれども、制度が変わって、仕事を続けながらでも厚生年金が増額改定されるようになりました。この制度を在職定時改定と言います。 難しい言葉が使われていますよね。

老齢厚生年金を受け取りながら会社に勤めていましたが退職しました。受け取れる年金額は変わりますか。(日本年金機構)

仕事を辞めるまでずっと厚生年金の保険料を払い続けて、その後、仕事を辞めて厚生年金の被保険者資格を喪失すると、やっと長い間払ってきた厚生年金の保険料が年金額に反映される。これが退職時の改定です。在職定時改定がなかった時はこういう扱いだったのですね。2年間保険料を払っても、3年、4年と払っても、退職するまでは厚生年金は増えなかったんですね。退職すれば一括で精算されて年金が増えますけれども、何年分もの保険料を先払いしているだけになりますので加入者には不利でした。

在職定時改定ができて、退職しなくても払った保険料が厚生年金の受給額に反映されるようになりました。

令和4年4月から在職定時改定制度が導入されました(日本年金機構)

保険料を毎月払っているから年金の受け取り額も毎月増えていくのかというと、そういうものではなくて、ある程度の期間をまとめてから年金額に反映するようになっています。

毎年9月1日を基準日として、9月から翌年8月までの過去1年間に支払った厚生年金の保険料を年金に反映して、年金額が増える。つまり、1年毎に保険料を精算して年金額を増やしていく。これが在職定時改定の制度です。退職するまではずっと保険料を払うだけだった状況が変わったんですね。

9月1日に過去1年分の保険料を精算するものですから、毎月、保険料を払うたびに年金が増えていくほど小刻みなものではないです。9月1日というと、定時決定で厚生年金の標準報酬月額が決まる時期と同じですよね。

定時決定(算定基礎届)

在職定時改定で年金が改定されるのは10月分からですので、年金の振込額が変わるのは12月15日に支給されるものからです。10月分と11月分は12月15日に支給されますので。

在職定時改定で老齢厚生年金はどれぐらい増えるの?

支払った厚生年金保険料に応じて、1年毎に老齢厚生年金を増額改定する在職定時改定ですが、ならばどれだけの厚生年金保険料を払うと、どれほど老齢厚生年金は増えるのか。対象者の方が最も興味を持つのはここですよね。

例えば、標準報酬月額が20万円で働く在職中の老齢厚生年金受給者が厚生年金保険料を払うと、厚生年金の保険料は月額で36,600円。これは本人負担分と会社負担分を含めた数字です。年間の保険料は439,000円です。

一方、在職定時改定で増える老齢厚生年金はおよそ年間で10,000円です。月額じゃないですよ、年間で10,000円増えるだけです。

保険料は年間で43万円ほど支払い、増える老齢厚生年金は年間1万円。うーん、これをどう評価するか。老齢年金は終身年金ですから、在職定時改定で増える年金も少なくなるだろうなと想定できますけれども、43万円の支払いで1万円増では、肯定的な評価を得るのは難しいのではないかと。

法人の役員として仕事をしている方だと、在職定時改定を避けるのは難しいかもしれませんが、そうではない方は厚生年金の被保険者にならない形で働くことを考えた方が良いのではないかと。後先長くないのですから、年金ではなく年間43万円を厚生年金保険料で払うのではなく現金で使う方が賢い選択だろうと提案します。

在職定時改定の対象になる人は103万人 年金が増えたと分かるのは12月15日

令和元年公的年金加入状況等調査によると、65歳以上、老齢厚生年金の受給者、厚生年金の被保険者、この条件を満たした人は103万人です。厚生年金の被保険者は全体で4,000万人とすると、1/40ですから多数派ではないですが絶対数では100万人ほどいます。

65歳以上だと、もう定年退職して仕事をしていない方が多いでしょう。働いているとしても短時間で社会保険に入らない形で仕事をしていることも。他には、会社の役員として働いていれば65歳以上の方もいらっしゃるでしょう。さらに、自分の商売で設立した法人に所属して、そこを経由して社会保険に入っている方も。

厚生年金の保険料を払うたびに老齢厚生年金の受給額が毎月増えていくというものではなくて、毎年9月1日の基準日から過去1年間の保険料を精算して、厚生年金の受け取りが増えていく。これが10月分から厚生年金の受取額が増える理由です。

10月分から年金額が増えるとなると、その分が支払われるのは12月です。年金は偶数月に支払われますから、10月分と11月分は2ヶ月まとめて12月に支払われます。そのため、実際に厚生年金が増えていると知ることができるのは12月15日の年金支給日ですね。

給与計算をラクに。社会保険料を自動で正確に計算。
毎月の給与に社会保険料はかかりますけれども、年に数回支給される賞与に対しても社会保険料はかかります。ならば、その額がいくらになるのかを自動で正確に計算してくれると、給与計算が楽になりますよね。

こちらもオススメです

労務管理のツボをギュッと押したければコチラ

厚生年金の在職定時改定とはどのような制度で、メリットは何?

月の途中で退職したら社会保険料はどうなる?

本では読めない労務管理のミソ を登録する

サミットやイベントで仕事が臨時休業や時短営業になるときの対処法

臨時休業と時短営業への対応

職場の近くでイベントが開催されると仕事が臨時休業や時短になる時にどう対応するか

国際会議や花火大会、お祭りが開催される期間は、道路が交通規制されてお店や会社を営業できない。そういう場所もありますね。アーティストのライブが職場近くで開催される時も仕事に影響が出ることもあるのでは。 

イベントがあるので臨時休業や時短営業になって給与が出ない、給与が減ってしまう。こういう問題が人事労務管理の現場で起こります。

働く時間に連動して収入が増減する方は、臨時休業や営業時間を短縮されてしまうと影響を受けますからね。

そうなった場合に事業所はどのような対応をすればいいのか。この点が問題になります。

事業所は、イベントによる影響を軽くするために、事前に対策を講じておく必要がありますよね。サミットだから休みにします、営業時間を短縮します、というだけでは働く人は納得しませんし、困りますから。

臨時休業や時短営業を受け入れるとしても、それを補填する何らかの対策を講じてもらわないと、労働時間に連動して働いている人たちは収入が減ってしまいます。

臨時休業や時短営業になるときは出勤日を振り替えて収入が減らないように対策する

臨時休業や営業時間を短縮するということが事前に分かっているならば、振替で出勤日を設定すれば補填できます。

ちなみに、労働基準法26条の休業手当は出せません。イベントを開催するのは使用者ではありませんし、使用者の責任にもなりません。会社の社長が国際的なサミットを開くなんてことはありませんから。

例えば、国際会議であるサミットの開催期間が5月の18日〜22日だとすると、期間は5日間です。この5日間を臨時休業にするとしたら、他の時期に5日分の出勤日を振替で設定すれば、サミットの期間に仕事が休みになっても構いませんよね。

一例として、出勤日を前倒しして4月に3日分の出勤日を増やして、 サミットの翌月の6月に出勤日を2日分を増やすと、合わせて5日分の出勤日を振り替えできます。

また、振替出勤日に年次有給休暇を消化してもいいですね。年5日の年休取得の義務日数を消化できます。

サミットの開催や日程を変えることはできませんので、事業者側でできることをやります。

サミットだけでなく、花火大会やライブ開催、地域イベントは、事前に日程や時間が分かっているので対応できます。

重要なイベントならば、1年前、半年前ぐらいから予定が分かっているので、その開催期間中は仕事や生活に影響が出るだろうと予想して、事前に出勤日を振り替えて勤務スケジュールを作っておきます。

出勤日を振り替えるのはイベントが開催される期間の直前や直後でなくても、例えば、サミットが5月に開催されるならば、 3ヶ月前の2月に振替出勤日を入れておいて、5月の休みに備えるなんてこともできるわけですよね。5月に5日間の臨時休業になるから、2月に出勤日を増やしていますと従業員に周知しておけば、なるほどと納得できます。

付け加えると、出勤日を振り替える時のコツは、先に休みを持ってきて、その後に振替の出勤日を持ってくるという順番が良いです。先に振替出勤日を持ってきてから、後日に振替休日を取れるようにすると、なんだかんだとスケジュールに理由をつけて振替休日が取れなくなってしまうことがあります。

ですので前倒しで振替出勤日を入れていく方法だと、先にサミット期間中の5月に臨時休業で休みを取ってもらって、その代わりの振替出勤日を翌月の6月とか 7月に入れていくのも良いでしょうね。先程の例では2月に前倒しする方法でしたが、こちらは振替出勤日を後にする方法です。

休みの日をキチンと取れるならば、どちらの方法でも構いません。 

サミットになるまで何らの準備もせずに、土壇場で臨時休業にしてお店を閉めてしまう、会社を休みにしてしまう。これでは働く人にとっては困りますから、臨時休業にするのは構わないとしても、その補填のための対策をどうするのかは会社として考えておかなければいけないでしょうね。

イベントによる臨時休業や時短を年次有給休暇を消化する機会として利用する

振替出勤日を作らずに、年次有給休暇を使ってもらう機会にするというのも対処法の1つです。

1年なり半年前からサミットの日程や場所はメディアを通じて伝えられていますから、対応する時間の猶予はあります。

就業規則や労使協定で年次有給休暇の計画的消化のスケジュールを定めておいて、年休を計画消化する時期をサミットの期間に合わせます。

他の月に出勤日を回せない場合は、年次有給休暇の計画的消化でイベント時の臨時休業に対応します。年 5日分の年休の取得が義務化されていますから、この日数をクリアするための施策としても使えますね。イベントを利用して年次有給休暇の消化を進めていくことができますから、むしろ都合の良いイベントになります。

あやめ社労士事務所
大阪府大東市灰塚6-3-24
i@growthwk.com
お問い合わせはこちらから

自動音声メッセージによるお問い合わせもできます。
電話(050-7114-7306)をかけると音声メッセージを録音するように切り替わります。
お問い合わせの内容を電話でお伝えください。
内容を確認させていただき折り返しご連絡させていただきます。

© あやめ社労士事務所
登録番号:T3810687585061
本ウェブサイトは、アフィリエイトによるプロモーション、広告を掲載しております。