労務管理のツボをギュッと押す方法を考えます

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暇だから仕事が休みに。台風で営業時間を短縮。これは休業か?

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使用者の責任か。それとも不可抗力か。

2012年の6月19日に台風4号が日本にやってきて、風がビュウビュウ吹いて、雨がザーッと降った。

台風が来ると、商売の内容によっては影響がでる。例えば、飲食店だと来客数は減るだろうし、アミューズメントパークに来る人もおそらく減るはず。台風の中、動物園に来る人もおそらく少ないだろうし、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行く人も多分多くはないと思う。あとは、ショッピングセンターやスーパーも来客数が減るのではないでしょうか。台風の日ぐらいは買い物をしなくても大丈夫だろうと考えて、外出しない可能性があります。

6月19日の火曜日に、大阪のとある駅前のスーパーが台風接近のために、閉店時間を早めていた。通常だと、21時まで営業しているお店だけれども、18時に閉店していた。「台風接近のため、閉店時間は18時となります」という貼り紙をお店の自動ドアのところに貼っていた。営業していてもお客さんはあまり来ないだろうから、お店を閉めちゃったほうが良いと判断したため、閉店時間を早めたのでしょうね。


閉店時間を本来の時間よりも前倒しするとなると、問題になるのが「休業」という点です。

上記の例だと、通常だと21時まで仕事ができたけれども、台風のために18時までしか仕事ができなくなった。そのため、3時間分の勤務時間がなくなり、その時間に応じた賃金も発生しなかった。

さらに、閉店時間を早めたのは、使用者の判断でしょうから、使用者の責任で休業していると言えそうです。また、台風で営業ができなくなったわけではなく、台風によって来客数が減ると予想したため閉店時間を早めています。つまり、お客さんは少ないけれども、お店が風雨で壊れたわけではないので、営業しようと思えばできる状況なのですね。

しかし、台風は自然災害であって、使用者の能力や判断で回避できるものではないので、それにより営業時間を短縮しても、使用者の責任で休業していると判断するのは酷ではないかと考えることもできます。

台風という自然災害を強調すれば休業にならない方向へ傾き、営業を継続できる可能性を強調すれば休業になる方向へ傾く。

どちらもそれなりに納得できる立場ですから、簡単に判断しにくいですよね。

では、台風で営業時間を短縮するのは、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」なのかどうか。今回は、この点が問題となります。

 

 

 

 

営業しようと思えばできる。だけど、閉店時間を早めた。

営業しようと思えばできるけれども、何らかの理由でそうしないときに労働基準法26条の休業となる。

もし、台風で店舗が損壊して営業できなくなれば、それは使用者の責任ではないので、この場合に営業時間を短縮してもそれは休業ではない。飲食店ならば、風でお店の入り口のガラスが割れて、風や雨がお店の中に入り込む状態になり、お客さんを店の中に入れられないので、修繕のため営業を2日間停止した。これならば休業にはならない。

スーパーでも、風で外壁代わりの窓ガラスが割れてしまい、修繕のため一時的に営業を停止したとしたら、これも休業にはならないでしょう。


しかし、店舗や営業用の什器は台風によって壊れていないが、お客さんが少ないという理由で営業時間を短縮したり、営業そのものをヤメて休みにすれば、これは休業になる可能性が出てくる。


営業しようと思えばできる。しかし、お客さんは少ないだろうから、閉店時間を早めてお店を閉める。これは、「営業しようと思えばできるけれども、そうしない」場合に該当し、労働基準法26条の休業と判断するのが妥当だと思う。

ここで、「不可抗力で営業時間を短縮したのだから、休業じゃないだろう」と考える方もいるかもしれない。しかし、本当に不可抗力でしょうか。「台風でお客さんが少ない」という理由で閉店時間を早めたならば、それは回避することが可能な判断でしょう。つまり、台風で営業停止になっているわけではなく、自主的に営業時間を短縮している場面なのですね。


確かに、飲食店であれ小売店であれ、お店というのは開けているだけで光熱費や人件費が発生しますから、もしお客さんが少なければ、費用をカバー出来るだけの儲けを得られない。そのため、営業時間を短縮するのですね。

さらに、「なんで休んでいるのに手当が必要なの?」と思う方もいるでしょうね。仕事をしていなければ、賃金もない。だから、営業時間を短縮すれば、短縮した時間に相当する賃金もない。こう考えるのも無理のないことです。

しかし、雇用というのは思っているほど単純なものではなく、賃金も単純に「ノーワーク・ノーペイ」だと考えていてはいけないのです。仕事をすれば賃金が発生しますが、休ませても賃金は発生します。経営者の立場だと、納得しにくいところなのですが、それが法律なのです。


ゆえに、台風で閉店時間を21時から18時に短縮したときは、営業しようと思えばできる状況ならば、休業になる可能性が高い。しかし、台風によって設備が損壊した場合のように、営業を続けられないほどの理由があれば、休業にはならない可能性が高い。

可能性という表現を使っていますが、これは判断する人によって結論が変わるからです。今回のような事例では、休業になると判断する人もいれば、休業にならないと判断する人もいるはずです。

私の場合は、「営業の可能性があるかどうか」で休業かどうかを判断し、来客数が少ないという理由で閉店時間を早めるのは、休業に該当すると考えました。

とはいえ、現実には、閉店時間を早めてもおそらく休業手当を支給していないと思います。

会社と社員の間で合意して閉店時間を早めて、双方ともやむを得ないと納得して、お互いに休業にしないとの意志があるのではないでしょうか。

今回のような場面ときに労働基準法26条の取り扱いに悩みます。使い方によっては濫用される可能性を孕んだ制度ですから、休業かどうかが微妙なときは判断しにくいですね。

 

 

 

雨で作業ができないので仕事が休みになったら休業なのか。それとも普通の休みなのか。

すでに7月の中頃になり、梅雨の時期も抜けて、雨の日が少なくなってきた感じもします。

建物の中で行う仕事ならば、雨の影響で業務がストップすることもあまりないとは思いますが、外で作業する仕事だと雨が降るとどうにもならないときがあります。

例えば、土木建築の仕事で、道路を舗装する場合。歩道にアスファルトを敷いて、クルマが歩道に入り込まないようにコンクリートの石段を車道と歩道の間に設置する。こんな仕事の場合、雨が降ると作業を進めることができませんよね。

雨がザーザーと降る中で、濡れながらアスファルトを敷いて固めるわけにはいかないし、土の地面がビチョビチョになりますからキレイに仕上げるのも難しくなる。

そのため、雨が降ったら仕事が休みになる。そんな会社もありますよね。


ただ、雨が降ったので休みになったというだけでは済まないのが労務管理です。

上記のように、出勤日を休みに変えてしまうと、労働基準法26条に基づく休業手当が必要になります。

労働基準法26条(以下、26条)
『使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない』


言うまでもないことですが、もともと休みとして予定していた日は、そのまま休みで大丈夫。仕事をする日を休みの日に変えた場合に休業手当が問題になります。


では、雨が降ったので、道路舗装の作業ができない。だから、休みにした。この場合、休業手当を支払うべきかどうか。

おそらく、人によって判断が分かれるところだと思います。


まず、「仕事の日を休みに変えたならば、労働基準法26条通りに、休業手当を支払うべき」と考える人。法律に沿って判断すれば、この判断が妥当とも思えます。

一方、「仕事の日を休みに変えたけれども、雨が降ったんだから仕方の無いこと。雨空を晴空に変えるなんてできないんだから、使用者には責任は無い。だから、休業手当は必要ないんじゃないか?」こう考える人もいるでしょうね。確かに、人間が天気をコントロールすることはできないので、雨で作業ができなくても使用者の責任にはならない。これは納得しやすい考えです。

他にも、「休みになって、仕事をしていないんだから、給与も必要ないだろう」と考える人もいるかもしれない。いわゆる、ノーワーク・ノーペイの原則で判断する。この判断はシンプルで分かりやすいですね。


あなたならば、どの判断が妥当だと思いますか?

どの判断も、それなりに納得できる部分があります。悩みますよね。

 

 

 

雨が降ったら、使用者の責任。納得できる?

今回の場合、素直に法律を当てはめれば、確かに労働基準法26条を適用する場面です。雨が降って、道路を舗装するための作業ができなくなり、出勤日を休みにしてしまうと、それは使用者の責任で休ませたと判断されてしまう。

ゆえに、今回の場合は、法的には、休業手当を支払うのが妥当と判断するところです。


しかし、雨によって仕事が休みになることを使用者の責任にするのは、その範囲が広すぎるのではないかとも思えます。

晴れてくれれば、普通に作業はできる。けれども、雨が降ってはどうしようもない。だから、使用者の責任にされても納得出来ない。そう思う人も少なくないはず。


今では、雨がふるかどうかは事前に天気予報である程度分かります。だから、降雨による休業は回避できると判断されるのではないかと思います。

作業を予定している日に雨が降ると天気予報で分かったら、事前に勤務日と休日を振り替えて、26条の適用を回避することも可能です。

ただ、梅雨時期のように連日で雨が降ったりしたら、さすがに振替休日だけでは対処しきれないときもあります。

また、すでに出勤して仕事を始めて、2時間後ぐらいに土砂降りの天気になったら、この場合、途中まで仕事をしていますから、振替休日とはいかない。

振替休日だけで完全に26条を回避するのは無理ですが、次善の策としてはアリだと思います。

 

雨に影響を受けるといえば、飲食店やショッピングセンターなどの小売店もありますね。

特に、飲食店は雨が降るとお客さんが減ります。逆に、晴れて暑くなるとお客さんは増えるんですね。

夏の終わり頃、8月や9月になると台風が増えますが、台風が来ると、飲食店にお客さんはほとんど来ない。だから、閉店時間を早めて、店を閉めてしまう。こんなこと、ありますよね。

私も学生時代に経験があります。飲食店で、17:00から22:30までの仕事だったのですが、台風がやってきて、雨と風がスゴくて、「こんな日にあえて家の外に出て店なんかに行かないだろう」と思えるほどの天気でした。台風だと、「もう、外には出ずに。お茶漬けでもすすって夕食は済ませようか」なんて思ってしまう。だから、台風の日にあえて、「よーし、鉄板焼きでも食べに行くかぁ!」なんてヘンな人は少ない。

そんな天気だったものだから、本来ならば22:00に閉店するところを店主が20:00に店を閉めた。そのため、20:00-22:30までの仕事が無くなり、予定よりも早く家に帰ることができたのです。

「台風の日に早く帰れてよかったね」チャンチャンと終わるところですが、ここでも休業かどうかが問題になります。


飲食店の場合は、屋内での仕事が主体ですから、土木建築の仕事のように全く仕事ができなくなるわけではない。

店によっては、オープンカフェやビアガーデンのような屋外サービスもありますけれども、屋内での飲食スペースが併設されている場合もあるので、仕事ができなくなるとまでは言えない。

それゆえ、雨が降って閉店時間を早めたとすれば、それは使用者の責任で休業したと判断することに無理はないと思います。

スーパーやショッピングセンターも同様です。買い物は店の中でするのが普通ですから、雨でも雪でも台風でも、営業は可能です。天候が悪いとお客さんの足が鈍りますが、お店自体は営業が可能ですから、閉店時間を早めたり、働いている人を早退させたりすれば、休業手当が必要になります。


雇用契約は、労働力を買うことを約束する契約ですから、約束通りに買わなければ、契約内容が不履行になるので、休業手当は一種の違約金のような性質があるのではないかと思います。

商売でも、例えば、30,000個のベアリングを購入すると契約して、実際は23,000個しか購入しなければ、約束よりも7,000個少ないので、ベアリングの製造会社は困ってしまいます。そこで、約束した30,000個を全て買ってもらえなければ、不足した数に応じて違約金を設定することで、キチンと契約を守ってもらう方法があります。他にも、製造会社が在庫リスクを回避するために、30,000個は確実に買い切ってもらうように契約し、注文者が在庫リスクを負うことで、1個あたりの仕入れ単価を下げてもらう。こんな契約もあるでしょう。

雇用契約も、「この日のこの時間からこの時間まで、あなたの労働力を買う」と約束するものですから、実際に買わなければ何らかのペナルティがあっても不思議ではありませんよね。


ただ、26条のように、使用者へ制約を加えれば、それは回り回って労働者へ返ってくる可能性があることも知っておきたいところです。

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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