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民法改正 残業代を過去3年分まで請求できるようになる?

 

残業代請求

 

 

民法が改正され、消滅時効が原則5年に

2020年4月から改正された民法が施行され、債権の種類ごとに時効期間が違っていたものが原則5年に集約されました(民法166条)。

労務管理で時効というと、賃金は2年でしたが、これも5年に変わりました。ただし、当面の間は3年とするようです。

一気に2年から5年に時効の期間を変更して、労務管理の現場でも揃えてしまえばいいんじゃないかと思えるところです。特例なのか特別扱いなのか、段階的に変更しようとする意図なのかは不明ですが、会社の労務管理での消滅時効は一気に5年に変更するのではなく、まず2年から3年に延長して、その後5年間経ってからどうするか決める、と先延ばしにされている状態です。

従来は、過去2年間まで賃金を請求できましたが、今後は過去3年ないし5年に変わります。

労働基準法の一部を改正する法律案の概要

普段支払われる給料だけでなく、時間外や休日労働の割増賃金、いわゆる残業代や休日割増賃金、あとは深夜割増賃金も時効の期間が延長されているのが労務管理ではインパクトが大きいところです。

時効が2年だった頃は、過去2年分まで払えば、法律上の義務はなくなります。例えば、残業代の未払いが5年分あったとしても、過去2年分までしか請求できず、さらに古い期間の3年分については、会社が時効を援用して、賃金債権が消滅されてしまうのが以前の状況でした。

2021年の段階では、まだ時効の期間は2年から3年に1年延長されただけですけれども、いずれ5年になったら、過去5年分まで遡って残業代が請求されることも起こり得ます。

社会保険の加入をしていなかったとき、過去の時点に遡及して加入する期間も2021年の時点では2年前に遡るだけで済んでいますが、いずれ社会保険の加入についても過去5年まで遡る、と制度が変わってしまったら、未加入のまま放置している会社は、相当な負担をしなければいけなくなりますので、社会保険の加入手続きについてはきちんと済ませておく必要があるでしょう。過去5年分の社会保険料を一気に払えなどと言われたら、潰れてしまう会社も出てきてしまいますので。

 

時効が3年になるのは、賃金の請求権(割増賃金や残業代といった名称のものも含みます)、賃金台帳や労働者名簿などの帳簿類を保存する期間、過去に遡って割増賃金を裁判で請求する際に付けられる付加金の請求期間。

残業代は過去2年分まで遡って請求できると知られていますが、これが過去3年になり、数年後には過去5年分まで遡れることになります。

消滅時効について書かれているのは、民法166条です。以前は、色々な債権よって、それぞれ時効がバラバラだったんですけれども、それらをひとまとめにして、原則として時効は5年という形に改正されたんですね。時効の期間が分かれていると覚えきれませんから、ありがたい改正です。

民法の一部を改正する法律(債権法改正)について 法務省

ですから、労務管理でも時効は全部5年に揃えるところなんですけれども、労働基準法では、しばらくの間は時効を5年ではなく3年という形で特例の状態にしています。 

当分の間という文言の解釈が不明で、具体的な期間わかりませんが、「本改正法の施行5年経過後の状況を勘案して検討し、必要があるときは措置を講じる」と書かれているところから推測すると、5年間を猶予期間として設けているのではないかと考えられます。

(時効)
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

労働基準法 | e-Gov法令検索

となると、2025年4月からは、賃金などの消滅時効の期間も5年に変更するのではないかと想定しておくと良いのではないでしょうか。

また、賃金の時効が5年になるだけでなく、労働者名簿、賃金台帳、タイムカードといった帳簿類の保存期間も5年に延長されるよう労働基準法が改正されています。 

(記録の保存)
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。

労働基準法 | e-Gov法令検索

この帳簿類の保存期間も、しばらくの間は5年ではなく3年が時効の期間として特例で運用されます。

記録の保存も、法令上は過去3年分で足りますが、いずれは過去5年分まで保存しておく必要がありますから、今から記録は5年分保存しておくとルールを変えておくのも良いでしょう。

賃金の時効は2年で、書類の保存期間は3年。時効の年数がバラバラだったものを統一するのが新しい民法ですから、今回の改正で法律の内容が分かりやすくなり歓迎です。

改正労働基準法等に関するQ&A 厚生労働省労働基準局

ちなみに、年次有給休暇の時効は3年や5年に変更されることなく、今後も2年のままです。年次有給休暇の時効が仮に5年になったら、1年間で20日の年次有給休暇が付与されるとなると、最大で100日分の年次有給休暇が溜まる状態になるのですけれども、年休の時効は2年のままとなります。

 

 

滅多に取り出さない労務データはAmazon glacierに放り込んでおく

労働者名簿や賃金台帳、雇入れ、解雇に関する記録関連の保存も2年から3年に延長されていますから、応募の時に出してもらった履歴書やエントリーシート、普段使っているタイムカードは3年間保存する必要があります。3年保存する義務があるのは、令和2年4月1日以降の記録です。2020年4月以降の帳簿や記録は3年間保存しなければいけませんけれども、それより前の期間の記録に関しては、以前の法律通り2年の保存をしていれば足ります。

ファイルや紙で保存してると、ダンボール箱の中に入れて場所を取るんですけれども、例えば、半年間だけファイルや紙で保存しておいて、それ以降に関してはデータをスキャンしてデジタルデータとして保管しておく、というのでもいいでしょう。

新しいデータだと取り出して利用する可能性が高く、古くなってくると滅多なことでは取り出さない。そういうものですから。

帳簿や記録の保存は、必ずしもアナログなデータだけでなく、デジタルデータで保存する形であっても、それは記録の保存になりますから、きちんとバックアップを取った上で、デジタルデータとして保存して、3年間、いずれは5年間になりますけれども、その保存義務に対応できるようにしておくといいでしょう。

ハードディスク(HDD)や SSD にデータを保存するのは一般的な方法ですけれども、その場合はデータをコピーして、最低でもデータを2つ保管しておいて、データの消失に備えておく必要があります。ここはデジタルデータの注意点です。

 

 

ディスクではなく、クラウドサービスを利用するならば、滅多に取り出さないデータ、労務管理だと過去のタイムカードとか労働者名簿、賃金台帳といったものは、2年前のものとか、3年前といたものは、特別な事情がない限り取り出すデータではありませんから、そういうデータを保管する場所として、 Amazon glacier というサービスもあります。

データを保存しておくだけだと格安な料金で、取り出すときに相応の料金が発生するのが Amazon glacier の特徴。1TB のデータを保存し、1ヶ月で1ドルですから、1 TBは1000 GBで、それをデータとして保管して1か月100円程度です。

しかも、バックアップもしてくれているサービスですから(どれぐらい信頼できるかは不明なところもありますけれども)、1年間使っても1200円、2年で2400円、1 TB のディスクを買えば5000円位は費用がかかるでしょうし、それを2つとなると1万円かかりますから、ハードディスクドライブをなどを用意してデータを保存するよりも、簡単で低料金で済むのではないかと。

データを保管しておくだけで、取り出すことは滅多なことではない。なおかつ保存するデータの容量が大きい、となると Amazon glacierにデータをアーカイブしておいて、記録の保存とするのは良い選択肢の1つでしょう。 

過去のアーカイブデータを クラウドストレージに保存しておいて、1年に1回取り出す可能性もなくて、数年に1回もしくは10年に1回取り出すかどうか、そういうデータを保管しておくには適した Amazon glacierです。

クラウドデータのアーカイブ | 長期オブジェクトストレージ | Amazon S3 Glacier

 

 

これからは過去3年分の残業代を請求できるの?

さかのぼって割増賃金を請求できる期間は3年に変わりましたが、この新しいルールが適用されるのは、2020年4月以降に発生した賃金です。

ゆえに、2020年3月以前の割増賃金を遡って請求する場合は、以前の民法が適用され、過去2年分になります。

3月以前のものは過去2年まで新しい法律を過去の行為に適用しないのが改正の際の原則になっています。

概要にも、「施行日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権について、新たな消滅時効期間を適用」すると書かれています。

新しい法律を過去に遡って適用されてしまうと、後出しジャンケンのような状況になりますから、それを避けるために、過去の事柄には過去の法律を適用するのです。

民法とは違いますが、建築基準法も過去に改正がありましたが、新しい耐震基準に適合しない建築物は、既存不適格建築物として建物の存在を認めています。

過去のルールではOKだったけれども、新しい法律ではダメになった。しかし、過去から続いているものを、既得権のようなものとして認めているのです。

ならば、残業代は全部過去3年分まで遡って請求していけるのか。改正された民法が施行された期間以後の部分の残業代に関しては、過去3年分まで遡って請求できます。一方で、改正前の期間に発生した残業代は、以前の通り過去2年分まで遡って請求できます。

改正された民法が施行されるのは2020年の4月1日ですから、それ以降の残業代に関しては消滅時効が3年になりますけれども、2020年3月31日以前の残業代は、遡れるのは2年分までです。

時効が延びたとしても、きちんと給与を計算して、割増賃金をちゃんと支払っている会社ならば、時効が3年になろうと5年になろうと影響はありませんよね。 

 

割増賃金の未払いを防いでくれる給与計算ソフトは?
給与は、基本給だけを計算すれば足りるものではなく、割増賃金、つまりは時間外労働に対する割増賃金や深夜労働の割増賃金、休日の割増賃金といったものを計算しなければいけませんので、計算を間違って未払いにならないよう自動で給与を計算してくれるソフトを使うほうがいいでしょう。
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