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副業・兼業の労働時間を通算して残業代を払える?

 

副業と残業代

 


掛け持ちで働く人の残業代はどうなるか。

 

副業・兼業 労働者の自己申告が前提 厳密な通算は困難 厚労省検討会

厚生労働省は、副業・兼業を行う労働者に対する労働時間管理のあり方について検討会報告書(案)をまとめた。複数の事業場の労働時間を厳密に管理することは困難とし、基本的には労働者の自己申告を前提とせざるを得ないとしている。割増賃金は、自己申告に基づき労働時間を通算して法定労働時間を超えた際に支払うか、または現行の解釈を変更して各事業主の下での法定外労働時間に対してのみに支払い義務を限定するか、2つの選択肢があるとした。自己申告に「証明書」を求めるなど、どの程度の客観性を担保するかも今後の課題である。

 

上記の検討会での内容は、複数の会社で働いている人の労働時間を通算して割増賃金を支払うことは可能かどうかというものです。

1つの事業所で働くだけならば、そこで労働時間を集計し、給与も計算できます。しかし、2つ以上の事業所で同時に働いている人の場合、労働時間が分散し、割増賃金をどうするかが問題となります。

例えば、2つの会社に在籍して働いている人がいるとしましょう。一方を会社A、もう一方を会社Bとします。

会社Aでは、週23時間働いている。他方、会社Bでは、週25時間働いている。この場合、労働時間を通算すると、週48時間になります。

法定労働時間は週40時間ですから、超過した8時間に対しては割増賃金が必要になります。ここまではそう難しい内容ではありません。

問題は、異なる会社での労働時間を通算できるのかどうかという点です。

数字では足し算するだけですから、通算するのはさも簡単そうですが、他社の勤怠情報は個人情報ですから簡単には集められないのです。

さらに、仮に労働時間を通算できたとしても、8時間分の割増賃金をどちらの会社がいくら払うのかが問題になります。

 

 


他社の勤怠情報をどうやって取得するのか。

 

労働時間を通算するには、自社の勤怠情報だけでなく他社のものも取得しなければいけません。となると、それをどうやって集めるのかが問題です。

上記の検討会では、労働者の自己申告で勤怠情報を集めていくとのことですが、他にやりようがないのが実際のところです。

相手先の会社に連絡を取って、「誰々の勤怠データを送ってください」などと言えるものではありませんし、「そんな個人情報を他社には提供できません」と断られます。

世の中には、なりすましで個人情報を取得しようとする人もいるでしょうし、相手先の事業所を確認してまで勤怠データを渡すのも手間がかかります。

他の方法としては、マイナンバーを利用して勤怠情報を名寄せするのも一案ですが、正確なデータが集まるかどうか分かりません。実際の勤怠データと行政に提供されたデータにはズレがあり、労働時間が実際よりも長くなったり短くなったりする可能性もあります。

となると、労働者に他社での労働時間を申告してもらうということになるわけですが、社外で働いていることをバレたくない人が正直に申告するのかどうか。

副業や兼業に対して、世間の評価は寛容になってきたようですが、自社以外で働くことを許さない事業所もあるでしょう。

何らかのペナルティを負う可能性があるならば、他で仕事をしていることは黙っておこうと考えるのが自然な判断です。

このような状況で、他社での労働時間を自己申告してもらえるかというと、なかなか難しいでしょう。

 

 

労働基準法38条1項はどういう場面で適用されるか。

 

労働基準法38条1項には、労働時間の通算について書かれています。

労働基準法38条1項
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

これを素直に読むと、他の会社での労働時間も通算しなきゃいけないんじゃないか、と思うはず。

ここで、「事業場を異にする場合」という部分の解釈が問題となります。

お互いに全く関連性がない事業所同士を想定して、「事業場を異にする場合」と書かれているのか、それとも、同一の企業内で異なる事業所という意味で「事業場を異にする場合」と書かれているのか。解釈が2通りあります。

前者の解釈だと、先程書いたように、どうやって勤怠データを集めるのかという点を解決できなくなります。

しかし、後者の解釈だと、同じ会社内で事業所が異なっている場合ですから、例えばチェーン展開する小売店や飲食店が当てはまります。

一例として、スーパーマーケットを営業する会社があって、新宿店、渋谷店、六本木店、原宿店、というように店舗を構えているとします。

渋谷店で週23時間働き、六本木店で週25時間働くと、この労働時間は通算されて週48時間になり、会社は8時間分の割増賃金を支払います。

どちらの店舗も同じ会社が運営していますから、勤怠データは1つの会社の中にあります。そのため労働時間を通算することも可能です。

しかし、それぞれのお店を運営する会社が別の会社だとすれば、勤怠情報も別々になり、それらを通算することはできなくなります。

ゆえに、労働基準法38条1項は、「同一企業内で事業場を異にする場合」を想定した規定だと解釈するのが妥当です。

 

 

労働時間を通算できたとしても、割増賃金を拒否される。

 

もし、何らかの方法でもって、異なる企業の間でも労働時間を通算できたとしましょう。

では、通算したあと、割増賃金を支払うのはどこの会社なのか。

会社Aでは、週23時間勤務。
会社Bでは、週25時間勤務。
法定労働時間を超過した時間は8時間。

8時間に相当する割増賃金を払うのはAなのかBなのか。

どちらの会社も、「うちの会社では法定労働時間を超えて働いてもらっていないのだから割増賃金は不要だ」と言うでしょう。

1日8時間、1週40時間。この水準を超えていないならば割増賃金は発生しないのが法律です。となれば、会社側の言っていることが法律に合っており正しい。

しかし、労働者側としては、通算すれば割増賃金を得られるのだから、何とかして通算する方向に持っていこうとするでしょう。

ですが、この場合に割増賃金を支払わせるとなれば、法律の内容に合わなくなりますし、どちらの会社がどれだけの割増賃金を支払うのか、その割合も決められません。

ゆえに、ここでも「同一企業内で事業場を異にする場合」でなければ、割増賃金を支払うことはできないと判断することになります。

 

 

 会社員の身分を2つ以上持たない働き方

 

会社員としての身分が2つ以上あると労働時間の通算で壁に突き当たります。

もし2つ以上の仕事に取り組むならば、会社員の身分は1つまでにして、他の仕事は自営業で取り組むなり、自ら法人を設立し、そこを経由して働くという形にして、労働時間の通算で発生する不具合を回避するのが賢明です。 

パートタイマーとして掛け持ちで働くような働き方だと労働時間の通算ができず、割増賃金の点で不利です。

他の会社から勤怠データをどうやって取得するか。割増賃金をどういう形で負担するか。この問題を解決するのはおそらく不可能でしょうから、働く側で自衛策を講じるのが現実的な対応ではないかと思います。

 

 

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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