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働くと年金が減る在職老齢年金制度が廃止されるかどうか

収入と年金を調整するのが在職老齢年金制度

在職老齢年金制度を廃止するかどうかを政府が検討するとのニュースが毎日新聞から報道されました。

在職老齢年金制度とは、年金受給者が働いて収入を得ると、年金額と収入を勘案して、年金額を調整するというものです。

仕組みを簡単に説明すると、例えば、年金を多く受け取っていて、追加で収入を少し得ると、年金を減額して調整します。逆に、年金は少ないけれども、働いて得る収入が多い場合も、年金を減額して調整します。

年金と収入を組み合わせてリバランスさせながら、年金の受給額を調整するのが在職老齢年金制度です。

年金と収入、どちらも少なければ、減額されずに年金が満額支給される場合もあります。

金額で基準が設定されており、ここまでの年金かつ、ここまでの収入ならば年金を減額しないという水準ならば、年金は満額支給されます。

在職老齢年金の早見表とシミュレーション!60歳以上、65歳以上で働く場合の年金は支給停止される! | 保険の疑問をしっかり解決

上記のウェブサイトに、在職老齢年金の早見表というものが掲載されています。

この早見表に、収入と年金額を当てはめると、どれぐらい年金が減額されるかが分かります。

「基本月額」は毎月の年金額と読み替えて、「総報酬相当額」は働いて得る月収と読み替えてもらうと分かりやすいでしょう。

年金額と収入のマトリクスで、年金額をどれぐらい調整するかが決まります。

どれぐらい働くと年金はいくら減るのか

2022年4月から60歳代前半の在職老齢年金制度と60歳代後半の在職老齢年金制度の支給停止基準額が揃えられ、どちらも47万円になりました。この変更で在職老齢年金の計算がしやすくなりました。以前は60歳代の前半と後半で支給停止基準額が違っていて、60歳代後半の方が支給停止基準額が高く設定されていました。つまり、60歳代前半だと支給停止基準額が低いため、老齢厚生年金が減らされやすかったということ。

その後、2023年4月から支給停止基準額は48万円に拡大されています。

在職老齢年金の支給停止基準額は毎年見直され、2024年4月からは50万円になります。支給停止基準額が引き上げられると、年金を受給しながら働きやすくなりますので、60歳以降の方には有利な制度変更です。

2024年4月時点の報道では、在職老齢年金が廃止を含め見直しが検討され、全廃か一部緩和へと検討されています。

在職老齢年金が廃止されれば、年金をカットされる心配なく働いて自分の収入を増やしやすいですので、60歳以上の方で、厚生年金の被保険者として厚生年金保険料を払いつつ老齢厚生年金を受け取っている方には有利な制度変更になります。法人で役員として厚生年金に加入している方は関心が高いところでしょうね。

厚生年金に加入し、高い厚生年金保険料を払ってきたのですから、払った分は回収したいと思うのが当然です。一方で、年金給付を抑えたいと考えるのが政府ですので、両者のせめぎあいが起こります。

毎月の賃金と老齢厚生年金の月額が支給停止基準額を超えると、超えた額の1/2が老齢厚生年金から減額されます。働くと年金が減ると表現しているのはこの部分なのですね。

例えば、毎月の賃金(給与と賞与を1月あたりに平準化したもの。 毎月の賃金(標準報酬月額)+ 1年間の賞与(標準賞与額)÷ 12)が20万円で老齢厚生年金の月額が32万円だとすると、支給停止基準の50万円を超えている額が2万円なので、その1/2の1万円が年金の支給停止額になります。その結果、毎月の賃金は20万円、老齢厚生年金の月額が31万円となり、合計で月額51万円です。給付カットされるのは1万円。

なお、収入に応じて減額されるのは厚生年金(老齢厚生年金)であって、国民年金(老齢基礎年金)は収入が増えても減額されません。年金というと国民年金と厚生年金を混ぜて表現することがありますが、在職老齢年金制度で減額や支給停止になるのは老齢厚生年金です。

ですから老齢基礎年金(国民年金の老齢年金のこと)だけ受け取っている方は、どれだけ収入が増えても年金はカットされません。例えば、厚生年金に加入したことがなく、月額7万円の老齢基礎年金を受け取っている方だと、月収52万円でも、月収300万円でも、年金は月額7万円です。国民年金は基礎年金とも言われており、生活の基礎になる年金のため、収入にかかわらず在職老齢年金の対象にならないのです。

在職老齢年金制度の対象になるのは厚生年金に加入して厚生年金保険料を支払っている60歳以上の方です。厚生年金の保険料を支払いつつ老齢厚生年金を受け取っていると、収入に応じて年金が減額されたり、支給停止されることがあるのですね。

収入が多い方は、60歳以降は雇用契約ではなく個人事業主として請負契約で働くと、厚生年金の被保険者にはなりませんから、在職老齢年金による影響を受けなくなります。ただし、個人事業主から法人化すると、また厚生年金の被保険者になりますから、その点は新たに検討していく必要がありますね。

iDeCoを年金で受け取ったり、退職金を分割で受け取っても在職老齢年金の計算に含まれない

在職老齢年金制度で支給停止になるかを判定するときは、厚生年金に加入して得られた毎月の給与や年に数回の賞与、老齢厚生年金の支給額のみ。そのため、iDeCoの年金や退職金による収入を含めずに判断します。

60歳以上で厚生年金に入って、被保険者として厚生年金保険料を払っている人であって、収入と年金の受給額、この2つを合算して1月あたり50万円を超えたときは、その超えた額の1/2が老齢厚生年金から減額されます。

例えば、給与と賞与を合算して1月あたり30万円として、老齢厚生年金の受給額が1月あたり25万円だとすると、50万円を超えた額は5万円。在職老齢年金で減額されるのは超えた5万円の半分ですから、年金の受給額は22.5万円になります。

自営業での収入、保険会社で加入している個人年金保険から出る満期金、不動産や投資信託などの金融資産からの収入も在職老齢年金の支給停止額を計算する際には含まれません。

自営業からの収入が月に40万円あったとしても、在職老齢年金では考慮されませんから、給与と賞与を合算して1月あたり30万円、年金が25万円、自営業の収入が40万円、3つの収入を合算すると月に95万円になりますが、自営業の収入は在職老齢年金の計算からは外しますから、収入は月55万円として計算されます。そのため上記の例だと、年金の受給額は22.5万円で変わりません。

働くと在職老齢年金制度の影響で年金が減る?

年金を受け取り始める年齢が近づくと、「年金って、受け取りながら働くと減っちゃうんでしょう?」と言う人が出てきますね。

50歳代の中頃になると、もうそろそろかなと感じ、年金に意識が向き始めるのでしょうね。

その状況で、「年金って、受け取りながら働くと減っちゃうんでしょう?」という疑問が湧くわけです。

確かに、年金を受け取りながら仕事をすると、年金が減ることがあります。

ただ、この場合の「年金」という言葉の定義はハッキリしているのでしょうか。つまり、単に「年金」という言葉を使うとなると、国民年金と厚生年金を含めて表現することになります。人によっては、厚生年金基金からの年金や各種の共済年金、また確定給付企業年金などの企業年金も含めて「年金」という言葉を使うこともあるのかもしれませんね。

では、「年金」を受け取りながら仕事をすると、上記の「年金」の全てが減ってしまうのでしょうか。それとも、特定の年金だけが減り、その他の年金は影響が無いのでしょうか。

国民年金と厚生年金は違うもの

結論から言えば、年金を受け取りながら働いて減るのは「厚生年金」だけです。

厚生年金には「在職老齢年金」という仕組みがあり、この仕組みによって、年金を受け取りながら働く人の年金を調整するのです。

在職老齢年金とは、何か追加的に支給されるような年金のことではなく、年金を受け取る人が働いて報酬を受け取るときに、満額の年金を支給せずに、「仕事の報酬に合わせて年金額を調整する仕組み」のことです。「在職老齢年金」という名称を聞くと、「あぁ、何かまた年金を受け取れるのね」と思う人もいるかもしれませんが、在職老齢年金は年金ではなく年金額を調整する仕組みなのですね。

一方、国民年金には在職老齢年金のような仕組みはありません(なお、各種の共済年金にも厚生年金と同様の仕組みがあるかもしれませんが、各組織ごとに独自に運用されている年金ですので把握できていません)。

そのため、専業主婦(専業主夫)や自営業を営んできた人のように、国民年金だけを受け取る人ならば、年金を受け取りながら働いても差し支えはないのです。

ゆえに、「年金って、受け取りながら働くと減っちゃうんでしょう?」という表現は、「"厚生年金"って、受け取りながら働くと減っちゃうんでしょう?」と言い換えると正しくなります。

働いて減るのは厚生年金 国民年金は働いても減らない

在職老齢年金制度の対象になるのは老齢厚生年金であって、国民年金から支給される老齢基礎年金は対象とはなりません。

そのため、厚生年金に加入したことがない方(国民年金だけ加入していた方のこと)は、どれだけ収入を得ても年金は減額されないというわけです。

国民年金は、基礎年金と言われるもので、生活の基礎となる年金であるため、収入に応じて減額されることはないのです。

一方、厚生年金は、報酬比例年金と言われており、収入に連動した年金です。そのため、多少なり減額したとしても生活には支障がないと考えられています。そのため、在職老齢年金制度で調整の対象になっているというわけです。

在職老齢年金制度で年金が減らされない範囲で働くのも1つの方法です。例えば、厚生年金を受け取っている60歳の人で、年金額が毎月10万円ならば、月収18万円までなら年金が減額されません(先程紹介した早見表で確認できます)。

他には、厚生年金を受け取り始めたら働かないのも対処法です。そうすれば、在職老齢年金の対象にはなりませんので、年金は減額されません。

少なくとも、払った保険料は回収したいと思うのが加入者の気持ちですから、働いたからといって年金が減らされるのは不満に感じるでしょうね。

年金の財政を考えれば、支給額を減らしたいところでしょうが、加入者が納得しにくい形ではそれを実現するのも難しいもの。

年金には所得税も課されますから、在職老齢年金制度でもって支給段階で減額調整せずに、まずは支給してお金を使ってもらって、所得税や消費税で回収していくほうが納得が得やすいでしょうね。

雇用保険の高年齢雇用継続給付も考慮して待遇を決める

雇用保険の被保険者であった期間が5年以上あって、60歳以上65歳未満の一般被保険者で、原則として60歳以降の賃金が60歳時点に比べて、75%未満に低下した状態で働き続ける場合に支給されるのが高年齢雇用継続給付です。

60歳以降は在職老齢年金だけでなく高年齢雇用継続給付も考慮して再雇用の条件を決めると良いでしょう。

老齢厚生年金が減らない範囲で、さらに高年齢雇用継続給付も受給できる、これらの条件を満たせる雇用契約で働くのが合理的ですね。

60歳以上65歳未満の各月の賃金が60歳時点の賃金の61%以下に低下した場合は、各月の賃金の15%相当額が高年齢雇用継続給付として支給されますので、この水準を前提に、在職老齢年金の支給停止基準額を超えないようにしましょう。

例えば、60歳時点の賃金が月額40万円で、60歳以上65歳未満の各月の賃金が24万円になると、40%減になり、高年齢雇用継続給付の支給率は15%。賃金が24万円で、その15%なので、高年齢雇用継続給付の月額は3.6万円で最も多くなります。ちょうど40%減になるところで賃金水準を決めて、その水準で在職老齢年金も支障がないかどうかチェックします。

用意されている公的制度は使ってもらうために設計されていますから、きちんと使えるような対応をしていくと働きやすい職場になりますね。

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