- 退職日の翌日以降に健康保険証を使ってしまったらどうなる?
- 健康保険料が増える人と減る人
- 税金も社会保険も会社任せ 自分で健康保険の手続をしない会社員
- 国民健康保険の保険料は3種類
- 会社で入っている健康保険と市町村の国民健康保険はどう違うのか
- 退職者へ退職後の健康保険について会社が案内する内容は?
- 退職する人に「協会けんぽ継続セット(健康保険を任意継続する書面一式)」を渡す
- 退職後に入る任意継続健康保険には保険料に上限がある
- 収入が違うのに、健康保険料は同じ?
- 健康保険料は上限があり際限なく増えない
- 税金には上限が無く、社会保険料には上限がある
- 任意継続の健康保険だけでなく、国民健康保険も保険料に上限がある
- 任意継続の健康保険から加入者が任意で脱退できるようになります
会社に在籍していると、会社経由で健康保険に加入しています。しかし、退職した後は社会保険から抜けますから、健康保険をどうするかが心配です。
退職後に選択できる健康保険は大きく分けて3つあり、国民健康保険に入る、協会けんぽの任意継続被保険者になる、家族の健康保険に入れてもらって被扶養者になる。この3つの選択肢があります。
大阪府の健康保険協会で、窓口に来て手続きをした人にアンケートが実施され、退職後の健康保険として利用される任意継続制度をどのようにして知ったか調査しています。
Q.任意継続の制度についてどこで知りましたか。
・退職した会社 45%
・家族や友人 18%
・以前加入経験あり 16%
これは回答の上位3つです。一番多かったのが退職した会社から健康保険の任意継続制度を知ったとのこと。
健康保険には在職中だけでなく、退職した後もしばらく健康保険に入れる任意継続という制度があります。これだと今までの健康保険を続けられるという安心感がありますね。ただし、会社での健康保険は一度脱退(被保険者資格を喪失)して、改めて任意継続被保険者として健康保険に入ります。なお、健康保険を任意で継続できるのは最大で2年です。
- 退職する日まで継続して2ヶ月以上、健康保険に加入していた。
- 退職日の翌日から20日以内に手続きする。
健康保険を任意継続するにはこの2点の条件があります。
参考:退職後の健康保険制度ヘのご加入は、3つの選択肢があります(全国健康保険協会)
退職日の翌日以降に健康保険証を使ってしまったらどうなる?
在職中の健康保険証は退職日まで使えます。ですから例えば退職日が12月20日だとすると、12月20日までは病院に行って、健康保険証を出して診察なり治療を受けることが可能です。
21日以降は、健康保険の被保険者資格が喪失した状態ですから、健康保険は使えません。ですけれども、手元にある健康保険証を病院の窓口に出すと、以前と同じように3割負担で使えてしまいますから、「まだ健康保険証は使えるんじゃないか」と思ってしまうもの。
しかし、3割負担で健康保険を使えたとしても、後日、残りの7割分の請求が来ますから、次の健康保険、国民健康保険なのか、任意継続の健康保険なのか、家族の健康保険に入って被扶養者になっているのか、それぞれ違いはありますけれども、新たに加入する健康保険の方で資格喪失後に使った健康保険の処理をします。
健康保険証が失効してから病院に行って保険証を使うと、本来は10割負担ですけれども、次に加入する健康保険が仮に国民健康保険だったとすれば、7割の保険負担分については健康保険制度同士で調整してくれる手続きがあります。
例えば、退職して協会けんぽから抜けた後、手元に健康保険証があるので病院に行って診察を受けたとしましょう。後日、国民健康保険に加入する予定の場合、退職後に健康保険を使ったものは協会けんぽではなく国民健康保険が適用されますので、国民健康保険から協会けんぽの方へ保険給付が支払われるようになっています。
退職日の翌日以降は被保険者資格を喪失していますから、本来は健康保険を使えないのですけれども、国民健康保険に加入するまでの空白期間があり、その期間は国民健康保険に加入していたものと扱われますので、国民健康保険から給付されるというわけです。
健康保険制度を別のものに切り替える時は、切り替える時に一時的に空白期間が生じますから、その期間に病院に行った時は療養費の代理受領という手続きでもって本人と行政機関の事務的な負担を減らすようにしているんですね。
本来は国民健康保険から給付されるものですが、それを本人に給付せずに在職していた時の協会けんぽの方へ支払うことで事務手続きを簡略化しているんですね。本人はすでに3割負担で病院に行っていますので、国民健康保険から給付を受ける必要はありませんから。
本人が先に立て替えておいて、後から療養費を請求するのではなく、協会けんぽから国民健康保険の方に、本人に代わって療養費を請求してくれる。その手続きをするための同意を求める書面(資格喪失後受診に伴う返納金清算に係る同意書)が本人に送られてきます。
以前加入していた健康保険が協会けんぽで、新しく加入する健康保険が国民健康保険ならば、保険証が失効した後に使った分の療養費は、協会けんぽから国民健康保険の方に直接、本人の代理で請求してくれるんですね。この手続きがあると、本人が7割分を一旦全額負担して、建て替えた後、療養費を請求する手続きが不要になり、負担が減ります。郵送で送られてきた書面に記入して、それを送り返せば療養費の手続きが完了しますから、これは便利です。
上の例では協会けんぽから国民健康保険に切り替わった場合を想定してますけれども、国民健康保険から協会けんぽに切り替わった時に、保険証が失効した後に使った治療費や診察費用は、国民健康保険の方から協会けんぽの方に代理で請求してくれる手続きがあり、手続きは先程と同様です。
本人が療養費を請求する手続きをすると、時間がかかりますし、どうやって手続きをしていいか分からずに問い合わせを受ける可能性もありますから、そういう時間がかかることを考えると、健康保険制度同士で療養費のやり取りをした方が本人にとっても制度の運営者とっても都合がいいでしょうね。
健康保険料が増える人と減る人
健康保険の保険料は退職時の収入に連動していますが、上限があります。平成29年度の場合は、28,364円。40歳以上の方だと32,984円が保険料の上限です。
健康保険を任意継続した場合の健康保険料
任意継続で健康保険に入ったときは、保険料は在職中の2倍になると考えておきます。ただし、標準報酬月額に上限があるため、その上限を超えている方は2倍よりも少ない保険料になることもあります。
保険料表を見ると、上限額がそれぞれ28,364円、32,984円となっています。つまり、退職時の月収が27万円以上だった人は保険料が同じになるというわけです。月収27万円の人、月収49万円の人、月収89万円の人、月収172万円の人、この人達は全て同じ保険料になります。
在職時は会社と折半負担ですが、任意継続すると保険料は全額本人が支払うことになります。ただ、保険料は月3万円ほどで上限が設定されていますから、在職時に3万円を超えて健康保険料を支払っていた方は保険料が下がる場合があります。
例えば、月収79万円の人だと、在職中の健康保険料は8万円ほどになり、半分の4万円が本人負担になっています。この人が退職すると、在職時の保険料と比較して上限額(28,364円もしくは32,984円)を超えます。その結果、在職時よりも保険料が減ります。
在職時に、概ね月収60万円以上の人は、退職後に健康保険を任意継続すると、本人が負担する保険料が先程の上限額を超えるため、本人負担の保険料が下がります。
一方、月収28万円の人の場合は、在職時は本人負担が14,000円ほどですが、退職した後は28,000円ほどに上がります。
収入が高めで、在職時の健康保険料(本人負担分である半分)が上限額(28,364円もしくは32,984円)を超えている人(月収60万円程度から上の人)は、任意継続すると在職時よりも本人負担が減ります。
社会保険料には上限があると以前にも書きましたが、健康保険を任意継続する場合も保険料に上限があるんですね。
税金に上限は無いが社会保険料には上限がある。
税金も社会保険も会社任せ 自分で健康保険の手続をしない会社員
会社員にとって、税金や社会保険に関する手続きは会社におんぶに抱っこな状態ですから、会社から情報が提供されないと、退職する人は途方に暮れてしまいます。45%の人が退職時の会社から任意継続制度に関する情報を得ているわけですから、会社としては退職する人に積極的に情報を出してあげないといけないわけです。
まず、会社を退職した後は、選択肢が3つあります。
- 健康保険を任意継続する。
- 市町村の国民健康保険に加入する。
- 家族の健康保険を使って被扶養者になる。
この3つです。
任意継続については先程書いた通り。
一方、国民健康保険に入る場合は、管轄が市町村ですので、市役所や町役場に行って手続きします。退職日の翌日から14日以内の手続きが必要ですが、もし遅れても後から加入できます。ただし、手続きが遅れると、遡って保険料を支払う必要があるので注意。
例えば、大阪市の場合、国民健康保険の保険料上限は、平成29年度は年間で89万円。月あたりだと約74,000円ほどですので、協会けんぽの健康保険を任意継続した場合の上限額(28,364円もしくは32,984円)よりも高くなります。
在職時に収入が多かった人、月収60万円を超えていた人ならば、国民健康保険よりも任意継続で健康保険に入った方が保険料は安くなります。
また、国民健康保険には減免制度があります。他方、会社経由の健康保険には産休時や育休時などの保険料免除制度はありますが、そのような例外を除いて減免はありません。
それらの減免制度を利用して、国民健康保険の方が保険料が安いのか、それとも任意継続する方が安いのか。さらに退職時の収入がいくらだったか。これらを比較して、国民健康保険にするか、健康保険を任意継続するか、選ぶことが可能です。国民健康保険料は昨年の所得で決まりますから、任意継続がいいか、国民健康保険がいいか、比較して判断します。さらに、家族が会社経由の健康保険に入っているならば、その被扶養者になるのも選択肢の1つです。選択肢は3つありますからね。
とはいえ、国民健康保険は退職から14日以内、健康保険を任意継続する場合は退職から20日以内と期限が短いため、退職したらすぐに健康保険の手続きを始める方が良いでしょう。このように手続きのための時間的猶予が短いので、退職時には健康保険をどうするか会社から案内しておかないといけないわけです。
国民健康保険の保険料は3種類
給与明細に書かれた健康保険料を見れば、健康保険料は1つ、1種類、1個だけ、そう思ってしまいますけれども、それは会社経由で社会保険料に入っているからです。会社が加入する協会けんぽの仕組みはシンプルで、保険料は1種類だけ。40歳以上になると介護保険料が加わりますが、変化があるとすればそれだけです。
一方、国民健康保険料の中身は3つに分かれています。
医療分・後期高齢者支援金分・介護分、この3つに分かれていて、さらにそれぞれ平等割、均等割、所得割という内訳になっています。3つと書きましたが、実質は9つあると言っても過言ではないのです。
医療分が病気や怪我の治療に回る保険料。後期高齢者支援金分は後期高齢者の医療を支えるためのもの。介護分(40歳以上の人が対象)は介護保険に回る保険料です。
さらに、平等割というのは世帯あたりで発生する保険料。均等割というのは加入者1人当たりで発生する保険料。所得割は収入に応じて発生する保険料。
詳しくは大阪市のウェブサイトで御覧ください。
数字がいっぱいで慣れていないと訳が分からなくなるぐらい。社会保険のことは会社にお任せだった人は、国民健康保険の仕組みを理解するために少し時間がかかるでしょう。
国民健康保険料の軽減は、平等割と均等割の部分が対象になり、最大で7割軽減から最小で3割軽減まであります(市町村ごとに違いがある。今回は大阪市のケース)。
また、会社が倒産したり、解雇された場合も保険料の軽減があります。収入を7割減として保険料を計算するので、おおよそ保険料も7割減になります。
さらに、災害時の減免、自営業の人が倒産や廃業した場合にも減免があります。
減免のメニューが多いのが国民健康保険で、保険料に関することで何かあったら、市町村の保険担当の部署まで問い合わせるのが良いでしょう。
会社で入っている健康保険と市町村の国民健康保険はどう違うのか
この点で疑問を持つ方も多いですが、管轄がまず違います(健康保険協会と市町村)し、保険料の計算方法も違います。
さらに最大の違いと言っていいのは、法人と個人の違いです。協会けんぽは法人経由で入るもので、一方、国民健康保険は個人で入るものです。
会社経由だと、保険料が会社と個人で50%ずつ分け合う形になりますから、負担感が軽減されているように感じます。
また、個人の方であっても、自営業を法人化して、自分の会社経由で健康保険に入れば、法人のお金を自分の健康保険に回せます(半額分だけですが)。
さらに、自分自身が代表になっている法人ならば、自分への報酬も調整できます。つまり、法人にお金を残して、自分への給与を減らせば、社会保険料も減ります。法人がダムのような働きをして、資金の減りを抑えてくれるわけです。個人で加入する国民健康保険だと、法人のような調整弁がありませんから、収入を調整して社会保険料をコントロールするのは無理です。
コントロールしやすいという点を重視すれば、国民健康保険よりも、法人を間に挟める協会けんぽの健康保険の方が使い勝手が良いです。
退職者へ退職後の健康保険について会社が案内する内容は?
退職後の健康保険を案内するといっても、何をどう案内するのか、ここが分からないとどうしようもありません。
退職後の健康保険案内チラシ
協会けんぽではこういう案内も作成していて、任意継続、国民健康保険、被扶養者、これら3つの選択肢についても紹介されています。さらに、新しい保険証が届くまではどうするのかという点も説明しています。
このチラシを退職日までに余裕を持って(退職の1ヶ月前など)退職予定の人に渡してあげるといいでしょう。
さらに、協会けんぽ継続セットというものも用意されていて、
- 任意継続の手続書類。
- 説明用のリーフレット。
- マイナンバーの扱いに関するチラシ。
- 手続書類を郵送するための封筒。
この4点がセットになっています。
このセットも、退職日の1ヶ月前ぐらいから用意しておいて、退職する人に渡しておけば安心でしょう。
退職する人に「協会けんぽ継続セット(健康保険を任意継続する書面一式)」を渡す
会社を退職すると、社会保険からも脱退(被保険者資格を喪失)しますから、健康保険も今までのようには利用できなくなります。
退職した後は国民健康保険に加入するという選択肢もありますが、在職時に加入していた健康保険に退職後も加入し続けることが可能です。これを「任意継続制度」と言います。
本来だと、退職すると健康保険からも抜けますから、もう会社経由の健康保険を利用できません。しかし、退職後2年間は、それまでの健康保険を継続できる仕組みがあります。ただし、保険料は全額自己負担に変わります。在職時は会社が保険料の半分を負担していましたけれども、退職後は本人が全て支払う形に変わります。
協会けんぽには、「協会けんぽ任意継続セット」という案内書類が用意されており、退職後に健康保険へ任意で加入するための手続きに必要なものが用意されています。
大阪府の協会けんぽの場合、
- 任意継続被保険者資格取得申出書
- 任意継続制度説明用リーフレット
- マイナンバーの記入に関するチラシ
- 大阪支部あて提出用封筒(水色)
この4点セットが用意されています。申出書を書いて、封筒で送ればいいわけですね。
事務担当の方へ「協会けんぽ継続セット」をご利用ください
退職する予定の人がいる場合は、このセットを退職する少し前に渡してあげると退職する人は安心できるでしょう。
会社任せにせず、退職する1か月前ぐらいに、退職者本人が自分で協会けんぽに連絡して、任意継続セットを自宅に送ってもらっても構わないでしょう。
会社経由で送ってもらわなければいけない書類ではありませんし、会社に届いてもそのまま本人に渡すだけのものですから、本人が直接、協会けんぽの方に請求したとしても支障はありません。自分自身の健康保険ですから、他者任せにして困るのは自分です。
退職後に入る任意継続健康保険には保険料に上限がある
この任意継続の健康保険には保険料に上限があるのも特徴です。在職時であっても社会保険料には上限があります(【知ってました?】税金に上限は無いが社会保険料には上限がある)が、退職後に任意で健康保険を継続する場合は上限額が低くなります。
健康保険は都道府県ごとに少し違いがありますが、一例として香川県の場合ですと、健康保険料の上限額は月額143,726円です(標準報酬月額等級が50等級の場合。令和2年12月時点で健康保険料率は10.34%)。会社と折半するので、本人が負担するのは月7万円ほど。これが在職時に発生する健康保険料の最大額です。
収入に連動して上限なしで社会保険料は上がると思っている方もいらっしゃるでしょうが、税金とは違い社会保険料には上限額があります。
一方、健康保険を任意継続した場合の健康保険料は、31,020円が上限額となります(標準報酬月額の上限が30万円の場合で、健康保険料率が10.34%と想定)。
在職時だと月あたり約14万円が上限額になり、退職後は上限額が約3万円になるわけです。
どうしてこのような違いがあるのかというと、退職後は標準報酬月額が30万円までに制限されるからです。在職時の標準報酬月額は50等級の1,390,000が最大ですから、109万円の差があります。
標準報酬月額30万円と書かれても、「標準報酬月額って何?」と思うでしょうから説明しましょう。
補足:任意継続で健康保険に入ったときの標準報酬月額には上限があり、この額は28万円でしたが、2019年から30万円に変わっています。
そのため、以前は標準報酬月額28万円まででしたので、健康保険料率が10%だとすると、健康保険料は28,000円。標準報酬月額の上限が30万円になると、その10%は30,000円になります。任意継続健康保険で標準報酬月額の上限額を超えていた方は、健康保険料が増えた方もいるはずです。
【健康保険】令和2年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限について
収入が違うのに、健康保険料は同じ?
収入に社会保険料の料率をかけて社会保険料の額を計算しますが、実際の収入額に保険料を掛けるのではなく、収入(社会保険では「報酬月額」と言います)を標準報酬月額という数字に変換し、この標準報酬月額に保険料を掛けると実際の社会保険料を算出できます。
つまり、実収入(報酬月額)と標準報酬月額には少しズレが生じる場合がありますので、収入に照らして社会保険料が少し多くなる人もいれば、収入の割には社会保険料が少し少なくなる人もいます。
例えば、月収が270,000円から290,000円の人は、標準報酬月額は280,000円になります。つまり、月収27万円から29万円の人は、社会保険料を計算する過程では月収28万円として扱われるのです。実際の収入とは誤差があるのですけれども、その誤差を取り除いて平均的な金額を計算に使うのです。
もし、実際の収入が270,000円だったとしても、社会保険料の計算では280,000円として扱われますので、この場合は社会保険料が少し高くなります。仮に、香川県で勤務している人だと、標準報酬月額28万円で、健康保険料率が10.34%だと、社会保険料は28,952円ですので、収入(270,000円)に占める社会保険料の割合は、10.72%です。
一方、月収が290,000円だった場合、この場合も標準報酬月額は280,000円です(社会保険料は先ほどと同じ28,952円)。実際の収入よりも少なく扱われますから、社会保険料は少し割安になります。この場合は、収入(290,000円)に占める社会保険料(28,952円)の割合は9.98%となります。
収入が少し違うと、社会保険料が僅かですが割高になったり割安になったりするのが特徴です。「実際の収入に保険料を掛けたほうが分かりやすいのに」と思うところですが、社会保険料というのはそういうものなのです。
それゆえ、月収27万円に設定するよりは、月収29万円の方が社会保険料の面では少しだけお得です。誤差程度の数字ですけれども。
健康保険を任意で継続すると、標準報酬月額は最大で30万円までですので、例えば退職時の月収が76万円だった人でも標準報酬月額は30万円ですし、月収294万円の人でも標準報酬月額は30万円となります。つまり、退職時の月収が31万円(22等級の上限額)を超えていると、在職時よりも健康保険料は少なくなるというわけです。ただし、在職時と違って保険料は全額負担になりますから、絶対額では多くなる可能性はあります。
在職中の健康保険を退職後も続けたい場合、任意継続制度を利用すると、在職時の健康保険を続けることができます。
とはいえ、保険証は退職時に会社に渡し(その後、健康保険協会に保険証が送られる)、被保険者資格を喪失して、一旦は健康保険から脱退します。
一時的に健康保険から抜けて、任意継続の手続きを済ませると、新たに健康保険証が発行され、在職時の健康保険をまた利用できるようになります。
加入後は健康保険料が気になるところで、在職中とどのように違うのか。今回はこの点について解説していきましょう。
健康保険料は上限があり際限なく増えない
在職時の健康保険料は会社と折半負担で、半分を本人が支払い、残り半分を会社が払うのが一般的です。会社によっては、会社の負担割合を増やして、会社6:本人4のような形にしているところもあります。本人の負担は最大で5割までですが、会社の支払割合を増やす(5割を超えて設定する)のは自由なのです。
任意継続の健康保険料は本人がすべて支払いますが、この保険料には上限が設定されています。収入に連動して、上限なく保険料が増えると思っている方もいらっしゃるでしょうが、そうではないんですね。
都道府県ごとに保険料が違いますから、多少なりとも差がありますが、東京都の場合だと、保険料率(2020年度のもの)が9.87%で、任意継続健康保険の健康保険料は最大で月29,610円までです。ちなみに、他の道府県でも、3万円前後が健康保険料の上限になっています。
全国の健康保険料の一覧表
ちなみに、2019年3月までは、任意継続の健康保険料の上限は27,720円ですが、4月以降は任意継続健康保険の標準報酬月額の上限が28万円から30万円に変わるため、保険料は少し増えて29,610円に変わります。
月29,610円という数字は、月収で29万円から31万円の人が支払う健康保険料で、退職後の任意継続健康保険はこの水準を上限に保険料を設定しています。
仮に、在職時の月収が50万円だったとすれば、在職中の健康保険料は、東京都の場合、健康保険料率が9.87%だとすると、月49,350円(会社負担分と本人負担分を合算した額)です。この人が退職して、任意継続健康保険に加入すれば、毎月の健康保険料は29,610円になります。
総額では月2万円ほど支払額は減っています。なぜこうなるかというと、任意継続の健康保険料は、29,610円が上限額であるため、在職時にそれを上回る保険料だったとしても、上限額で保険料が止まるためです。
補足すると、49,350円を半分にすれば24,675円ですから、在職時よりの退職後の方が本人が支払う保険料は増えていますけれども、支払い総額では減っています。
在職時は24,675円で、退職後は29,610円ですから、在職時に比べて2割増になっています。健康保険料を全額自己負担するとなれば、在職時に比べ健康保険料は2倍になると思われていますが、この例では2割増しで済んでいます。
在職時の収入を基準にすれば、任意継続の健康保険料は月49,350円になるところですが、標準報酬月額は30万円で上限があるため、29,610円でストップするというわけなのです。
収入に連動して、際限なく増えると思われている健康保険料ですが、一定の水準で止まるようになっています。
もう1つ例として、月収80万円の人が退職後に任意継続の健康保険に加入するとどうなるか。
わかりやすくするために健康保険料率は10%だとして計算してみましょう。月収80万円だと、標準報酬月額の等級は39等級で、金額は79万円になります。そのため、在職時の健康保険料は79,000円。本人負担分を半分とすると月39,500円になります。
一方、任意継続の健康保険料は、上限額の30,000円です(標準報酬月額30万円、健康保険料率10%と仮定)。
この人の場合、本人が支払う健康保険料は在職時よりも減っています。39,500円が30,000円に変わっています。約25%ほど割引きされているようなイメージですね。
さらに、在職時に月収25万円だった人はどうなるか。
この人だと、標準報酬月額は20等級の26万円になり、健康保険料率を10%とすると、在職時の健康保険料は月26,000円になり、この半分の13,000円が本人負担分です。
退職して任意継続の健康保険に加入した場合、保険料が上限額を超えていませんので、在職時と同じ26,000円が毎月の健康保険料になります。退職後の健康保険料は2倍になっています。
「退職後は保険料が折半負担ではなくなるため、健康保険料が2倍になる」と思うところですが、上で説明した通り、人によって違いがあるのです。2割増で済む人もいれば、25%ほど少なくなる人もいるし、想定どおりに2倍になる人もいます。
税金には上限が無く、社会保険料には上限がある
税金も社会保険料も収入に連動して増減する仕組みになっていますが、税金には上限額は設定されておらず、パーセンテージ計算で絶対額は無制限に上がっていきます。
一方、社会保険料は、ある程度までは収入に連動するものの、一定額に達すると、そこからは保険料が上がりません。
先程の任意継続健康保険では、月3万円程度が保険料の上限で、月収50万円強を超えてくると、保険料は皆同じになります。月収80万円でも100万円でも、毎月の健康保険料は3万円前後です。
ちなみに、任意継続ではない、在職中の健康保険にも保険料に上限があります。
任意継続では月3万円程度が上限ですが、在職中だと月収135.5万円以上の加入者は保険料が同じになります。
月収135.5万円以上だと、標準報酬月額の等級は50等級で、額は139万円です。健康保険料率を10%として、月139,000円。これを半分にして、69,500円を本人が支払います。
月収135.5万円が上限なので、月収200万円であれ、月収500万円であれ、健康保険料は月139,000円で同じなのです。会社員の方でこの水準の収入がある方は少ないかもしれませんが、役員の方ならば社会保険料の上限を超えている方もいらっしゃるでしょう。
つまり、上限を振り切ってしまえば、収入に占める社会保険料の割合は減っていきます。
月収200万円で月に健康保険料が14万円だとすれば、収入に占める保険料の割合は7%。月収500万円だとその割合は2.8%になります。
健康保険料は全国平均で約10%ですが、上限を振り切っていくと、社会保険料が実質的に下がっていくわけです。
一方、税金だと、単純に10%なり30%と設定されているだけで、上限額は定まっていません。200万円の10%なら20万円。500万円の10%なら50万円となります。
高額所得者は、税金にはブーブー言いますが、社会保険料にはさほど物申さないもの。その理由は、社会保険料には上限があって、そこを振り切ってしまえば、負担感が軽減していくからなのです。
任意継続の健康保険だけでなく、国民健康保険も保険料に上限がある
退職後に加入できる健康保険は、在職時の健康保険を任意継続する方法と、さらに国民健康保険に加入する選択肢もあります。国民健康保険も収入に連動して保険料が決まりますが、こちらにも保険料に上限が設定されています。
例えば、大阪市の場合、平成29年度の国民健康保険料は、年間で89万円が上限です。1ヶ月あたりに換算すると約74,000円。
上限を振り切ってしまえば、月収100万円でも月収700万円でも月収5,800万円でも保険料は同じです。そのため、収入が多いほど、収入に占める健康保険料の割合が下がります。この点については先ほども書きましたよね。
先ほど書いた協会けんぽでの保険料の上限は、標準報酬月額が28万円までなので、都道府県ごとに少し違いはありますが、香川県だと1ヶ月あたり28,672円です。他の都道府県でもほぼ似たような保険料ですので、1ヶ月で3万円が健康保険料の上限だと考えればいいでしょう。月3万円ならば、年間だと36万円ですから、在職時に収入が多かった人(月収ベースでだいたい30万円を超えていた人)は任意継続で健康保険に加入する方が負担が少なくなります。
健康保険を任意継続する場合と国民健康保険に加入する場合を比較すると、上記の例だと、月あたりの保険料に2倍ほど差があります。そのため、在職時に収入が多かった方は、在職時の健康保険を任意継続する方が保険料が少なくなる可能性が高いでしょう。
社会保険料は収入に連動して青天井で増えると思っていらっしゃる方もいるでしょうが、税金(上限なしで課金してくる)と違って、社会保険料には上限があるので収入が多い人にとっては良心的な仕組みです。
収入が増えるほど怪我や病気が増えるわけではありませんから、税金のように無制限でお金を集めるのは不合理です。それゆえ、社会保険料には上限があるのです。ちなみに、厚生年金の保険料にも上限がありますので、こちらもお忘れなく。
任意継続の健康保険から加入者が任意で脱退できるようになります
任意継続被保険者として健康保険に退職後も入り続けることを選択すると、加入者である被保険者の自発的な判断で任意継続の健康保険から脱退することができませんでした。
2022年4月1日から、任意継続で入っている健康保険から任意で脱退(被保険者資格の喪失)できるようになります。
任意継続の健康保険から脱退するには、これまで4つの選択肢がありました。1つ目が任意継続被保険者になってから2年を経過したとき。退職して任意継続の健康保険に入ることができるのは2年間ですので、その期間が経過すると任意継続の健康保険から脱退するようになっています。任意継続の健康保険から脱退した後は、国民健康保険や他の会社を経由して健康保険に入ります。
2つ目は、任意継続被保険者が死亡したとき。任意継続の健康保険に入っている本人が亡くなったら健康保険もそこで終了となります。
3つ目は、任意継続の健康保険料を納付期日までに納付しなかったとき。任意継続の健康保険料は、毎月、納付書を使って支払うようになっていて、この保険料は払わずに放置しておくと、任意継続の健康保険から脱退することができます。この方法を用いれば、実質的に任意で任意継続被保険者の資格を喪失できますから、任意脱退の制度がなかったとしても、健康保険料を支払わずに放置するという方法を用いることができました。
4つ目は、他の健康保険制度の被保険者等になったとき。これはどういうことかと言うと、国民健康保険に入る、もしくは他の会社を経由して健康保険に新たに入ることを意味します。他には高齢者医療制度に加入することもあるでしょうね。任意継続の健康保険に代わるものに加入したら、任意継続被保険者の資格を喪失するというわけです。
ここにさらに1つ追加されて、五つ目の資格喪失理由として、任意継続被保険者が被保険者資格を喪失する手続きをしたとき。これが追加されます。
任意脱退の手続きをすると、手続きをした月の翌月1日に任意継続健康保険の資格を喪失します。 例えば、9月10日に脱退の手続きをすると、9月いっぱいは任意継続の健康保険証を使えて、10月に入ると被保険者資格を喪失し、健康保険証は使えなくなります。
今までも、支払う保険料を払わなければ資格喪失できていましたが、この方法はイレギュラーな脱退方法ですので、公式に任意脱退の選択肢を作ったのですね。