労務管理のツボをギュッと押す方法を考えます

会社で起こる労務管理に関する悩みやトラブルを解決する方法を考えます。

裁量性もないのに裁量労働制なんて、ご冗談でしょう?

 

f:id:ma95:20181002130954p:plain

 

 


否定的な評価が多い裁量労働制。


裁量労働制について調べてみると、
肯定的な評価よりも否定的な評価の方が多い。

 

  • 残業時間が増えた。
  • 残業代が出ない。
  • 適用できない業種まで裁量労働制が適用されている。
  • 裁量的に働けない。

という内容が多い。

 


本人に任せて働いてもらうのが裁量労働制ですが、
では実際にどれほど本人に任せているのか。

 

 


労働基準法は「水」。裁量労働制は「油」。


労働基準法は、
労働時間を基準に仕事を評価する。

一方、

裁量労働制は、
成果取り組んだ仕事を基準に評価する。


この2つは評価する基準が違いますが、
労働基準法の中に裁量労働制に関する規定があります。

これは、例えるならば、
水の中に油を入れて混ぜようとしているようなもの。

 

裁量労働制度は、労働基準法にも規定されている制度で、
それを導入することそのものは合法です。

ただ、問題は、導入した後の運用。

 

 


対象外の人まで裁量労働制が適用される。


1.対象となる業務は何か。

2.誰が対象となるのか。

3.対象となる業務遂行の手段や方法、
時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしない。


他にも条件はありますが、
特に重要なのはこの3点。

 

厚生労働省のウェブサイトでは、
裁量労働制について説明したページがありますが、
運用方法まで詳しく指定していません。

企画業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制

 

専門業務型裁量労働制だと、
19の対象業務が指定されていますが、
対象となっている業務を拡大解釈すると、
本来は対象にならない業務も含めることができてしまいます。


例えば、

専門業務型裁量労働制の対象業務(9)で書かれている
「ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」

 

ゲームをプログラムして作っていく業務を想定しているのでしょうが、

プログラマーだけでなく、
ゲーム制作会社で働く人全員が対象になるかのように拡大解釈して、

営業や経理、総務のような部門の社員まで専門業務型裁量労働制が適用
されることも有り得ます。


対象業務そのものに関わっている社員だけでなく、
それに関連する仕事をしている人まで裁量労働制が適用され、
後々、労働基準監督署から是正指導を受ける。

そのような事例も過去にありました。


対象業務を列挙している点は良いとしても、
その内容を拡大解釈して、
本来は対象外になるはずの人まで対象にされてしまうのです。



他にも、

「公認会計士の業務」
と書かれているだけだと、

会計士が取り組んでいる業務だけでなく、
会計士を補助している人も対象になるんじゃないか
解釈する人がいてもおかしくないでしょう。

弁護士の業務
弁理士の業務
税理士の業務

これらでも同様です。

専門資格を持っている本人だけが裁量労働になるのか、
それとも、
その人達を補助している人まで対象者になるのか。


専門業務型裁量労働制の趣旨としては、
専門資格を持っている人だけを対象にしようとしているのでしょうが、
「〜の業務」と書かれているだけだと、
拡大解釈する人が出てくるでしょう。

 

 


裁量性がない働き方なのに裁量労働制。


「仕事の進め方や時間配分に関し主体性をもって働く」

のが裁量労働制の「はず」ですが、

業務の遂行方法や時間配分をコントロールできない
裁量労働者もいます。

 

働く時間
休みの日
休憩時間
業務の遂行方法


これらを本人が決定できるのかどうか。

裁量労働者ならば、本人の意志で決められるはずですが、
実際はどうなっているか。


ここが裁量労働制の最大の問題点と言っていい部分で、
本人に裁量性がないのに、裁量労働制が適用されているのですね。

 


例えば、
裁量労働制が適用されているものの、
所定労働時間が8時間と固定されているとしましょう。

毎日、8時間は会社で働けと。

裁量労働者ならば、
自分で何時間働くかは決められます。

今日は5時間で終えたけど、
明日は10時間は働くだろう。

このような時間配分もできる、はずです。


毎日、固定で8時間労働となれば、
裁量的に働いているとは言えないでしょう。


残業するかどうかも本人次第で、
残業してでも今日中に終わらせたいのか、
明日に続きをやるのか。

これも裁量労働者である本人が決めるもの。

 

 

 

休日が固定されている裁量労働制。


他には、
休みは「週に2日」と固定されているとすればどうか。

裁量労働者なら、
週休3日でも5日でも構わないし、
週休1日でも構わない。

「毎週、2日以上の休日を取らなければいけない」
という契約ならば、

いわゆる「健康を確保するための措置」として
認められます。

ですが、
「休みは週に2日しか取ってはいけない」
となれば、これは裁量性を否定する要素になります。

 

 


人はなぜ集団になると怠けるのか - 「社会的手抜き」の心理学

 


休憩時間が固定されている裁量労働制。

 

法律では、休憩時間は、

労働時間が6時間を超えるなら45分以上
労働時間が8時間を超えるなら60分以上

と決められています。


裁量労働者なら、
この基準にピッタリ合わせることなく、

昼休憩を2時間にしてもいいし、
喫煙のための小休止を何度入れても構わない。


裁量労働ですから、
休憩無しで働くことも可能であるはずですが、

「1日に60分以上の休憩を取らなければいけない」
と決めておけば、
必要な休憩は取れます。

休憩時間をどれだけ取るか、
これも自分で決める裁量があって然るべきですが、
休憩は何分までと決められているとすれば、
それは裁量性を否定する要素になります。


裁量労働者ならば、
働いているのか、休憩しているのか、
その境目が曖昧になるもので、

働いているようで休憩しているし、
休憩している雰囲気だが働いている

なんてことも起こり得ます。

 


椅子に座り、目を瞑ってジッとしている。

こういう人を見たらどう感じるか。


大半の人は、

「あの人、居眠りしている」
「あっ! サボってる」

このように感じるもの。

「仕事の企画を練っているんだな」
と良いように解釈してくれる人は少ないはず。


サボっているように働いて、
働いているようにサボっている。

本当の裁量労働者とはそういう人たちです。

 


すごい手抜き - 今よりゆるくはたらいて、今より評価される30の仕事術

 



 

裁量労働制の問題点。


自主点検結果から抽出された問題点を挙げていくと以下の通り。


裁量労働制の運用の適正化に向けた自主点検の結果について公表します(厚生労働省)

 

・個別の営業活動など、対象業務以外の業務に就かせている。

対象業務に限って適用可能な裁量労働制を、
対象外の業務に対しても適用しています。


ゲーム用ソフトウェアの創作の業務でも書きましたが、

ゲームを作っているプログラマーに限って裁量労働制が
適用されるところ、

プログラマー以外の営業や経理、
総務の社員まで裁量労働が適用されているのでしょうね。

 

 

・対象労働者の業務に対象業務以外の業務が含まれている。


会社では色々な部署があり、仕事も違いますから、
裁量労働制が適用可能な仕事をしている人が、
それを適用できない仕事まで兼任する場合もあるでしょう。

その場合も、改善が必要とされます。

 

 

・日常的に上司が具体的な指示をしたり、
業務遂行の手段について指示する場合がある。


どのように業務を進めていくかは本人が決めるのが
裁量労働制です。

雇用契約というよりも、
請負契約に近い働き方になります。

何を制作するのか。
何を成果物とするのか。

このような大局的なゴールだけ提示して、
後は本人に任せる。

裁量労働とはそういうものです。

 


・始業・終業時刻を定めており、それを遵守させる場合がある。


何時から仕事を始めるか。
何時に仕事を終えるか。

裁量労働なら、これも本人が決めます。

仮に、
9時に始業で、18時に終業と固定されていたら、
裁量労働制を否定する要素になります。

労働時間の配分を本人に委ねないと
裁量労働にはならないのですね。

 

 

・業務量が過大であったり、期日の設定が不適切。


残業代が出ない制度だと誤解して、
無茶振りしてもいいだろうと考えていると、
こういう問題が起こります。

現状の裁量労働制では、
みなし労働時間を設定して賃金を支払う形になっていますが、
実際の労働時間が法定労働時間を超過した場合は、
割増賃金を支払う必要があります。

ここが裁量労働制のおかしなところでもあります。

労働時間にとらわれない働き方をするために
裁量労働制を創設したものの、
使用者に労働時間を把握するように求めています。


年収1,500万円ほどをポンと支払って、

「後は任せた」

というのが本来の裁量労働制なのでしょうが、
実際は少ない報酬でいかに多く働かせるかが
目的になっているフシがあります。


業務量や仕事の期日は
内容や状況によって変わりますが、


裁量労働者は、

「この量の仕事なら、これだけの時間がかかる」

と会社側に言える立場であるはずです。


業務をコントロールするのは、
会社側ではなく労働者側になるのが
裁量労働制なのです。


・3年ないし5年程度の職務経験を有し、
対象業務を適切に遂行するための知識、
経験等を有する労働者以外にも企画業務型裁量労働制を適用。

これは対象者を拡大解釈するケースです。

誰が裁量労働制の対象になるのかが
ハッキリとしていないため、

あなたは裁量労働制、あなたも裁量労働制

と対象者を広げてしまう。


誰が対象者なのかを具体的に決めておかないと、
これと同じトラブルが発生します。

 

 

 

・みなし労働時間が法定労働時間を超えている場合で
36協定が未締結、割増賃金が未払。


法定労働時間を超えて勤務しない職場ならば、
36協定を締結しなくても構わないのですが、

1日8時間のように、
法定労働時間ギリギリまで働く人がいる職場では、
36協定は必須です。


裁量労働制を適用していても、
労働時間を把握する必要があり、

1日あたりのみなし労働時間が8時間だとすれば、

4時間勤務だと8時間労働としてみなされ、
7時間勤務でも8時間労働とみなされます。


短い労働時間を長いものとみなすのは構わないのですが、
この逆はダメです。

例えば、

10時間勤務を8時間労働とみなしたり、
11時間勤務を8時間労働とみなすと、

割増賃金が未払いになります。


みなし労働時間を超過した場合は、
超過した時間に対して賃金を支払う必要があります。


「労働時間を管理しないといけないならば、
裁量労働制とは言えないのでは?」

と思う方もいらっしゃるでしょうが、
その気持ちはご尤も。


年収を高くして、
労働時間規制を外さないと、
本来の裁量労働制にはならないですからね。

この年収ですが、
やはり1,500万円ぐらいは払うべきではないかと思います。

裁量的に働く高度な人材なのですから、
1,500万円に見合う仕事はできるはずです。

 

 

・労働時間の状況を把握していないもの。


これも先程の36協定や割増賃金の話と同じです。

裁量労働制なのに労働時間を把握しなければいけない。

労働基準法と裁量労働制が水と油の関係だと書きましたが、
まさにその関係がハッキリと分かるところです。

労働時間ではなく、
成果、取り組んだ仕事を基準に評価していく制度であるはずですが、

労働時間による制約を付けたまま裁量労働制を
運用してしまっているため、
こういう矛盾が発生します。

 

 


・みなし労働時間と労働時間の状況が相当程度乖離しているもの。

 

短い労働時間を長くみなす分には問題にはなりません。

長い労働時間を短くみなすと、これは36協定や割増賃金が問題になります。


「相当程度乖離」している場合は改善が必要のようですが、
多少の乖離ならばみなし労働時間の範囲内と考えて構わないとも解釈できます。

では、どれぐらいの時間的乖離を「多少」と言うのか。

これは具体的に決まっていませんから、

1時間の乖離なら許容範囲なのか、それともアウトなのか。
30分の乖離ならば多少のものと考えていいのか。

実際の勤務実態を見てみないと判断しにくいところです。

 

今後、

裁量的に働けないのに裁量労働制が適用されている。
裁量労働のはずなのに労働時間を把握しなければいけない。

この問題を解消しないと、
裁量労働制を受け入れるのは難しいでしょう。


年収基準を高めに設定(1,500万円程度)し、
労働時間規制を外して(労働時間を把握する必要無し)いけば、
裁量労働制は本来の形で運用されると思います。

 

裁量労働制の自主点検結果(厚生労働省)

 

 

 

労働時間が管理されているのに裁量労働。


裁量労働制を適用していても、
実労働時間を把握しないといけない。

こういう不思議な要求をしてくると、
事業所側としては困ってしまいます。

アクセルを踏みながらブレーキを踏むようなもので、
裁量労働制ならば、本来は本人が時間を管理するのであって
労働時間を把握する必要は無いはず。


労働時間の管理を本人に任せるのが裁量労働制
の本来の機能なのですが、

「健康・福祉を確保するための措置」
を求められるため、

事業所は労働時間を把握しないといけません。

 

裁量的に働けないのに、裁量労働制が適用されていると、
トラブルになるのは当然です。


裁量労働制なのに労働時間を把握しないといけない。
労働時間が固定されている。
休日の日数が固定。
休憩時間を自分で決められない。

これでは裁量労働制が浸透しないのも無理のないこと。



厚生労働省の裁量労働制等に関するアンケートでは、

「一定以上の高い水準の年収が確保されるなら、
労働時間規制を適用除外すべき」
との回答があるのですから、

年収1,500万円程度の収入を条件に
労働時間規制を外すのも1つの選択肢です。


裁量的に働くほどの高度な人材なのですから、
これぐらいの年収は受け取ってもいいでしょう。


労働時間による制限を付けたままでは、
裁量労働制は運用しづらいですし、

労働時間や休憩、休日を
本人の裁量性でもって決められるように
するのも必要です。


休憩や休日には最低ラインを設定して、
それ以上の部分は本人が決める。

労働時間は、
1日あたりで時間を指定せず、

例えば、
1ヶ月あたり40時間以上(1日あたりに換算すると2時間程度)と、
こちらも最低ラインを設定し、
それ以上は本人に任せていく。


「本当に裁量性がある裁量労働制」
に変えていけば、

今よりは制度は浸透していくでしょう。

 

 

 

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
大阪府大東市灰塚6-3-24
E-mail : mail@ymsro.com
お問い合わせ

© 社会保険労務士 山口正博事務所