労務管理のツボをギュッと押す方法を考えます

会社で起こる労務管理に関する悩みやトラブルを解決する方法を考えます。

労務管理をキチンと教えてくれる人は職場にいますか?

我流禁止

 

板前が経理作業なんてするわけがない。

労務管理を教えてくれる人が社内にいない。こう悩んでいる方もいらっしゃるのでは。

普段から取り組んでいる仕事だったら、誰しもよく理解できています。しかし、労務管理となると、慣れ親しんでいる人が少なくて、いざ教えて欲しいと言われたら、困ってしまうもの。

例えば、あなたが板前ならば、料理のことはさぞ詳しいはず。どうやって魚を焼いたらいいか。下処理はどうするか。魚ごとの特徴に合わせて、焼き方、下処理、どのような料理に向いているか、どのように盛り付けたら綺麗に見えるか。そういうことには、すごく慣れてるし、得意なはず。

レストランのコックも、板前と同じではないでしょうか。「料理なら任せておけ」と自信を持って言えるのでしょう。

営業を仕事にしている方ならば、顧客との接し方には一日の長があるでしょう。どういう風に見込み客を作っていくか。どのように接すれば、相手と親しくなれるか。言葉遣いをどうするか。振る舞いはどうか。こういったことは、よくご存知のはず。

マーケティングと営業はどう違うのか。見込み客に対してどうアプローチしていくのか。飛び込み営業で、相手の時間を奪わずに営業するには。

マーケティングと営業は別の仕事ですが、営業の方ならば、上記のような事柄に頭を使っているのではないかと思います。

他には、デザートを作る職人、パティシエの方ならば、どういう見た目の、どんな材料を使って、盛り付けをしていったら良いデザートを作れるか。こういった点にかけては、他の方の追随を許さないはず。

では、板前の人に、経理業務について聞いてみたらどんな結果になるでしょうか。経費の取り扱いだとか、所得税や法人税のこととか、普段の帳簿の付け方だとか。どんな領収書ならOKで、どんな領収書はダメなのか。

そういったことを板前さんに聞いて、満足のいく答えを得られるでしょうか。おそらく、十中八九、望んだような答えは得られないはずです。

魚の捌き方ならば任せておけ、という感じでしょうが、経理の話になれば「そういう分野の話にはサッパリだ。他の人に聞いてくれ」と言われるのがオチです。
普段、営業の仕事をしてる人に、法律業務について聞いてみたらどうでしょう。

契約書の書き方について、一つ一つの契約内容の文言が妥当なのかどうか、こういうことを営業の人がチェックできるかどうか。

取引先の企業から、契約と違うじゃないか、とクレームが来た時、営業の人がそんな問題に対処できるでしょうか。最近だと、知的所有権の侵害、パワハラとかセクハラなどのハラスメント関係、これらの問題にも営業職の人が対処できるのでしょうか。

おそらく、いやほぼ100%、無理でしょうね。

パティシエの人が、残業代の計算方法について知っているのかどうか。高校生は夜何時まで働けるのか。さすがにこれぐらいだったら知ってる方もいるでしょうけど、5年働いた人が退職したら、失業手当が何日分出るか。これに答えられるパティシエは、なかなかいないのでは。

普段、自分が担当している仕事に関しては、人はすごく詳しいのです。何度も繰り返しやってることですし、技術力も日々向上するわけです。仕事のコツも分かっており、どこで力を入れて、どこで手抜きをするか、というのも心得ているのです。

しかし、担当外の仕事となると、途端に素人になります。板前は経理のことに関しては素人ですし、営業の仕事をやっている人は法務の分野では素人です。パティシエも、デザート作りなら玄人ですが、労務管理では素人。

会社では、事務を担当する人がいるかもしれませんが、バック業務の全てを任されてしまい、経理だけ、法務だけ、労務だけという担当者はいないのでは。事務の人は、何でも屋さんになっており、労務管理だけを教える人は社内にいないのが現実だろうと思います。


片手間で労務管理の業務を教えられるのかどうか。

OJTというのは、その人が普段やっていることを、新入社員に教えていく、というのがその内容です。

労務管理の業務について詳しく教える人がいるのかというと、片手間で教えているのが実情ではないでしょうか。他にもやることが色々とあり、その合間に、労災保険や雇用保険のこと、社会保険のことを教えざるを得ないのでは。

学ぶ側としては、正式な内容を知る機会がないのが困るわけです。口頭で、この場合はこうすると教えられても、それで正しいのかどうか、ちょっと不安になってしまう。

きっちり教えられる人が社内にいない。これが問題なのですが、やむを得ないというか、仕方ないのでしょうけども。

労務管理だけを仕事にしている人が社内にいるのは、よほどその組織が大きいというか、しっかりしているだけ余力が必要です。大きい会社だと、経理部、法務部、総務部など、専門の部署を作って、バック業務に対処しています。

一方、規模が小さい会社では、専任の担当者がいないため、上司の人が部下に対して、無手勝流で労務管理について教えてしまう。全てのケースが、このようになっているとは言えないでしょうが、それなりには当たっているように思います。

労務管理について正しい内容を理解する機会が無いゆえに、その結果、めちゃくちゃな取り扱いが社内で当たり前になってしまい、後々にトラブルが起こったり、この会社なんだか変だよね、ブラック企業じゃないか、とそういうマイナス評価を受けて、人が辞めてしまうなんてことも。

片手間で教えるには、労務管理というのは専門的ですし、人伝で教えられてきたことが間違っている場合もあります。


業務マニュアルと同じように、労務管理にもマニュアルが欲しい。

職場では、労務管理は確かに大事で重要ですから、いい加減にはできないところ。ですが、いかんせん内容が退屈で学ぶ気にならない。興味がないし、時間も使いたくない。けれども仕事では必要。

必要であるのに、いつもの日常業務のように定型化されておらず、属人的に処理されているのが実情ではないでしょうか。「事務の近藤さんがいないと、どうにもならない」というように、特定の人に依存した体制になってしまい、困ってしまう。

時間を使って、本格的に労務管理や労働保険、社会保険のことを学ぶといっても、そういったことを時間と労力、手間暇をかけて、学んでいこうという積極的な気持ちになれるかというと、これはなかなか難しい。

分からないことがあれば、ポケットに入っている、もしくはバックに入っているスマートフォンを取り出して、ささっと検索して調べるのが当たり前です。

ネット検索すると、多量の検索結果が表示され、自分が求めている情報は一体どれなのか。ここで壁に突き当たります。

ネットの検索では色々な情報が入り混じって、目的の情報に到達しにくいのが欠点。

色々な検索結果が出てきて、思うような情報にたどり着くのは、なかなか時間がかかるもの。

検索は便利なのですが、得られた情報を選別していくところで、コストがかかります。

検索エンジンも、日々、進歩しており、より良い検索結果を出すようにはなっているのでしょうけども、情報を選別する目というか力が依然として必要です。
いつもの業務にマニュアルや手順書があるように、労務管理にもマニュアルがあれば、それをOJTの代わりにできるでしょう。

飲食店だと、仕入れ、調理、店舗での作業など、日常業務についてはキッチリと手順が決まっているでしょうし、マニュアル化もされているはずです。

では、飲食に関連しない部分、それこそ労務管理の業務は手順が決まっているでしょうか、どういう場合にどのように対応するか、基準というものがあるでしょうか。

会社で、事務を担当していた人が退職する時、どのように引き継ぎは行われているのでしょう。

先程の例のように、事務の近藤さんに全てを任せていたら、他の人への引き継ぎは円滑になされるのかどうか。

給与計算の仕方とか、普段から繰り返している事務作業だったら、決まった作業パターンがあるでしょうし、よく記入している書類もテンプレート化されており、引き継ぎはできるのでしょう。

ですが、労務管理のちょっと専門的な部分というか、ちょっとマニアックな部分というのは、属人的な能力に依存して処理しているのでは。

従業員の方から、「退職したあとの健康保険ってどうするんですか?」と聞かれたり、「今、仕事を辞めたら、失業保険ってどれぐらい受け取れるんですか?」と聞かれたり。「退職したあと、年金はどうなるのですか?」とか。

こういった質問に対して、どう答えていくのか。

「そういう専門的なことは、こちらでは答えられないので、行政機関に問い合わせてください」と言えば、厄介事を回避できるのでしょうけども、ある程度は答えてあげたいと思うもの。

退職後の健康保険は、任意継続するか国保に加入するかの選択肢があるし、家族で健康保険に入っている人がいればその人の被扶養者になることもできる。さらに、任意継続するとすれば、毎月の健康保険がいくらになるか。

「協会けんぽ継続セット」という、退職後の健康保険について案内した資料も配布されていますから、これを退職者に渡すのも良いでしょうね。

「退職したら、失業手当はどれぐらい受け取れるんですか?」この質問、退職する人から聞かれそうです。

「そういうことはハローワークに行って聞いてください」と言わずとも、社会保険労務ハンドブックを見れば、ちょっと難しそうな質問でも答えられます。

失業手当というのは俗称で、正式名称は「雇用保険の基本手当」と言われるものです。

その基本手当の内容ですが、まずそれを受け取るには半年以上、もしくは1年以上雇用保険に入っている必要があります。自主退職の場合は1年以上必要で、解雇や退職勧奨されて失業した場合は、6ヶ月以上加入していると基本手当を受給する条件に該当します。

「自主的に退職した場合は失業手当が出ない」ということはなく、解雇などの理由に限らず、自分で仕事をやめた場合も雇用保険から給付が出ます。

保険は、自分で保険事故起こすと、給付がなされないものです。保険の約款に、故意や重過失で事故を起こすと、保険金が出ない。そういう条件が設定されています。

しかし、雇用保険の場合は、自分で保険事故を起こす、つまり自発的な失業であっても、給付金が出るわけです。これは公的保険の特徴で、民間の保険会社では販売できない商品です。

基本手当は、賃金日額がいくらなのか、給付日数が何日なのか。この二つの要素で決まります。

賃金日額は、基本手当の1日あたりの単価になり、在職時の収入を基準にして決まります。

仮に、在職中の1日あたりの給与が2万円だったとしても、雇用保険の基本手当で、1日2万円が給付されるものではありません。そこは計算式と言うか変換があって、支給額には上限もあり、退職時の収入のだいたい7割前後が基本手当の額になります。

また、退職した理由によって雇用保険の基本手当は給付日数が変わります。

自主的に退職した場合は給付日数が少なめで、解雇や退職勧奨で仕事を辞めた場合は、給付日数が多くなります。

40歳の人の場合、雇用保険に入っていた期間(「算定基礎期間」と言われます)が15年だったとすると、自主的に退職した場合は、給付日数は120日。解雇や退職勧奨で離職すると、240日になります。

この例では、退職理由によって、給付日数に2倍の差があります。

雇用保険の給付日数も、社会保険労務ハンドブックを見れば、掲載されています。退職者の年齢と雇用保険に入っていた期間を組み合わせれば、何日分の失業手当を受け取れるかは案内できます。

雇用保険には「賃金支払基礎日数」という数字があります。この賃金支払基礎日数というのは、雇用保険に加入していた期間(算定基礎期間)を算定する際に使うもので、おそらく会社で事務を担当してる方でなければ、知らないのではないかと思います。

雇用保険料を払っていれば、雇用保険の被保険者になるのですけれども、その一か月あたりの加入記録を判断する時、賃金支払基礎日数が1ヶ月につき11以上ある月ならば、その月は1か月間、雇用保険に加入できていた、と判定されます。

ずいぶんマニアックな内容ですけど、「雇用保険の賃金支払基礎日数は何日だったっけ?」と聞かれてすぐに答えられる人は社内にどれぐらいいるでしょうか。また、「有給休暇を取った日は賃金支払基礎日数に算入するの?」と聞かれて、答えられる方はいるでしょうか。

こういうことも、社会保険労務ハンドブックには書いてあります。まさに労務管理の教科書なのです。


上司に教わるよりも正確。

教えられる人がいない、というのが会社での労務管理の最大の課題というか問題ではないでしょうか。

普段からやっている日常業務でしたら、先輩なり上司がやり方を教えれば良いでしょうし、業務マニュアルのようなものも作られているのでしょう。

しかし、労務管理となると、専属で教えられる人がいない職場が多いのでは。

経理部や法務部、総務部のように、専門の部署を設けている会社ならば大丈夫なのでしょうが、小規模な会社だと、事務の人が全てを担当しているケースもあるはず。

となると、教えるとしても、片手間で教えざるを得なくなり、どうしてもしっかりと教えることができなくて、業務に習熟しにくい。

一冊に必要なことがまとまっているのも、この社会保険労務ハンドブックの利点です。

六法全書みたいに、分厚くて、大きくて、重くて、かさばるようなものだと、まず持ち運びができないし、開いて参照しよう、という気にもなりにくい。六法全書って、化粧箱に入ってるでしょ。普通の本だったら、棚から取り出して、パッと開けるんですけど、保護用の箱に入ってて、そこから取り出すのもまた億劫なんですよ。

社会保険労務ハンドブックだったら、ページ数は約700ページ。700ページというと、多いように感じますけど、片手で十分に持てる大きさですし、重さも約400gぐらい。スマートフォン2台分だと考えていただければいいでしょう。

横幅が118 mm、縦が175 mm、厚みが21 mm。ポケットにはさすがに入りませんけども、カバンやバッグ、リュックサックでしたら入ります。

スマホでゲームをするように、寝転がりながら、この社会保険労務ハンドブックを開いて、チラチラと目を通して眺めていくだけでも、「そういうルールになってるんだな」ということがわかります。

そんな真面目に読み込むような本ではなくて、必要な時に、必要な部分を参照する、辞書みたいな使い方をするのが本来の形です。辞書といっても、随分と薄型ですけれども。

上司から、我流の労務管理を学ぶのではなく、きちんとした内容から学んでいく方が、時間も労力も少なく済むのではないでしょうか。

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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