- マイナンバーカードが保険証になり、病院の窓口で顔認証して本人確認
- マイナンバーカードを保険証として使える利点
- 待ち時間なしで住民票の写しや印鑑証明書を取れる
- 身分証明書として不十分な健康保険証
- マイナンバーカードの利用が進まない理由
- e-Taxでもマイナンバーカード無しで使える選択肢を作ってしまった
- ID・パスワード方式はパスワードレス化に逆行する
- iPhoneをICカードリーダーとして使えるようになったが、まだ不十分
- 個人番号を他人に見られてはいけない。だから、持ち出さないし、使わない
マイナンバーカードが保険証になり、病院の窓口で顔認証して本人確認
【図解・行政】マイナンバーカード保険証の顔認証(2019年6月):時事ドットコム
マイナンバーカードを健康保険証として使う話は、以前からありましたが、議論はされてもなかなか実現しません。
病院に行って受付をする際、顔で本人確認をする仕組みを作る。そういう予定があるようです。これは良いでしょうね。
現状の健康保険証には、顔写真が付いていません。そのため、保険証出されたら、その人が本人なのかどうか、保険証の所有者なのかどうかを判断しにくく、他人になりすまして、保険証を使う人もいるようです。
やってはいけないことですが、保険証の貸し借りをして、借りた側が貸した側にお金を払う。こんなやり取りもされているのではないでしょうか。
これは、保険証に顔写真が付いていないために起こる不正利用です。
顔認証というと、iPhoneのFace IDみたいなものを思い浮かべます。実際にFace IDで認証してみると、一瞬でロックが解除されて、端末を使えるようになります。1秒もかかりません。0.1秒とか0.2秒ぐらいの時間です。暗証番号やパスワードを入れる手間に比べれば、はるかに早い。
旧型のiPhoneには、Touch IDという指紋認証システムが搭載されていましたが、顔認証を使い始めると、もう指紋認証には戻れないと感じるほどの便利さです。ただ、強引に顔を端末に向けさせられて、ロックを解除されるという欠点はありますが。
マイナンバーカードを保険証として使える利点
従来の保険証だと、被保険者資格を取得した際に、新しくカードを発行して、本人に郵送するなり会社経由で渡さないといけません。すぐに本人に届かないのが欠点です。
退職して、被保険者資格を喪失すると、カードを返却して、廃棄処分にしないといけません。退職したら健康保険証は使えなくなるのですが、退職後に保険証を使ってしまうと、あとから保険者はその費用を回収しないといけなくなります。
カードを作る手間や時間がかかるし、すぐに健康保険証が手元に来ない。退職後に保険証を使ってしまう人もいる。顔写真がないからなりすましで他人が利用する。従来の保険証にはこのような短所があります。
加入者としては、健康保険に入ったらすぐに保険証を使えるようにしてほしいと思うもの。
この点、後から療養費を請求すれば、保険証持っていない期間でも、保険を適用できますが、それはそれで手間ですし、保険証なしで病院に行く不安もあります(全額自己負担になるんじゃないかと心配になる)。
マイナンバーカードならば、保険証のような発行や返却が不要です。被保険者資格の得喪処理が終われば、データベースを書き換えて、有効化するなり無効化できます。この方法ならば、資格取得手続きをした当日に、保険証機能を有効化することも不可能ではありません。
さらに、保険証機能が有効化されたら、マイナポータルで本人に通知すれば、「あぁ、保険証が使えるようになった」と安心できるのでは。
待ち時間なしで住民票の写しや印鑑証明書を取れる
保険証として使うだけじゃなく、住民票の写しや印鑑証明書と所得証明書などの公的な書類を、コンビニのマルチコピー機(セブン-イレブン)から取れる、というのも利点です。
市役所に行って、証明書を発行してもらうと、混み合っていると、待ち時間が20分とか30分になる時もあります。証明書の窓口は、いつ行っても混んでいる感じがします。市町村の窓口で最も混んでいるのが、証明書を発行する部署ではないか、と思えるほど。
マイナンバーカードを持っていなければ、役所に行かなければいけないし、その時間と手間の負担があります。
コンビニだったら、何もセブンイレブン限定とかではありませんから、ファミリーマートでもローソンでも、公的な証明書を発行できます。
余談ですが、コンビニのコピー機はコピーするだけの機械ではありません。USBメモリーやSDカードの中に入れた文書をコピーできますし、FAXも送れます。さらに、自賠責保険の保険証書を印刷することも可能なのです。
マイナンバーカードをマルチコピー機の指定の場所に置いて操作すれば、住民票の写し、印鑑証明書など、役所に行かずに印刷できます。もちろん、休日でも夜間でも取り出せます。
自分の都合が良いコンビニに行って、証明書を発行すればいいわけで、発行費用も市役所などに行った場合と同じです。利便性が増す分、利用者にとっては得なのです。
役所に行く時間、そこで待つ時間。これを貨幣換算すると、それなりの金額になるのでは。それがゼロになるのですから、しかも追加費用無しで。となれば、もう証明書はコンビニでの発行に限ります。
身分証明書として不十分な健康保険証
健康保険証を身分証明書として使うとなると、補助資料として、電気代やガス代の支払い書を添付する必要があり、1枚だけでは足りない場面もあります。
携帯電話の契約を締結する際、健康保険証出すと、保険証だけでは足りず、補助資料も要求されます。
免許証だったら、それ1枚だけで身分証明書として足りますが、健康保険証は身分証明書として足りない部分があります。顔写真がありませんからね。
現在の保険証には、顔写真が付いてなくて、本人以外の人が保険証を使う可能性があります。
保険証に顔写真が付いていないという問題は、長い間指摘されてきたのですが、紙の保険証からカードタイプの保険証に切り替わったときも、顔写真が付きませんでした。
なりすましで他人の保険証を使う人がいるなら、顔認証はその対策になります。免許証は、顔写真付きで発行されており、一方、保険証は、顔写真なしの身分証明書だから、病院で出されると、本人かどうかがはっきりしません。その場合は、保険証以外の身分証を出してもらって、本人を確認することもできますが、そこまでの手続きを要求された経験はありません。
本人が自分で顔認証するようになれば、病院の窓口での作業も少しではありますが減るでしょう。
顔でスッと認証できるなら、コンサートなどのイベントでも使えるようになるのでは。チケットの転売で、買った本人ではなく、転売でチケットを買った人が会場に来たとき、マイナンバーカードで顔認証すれば、転売は不可能になるでしょう。
人間の善意を信じるのではなく、科学技術で解決する。転売しないでね、と人の善意に頼ったとしても、うまくいくかどうかは定かではありません。センサーやカメラ、コンピューターなど、そういった道具を使った科学技術で解決していくのが現実的です。
マイナンバーカードの利用が進まない理由
なぜマイナンバーカードが普及しないのか。その理由は、代替手段を用意している点にあります。
マイナンバーカードを保険証として使えるようになっても、従来の保険証も使えるようにしてしまう。これだとマイナンバーカードを使う人は増えません。このような折衷的な案は、失敗する傾向があります。
1年程度の猶予を設けて、ズバッとマイナンバーカードに切り替えないといけない。
従来の保険証も使えるような状態にしてしまうと、じゃあ今までのままでいいじゃないかと。
人間というのは、今までのやり方を続けても構わないとなると、新しいやり方を受け入れないものです。
今まで、できていたんだから、これからもそれでいいじゃないか、と考えるのが人間という生き物。保守的なのです。
例えば、2020年を基準にするなら、2021年の4月からはマイナンバーカードのみ受け付ける、というようにしないと、いつまでもマイナンバーカードを使う人が増えません。
買い物したときにポイントをつけるとか、キャッシュバックするとか、そういう施策も実施するようですが、必須の証明書をマイナンバーカードに置き換えるのが効果的です。保険証がその一例。
手段を二通り用意してしまうと、利用者にとって、都合が良い方を選ばれてしまい、思うような方向に持っていきにくい。
切り替えるならば、マイナンバーカード以外の選択肢を残さない。ここがキモです。
e-Taxでもマイナンバーカード無しで使える選択肢を作ってしまった
確定申告をネット経由で済ませるには、マイナンバーカードが必要なのですが、2019年からは、IDとパスワードを使ってe-Taxを利用できる選択肢が設けられています。
これもマイナンバーカードの促進を阻むものになります。政府はマイナンバーカードをもっと普及させたいと考えているにも関わらず、IDとパスワードでe-Taxを利用できる方式を用意し、マイナンバーカードを使わずに済む選択肢を作ってしまいました。
アクセルを踏みたいのか、それともブレーキを踏みたいのか。よく分からない状況です。
e-Taxの利用を簡便化するという目的なのですが、マイナンバーカードを利用する動機を減退させる一因になります。
IDとパスワードでe-Taxを利用できるとなれば、「マイナンバーカードは無くても大丈夫だ」と思わせてしまいます。結果、マイナンバーカードの発行が進まない。
スマホでマイナンバーカードを読み取れるようにするのは良いですが、マイナンバーカードを使わなくても大丈夫という選択肢を与えてしまうと、普及を阻んでしまうような結果になってしまいます。
今までの保険証を使えるし、マイナンバーカードも使える。
マイナンバーカードでe-Taxを利用できるし、ID・パスワード方式でも利用可能。
このように、代替的な選択肢を残すのではなく、道を一本化しておかないと、いつまでも利用者がバラけて、マイナンバーカードが主流になりません。
半年なり1年なり、移行期間を設けて、その期間が来たら、ズバッとマイナンバーカードに一本化する。そうしないと、いつまでもズルズルと従来の手段を使い続けてしまいます。
ID・パスワード方式はパスワードレス化に逆行する
パスワードレス化が進みつつあるなか、今更、パスワードを利用するというのも変な感じ。
世間としては、なるべくパスワードを使わないようにしよう、という流れになっています。例えば、Yahoo! JAPANでは、ログイン専用のIDを作れますし(本来のIDは他人が閲覧できるため)、パスワードではなく携帯電話に送信した認証コードを利用しています。
パスワードは破られる、という前提でシステムが設計されるようになっています。
マイナンバーカードそのものを、物理的な鍵として使えば、パスワードは不要になるはず。ログインする際に、スマホでマイナンバーカードを読み取って、それをパスワード代わりにする。
カードを持っていない人はログインできませんから、パスワードよりは安全です。
他には、アカウント認証用のUSBメモリーをPCに差し込んで、パスワードを不要にするという技術もあります。
認証用のUSBメモリーでアカウントを守るという手段を用いた場合、Google社内では1度もアカウントに不正アクセスされたことがないようです。
自分専用のUSBメモリーがなければどうにもならないわけですから、IDやパスワードを知っていたところで、他人にはどうにもできません。鍵もないのに家には入れないわけです。
マイナンバーカードそのものが、自宅の鍵みたいな役割を果たすことができると、それがパスワード代わりになります。
従来の認証方法では、IDやパスワードを知っている人が本人だと推定しているだけで、そのIDやパスワードを入力してきた人が、本人かどうかは分かりません。
もちろん、マイナンバーカードでも、他人が持ってしまえば同じじゃないか、と思いますが、カードは1枚だけです。IDやパスワードは拡散させることができて、1人どころか、極端に言えば、100人が知っているなんてこともあり得ます。そのため、家の鍵とも言うべきマイナンバーカードを、自分がしっかりと管理していれば、他人が入り込んでくる可能性は無いのです。
認証用のUSBメモリーは4,000円ほどの費用がかかりますが、マイナンバーカードをスマホで読み取って、本人かどうかを認証すれば、追加費用は不要です。
iPhoneをICカードリーダーとして使えるようになったが、まだ不十分
マイナンバーカードをパスワード代わりにするには、スマホアプリとPCを連携させる必要があるのですが、それができているのは、2019年12月時点では、Androidスマホだけです。
認証情報をスマホから引き継いでPCに渡す必要がありますから、この連携は必須となります。
スマホでマイナンバーカードを読み取って、マイナポータルにはログインできるようになりましたが、認証用に使えるようにはまだなっていません。
利用者クライアントアプリケーション(JPKI mobile)をスマホにインストールして、e-Taxなどで本人認証するわけですが、これができるようになっているのは現状ではAndroidスマホに限られています。
iOS向けにも同じアプリケーションがありますが、iPhone版の利用者クライアントソフトでは、自分の利用者証明用電子証明書や署名用電子証明書の中身を見れるのですが、できる操作はこれだけです。
利用者クライアントソフトの利用方法(iPhoneをご利用の方) | 公的個人認証サービス ポータルサイト
これではe-Taxでは使えません。証明書の中身を見るメニューしか用意されておらず、PCと連携し、利用者を認証する機能がありませんから。
スコンとカードを差し込むICカードリーダーを使わなくてもいいのが利点ではありますが、カードを読み込んでも、できることが限られていては、どうしようもありません。
『平成29年1月よりスマートフォンのリーダライタモードを使い、ICカードリーダライタの代わりにパソコンに接続して公的個人認証サービスを利用することが可能となりました』
と案内されていますが、確かにマイナンバーカードを読み取れるようになったものの、ICカードリーダーと全く同じ、という状況にはまだ至っていません。
証明書の中身を見ても、どうしようもありませんからね。マイナンバーカードを認証手段として使えてこそ、価値があるのですから。
iPhoneユーザーの方は、従来のICカードリーダーがまだ必要です。ICカードリーダーといっても、3,000円程度で売っていますが、買わなくて済むなら、そのほうがいいでしょう。
個人番号を他人に見られてはいけない。だから、持ち出さないし、使わない
マイナンバーカードを発行した当初の広報に、失敗があったのではないでしょうか。
他人に個人番号を見られてはいけない、と伝えてしまったがために、市民は腫れ物に触るように、マイナンバーを扱うようになってしまいました。
個人番号を他人に見られないようにしてください、と政府が伝えてしまうと、マイナンバーカードを外に持ち出さず、家の棚に入れて、厳重に保管しておく人が増えてしまいます。
そんな危ないものなんて、外に持っていけない。そう考えるのが自然です。
仮に、番号そのものが漏洩したところで、他人が情報を引き出せるわけではありません。
名前と番号がセットになっていて、本人と個人番号が結びついても、マイナンバーのデータベースアクセスするには、利用者が設定した暗証番号が必要ですし、カード本体も持っていないといけません。
運転免許証の番号は気軽に他人にメモさせたりしてますが、免許証の番号を知られたところで、データを照会できるのは一般人ではなく警察官です。
政府に個人情報が握られる、という懸念もあるようですが、あちらこちらで個人情報は取り扱われているのが実情で、どのような情報がどのように使われているか、実態は分からないものです。
個人情報を参照された履歴を残してくれると、後から本人が確認できます。マイナポータルでは、そのような機能が搭載されています。
いつ、誰が、何の情報を、何の用途で、どこで取得したのか。例えば、住民票の写しを取るにしても、自分以外の人が取得したならば、その詳細を知りたいと思うものです。
自分の情報がどのように使われているかを後からチェックできれば、そうそう第三者も悪い事はできないはずです。