退職している人でなければ厚生年金は支給されなかった。
働いている人の年金を所得に応じて減額する在職老齢年金制度が早ければ2021年に廃止される、との検討が政府内でなされているようです。
「働くと年金が減らされるんでしょう?」というぐらいで理解している方も多いのではないかと思いますが、受給する年金額と、働いて得る所得の合計額で、年金額を調整するかどうかを判断するものですから、全ての人が一律に年金を減らされるというものでもありません。
60歳代前半の方だと、年金と所得をあわせた額が月28万円を超えると、所得の増加に合わせて年金額が少しづつ減っていき、一定水準を超えると、年金が全額カットされます。
60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法(日本年金機構)
在職老齢年金制度で調整される額は、年金額と所得のマトリクスで決まりますから、所得が多くても、年金額が少なければ、減額は少ないものになります。逆に、所得は少ないが、年金額が多いと、年金が減らされる傾向があります。
本来、厚生年金は、働いている人に支給されないものでした。退職している人が支給対象で、働いている人は、61歳であろうと、66歳であろうと、厚生年金を受け取れなかったのです。これが昭和39年まで続いていました。ちなみに、厚生年金保険法が成立したのが昭和29年ですから、制度ができてから約10年間は、退職者だけが老齢厚生年金を受け取ることができたのです。
その後、昭和40年に、65歳以降の人が在職老齢年金の対象(働きながら厚生年金を受け取れる)になり、昭和44年になると、60歳代前半の人にも在職老齢年金が適用されるようになりました。
支給しないはずの年金を支給するから、「在職老齢年金」と呼ばれているわけです
「働いている人には厚生年金は支給されないもの」という点は筆者も長い間知りませんでした。昭和40年となると、筆者がまだ生まれていない時代でした。
以前は、「収入がある年金受給者の年金額を調整するために在職老齢年金制度があるのだろう」と考えていました。
昭和39年以前の「働いている人には老齢厚生年金を支給しない」というルールだと、厚生年金を受け取り始めると同時にスパッと仕事を辞める選択をする人が多数派になるはずです。
では、なぜ働いている人にも厚生年金を支給するようになったかというと、年金だけだと生活費としては不足するため、何らかの形で収入を得たいという要望があり、在職中でも厚生年金を受給できるように在職老齢年金制度が作られたのが経緯です。
退職者への年金が厚生年金だった。
退職した人が受給対象になる老齢厚生年金でしたが、在職老齢年金制度を廃止するとなれば、もはや「退職」は受給条件ではなくなるわけです。
在職中であっても満額の老齢厚生年金を受け取れる。2021年以降は、これが実現する可能性があります。
働くと年金が減るなら働かないほうがいいだろう、と考えるのは自然なことですし、合理的でもあります。
ただ、高齢者を労働市場から退出させる効果が在職老齢年金制度にはあり、その一方で、若い人が労働市場へ参入しやすくなるという効果も期待できるものだったのではないかとも思えます。
定年制度は合法的に高年齢労働者を解雇する仕組みとして機能していますが、在職老齢年金制度も定年制度と同じような効果を持つ制度なのではないかと。
労働力を入れ替えるという意味では、高齢者の就業意欲を削ぐ在職老齢年金制度にも意味があったのではないでしょうか。
とはいえ、支払ってきた年金保険料を回収したい高齢者からすれば、働いていようがいまいが、年金は減らさずに払って欲しいと思うもの。増やさなくていいから、少なくとも支払った保険料は回収できるようにしてほしいはず。
厚生年金に加入しなかった人は影響を受けない。
在職老齢年金制度は、厚生年金に加入していた人が対象になります。それゆえ、国民年金だけ加入していた人は影響を受けません。
公的年金は国民年金だけで、他の金融資産として株式や不動産などを持っている人は在職老齢年金について気にする必要はないでしょう。
極端に言うと、63歳で年収3,000万円だったとしても、受け取る年金が国民年金(老齢基礎年金)だけならば、年金は満額支給されます。
在職老齢年金制度による影響を受けるのは、過去に会社員だった人です。会社経由で社会保険に加入し、厚生年金保険料を払っていた場合は、年金を受取る段階で在職老齢年金制度の対象になります。
一方、国民年金だけ加入していた自営業の人は影響はありません。
国民年金は別名、基礎年金と言われており、生活の基盤になる年金であるため、どれだけの所得があっても減らされないのです。
一方、厚生年金は所得に比例する年金であるため、所得に応じて減額しても生活への影響は軽微だと考えられています。だから在職老齢年金制度でカットされるのです。
これを書いているのが2019年ですから、2021年まであと3年です。あと数年で退職する人でない限り、もう在職老齢年金について気にする必要はなくなるのかもしれません。
こちらにも興味がありませんか?