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現物支給で給与を支払う 現金じゃなく有給休暇が賃金?

現物給与

賃金を買掛金に変えている

給与は現金で払うのが当然なのですが、中にはちょっと変わった考え方をする人もいて、「賃金を現金ではなく有給休暇で支払う」ことを思いつく人がいるようです。

給与支給日に、封筒で現金を渡す、もしくは指定された金融機関の口座に振り込む。この2パターンのいずれかで給与を支給している会社がほとんどだろうと思います。

有給休暇は、普通の休暇と違って、賃金が伴う休暇です。そのため、毎月の給与を有給休暇中の賃金に振り替えて取り扱えば、現金と休暇を混ぜて給与を支給できるのではないかと考えるようです。

さらに、有給休暇を給与の一部として扱うと、実際に有給休暇を利用するまではキャッシュアウトが発生しないですから、支払いを繰り延べる効果も期待できる。

商売では掛けで取引が行われることがよくありますので、給与を買掛金と同じように支払い時期を遅らせることができるとなると、経営する側にとっては好都合です。もちろん、支払い時期は変わるものの、給与の支払額は変わらないですから、給与が減ることもない。


さて、上記のような考え方に何か問題があるでしょうか。

有給休暇を給与の一部として取り扱う。パッと考えると、さも問題がなさそうに思えますが、法律の知識がなくても何となく違和感を感じるのではないでしょうか。





通貨払いの原則ではなく、全額払いの原則に反する

賃金の支払には5つの原則がありあす。

通貨払い、直接払い、全額払い、毎月払い、一定期日払い、この5つが賃金の支払に関する原則です(労働基準法24条)。

有給休暇を給与の一部にする方法を考えると、まず直接払いは問題なさそうです。現金部分も休暇の部分も本人に渡すのでしょうから、直接払いという点に支障はない。

残りは4つですが、ここから雲行きが怪しくなる。

まず、通貨払いという点を考えると、現金を賃金を伴う休暇に変えているのですから、これは通貨払いではない。「有給休暇には賃金が付くのだから、実質的に通貨と同じじゃないの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、価値がブレる可能性のあるものは給与としては扱えないのです。

なぜ給与を通貨で支払う必要があるか。それは、通貨以外のものは価値が一定しないからです。

有給休暇を給与の一部にしてしまうと、実際に有給休暇を利用するまでは、有給休暇中の賃金は確定しない。休暇を取得する直近3ヶ月間の賃金によって有給休暇中の賃金が決まりますから、給与として休暇が支給された時点と実際に休暇を利用した時点の平均賃金が変わっていた場合、有給休暇中の賃金も変わるということになる。

つまり、有給休暇を給与として支給すると、賃金の支給額が変わってしまう可能性があるわけです。


全額払いの原則からも問題がある。有給休暇を給与の一部とする目的は、支払い時期の繰り延べですから、全額払いの原則に反すると指摘する方が分かりやすい。通貨で支払っていないという指摘もできますが、給与の一部を有給休暇という名目で控除して、現金の支払時期を繰り延べているので、全額払いの原則に反していると指摘する方が容易かもしれません。


毎月払いと一定期日払いの原則には問題がなさそうに思えますが、有給休暇を給与の中に含ませることで、その時点で支払うべき給与を後払いにしているのですから、毎月1回、一定期日に支払っていないと指摘することも可能だと思う。


上記の中では、「賃金の一部を有給休暇の名目で控除し、支払い時期を遅らせている」と指摘するのが最も分かりやすいように思います。有給休暇を使って給与を遅配していると言ってもいいかもしれない。


ゆえに、賃金の一部を有給休暇で支払う方法は、労働基準法24条に違反しており、認められない。


「賃金は現金で」この点を忘れなければ、上記のような問題は起こりませんから、ほとんどの企業や組織では大丈夫だろうと思います。


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