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年金は遅く受け取ったほうが得なのかどうか

年金受給

 

年金を遅く受け取ると増える。早く受け取ると減る

年金を受け取る時期を遅らせると、受給額が増えることはご存知の方もいらっしゃるでしょうけれども、では年金を受け取る時期を遅らせて受給額を増やす方が賢い判断なのかどうか。

年金は増えたほうが嬉しいでしょうから、問答無用で増やす方を選択する人もいそうですが、果たしてその選択でいいのかどうか。

年金の受給時期を遅らせた結果、年金を受け取る前に死亡してしまったらどうなるのか。例えば70歳から年金を受け取ろうとして68歳で死んでしまったら、払ってきた年金保険料はどうなるのか。死亡したら、老齢年金は受け取れませんから。

「死亡したら遺族年金があるだろう」との考えもありますが、遺族年金を受け取れる受給条件を満たさないと、遺族年金は支給されませんから、誰しもが遺族基礎年金や遺族厚生年金を受給できるわけではないのです。

一方で、年金を早く受け取ると、受給額を減額されるから損だ、みたいな話がありますけれども、年金を早く受け取ると本当に損なのかどうか。

遅く受け取れば年金が増額されるから得だ。早いと年金が減らされるから損だ。金融資産は運用期間が長ければ運用益が累積し含み益が増えますから、年金も後から受け取った方が増えるのは当然です。

受け取り時期で年金の受給額が変わるのは金融資産として当然であって、損得で判断するのはあまり馴染まないんですね。

年金が減額されるよりも増額される方が魅力的に感じますから、年金の受給開始時期を遅らせて受給額を増やすという方の情報が多く出てくるのはわかります。受け取る時期を遅らせて年金を増やすという話はネット検索すればたくさん出てきます。しかし、年金を早く受け取るという選択についてはあまり情報が無いのが実情です。

 

60歳から受け取ると、年金は30%減額される

年金を早く受け取る手続きをして、繰り上げ受給で年金が減額されるときの減額率は、1ヵ月繰り上げごとに0.5%減額される計算になっています。ですから5年、60ヶ月繰り上げるとなると、減額率は3割、つまり30%減額された年金が支給されます。

一方で、受け取り時期を遅らせる手続きをして、年金を繰り下げて増額する場合の計算式は、1ヵ月繰り下げごとに年金が0.7%増える計算になります。例えば、65歳から70歳まで、5年つまりは60ヵ月繰り下げると、増額率は42%になります。

年金を5年早く受け取ると30%減額になり、5年繰り下げた時は42%増額になる。つまり、繰り上げるよりも繰り下げた方が受取額が増えるし有利だと人は感じてしまいます。繰り上げて年金が減額されるよりも、繰り下げて年金を増やした方が魅力的に映るように計算式が作られているんですね。

増減の率を同じにするならば、繰り下げて増額するときも1ヵ月あたり0.5%増額する形にして、5年間繰り下げた場合は30%増額とすれば、繰り上げと繰り下げでの率を同じにすることができるのですけれども、繰り下げでの増額の方が年金が増える額が多くなるようになっていて、繰り上げるよりも繰り下げた方がいいとアピールをする効果があります。

複利の効果を考えれば、繰り下げの増額率の方が高くなるのは理解できますが、増減の率を並べて見てしまうと、年金の受給開始年齢を繰り下げたほうが得だと感じる人が多くなるのではと想像します。

 

老齢年金を受け取れないなら遺族年金を受け取れるか

仮に早く亡くなってしまったとしても遺族年金が支給されるから大丈夫だろうと考える方もいらっしゃるでしょうが、遺族年金を受け取れるのかどうかを確認する必要があります。

年金に限りませんけれども公的な給付は、受給する要件にきちんと当てはまらないと支給されませんから、遺族基礎年金や遺族厚生年金も受給要件を満たせないとなるならば、当然それは支給されないわけです。

老齢年金を受け取れず、遺族年金も支給されないとなったら、じゃあ長い間払ってきた年金の保険料はどうなるのかというと、政府が召し上げる結果になります。

国民年金と厚生年金は、払った保険料を老後に受け取る単純な仕組みではなくて、老齢年金だけではなく障害年金と遺族年金、これら3つが合わさって年金制度になっています。


誰しもが歳をとるので、老齢年金は多くの人が受け取りますが、障害年金と遺族年金に関してはすべての人が対象になるわけではありません。

自分から進んで障害者になる人はいませんし、何らかの事故や病気によって障害者となって、障害年金を受け取ることもありますけれども、自分から意図的に障害者になることはまずないでしょう。

ということは、障害年金は年金という名称がついていますけれども、実際は障害保険と言って良いものです。

遺族年金も、年金というよりは死亡保険のような制度であって、本人が死亡したからといって自動的に遺族年金が支給されるのかというとそうではなくて、遺族年金が支給される要件を満たしているならば支給されますし、それを満たしていないならばたとえ年金保険料を払ってきた人であっても遺族年金は支給されません。

遺族基礎年金は配偶者や一定年齢以下の子供がいないと受け取れませんから、独身の方は対象外になりますし、すでに配偶者が亡くなっているとか、子供は成年になっているとなると、遺族基礎年金を受け取れる人はおらず、それは支給されません。

遺族厚生年金は遺族基礎年金よりも条件は緩やかですが、受け取る人がいなければこちらも受給できないものです。受給できる人にも条件がありますし、家族だからといって受給できるとは限りません。

 

何歳まで年金を受け取れば払った保険料を回収できるのか

長生きするほど老齢年金の受取額は多くなり、支払ってきた年金保険料を回収できる可能性が高まります。

国民年金の保険料が1ヵ月16,000円として、それを40年間、つまり480ヶ月加入すると、保険料の総支払い額は7,680,000円になります。

一方で、国民年金の老齢基礎年金を満額で受け取ると年間で780,100円。

仮にこれを60歳から受け取るとすると、1ヵ月あたり0.5%減額されるので、65歳から受け取るところを60歳にすると、受給開始時期を60ヶ月繰り上げる計算になり、年金は30%減額された額となります。

満額で780,100円のところを30%減額すると、546,070円が年間の年金支給額になります。

減額された数字を見ると、やっぱり年金は早く受け取るよりも遅く受け取って増やしたほうがいいんじゃないかと感情的に判断してしまうところですけれども、どうでしょうか。

60歳から年間546,070円の年金を受け取り続けると、そこから14年経った段階で、国民年金の受取額は7644980円になります。支払ってきた保険料は7,680,000円ですから、60歳から受け取り始めて、14年経って74歳になると、支払った国民年金保険料をほぼ全額回収できる計算になります。

この14年が長いのか短いのかは人によって感じ方が変わりますけれども、国民年金保険料を回収するまで最短で74歳まで生きなきゃいけないと考える必要があるわけです。 

年金の受け取り額を計算をするときは、自分自身の寿命が不明で、一体何歳まで生きられるのか分からない。そのため、どの段階で年金を受け取ればいいのかは一概に定まりません。

寿命が短ければ受け取れる老齢年金は少なくなりますし、寿命が長ければ受け取れる老齢年金は多くなります。自分の寿命が分からないので、どんなに皮算用しても限界があります。

なるべく長生きできるならば、確かに老齢年金を遅く受け取っていれば得をするのですけれども、自分自身が何歳まで生きられるのかは誰にもわかりませんし、自分自身にもわからないでしょう。

自分の寿命がわからない前提で、何歳から年金を受け取るかを決めなければいけないわけですから悩んでしまうのは当然です。

 

平均寿命と健康寿命の違い

日本人の平均寿命は、令和2年の段階で男性が81.64歳、女性が87.74歳。これが平均寿命とされています。

平均寿命と似た言葉に健康寿命があり、健康で生きられるのは何歳までなのかというのが健康寿命です。

平均寿命と健康寿命はそれぞれ違う数字で、平均寿命は健康寿命よりも長くなる傾向があります。つまり健康で生きられる年齢よりも平均寿命が長いわけですから、病気や怪我をすることで寝たきりになったり、認知症で普段通りの生活ができなくなったりする期間があるわけです。

2016年のデータでは、男性の平均寿命が80.96歳、女性の平均寿命が87.14歳。一方で、健康寿命は男性が72.14歳、女性の健康寿命は74.79歳。

平均寿命と健康寿命の差は、男性が9年ほど、女性が12年ほどあります。健康ではない状態で9年から12年生きていくとしても、満足に動けない体では年金を多く受け取っても仕方ありませんよね。

健康で生きられる年齢よりもさらに9年なり12年になり生きていかなければいけないというのが統計上のデータなわけです。

男性の平均寿命が82歳だとして健康寿命がそこから−9歳だと考えると、男性が健康に生きられるのは73歳までと考えられます。

女性の平均寿命が88歳だとして、そこから−12歳とすると、女性は76歳までは健康に生きられるのだろうと考えられます。

不健康な状態では年金を受け取ってもまともに使えませんから、人間は健康寿命までが実質的な寿命だろうと考えると、男性は73歳、女性は76歳あたりが寿命なのだろうと。ここまでは生きるのだろうと考えて、年金の受給開始年齢をシュミレーションすると良いのではないでしょうか。

たとえ長生きできたとしても、ベッドの上で寝たきりになって年金を受け取ったところで嬉しくはありませんし、思うようにお金を使うことはできません。

食べ物を食べられなくなっているような状態で年金を受け取ったところでおいしいものは食べられませんよね。ステーキや焼肉を食べるなんてこともできないでしょうし、外出して旅行にも行けませんし。

お金の事だけを考えていると、自分自身の健康が見落とされがちで、健康だからこそお金は使えるのであって、たとえ歳をとってからたくさんの年金を受け取ったところで健康でなければその年金はあまり意味のないものになります。治療費には使えますけれども。

不健康であってもお金は必要ですから年金があるにこしたことはないですが、体が動いて食べたいものも食べられて健康な体があると十分にお金も使えますから、満足できる生活ができます。

健康でなければお金を使えない。ここは大事な点です。


健康なうちに年金を回収できるのか

60歳から年金を受け取り始めると、保険料を回収するまで14年かかり、少なくとも74歳まで生きる必要があります。

65歳から年金を受け取り始めると、10年でおよそ保険料を回収できる計算になりますから、65歳から受け取り始めて75歳で保険料を回収し終えることができます。

60歳から受け取り始めた人は74歳で保険料の回収が終わり、65歳から受け取り始めた人は75歳で回収を終えます。

75歳からさらに長生きすれば、繰り上げ受給して早く年金を受け取り始めた人よりも65歳から受け取り始めた人の方が年金の受取額が多くなります。しかし、先ほど書いた健康寿命について考えると、75歳の段階で健康に生きられている人というのはやはり少なくなっているんじゃないかと。

足や体がまともに動かなくなってしまったら旅行に行けなくなりますし、自分の意思でおいしいものも食べられなくなるでしょうから、75歳以降の年金の受取額が増えると言われても、健康な体を失った本人にとってはほとんど利益は無いのでは。

 

厚生年金は何年で保険料を回収することができるのか

国民年金の保険料を回収するためには、60歳から受け取り始めると14年かかりますから、74歳で払った保険料を年金として回収することができると書きました。

ならば厚生年金は保険料を回収するまでに何年かかるのか。

例えば、月収500,000円の人が厚生年金の保険料を払うと、保険料率は18.3%ですから、毎月91,500円が厚生年金の保険料になります。

91,500円を20年間払った、つまり240ヶ月支払ったとすると、支払った保険料は21,960,000円になります。

20年間、厚生年金の保険料を支払って入っていたとして、65歳から厚生年金を受け取ると、年間で657,720円(平均標準報酬額50万円 × 5.481/1,000 × 被保険者期間の月数)が老齢厚生年金として支給されます。

厚生年金の保険料は実質的に従業員の全額自己負担だと考えると、払った保険料が21,960,000円で、受け取る年金が毎年657,720円だとすると、回収までおよそ33.4年かかります。

実際は厚生年金の保険料は会社と本人が折半で負担するものですから、支払う保険料は21,960,000円の半分となります。その前提ならば、65歳から受け取るとして保険料を回収できるのは、33.4年の半分ですから、およそ16年強になります。

国民年金の保険料を回収するのに14年かかり、厚生年金の保険料を回収するのは16年かかるわけです。

ちなみに厚生年金の場合は、65歳から受け取ると考えていますから、そこから16年ですから81歳まで厚生年金を受け取らなければいけないのですね。

老齢年金だけで保険料を回収しようとすると、健康寿命よりも長生きしなければならず、加入者本人にとってみれば本当にこれは現実的なプランなのかどうか。

年金を受け取る権利は贈与や相続ができませんし、死亡した後、遺族年金を受給する条件を満たさなければ支払った保険料はそこでもう戻ってこなくなります。

年金だけで老後の生活をするとなると、74歳になり81歳になり、健康寿命よりも長く生きなければ払った保険料すら回収できない結果になります。

 

早く年金を受け取って長生きする選択

1つの方法としては、年金を繰り上げ受給して60歳から受け取りつつ長生きすれば良いのではないかと。

受給開始時期を遅らせるのではなく、受給開始時期を繰り上げてまずは60歳から年金を受け取って、そこからなるべく長生きしていく。

60歳から国民年金を受け取ると年間546,070円、1か月あたりだと45,505円。これだけでは生活するには足りませんから、他の金融資産で補填する必要がありますね。 

ここでは国民年金だけで計算していますが、厚生年金や共済年金に入っていればさらに追加で年金は上乗せされるのでしょうけれども、仮に1ヶ月に必要な生活資金が200,000円だとすると、国民年金以外に155,000円分の資金を工面しなければいけません。毎月155,000円が入ってくるような体制を作っておく必要があります。

自分の体を動かして収入を得る選択肢もあるにはあるのですけれども、60歳以降では思うように体も動かないでしょうから、金融資産からの収入で残りの155,000円を補填できるのかどうか。

例えば、70,000,000円分の金融資産を3%で回したとすると、年間で2,100,000円で、そこから20%の税金を払うと年間で1,680,000円。

1ヵ月155,000円必要だとすると、年間1,860,000円が必要ですから1,680,000円だと180,000円足りません。これぐらいならば勤労所得で補填してしまうのも一案ですけれども。

1億円の金融資産を3%で回せば、年間3,000,000円の収入があり、そこから20%の税金を払うと年間で2,400,000円の収入がありますから、これだと1ヵ月あたり200,000円の生活費に充当することができます。国民年金がなくとも、月200,000円ならば最低限の生活はできそうです。

毎月200,000円の生活費を確保するには、1億円の金融資産を老後までに用意しておいて、3%で回していく体制を構築しておかなければいけないとわかります。


年金は死んでしまったら相続できませんし、受給権を贈与できるものでもありません。遺族年金も支給要件を満たさなければ支給されません。一般的な金融資産ならば、税金はかかりますが、他の人に移転することもできます。

年金を受給する権利は贈与や相続ができませんから、この点では他の金融資産に比べると短所になりますね。

年金の受け取り時期を決める良い方法としては、繰り上げて年金を受給して、60歳から受け取り始めて、年金を受け取りながらなるべく長生きするのが加入者にとっては妥当なところではないかと。

60歳から減額されてでも年金を受け取り始めて、そこから保険料の回収を始める。60歳の段階ではまだ体が動くでしょうから、さらに金融資産を積み増していって、盤石な生活基盤を作っていくのが生き残るための選択では。

後から受け取った方が年金が多くなるなどとセコいことを考えていると、年金を受け取る前に死亡してしまったり、払った保険料の大半を回収できずに終わってしまう残念な結果もあり得ますから、早く年金を受け取り始めて、足りない分は他の金融資産を積み上げて補完していくのが賢明ではないかと考えます。

 

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ゴールデンウィークに有給休暇を使うことは可能なのか

GWに年休



4月末から5月初めにかけてはゴールデンウィークで大型連休の時期になります。

祝日は通常の休日と同じで給料は出ない休みになりますけれども、あえてゴールデンウィークの期間に年次有給休暇を充当して使うことができるのかどうか。

祝日として休むと給与が出ない休みになりますけれども、ゴールデンウィークの祝日に年次有給休暇を一緒に使うことができれば給与が付いた状態で休むことができますよね。年次有給休暇の消化も進むので一石二鳥です。 

ゴールデンウィークは旅行代金が高くなるので、その時期に旅行を予定しているならば避けたほうがお得です。高速道路の割引もありませんし、渋滞も発生します。

ゴールデンウィークを避けて休む人へのインセンティブとして、ゴールデンウィークの祝日と同じ日数分だけ特別有給休暇を設けてみると、休む時期をずらすきっかけになりそうです。4月や5月中旬に休みの時期をずらした人を対象に特別有給休暇を付けて行動を変えてもらうわけですね。

多数派と同じ時期に休むのを避けると、道路やお店の混雑を避けられて快適です。

労働基準法では祝日に有給休暇を使うことを禁止していませんから、ゴールデンウィーク中にも有給休暇が使えるのではないかが疑問になるところ。

ゴールデンウィーク期間中に年次有給休暇を使うことができれば、有給の状態でゴールデンウィークを過ごすことができますので、働く人にとっては魅力的です。

他方、使用者にとってみれば、年に5日以上は年次有給休暇を取得させる義務に対応しなければいけないですから(年次有給休暇の取得義務化)、ゴールデンウィーク期間中に集中して有給休暇をとってくれれば、取得義務とされている年5日以上の水準をクリアしやすくなります。

労働者側、使用者側、ゴールデンウィーク期間中に年次有給休暇を使う利点がこの双方にあります。

ならば、ゴールデンウィークに年次有給休暇を使っても問題は無いのかどうか。

 

本来は労働義務のある日、つまりは出勤する日に対して年次有給休暇を充当して、それを休みに変える。これが本来の年次有給休暇の使い方です。

本来の年休の使い方を守るならば、祝日が休みになる職場という前提だとゴールデンウィークの祝日に年次有給休暇を使うことはできないと判断するところです。

ですが、仮にゴールデンウィーク期間中に年次有給休暇を使ったところで、労働者にとっても使用者にとっても不利益がないならば、年休を使ってはいけないと阻止する必要はありませんよね。

ですからゴールデンウィーク期間中の祝日に年次有給休暇を充当するかどうかは会社毎に対応が違います。

祝日に年次有給休暇を使えば、給与ありの状態で休みを取れるのですけれども、もともと休みになっているところに年休を充当してしまうと、2日分の休みがあったところが1日分の休みに減ってしまい、休みの日数が1日少なくなる短所があります。祝日が休みだったのに、年次有給休暇を重ねてしまうと2日分の休みが一度に消化されますので。

休みを1日減らしてでも祝日に年次有給休暇を充当したいならば、それはそれで構いませんけれども、もともと休みになっているものを潰してまで年休を消化するのが望ましいのかどうかは、その会社ごとに協議してルールを決めていく必要があります。

ゴールデンウィークの祝日は法定休日ではありませんから、必ずしも休みにしなければいけない期間でもありません。休みは土曜と日曜だけで、ゴールデンウィークであっても土曜と日曜以外の祝日は通常通りに出勤する。そういう職場があっても構わないのです。祝日は休みではなく週2日の休日だけ、休みは土日で他の日の祝日は考慮しない、そういう職場もあります。

祝日を休みにするかどうかは会社ごとに決めることですし、その祝日に年次有給休暇を使っても良いのかどうかについても会社ごとに決めることです。

ゆえに、ゴールデンウィーク期間中に年次有給休暇を使えるかどうかは会社ごとにそれぞれ個性がある、というのが結論になります。

祝日が休みではなく出勤日になっている職場ならば、ゴールデンウィークに年次有給休暇を使うのも支障ありませんね。一方、祝日を休みにしている職場だったら、祝日に年次有給休暇を使うのを認めるのかどうかは就業規則で決めておかなければいけないでしょうね。

祝日の休みを潰してまで年次有給休暇を充当したとしても、給与は確かに出ますけれども、休みが1日少なくなってしまいますから、なるべく他の出勤日のところに年次有給休暇を充当して使う方が望ましいですが、あえて祝日を年次有給休暇を重ねる利点もありますので、どうするかが労務管理での工夫のしどころです。

 

年次有給休暇の管理にまつわる疑問と正しい対応例
働いてる人にとって年次有給休暇は関心を集めますから、労務管理でも疑問や問題が生じやすいところですよね。労務管理でもトラブルになりやすいのが年次有給休暇の取扱いです。ならば年次有給休暇についてキッチリしている職場にすれば、働いている人たちからの評価も上がっていくでしょうね。

短時間労働者の社会保険の適用が拡大 国民年金第3号被保険者と健康保険の被扶養者が減る

社会保険加入

 

2022年10月から健康保険・厚生年金保険のパートタイマーへの適用範囲が拡大されます。

令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大

2016年10月から短時間労働者への社会保険の適用拡大が始まり、2017年4月に対象が拡大し、2022年10月から対象となる会社が拡がります。

 


社会保険の加入基準 所定労働時間で判断するのか所定労働日数で判断するのか

パートタイマーの人が社会保険に入る基準は、通常の労働者と比べて1週間の所定労働時間が3/4以上、1か月間の所定労働日数が3/4以上であれば、被保険者資格を取得します。

1週間の所定労働時間と1ヶ月間の所定労働日数、2つの条件がありますが、このどちらも満たす必要があるのか、片方だけでいいのか、判断に迷うこともあります。


短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に 係る事務の取扱いについて

上記の文書を読むと、「4分の3基準」について書かれた部分があります。2016年10月1日からこの基準がそれ以前よりも明確化されました。

4分の3基準とは、フルタイムで働く人の日数や時間を基準に、その4分の3に達したら、パートタイムで働く人も社会保険に入るという基準のことです。

「1週間の所定労働時間の4分の3未満である短時間労働者(1週間の所 定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の1週間の所定労働時間 に比し短い者をいう。以下同じ。)又はその1月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の1月間の所定労働日数の4分の3未満である短時間労働者」

これは、所定労働時間、所定労働日数、どちらかの条件が足りないと4分の3基準で社会保険には加入しないとの内容です。

「1週間の所定労働時間及び1月間の所定労働日数が、同一の事業所に使用される通常の労働者の1週間の所定労働時間及び1月間の所定労働日数の4分の3以上(以下「4分の3基準」と いう。)である者」

こちらは、所定労働時間、所定労働日数、どちらの条件も満たした者で、4分の3基準で社会保険に加入する対象者について書かれています。

上記の文書のなかで記載されている内容ですが、所定労働時間と所定労働日数、どちらの条件も満たす必要があるのか、それとも片方だけで足りるのか迷う方もいるかもしれませんが、「及び」と書かれているため、前者の解釈が正しいと分かります。

日本年金機構のウェブサイト(適用事業所と被保険者)では、
「1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上」と記載していますので、「及び(and)」と解釈するのが正しいのだろうと判断します。

例えば、フルタイム勤務の人の1週間の所定労働時間が40時間だとすると、1週間で30時間以上働いてる人だったら社会保険に入る条件を1つ満たしたことになります。

さらに、所定労働日数の3/4以上という基準について、通常の労働者の1ヶ月の所定労働日数が21日だとすると、その3/4以上ですから、月に15日もしくは16日以上働いている方だと社会保険に加入する条件を満たします。週4日勤務だと、これぐらいの所定労働日数になるかと。

所定労働時間と所定労働日数は、「及び」という言葉で条件が設定されているので、両方の条件を満たす必要があると解釈できます。

ですから、労働時間では所定労働時間は3/4以上になっているけれども、所定労働日数では3/4以上になっていなければ社会保険に入る対象にはなりませんし、その逆も然りです。

 

パートタイマーが社会保険に入る基準

短時間労働者、いわゆるパートタイマーの人が社会保険に入るときは、3/4基準だけではなく、それよりも緩和された基準で社会保険に加入します。

パートタイマーが社会保険に加入する基準は5つ。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上(ここは雇用保険と同じですね)
  2. 報酬月額が88,000円以上(88,000円は基本給だけで計算するのか、それとも手当を含むのかが問題になります)
  3. 2ヶ月を超えて継続して使用される(3ヶ月以上雇用される見込みがあれば条件を満たします)
  4. 学生ではないこと(夜間学校や定時制の学校に通っている方は「学生ではない」という扱いになりますので、社会保険に加入できます)
  5. 特定適用事業所に使用されている。特定適用事業所というのは従業員数が一定以上に達している事業者のことを意味します

2の報酬月額の条件は「月収88,000円以上」と表現されることがありますけれども、この88,000円には基本給の部分と手当が含まれます。時間給だけで88,000円以上ではないのがポイントです。

ただし、手当と言っても全ての手当てが計算に含まれるわけではなくて、皆勤手当、通勤手当、家族手当、この3つは含めず、さらに、法定時間外労働の割増賃金や休日労働の割増賃金、深夜労働の割増賃金もこの88,000円の中には含まれません。

間違いやすい例としては、基本給だけで88,000以上かどうかを判定してしまうときじゃないかと。諸手当を含めずに基本給だけを積算して、月収88,000円以上になってるかな、と判断して社会保険に入るか入らないかを判断する。

88,000円に含まれる手当は、最低賃金の対象となる賃金で示された基準で判断されています。

なお、社会保険に加入する基準を判定するときは、時間外手当や皆勤手当、通勤手当といったものは含めずに考えるのですけれども、毎年7月に手続きする算定基礎届で記入する報酬月額にはそれらの手当も含めて書かなければいけないので、同じ報酬月額でも含める手当が変わるのが特徴です。統一してくれるとありがたいんですけどね。

似たような数字なのに、一方では手当を含めず、もう一方では手当を含む、という形になって混乱しやすいところです。 


1年以上の雇用見込みから2ヶ月超の雇用見込みに加入条件が緩和

2022年9月以前は、同一の事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること、という条件がありました。2022年10月からは、2ヶ月を超えて使用されるかどうかという基準に緩和されます。

「2月以内の期間を定めて使用され、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの」だと社会保険への加入はしません。つまり、2ヶ月を超えて雇われると見込まれるならば、社会保険に入る条件を1つ満たしていると考えるのですね。

雇用契約が更新される可能性があれば採用時点から社会保険に入りますし、同じような雇用契約で2ヶ月を超えて働いた人がいる実績があれば、この場合も採用時点から社会保険に入ります。確実に2ヶ月以内で契約が終了する場合は例外になるわけですね。

ちなみに、雇用保険の加入条件は31日以上の雇用見込みですから、社会保険が労働保険である雇用保険に近づいているなと感じるところです。月額賃金の条件は付いているものの、それを除けば雇用保険の適用条件とほぼ同じですよね。
 


企業規模は従業員全員の数ではなく厚生年金に加入している被保険者数で判定する

短時間労働者が社会保険に加入するには、企業規模の要件もあります。常時500人を超える厚生年金保険の被保険者がいる会社では社会保険の適用拡大になっていたのですけれども、も2022年10月からは、その人数が常時100人を超える企業が対象になるので、ここも加入基準が緩和されています。

ちなみに、ここでの「常時」とは、「12ヶ月のうち6ヶ月以上100人を超えているかどうか」を意味しています。
短時間労働者に対する健康保険 ・厚生年金保険の適用拡大 Q&A集(令和4年 10 月施行分) の問8に記載あり。

ここで誤解しやすいのは、100人という数字は従業員全員で判断するのではなく、厚生年金に加入している被保険者で判断するという点。働いている人全員を集めて、その人数で判断するわけではないんですね。細かいところですけれども、従業員全員と厚生年金の被保険者では、その両者の数字はおそらく違うものになるはず。中には一致する会社もあるでしょうけれども。

「会社の従業員全員で100人超かどうかで判断するのかな」と思ってしまうのですが、従業員全員の数ではなく、「厚生年金保険に加入している被保険者数」が100人超かどうかで判断します。本店や支店など分かれている場合は、全てのお店を合算して被保険者数を計算します。

「法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する全ての適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者の総数」ですから、チェーン店の飲食店や小売店だと、全店舗の合計人数で上記の被保険者数の条件にあてはまるかどうかを判断します。各店舗ごとの被保険者数ではないので注意。

つまり、フルタイム勤務の人、さらにフルタイムに近い時間数で働くパートタイマーの人(3/4基準に該当して社会保険に加入している)、こういった方が厚生年金に加入しているでしょうから、この人達の人数で100人を超えているかどうかでもって社会保険の適用拡大がされるかどうかの基準となっています。 社会保険に入っていないパートの方や学生は含めないのですね。「従業員数100人超」と表現すると誤解されやすいところです。

例えば、どこかの会社で、フルタイム勤務で厚生年金に入っている人が60人で、社会保険に入っていないパートタイマーの人が300人だとすると、合計では360人の従業員がいますが、企業規模の要件を判断するときは、厚生年金保険の被保険者は60人ですので、100人超の条件には該当しません。ただし、労使合意をして、必要な手続きをすれば、任意特定適用事業所になり、この会社でもパートタイマーの人を社会保険に入れることが可能です。

別の例として、パートタイム労働者300人のうち80人は会社で社会保険に入っているとすると、フルタイムで社会保険に入る人が60人、パートで社会保険に入っている人が80人になり、140人ですから100人超の基準を満たします。この場合は適用事業所になり、短時間労働者が社会保険に入る事業所となります。

被保険者数で100人超となると、チェーンの飲食店や小売店のような大規模な事業所は適用事業所になる傾向がありますが、1店舗だけのお店や会社だと被保険者数が100人を超える事業所になるには相応の規模感が必要ですよね。

いずれは学生以外の会社員は全員が社会保険に入っていく方向になると考えています。健康保険の被扶養者になるのは学生だけで、国民年金の3号被保険者は廃止され1号被保険者と2号被保険者に集約されていく。社会保険料をよりたくさん集めるなら、この方向で制度を変更するでしょうからね。


日本年金機構のパンフレット(配偶者の扶養の範囲内でお勤めのみなさまへ)では、「従業員数」という文言が使われており、被保険者数なのか従業員全員の合計数なのか混乱してしまいます。従業員数と言う文言を使ってしまうと、その会社で働く人たち全員がその中に含まれるんじゃないかと誤解するところ。

こちらのパンフレット(従業員数500人以下の事業主のみなさまへ)では、従業員数は「フルタイムの従業員数に加えて週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数」この2つを合計したものが従業員数であると書いています。これならば従業員数の定義が分かります。 

さらに、令和6年2023年の10月からは常時50人を超える企業が社会保険の適用拡大の対象になります。

いずれはごく小規模な事業所、例えば5人未満しか従業員がいないようなところを除いて、それ以外の事業所では働く人たちすべてが社会保険に加入する、というような体制が出来上がるんじゃないかと予想しています。 

 

社会保険と雇用保険の加入条件が近づいていく

徐々に企業規模の人数要件が緩和されて、500人から100人、100人から50人と下げられてきていますから、最終的には雇用保険と同程度ぐらいの基準で社会保険に加入するようになるのではないかと。

おそらく最終地点としては、雇用保険と社会保険がひとつになって、被保険者資格を取得するときは、雇用保険の被保険者資格と社会保険の被保険者資格の資格取得届がひとつの書面にまとまって手続きするようになるんじゃないかと。

2022年の時点では、労働保険と社会保険はそれぞれ別々で被保険者資格を取得する手続きが必要ですけれども、1回の手続きで雇用保険と健康保険、さらに厚生年金の被保険者資格をまとめて取得する。それが将来における形なんじゃないかと。

既に健康保険と厚生年金の被保険者資格取得手続きは1つにまとめられていますし、 そこに雇用保険を追加して3つの制度の被保険者資格を同時に取得する手続きにする。そういう考えがあっても不思議ではありません。
 
被保険者の資格を証明する書面はマイナンバーカードになるでしょうし。すでに年金手帳は廃止が決まり、健康保険証もいずれはマイナンバーカードに一本化されるかと。雇用保険の被保険者証は小さい紙で紛失しやすいため、マイナンバーカードに集約してくれる方が助かります。

雇用保険に加入する基準に社会保険の加入基準が徐々に近づいていってると感じるのは、雇用保険の被保険者取得基準と比べると伝わるでしょう。

雇用保険に加入する基準は2つあります。

  1. 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる
  2. 1週間の所定労働時間が20時間以上

31日以上雇用されるという条件と1週間で20時間以上の所定労働時間、この2つの条件を満たせば雇用保険に加入します。学生を除けば、ほぼ全員がこの2つの基準を満たして雇用保険に入ってるのではないかと。 

社会保険の加入基準はまだここまでには至っていませんけれども、1週20時間以上という基準はすでに雇用保険と同一です。雇用される見込みの期間も2022年10月からは2ヶ月を超えるなら対象に、という条件ですから、雇用保険よりは若干ハードルは高いものの1年から2ヶ月超に期間が短縮されているので、雇用保険の加入基準にここでも近づいていますよね。

報酬月額が88,000円以上という基準は社会保険独自のものですけれども、週20時間以上で働いていれば1か月4週間と考えて、月に80時間ぐらい働くでしょうから、時間給が1,000円だとすると88,000円には若干届かないくらいの水準です。

週25時間で働いた場合、1ヶ月で100時間ですから、時間給1,000円と考えると、報酬月額が10万円になり、短時間労働者の社会保険の加入基準に当てはまります。

職場によっては働く時間を増やして社会保険に入れていくところもあれば、働く時間を減らして社会保険に入らないようにする職場もあります。

会社経由で社会保険に入った方が有利なのか、会社では社会保険に入らず、国民年金の第3号被保険者で、健康保険の被扶養者という状態を維持した方がいいのか。人によって判断が分かれるところです。

社会保険に加入する人が増えると、国民年金の第3号被保険者が減り、健康保険の被扶養者も減ります。会社で社会保険に入ると2号被保険者になり、健康保険では被保険者になりますから。

2022年の10月から、厚生年金に入っている人が100人を超える従業員がいる職場は、社会保険の適用拡大の対象になっていきますから、それぐらいの人数を抱えている会社では社会保険の適用拡大に対する準備をしていく必要があります。

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休日の土曜日に出勤したら割増賃金は付くのか?

土曜日に休日出勤すれば休日労働になるか

休日に出勤したら、休日労働の割増賃金が付くだろう。そう考えている方もいらっしゃるのでは。本来なら休みになる日ですし、そんな日に出勤して働いたわけですから、何らかのインセンティブが付いてもよさそうなものです。 

例えば、月曜日から金曜日まで週5日で出勤して働く職場であるとして、1日あたりの所定労働時間は8時間。そういう職場で働く人がいるとしましょう。ちなみに土曜日と日曜日は毎週休みになると考えます。

月曜から金曜まで働けば、週40時間になりますから、この時点で法定労働時間いっぱいまで働いたことになります。

この条件で土曜日に休日出勤したとするとどんなことが起こるか。

考えられるのは、週40時間を超えて働いているので、法定時間外労働に対する割増賃金が必要ではないかという点。さらに、休日に出勤しているので、それに対する割増賃金や手当が必要なのかどうか。この2点が問題となります。

休日に出勤したら必ず割増賃金や休日手当が付くのかどうか

まず大事な点として、「休日手当が付く休日出勤」と「休日手当が付かない休日出勤」があります。同じ休日出勤でも扱いが変わるのが労務管理ですので、ここは事業所ごとに雇用契約や就業規則がどう決められているかによって判断していく必要があります。

休日労働の割増賃金は、法定休日に出勤すると付くものです(労働基準法37条1項)。中には「休日手当」という名称を用いている事業所もあるのではないかと。なお、ここでの法定休日とは、労働基準法35条1項で定義されているものです。

では、土曜日は法定休日なのかどうか。これは事業所ごとに違いがあります。

日曜日に休みが取れている状況で、土曜日に休日出勤したときは割増賃金を付けるところがある一方で、土曜日に出勤しても休日労働の割増賃金の対象にはならないところもあります。

25%以上の割増賃金は、1週間に1日の法定休日に労働したときに支給するものですから、法定休日に出勤したとなれば、休日労働の割増賃金は必要になります。

ならば、今回の例で、土曜日に出勤したとしたら、その土曜日は法定休日なのかどうかが考えどころです。

土曜日と日曜日が毎週休みになっている職場で、何らかの事情で土曜日に出勤することになった。この場合、土曜日は休日ですから、その日に出勤したなら、「世間的には」休日出勤になり、休日労働と解釈されます。しかし、休日労働の割増賃金が付くのかどうかはまた別の問題です。

事業所によっては、どの休日であったとしても、その日に出勤した場合は割増賃金を付ける。そういうところもあるでしょう。土日が休みのところで、土曜日に出勤し、日曜日は普段通りに休みが取れたという状況であったとしても、土曜に休日出勤したことに対して割増賃金や休日手当を付けている事業所もあるでしょう。

法定休日かどうかを区別せずに、休日に出勤したら全て休日労働と考えて、割増賃金や休日手当を支給する。そのように就業規則や賃金規程で決めている。これは事業所の任意で決めていいところですから、問題のない対応です。 

日曜日に休みが取れているなら、土曜日に休日出勤したとしても、この日は休日労働にはならないのですね、法律上は。なぜならば、この場合の土曜日は「法定外休日」と扱われるからです。

休日労働の割増賃金を付ける必要がある休日出勤というのは、1週間に1日も休みが取れずに働いたときに発生するものです。1週間の7日間、すべて出勤して働いたときは、7日のうちの1日分が休日労働になり、それに対して休日労働の割増賃金が必要になるわけです。

なお、休日を振り替えて、他の日に休みを取れるようにしたなら、必ずしも休日労働の割増点検が必要になるわけではありませんけれども、振り替えて出勤しないという前提であるならば、先ほど書いたようになります。

今回の例だと、土曜日は出勤して休日労働になっていますけれども、日曜日は休みが取れていますから、法定休日はちゃんと取れています。となると、土曜日の休日は法定外の休日、つまり事業所と労働者との間で決めた「自主的な休み」であって、雇用契約書や就業規則で定めてるのかもしれませんけども、法律で求められている休日と別のものです。

ゆえに、休日の土曜日に出勤した場合に割増賃金や休日手当を出すのかどうかは会社によって違います。就業規則や賃金規定、あとは雇用契約書の文言にどのように記載されているかによって判断します。

事前に約束した休日は必ず取れている。休日に出勤することは全くない。そういう職場であるならば、今回のような問題について考える必要はありません。

土曜日に休日出勤すると法定時間外労働の残業になる

休日労働の割増賃金や休日手当について考えるだけでなく、追加で土曜日に出勤すると、その分だけ1週間あたりの労働時間が増えますから、法定時間外労働が発生してるのではないか、という点についても考える必要があります。

普段は1日に8時間勤務するところ、例えば、土曜日の休日出勤では4時間だけ仕事をすることになったとします。

月曜から金曜までの5日間で週40時間。土曜日の4時間を追加すると週44時間。40時間を超えた4時間が法定時間外労働になるわけです。

ここは法定時間外労働の割増賃金が必要になり、25%以上の割増賃金が必要になります。

ここで、「じゃあ、休日労働の割増賃金を支払った場合も、さらに法定時間外労働の割増賃金である25%以上の上乗せが必要になるのか」と疑問を抱くところです。

もし、土曜日を法定休日労働とみなして35%以上の休日労働割増賃金を支払っているならば、その中にはすでに法定時間外労働の割増賃金が含まれていますから、そこに25%以上を割増賃金を上乗せする必要はありません。

なぜこういう扱いになるかというと、休日労働は既にそれ自体が法定時間外労働として扱われているからです。休日労働は法定時間外労働であり残業と同じなんですね。

そのため、35%以上の休日労働割増賃金を支払っているならば、法定時間外労働の割増賃金は不要になります。

しかし、土曜日の休日労働に対して割増賃金や休日手当といったものを特に支払っていないならば、法定時間外労働の割増賃金を別で支払う必要があります。

休日労働として扱っていないならば法定時間外労働の割増賃金(25%以上の割増)で。休日労働として扱っているなら休日労働割増賃金(35%以上の割増)で。選択肢はこの2つです。

法定外休日に出勤した場合にどういう対応をするか。この点についても就業規則や賃金規程、雇用契約書でどう定めているかによって判断が変わります。

土曜日の休日を他の日に振り替えたら割増賃金は不要になる?

土曜日の休みがなくなったため、その代わりに別の日に休みを設けることで振替休日とした。休日を振り替えて取れるようにしたのだから、法定時間外労働の割増賃金も不要になるんじゃないか、と考えるところです。

しかし、振替休日を別の日に取っても、4時間分の法定時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。週44時間労働になった時点で法定時間外労働が確定しますから、休日を振り替えて調整することはできなくなります。月曜日から金曜日まで1日8時間勤務だと週40時間になりますから、そこに土曜日の4時間が加わると週44時間ですね。

土曜日に4時間出勤したので、例えば、翌週の月曜日に4時間休んでもらっても法定労働時間の週40時間はすでに超えているため割増賃金は必要になります。

もし、振替休日を利用するなら、労働時間が週44時間になる前に対処する必要があります。土曜日に出勤する可能性が高まったら、例えば、その代わりにあらかじめ例えば水曜日を休みにしておいて、労働時間が週40時間以内になるように勤務シフトを事前に調整しておきます。先に休みを取っておいて労働時間に余裕を作る方法ですね。金曜日になってから、明日の土曜日に出勤して、となると逃げ道がなくなりますので、休みの土曜日に出勤する可能性が出てきたら早めに勤務シフトを調整しましょう。

普段の時間の半分、4時間だけ土曜日に休日出勤したとなったら、その補填として振替休日を取るとなると、4時間分だけ時間単位で休日を取るのが良いのか。それとも丸1日休んでそれを振替休日とするのがいいのか。ここは判断が分かれますね。

4時間だけ休むという中途半端な状態を本人は望んでいるのかどうか。休むなら丸1日休んだ方が気が楽ですし、中途半端に4時間だけ出勤しなきゃいけないというのも手間です。通勤時間もなんだか無駄な感じですし。

じゃあ丸1日休めばいいんじゃないかとなりますけれども、それだと4時間分の労働時間が不足するので、それに連動して給与が変わるのかどうか。

めったに休日出勤しない職場だったら、4時間分の振替休日と時間単位の年次有給休暇を組み合わせる、そういうトリッキーな対応方法もあるかと思いますが、そこまでして対応することなのかどうか。

中途半端に4時間だけ出勤するより、丸1日休んでもらった方が本人も納得するのでは。休みが増えたと思えば悪くない提案です。

他の対処法としては、土曜日に4時間だけ出勤している日であっても、普段と同じように8時間出勤したものとみなして給与を払うのもアリです。休みを潰して土曜日に出勤してもらったわけですから、4時間だけ働いているとしても普段と同じ給料にしておく。実質的に休日出勤の手当てが含まれてるようなものですね。休日出勤のインセンティブと考えるのもいいのでは。

使用者、労働者ともに、お互いが分かりやすく納得しやすい結論を模索する。労務管理の面白いところです。

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振替休日は同一週内で取らないといけない?

振替休日は同一週内、どの日からどの日までを意味するの?

振替休日の運用ルールとして、「同一週内に振替休日を取得する」というルールを設けている事業所もありますね。

振替休日を取るときは、なるべく早い段階で取れるようにするために、同一週内という基準を作って、振替休日を取るようにしているのでしょう。

振替休日をいつ取得するかについては決まりがなく、同一週内といっても、どこからどこまでを同一週内と考えているのか。ここを就業規則で定義していないといけないのですね。

仮に、土曜日が休みの事業所があって、その土曜日に休日出勤したとして、振替休日を後日取るとしたら、同一週内というのはどこからどこまでなのか。

土曜日に休日出勤したわけですから、その同一週内なら、月曜日から日曜日までを指すのか、それとも土曜日を起算日にして翌週の金曜日までを同一週内と考えるのか。さらに、日曜始まりの考えでいくと、日曜日から土曜日までを同一週内とするのか。

言葉では同じでも定義のしかたで意味が変わりますよね。

土曜日に休日出勤して同一週内に振替休日を取るなら、すでに後ろのスケジュールに振り替える余地がなくなって、振替休日を取れないんじゃないか、という話にもなります。月曜始まりで日曜終わりと仮定した場合、振替休日は残った日曜日にしか取れませんから。

同一週内を基準にするならば、どの曜日を起算日にするのか。こういうことを考えなければいけなくなってしまうわけです。振替出勤した日を起算日にする例が多いかと思いますけれども。

振替休日の休日は法定休日なのか法定外休日(所定休日)なのか

使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとされています。この休日は法定休日です。一方で法定休日ではない休日もあります。1週間に2日の休日があった場合、そのうちの1日は法定休日ですけれども、もう1日は法定休日ではなく法定外の休日と位置づけられるようになっています。どちらも休日という点では同じですけれども、人事労務管理では法定休日と法定外休日は少し意味が変わってきます。

ちなみに日曜日が法定休日になるとは決まっておらず、曜日と法定休日は関係のないものです。日曜日が法定休日になることもありますし、土曜日や水曜日など別の曜日が法定休日 になることもあります。

振替休日と言った場合、その休日は法定休日なのか、それとも法定外の休日(所定休日と表現することもある)なのか。この違いによっても振替休日の効果が変わってきます。

労働基準法で定められた休日労働の割増賃金が付くのは法定休日です。法定休日に出勤して働くと休日労働の割増賃金が付きます。一方で法定外の休日なり所定休日に出勤して働いた場合は労働基準法で定められた休日割増賃金は付きません。

会社によっては就業規則や雇用契約、もしくは賃金規定でもって、法定休日に限らず、勤務シフトで決めた休日に出勤して働いた場合は割増賃金や休日手当を付ける、と定めて運用しているところもあるでしょう。労働基準法では法定休日に出勤すると休日労働の割増賃金を付けるところまで定めていますが、それ以外の休日に出勤したときに手当を付けるかどうかは会社ごとに任意で取り扱いを決めることができます。 

先に振替休日を取って後から休日出勤すると厄介な問題を回避できる

先に振替出勤してから、後日に振替休日を取る、という順序にしてしまうと、上記のようにどのタイミングで振替休日を取るのか、という問題を解決しなければいけなくなります。さらに同一週内の定義も決めなければいけませんし。

しかし、先に振替休日を取ってから、後日に振替で出勤すると順番を逆にすれば、振替出勤をする段階ではすでに振替休日を取得済みですから、どのタイミングで振替休日を取るかを考える必要がありません。

休日の振替は、あらかじめ振替の休日を指定することが必要であり、その振替日は労働日となるため、休日労働にはなりません。これが原則ですが、振り替えた出勤日と休日、どちらを先後にしても構いません。

例えば、4月20日が土曜日だとして、その日に振替出勤するなら、4月19日までに振替休日を取っておけば、4月20日に休日出勤した段階ですでに振り替え処理は終わっている状態になります。

振替休日というと、先に出勤して後から休日を振り替えて取る、というのが一般的なのでしょう。しかし、それを逆転させて、先に休日を取ってもらって、後から出勤してもらうというようにすれば、振替休日をどのタイミングで取るだとか、同一週内の起算日はいつになるのかとか、そういう複雑なことを考える必要がなくなります。

先に休みを取っているので従業員は安心ですし、会社も振替休日のスケジュールで悩むこともありませんよね。

職場の人たち全員が理解できるような分かりやすい労務管理の仕組みにする。ここが工夫のしどころなんですね。複雑さよりも簡潔さを優先する方が良策かと。

 

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