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年金は遅く受け取ったほうが得なのかどうか

年金受給

 

年金を遅く受け取ると増える。早く受け取ると減る

年金を受け取る時期を遅らせると、受給額が増えることはご存知の方もいらっしゃるでしょうけれども、では年金を受け取る時期を遅らせて受給額を増やす方が賢い判断なのかどうか。

年金は増えたほうが嬉しいでしょうから、問答無用で増やす方を選択する人もいそうですが、果たしてその選択でいいのかどうか。

年金の受給時期を遅らせた結果、年金を受け取る前に死亡してしまったらどうなるのか。例えば70歳から年金を受け取ろうとして68歳で死んでしまったら、払ってきた年金保険料はどうなるのか。死亡したら、老齢年金は受け取れませんから。

「死亡したら遺族年金があるだろう」との考えもありますが、遺族年金を受け取れる受給条件を満たさないと、遺族年金は支給されませんから、誰しもが遺族基礎年金や遺族厚生年金を受給できるわけではないのです。

一方で、年金を早く受け取ると、受給額を減額されるから損だ、みたいな話がありますけれども、年金を早く受け取ると本当に損なのかどうか。

遅く受け取れば年金が増額されるから得だ。早いと年金が減らされるから損だ。金融資産は運用期間が長ければ運用益が累積し含み益が増えますから、年金も後から受け取った方が増えるのは当然です。

受け取り時期で年金の受給額が変わるのは金融資産として当然であって、損得で判断するのはあまり馴染まないんですね。

年金が減額されるよりも増額される方が魅力的に感じますから、年金の受給開始時期を遅らせて受給額を増やすという方の情報が多く出てくるのはわかります。受け取る時期を遅らせて年金を増やすという話はネット検索すればたくさん出てきます。しかし、年金を早く受け取るという選択についてはあまり情報が無いのが実情です。

 

60歳から受け取ると、年金は30%減額される

年金を早く受け取る手続きをして、繰り上げ受給で年金が減額されるときの減額率は、1ヵ月繰り上げごとに0.5%減額される計算になっています。ですから5年、60ヶ月繰り上げるとなると、減額率は3割、つまり30%減額された年金が支給されます。

一方で、受け取り時期を遅らせる手続きをして、年金を繰り下げて増額する場合の計算式は、1ヵ月繰り下げごとに年金が0.7%増える計算になります。例えば、65歳から70歳まで、5年つまりは60ヵ月繰り下げると、増額率は42%になります。

年金を5年早く受け取ると30%減額になり、5年繰り下げた時は42%増額になる。つまり、繰り上げるよりも繰り下げた方が受取額が増えるし有利だと人は感じてしまいます。繰り上げて年金が減額されるよりも、繰り下げて年金を増やした方が魅力的に映るように計算式が作られているんですね。

増減の率を同じにするならば、繰り下げて増額するときも1ヵ月あたり0.5%増額する形にして、5年間繰り下げた場合は30%増額とすれば、繰り上げと繰り下げでの率を同じにすることができるのですけれども、繰り下げでの増額の方が年金が増える額が多くなるようになっていて、繰り上げるよりも繰り下げた方がいいとアピールをする効果があります。

複利の効果を考えれば、繰り下げの増額率の方が高くなるのは理解できますが、増減の率を並べて見てしまうと、年金の受給開始年齢を繰り下げたほうが得だと感じる人が多くなるのではと想像します。

 

老齢年金を受け取れないなら遺族年金を受け取れるか

仮に早く亡くなってしまったとしても遺族年金が支給されるから大丈夫だろうと考える方もいらっしゃるでしょうが、遺族年金を受け取れるのかどうかを確認する必要があります。

年金に限りませんけれども公的な給付は、受給する要件にきちんと当てはまらないと支給されませんから、遺族基礎年金や遺族厚生年金も受給要件を満たせないとなるならば、当然それは支給されないわけです。

老齢年金を受け取れず、遺族年金も支給されないとなったら、じゃあ長い間払ってきた年金の保険料はどうなるのかというと、政府が召し上げる結果になります。

国民年金と厚生年金は、払った保険料を老後に受け取る単純な仕組みではなくて、老齢年金だけではなく障害年金と遺族年金、これら3つが合わさって年金制度になっています。


誰しもが歳をとるので、老齢年金は多くの人が受け取りますが、障害年金と遺族年金に関してはすべての人が対象になるわけではありません。

自分から進んで障害者になる人はいませんし、何らかの事故や病気によって障害者となって、障害年金を受け取ることもありますけれども、自分から意図的に障害者になることはまずないでしょう。

ということは、障害年金は年金という名称がついていますけれども、実際は障害保険と言って良いものです。

遺族年金も、年金というよりは死亡保険のような制度であって、本人が死亡したからといって自動的に遺族年金が支給されるのかというとそうではなくて、遺族年金が支給される要件を満たしているならば支給されますし、それを満たしていないならばたとえ年金保険料を払ってきた人であっても遺族年金は支給されません。

遺族基礎年金は配偶者や一定年齢以下の子供がいないと受け取れませんから、独身の方は対象外になりますし、すでに配偶者が亡くなっているとか、子供は成年になっているとなると、遺族基礎年金を受け取れる人はおらず、それは支給されません。

遺族厚生年金は遺族基礎年金よりも条件は緩やかですが、受け取る人がいなければこちらも受給できないものです。受給できる人にも条件がありますし、家族だからといって受給できるとは限りません。

 

何歳まで年金を受け取れば払った保険料を回収できるのか

長生きするほど老齢年金の受取額は多くなり、支払ってきた年金保険料を回収できる可能性が高まります。

国民年金の保険料が1ヵ月16,000円として、それを40年間、つまり480ヶ月加入すると、保険料の総支払い額は7,680,000円になります。

一方で、国民年金の老齢基礎年金を満額で受け取ると年間で780,100円。

仮にこれを60歳から受け取るとすると、1ヵ月あたり0.5%減額されるので、65歳から受け取るところを60歳にすると、受給開始時期を60ヶ月繰り上げる計算になり、年金は30%減額された額となります。

満額で780,100円のところを30%減額すると、546,070円が年間の年金支給額になります。

減額された数字を見ると、やっぱり年金は早く受け取るよりも遅く受け取って増やしたほうがいいんじゃないかと感情的に判断してしまうところですけれども、どうでしょうか。

60歳から年間546,070円の年金を受け取り続けると、そこから14年経った段階で、国民年金の受取額は7644980円になります。支払ってきた保険料は7,680,000円ですから、60歳から受け取り始めて、14年経って74歳になると、支払った国民年金保険料をほぼ全額回収できる計算になります。

この14年が長いのか短いのかは人によって感じ方が変わりますけれども、国民年金保険料を回収するまで最短で74歳まで生きなきゃいけないと考える必要があるわけです。 

年金の受け取り額を計算をするときは、自分自身の寿命が不明で、一体何歳まで生きられるのか分からない。そのため、どの段階で年金を受け取ればいいのかは一概に定まりません。

寿命が短ければ受け取れる老齢年金は少なくなりますし、寿命が長ければ受け取れる老齢年金は多くなります。自分の寿命が分からないので、どんなに皮算用しても限界があります。

なるべく長生きできるならば、確かに老齢年金を遅く受け取っていれば得をするのですけれども、自分自身が何歳まで生きられるのかは誰にもわかりませんし、自分自身にもわからないでしょう。

自分の寿命がわからない前提で、何歳から年金を受け取るかを決めなければいけないわけですから悩んでしまうのは当然です。

 

平均寿命と健康寿命の違い

日本人の平均寿命は、令和2年の段階で男性が81.64歳、女性が87.74歳。これが平均寿命とされています。

平均寿命と似た言葉に健康寿命があり、健康で生きられるのは何歳までなのかというのが健康寿命です。

平均寿命と健康寿命はそれぞれ違う数字で、平均寿命は健康寿命よりも長くなる傾向があります。つまり健康で生きられる年齢よりも平均寿命が長いわけですから、病気や怪我をすることで寝たきりになったり、認知症で普段通りの生活ができなくなったりする期間があるわけです。

2016年のデータでは、男性の平均寿命が80.96歳、女性の平均寿命が87.14歳。一方で、健康寿命は男性が72.14歳、女性の健康寿命は74.79歳。

平均寿命と健康寿命の差は、男性が9年ほど、女性が12年ほどあります。健康ではない状態で9年から12年生きていくとしても、満足に動けない体では年金を多く受け取っても仕方ありませんよね。

健康で生きられる年齢よりもさらに9年なり12年になり生きていかなければいけないというのが統計上のデータなわけです。

男性の平均寿命が82歳だとして健康寿命がそこから−9歳だと考えると、男性が健康に生きられるのは73歳までと考えられます。

女性の平均寿命が88歳だとして、そこから−12歳とすると、女性は76歳までは健康に生きられるのだろうと考えられます。

不健康な状態では年金を受け取ってもまともに使えませんから、人間は健康寿命までが実質的な寿命だろうと考えると、男性は73歳、女性は76歳あたりが寿命なのだろうと。ここまでは生きるのだろうと考えて、年金の受給開始年齢をシュミレーションすると良いのではないでしょうか。

たとえ長生きできたとしても、ベッドの上で寝たきりになって年金を受け取ったところで嬉しくはありませんし、思うようにお金を使うことはできません。

食べ物を食べられなくなっているような状態で年金を受け取ったところでおいしいものは食べられませんよね。ステーキや焼肉を食べるなんてこともできないでしょうし、外出して旅行にも行けませんし。

お金の事だけを考えていると、自分自身の健康が見落とされがちで、健康だからこそお金は使えるのであって、たとえ歳をとってからたくさんの年金を受け取ったところで健康でなければその年金はあまり意味のないものになります。治療費には使えますけれども。

不健康であってもお金は必要ですから年金があるにこしたことはないですが、体が動いて食べたいものも食べられて健康な体があると十分にお金も使えますから、満足できる生活ができます。

健康でなければお金を使えない。ここは大事な点です。


健康なうちに年金を回収できるのか

60歳から年金を受け取り始めると、保険料を回収するまで14年かかり、少なくとも74歳まで生きる必要があります。

65歳から年金を受け取り始めると、10年でおよそ保険料を回収できる計算になりますから、65歳から受け取り始めて75歳で保険料を回収し終えることができます。

60歳から受け取り始めた人は74歳で保険料の回収が終わり、65歳から受け取り始めた人は75歳で回収を終えます。

75歳からさらに長生きすれば、繰り上げ受給して早く年金を受け取り始めた人よりも65歳から受け取り始めた人の方が年金の受取額が多くなります。しかし、先ほど書いた健康寿命について考えると、75歳の段階で健康に生きられている人というのはやはり少なくなっているんじゃないかと。

足や体がまともに動かなくなってしまったら旅行に行けなくなりますし、自分の意思でおいしいものも食べられなくなるでしょうから、75歳以降の年金の受取額が増えると言われても、健康な体を失った本人にとってはほとんど利益は無いのでは。

 

厚生年金は何年で保険料を回収することができるのか

国民年金の保険料を回収するためには、60歳から受け取り始めると14年かかりますから、74歳で払った保険料を年金として回収することができると書きました。

ならば厚生年金は保険料を回収するまでに何年かかるのか。

例えば、月収500,000円の人が厚生年金の保険料を払うと、保険料率は18.3%ですから、毎月91,500円が厚生年金の保険料になります。

91,500円を20年間払った、つまり240ヶ月支払ったとすると、支払った保険料は21,960,000円になります。

20年間、厚生年金の保険料を支払って入っていたとして、65歳から厚生年金を受け取ると、年間で657,720円(平均標準報酬額50万円 × 5.481/1,000 × 被保険者期間の月数)が老齢厚生年金として支給されます。

厚生年金の保険料は実質的に従業員の全額自己負担だと考えると、払った保険料が21,960,000円で、受け取る年金が毎年657,720円だとすると、回収までおよそ33.4年かかります。

実際は厚生年金の保険料は会社と本人が折半で負担するものですから、支払う保険料は21,960,000円の半分となります。その前提ならば、65歳から受け取るとして保険料を回収できるのは、33.4年の半分ですから、およそ16年強になります。

国民年金の保険料を回収するのに14年かかり、厚生年金の保険料を回収するのは16年かかるわけです。

ちなみに厚生年金の場合は、65歳から受け取ると考えていますから、そこから16年ですから81歳まで厚生年金を受け取らなければいけないのですね。

老齢年金だけで保険料を回収しようとすると、健康寿命よりも長生きしなければならず、加入者本人にとってみれば本当にこれは現実的なプランなのかどうか。

年金を受け取る権利は贈与や相続ができませんし、死亡した後、遺族年金を受給する条件を満たさなければ支払った保険料はそこでもう戻ってこなくなります。

年金だけで老後の生活をするとなると、74歳になり81歳になり、健康寿命よりも長く生きなければ払った保険料すら回収できない結果になります。

 

早く年金を受け取って長生きする選択

1つの方法としては、年金を繰り上げ受給して60歳から受け取りつつ長生きすれば良いのではないかと。

受給開始時期を遅らせるのではなく、受給開始時期を繰り上げてまずは60歳から年金を受け取って、そこからなるべく長生きしていく。

60歳から国民年金を受け取ると年間546,070円、1か月あたりだと45,505円。これだけでは生活するには足りませんから、他の金融資産で補填する必要がありますね。 

ここでは国民年金だけで計算していますが、厚生年金や共済年金に入っていればさらに追加で年金は上乗せされるのでしょうけれども、仮に1ヶ月に必要な生活資金が200,000円だとすると、国民年金以外に155,000円分の資金を工面しなければいけません。毎月155,000円が入ってくるような体制を作っておく必要があります。

自分の体を動かして収入を得る選択肢もあるにはあるのですけれども、60歳以降では思うように体も動かないでしょうから、金融資産からの収入で残りの155,000円を補填できるのかどうか。

例えば、70,000,000円分の金融資産を3%で回したとすると、年間で2,100,000円で、そこから20%の税金を払うと年間で1,680,000円。

1ヵ月155,000円必要だとすると、年間1,860,000円が必要ですから1,680,000円だと180,000円足りません。これぐらいならば勤労所得で補填してしまうのも一案ですけれども。

1億円の金融資産を3%で回せば、年間3,000,000円の収入があり、そこから20%の税金を払うと年間で2,400,000円の収入がありますから、これだと1ヵ月あたり200,000円の生活費に充当することができます。国民年金がなくとも、月200,000円ならば最低限の生活はできそうです。

毎月200,000円の生活費を確保するには、1億円の金融資産を老後までに用意しておいて、3%で回していく体制を構築しておかなければいけないとわかります。


年金は死んでしまったら相続できませんし、受給権を贈与できるものでもありません。遺族年金も支給要件を満たさなければ支給されません。一般的な金融資産ならば、税金はかかりますが、他の人に移転することもできます。

年金を受給する権利は贈与や相続ができませんから、この点では他の金融資産に比べると短所になりますね。

年金の受け取り時期を決める良い方法としては、繰り上げて年金を受給して、60歳から受け取り始めて、年金を受け取りながらなるべく長生きするのが加入者にとっては妥当なところではないかと。

60歳から減額されてでも年金を受け取り始めて、そこから保険料の回収を始める。60歳の段階ではまだ体が動くでしょうから、さらに金融資産を積み増していって、盤石な生活基盤を作っていくのが生き残るための選択では。

後から受け取った方が年金が多くなるなどとセコいことを考えていると、年金を受け取る前に死亡してしまったり、払った保険料の大半を回収できずに終わってしまう残念な結果もあり得ますから、早く年金を受け取り始めて、足りない分は他の金融資産を積み上げて補完していくのが賢明ではないかと考えます。

 

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