数字や文書は信用されやすい
「前年比32%増加」、「200%のスピードアップ」、「4年前の7倍に上昇」などと数字を示して話しを展開されると、人はその話を信じやすい。また、書籍や契約書のように文書化されたものを提示されると、この場合も人は信じやすく、また説得されやすい。就業規則や雇用契約書、判例や通達、保険の約款、秘密保持契約書など文書の例は多々あります。
ただ、数字や文書が使われているから正しいと判断するのは早計です。数字で示されているから正しいだろうと判断したり、文書として残っているから正しいと判断するのはちょっと単純な気がします。
数字だから正しいと判断するわけではなく、その内容が正しいかどうかで判断するはず。また、文書だから正しいと判断するわけではなく、その内容が正しいかどうかで判断するはずです。
勤務時間を記録するときは、勤務帳簿やタイムカード、さらには磁気ストライプカードやICカード、生体認証システムを利用するかと思いますが、これらの手段を用いて記録されたからといって、その記録を正しいと思い込むのも上記と同じようにおかしな感じがします。
勤務記録を構成する主な要素は、始業時刻と終業時刻です。もし、タイムカードに記録された労働時間を見て、始業が9:57で、終業が15:04であるとしたら、この記録は正しい記録なのかどうか。本当に9時57分に仕事を始めて、本当に15時4分に仕事を終えたのかどうか。それはカードを見るだけでは検証できません。
勤務帳簿やタイムカードが正しい記録とは限らない
記録されているから正しいという思い込みや、文書に表示されているから正しいという思い込みを持ってしまうと、キチンと事実を把握できないときがあります。
もし、始業の打刻をする前から仕事を開始し、所定の時刻になったら打刻するようにしていたらどうなるか。例えば、所定の始業時刻が午前10時であり、実際に仕事を始めた時刻が9時23分だったとして、さらに始業の打刻は9時57分と考える。この場合、記録上は9時57分に仕事を始めたことになっているけれども、実際には9時23分から仕事を開始しています。
タイムカードの記録だけを見て判断すると、9時57分に業務を開始していると思ってしまうのではないでしょうか。本当は9時57分ではなく9時23分なのに、事実と記録が相違してしまうわけです。
人間の手でカードを打刻機に入れているわけですから、その挿入時間をずらせば、始業時間を偽ることもできてしまいます。
一方、終業も始業と同様です。終業の打刻をした後も仕事を続け、実際の終業時刻は記録された時刻よりも後になっていることも。例えば、所定の終業時刻が15時であるとして、実際に仕事を終えた時間が15時42分、終業の打刻をしたのが15時4分と考えてみましょう。この場合、記録上は15時4分に仕事が終わっているように見せかけることができます。しかし、実際には15時42分に仕事を終えています。
記録された終業時刻だけで第三者が判断すると、「あぁ、15時4分に仕事を終えたのですね」と思ってしまうのではないでしょうか。本当の終業時刻は15時42分なのに、記録では15分4分になっている。ここでも事実と記録が相違していますね。
勤務時刻を把握する方法はタイムカードだけでなく、パソコンのログオンやログオフで判断することもあれば、個人の日記やメモ書きを参考にすることもあれば、出勤や退勤時点で送信するメールのタイムスタンプを参考にすることもあるかもしれません。さらに、職場に設置されたカメラで録画した映像のタイムスタンプから、従業員の労働時間を推測するのも1つの方法です。
スマホのカメラでタイムカードなり、実際の労働時間がわかるようなものを撮影しておき、それを個人的な記録代わりにすることもできます。
労務管理では、勤務記録を把握するとき、「これを確認すれば間違いない」という情報はありません。どんな記録であっても人為的に改ざんや変更をしようと思えばできるでしょうし、意図的に始業や終業の打刻時刻をズラすことで、実際の時刻と記録上の時刻を操作することもできる。
情報に接するときは、常に疑い続ける必要はないでしょうが、初めから正しいとは思い込まずに接したいところです。