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■雇用保険料は変動的、社会保険料は固定的。なぜ?◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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毎月計算しない社会保険料。
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■同じ公的保険なのに扱いが違う。
雇用保険と社会保険(健康保険、厚生年金。以下、社会保険と表記する場所では健康保険と厚生年金を総称する)はお互いに公的保険という枠に含まれるのは周知の通りですが、保険料の回収の仕組みには違いがあります。
労災保険料や雇用保険料(以下、単に「労働保険」と表記することがある)は概算納付と確定納付で処理しています。一方、社会保険料には概算と確定という仕組みではなく、1年間の保険料を毎年決定して、その保険料で毎月回収していく仕組みです。つまり、労働保険は一括納付で、社会保険料は月額で分割納付というわけ。
また、保険料の額を決める段階でも違いがあります。雇用保険は毎月の給与額によって決まります。一方、健康保険と厚生年金の保険料は、給与額が少々変動しても、基本は一定です。つまり、雇用保険料は毎月の賃金に連動するが、社会保険料は改定作業をしない限り毎月の賃金に連動しない。
同じ公的保険であるものの、保険料の計算や課金方法が違っているわけです。
なぜ雇用保険は毎月の賃金に連動させているのに、社会保険料は連動させないのか。
なぜ雇用保険は一括納付が可能なのに、社会保険料は一括納付できないのか。ちなみに、一括納付ができると、会社にキャッシュを滞留させる(いずれはキャッシュアウトするのですが)ことが可能ですので、会社に有利です。いわゆる「繰り延べ効果」ですね。支払いは早いよりも遅い方がいいですので。
雇用保険も社会保険も保険料率が決まっているのだから、毎月の賃金に連動させて課金すれば良いのにと思ったりするのですが、どうしてそうしないのでしょうか。病欠とか休職中も社会保険料だけは発生するので何とも不合理ですからね。
■変動的でもいい理由。固定的でないといけない理由。
「社会保険料はなぜ固定されているのか。雇用保険のように毎月計算すればいいじゃないか」と思う人は少なくないはず。私も同じように思います。
毎月の賃金に保険料率を掛けて保険料を計算するだけなのですから、雇用保険も社会保険料も同じように扱えばいいわけです。にもかかわらず、社会保険料は毎年7月に定時改定したらそのまま維持される(随時改定はあくまで例外)。
なぜなのでしょうね。
保険料の納付も同様ですが、労働保険のように概算納付と確定納付の仕組みを採用すれば、毎月納付する作業は不要ですし、労働保険と社会保険料の納付を一緒にできますので便利です。また、キャッシュの滞留量も多くなりますので、この点も有利です。
労働保険の更新と社会保険料の改定時期が一緒になったのですから、保険料の納付方式も一緒にすればいいのにと思うんですけどね。
なぜ雇用保険料が毎月の賃金に連動しているのかと考えると、財政が黒字化しやすいのでキャッシュインを固定化する必要がないという理由もあります。雇用保険には、好景気のときに財政積立が積み上がり、不景気のときに一気に積立を減少させるという特徴があります。最近ですと、雇用保険の基本手当(失業手当のこと)の支払いが多いですので、積立は枯渇しています。しかし、2005年から2006年にかけては確か3兆円程度の積立があったと記憶しています。労働市場が超売り手市場だった頃ですね。今の時点から考えると「あれは夢だったのかな、、」と思えるほどの市場環境でした。
また、雇用保険からキャッシュアウトするのは、主に被保険者が失業するときか企業に助成金を支給するときです(教育訓練給付などもあるが、自己負担部分が多いですので、利用するインセンティブがあまり大きくない)。
助成金の支給条件は限定的ですし手続きも煩雑にしています。また、好んで失業する人はさほど多くないでしょう。それゆえ、キャッシュが出ていくイベントが発生しにくいので、財政的に困ることがあまりないわけです。また、不景気だと財源が枯渇するけれども、景気が回復すると雇用保険の財源は急回復する特徴もあるので、雇用保険は少々保険料収入が変動しても財政的には困らないのです。
それゆえ、固定的に保険料を回収せずに、毎月の賃金に連動させているのですね。
一方で、社会保険は状況が違います。
年金の支払いは2ヶ月に1回必ず発生しますし、健康保険の保険支払いも高頻度です(風邪とか転けて怪我した程度でも保険が使えますからね)。つまり、健康保険も厚生年金も頻繁にキャッシュアウトする仕組みになっているわけです。
後期高齢者医療制度や在職老齢年金でキャッシュアウトを減らそうという試みはあるものの、ゼロにすることはできませんからね。
ちなみに、介護保険も恒常的に支払いが発生する制度ですから、健康保険や厚生年金と同じです。介護保険料も健康保険や厚生年金の保険料と一緒に抱き合わせて回収しているのはそのためです。
また節約のインセンティブの点でも考察可能です。
雇用保険料は数千円程度なので、節約するインセンティブが低い。そのため、毎月の賃金に連動させてしまってもよい。
一方、社会保険料は健康保険と厚生年金を合わせると数万円ですから、節約するインセンティブが高い。そのため、毎月の賃金に連動させていると、保険料の計算基礎に含まれない手当などを利用して、それらの費目に賃金を退避させ、社会保険料を減らそうと試みる企業が出てくるわけです。
それゆえ、社会保険料は毎月の賃金に連動させずに、固定的に回収しているのです。なるべく節約させないようにするという意図も含まれているでしょうね。
■より多くのキャッシュを求めるならば金額を固定化する。
雇用保険も健康保険も厚生年金も、それぞれに保険料が設定されているのですから、毎月の賃金に合わせて計算するのが本来は正しいのです。仕組み的にも可能です。
しかし、現実には、雇用保険は実際の賃金で決めて、社会保険料は実際の賃金ではなく標準報酬月額という数字で決めている。一時的に給与が変動しても、社会保険料はすぐに変更されませんよね。標準報酬月額をもう一度決定するという作業を経ないと、社会保険料は変わらない仕組みになっていますから。
恒常的に支払いが発生する制度では固定的に費用を回収し、偶発的に支払いが発生する制度では変動的に費用を回収すると考えていいでしょう。
ちなみに、法人税にも中間納付と確定納付があって、労働保険と仕組みが似ています。労働保険の場合は全額を概算納付して、一方で、法人税の場合は半分だけという違いがありますが、一括納付という点は同じです。
国の収入は法人税だけではないし、国債で資金を調達することもできるので、法人税も労働保険と同じようにさほど切迫して回収しないといけないものではないのでしょうね。
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