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自転車フードデリバリー 労災保険へ加入するメリットは?

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自転車でフードデリバリー(Uber EatsやDiDi Foodなど)に携わっている人を対象に、労災保険へ特別加入ができるよう厚生労働省で検討されています。労災保険に加入すると、保険料を払わなければいけないから反対、と考える方もいらっしゃるでしょうが、特別加入する労災保険とはどういったものなのか。

強制的に労災保険に加入させられて、保険料も強引に徴収されるんじゃないか、と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、会社で労災保険に入っているのと特別加入で労災保険に入るとでは違いがあります。

 

 

労災保険に特別加入するかどうかは本人が任意で決める

会社員だと、雇用保険、社会保険に半ば強制的に加入させられ、毎月の保険料は給与から天引きされます。従業員本人が加入するかどうかを決める余地はなく、適用条件に当てはまれば、被保険者資格を取得し、制度に加入ます。そして、給与から保険料を天引きされます。

ちなみに、労災保険料は会社が負担していますので、給与明細には労災保険料の項目がありません。事業所が労災保険の適用事業所になっていれば、そこで働く従業員は全員が労災保険に加入している扱いになります。学生を含むパートタイマーも労災保険に加入しているんですね。

公的保険には、給与天引きで保険料を取られるイメージがあるからか、自転車で料理を運ぶフードデリバリーの人も労災保険の特別加入の対象になるとなると、何か強制的に加入させられて保険料を取られちゃうんじゃないか、と思ってしまうのかもしれません。

加入したくない人は加入しなくてもいいですし、保険料を払って労災保険に入りたい人は入ることができます。これが労災保険の特別加入制度なのです。

 

 

特別加入する労災保険料(給付基礎日額)も本人が決める

労災保険料、自分で決めていいんです。特別加入の方は。少なく払ってもいいですし、多く払ってもいいですし、個人事業主にはこのような自由があるんですね。

ちなみに、会社員として働いている方だと、労災保険料を会社が負担します。ですから、本人の給与からは控除されません。一方、特別加入で労災保険に入った方は、保険料は加入する個人事業主が支払います。

保険料は社会保険料控除の対象になりますから、支払った保険料は所得から控除されます。

社会保険料控除(国税庁)

保険会社から生命保険や損害保険を買っていると、その全額が経費として扱われるとは限らず、公的な保険との違いがあります。

特別加入した際の労災保険料は、個人貨物輸送事業者が労災保険へ特別加入すると、1000分の12に保険料率が設定されているので、自転車で料理をデリバリーする方が労災保険に加入する際も、おそらく1000分の12になるのではないかと予想します。

労災保険へ特別加入するとき、自分自身で給付基礎日額を選択できるようになっています。この給付基礎日額に連動して年間の労災保険料が決まるようになって、給付基礎日額を低くすると保険料を低くできますし、給付基礎日額を高くすると年間保険料も高くなります。

給付基礎日額(厚生労働省)

休業補償の計算方法を教えてください。|厚生労働省

最低が3,500円で、最高が25,000円。最も低い給付基礎日額を選択すると、保険料率を12/1,000として、年間保険料は15,324円1ヶ月あたり1,277円です。

どうですか。これぐらいなら労災保険に入ってもいいと思えるのでは。

 

 

 

 

特別加入の労災保険料をたくさん払えば、休業補償給付が多くなる

給付基礎日額は、労災保険料を決めるだけでなく、労災保険の給付額を決める際にも使います。

例えば、怪我で仕事を休んでいる時に支給される休業補償給付という制度がありますが、その給付額は給付基礎日額の80%だったとすると、給付基礎日額10,000円に設定していた場合は8,000円。保険料を安くするために給付基礎日額5,000円に設定していたとすると、休業補償給付は3,500円になります。

所得補償保険として機能するのが労災保険の特徴です。業務中の怪我で病院に行った時に使える保険ではありますが、業務を原因とする病気や怪我を理由に仕事を休むときの所得を補償してくれるものも労災保険の給付として用意されています。

支払った労災保険料は、社会保険料控除として所得から控除されるのですから、所得税への対策として保険料を多く払うのも1つの方法です。年間で所得税がどれぐらいで発生するかを見越して、給付基礎日額を決めていくといいでしょう。

一方、特別加入の労災保険料が所得控除されるといっても、支払った保険料は現金としてその分だけ減っていくわけですから、いくらでも払っていけばいいというわけでもないでしょう。支払う税金がどれぐらいあって、どれぐらいの保険料が現金として出ていっても大丈夫なのか、キャッシュフローを赤字にしてまで払うものではありませんから。

加入者が掛け金を選べる。これは労災保険に特別加入する利点の1つです。会社員として労災保険が適用されるときは、会社側で賃金総額をまとめて、その賃金総額をベースにして労災保険料を払っています。さらに、従業員本人は労災保険料を負担することはなく、会社がそれを全額負担しています。

ですから、会社経由で労災保険に入っている状態の人は、自分自身で掛け金や保険料を調整することができませんし、毎月の賃金に連動して半ば自動的に給付基礎日額が決まり、労災保険料も決まります。

 

 

 

自動車は業務利用の自動車保険があるが、自転車保険はレジャーを想定している

フードデリバリーで料理を運ぶというと、まず自転車で運んでいる人がいて、二輪車つまりはバイクで運ぶ人がいます。さらには貨物軽自動車運送事業で登録している四輪車で料理を運ぶ人もいます。つまり、料理を運ぶ手段は3つあります。さらに、徒歩で配達するという実験も始まっていますから、それを含めると4つになりますね。

二輪車と四輪車、これら自動車には、自賠責保険だけでなく自動車保険、つまりは任意保険も用意されていて、車両の用途を業務に切り替えれば、業務使用の際の事故でも自動車保険で対応することができます。日常利用で契約していても、月間で10日程度なら業務利用が可能な自動車保険もありますね。ここは加入している自動車保険の約款やしおりで確認が必要です。

一方、自転車は、自転車保険は販売されていますけれども、日常やレジャーで自転車を使うと想定して設計されている保険商品がほとんどです。そのため業務で自転車を使っていて、事故を起こすと、そういう保険だと保険金が出ません。

業務で自転車を使っている場合も保険の対象にできる商品もあるようですが、あまり認知されておらず、加入している人もほとんどいないのではないかと。そもそも自転車保険そのものにまだ加入していない方(無保険で乗っている人)もいらっしゃるはず。都道府県ごとに自転車保険が条例で義務化されていますから、自転車の保険には加入する必要があります。

 

www.growthwk.com

 

フードデリバリー会社が独自に傷害補償制度を用意して、配達している本人だけでなく、対人・対物賠償も保険でカバーできるよう準備しているところもあります。
日本の Uber Eats 配達パートナーに対し、配達中の対人・対物賠償責任保険および、配達パートナーへの傷害補償制度を提供いたします。

業務用途の自転車保険が乏しいところ、こういう保険はあった方が良いですね。配達する本人の補償は労災保険で対応できますが、対人・対物補償の部分をカバーしているかどうかがキモです。

 

 

労災保険は自分自身の怪我や病気のためのもの

労災保険の特別加入は、相手に対する補償がありません(ここ重要です)。加入者本人に対して保険を使えますが、事故の相手方は対象外です。ですから、相手がいる事故を起こしたら、労災保険に特別加入するだけでなく、フードデリバリー会社が加入する保険も合わせて使います。

自分自身が業務中に怪我をして病院に行って治療を受けると、自己負担なしで労災保険を利用できます。さらに、怪我によって仕事がしばらくできなくなったら、休業補償給付を受給できます(3日の待機日が必要)。これが労災保険に特別加入する主な効果です。治療と休業補償が労災保険の2大給付と言っていいぐらい。

自転車に乗っていて、転倒して怪我をしたとか、骨折したとなれば、労災保険で治療ができます。労災保険を利用した場合は、健康保険と違って、自己負担なしで治療を受けられるのが特徴です。労災保険料(貨物輸送事業は1.2%)は健康保険料(約10%)よりもずっと安いのですが、現物給付は労災保険の方が充実しています。

自転車を運転していて歩行者とぶつかって、歩行者を怪我させた。じゃあこの場合に、労災保険から給付が出るのかというと、自転車に乗っていた自分自身が怪我をしたならば、その部分に関しては労災保険は使えるのですけれども、相手、つまり歩行者が怪我をした部分に関しては、労災保険の対象外になります。

自分自身の守りを固める(身体的かつ経済的な面で、さらに税務的な面でも)ために使うのが労災保険の特別加入制度なのですね。

 

 

 

 


貨物運送事業では通勤災害に労災保険は適用されない

通勤時の災害も労災保険の対象になるのが当たり前のように思ってしまいますが、貨物運送業者は、乗り物に乗った時点で、もうすでに業務を開始してるような状態になり、どこからどこまでが通勤か分からないので、通勤災害の際は労災保険が適用されないようになっています。

通勤がないのに通勤災害と表現するのは変ですが。

フードデリバリーでも、自転車に乗ってスマホを操作したらすぐに業務開始ですから、配達しているか通勤中なのか分からないので、通勤という概念を挟み込む余地もないのかもしれませんが、通勤時に怪我をした場合は労災保険を使えません。

例えば、電車に乗って配達を開始する場所まで移動している間は業務外となります。

 

 

どこの医療機関でも労災保険を使えるのか

業務中に怪我をしたら、労災保険が使える病院で治療を受けなければいけないんじゃないか、と思うところですけれども、労災指定病院は身近にたくさんありますし、仮に労災指定病院以外のところで治療を受けたとしても、後日、支払った医療費は労災保険から給付されますから、その点は心配する必要がありません。

外出先で、自分の身近な地元ではないところで怪我をしてしまって、病院に行ったとしても、心配する必要は無いのです。

 


労災保険に特別加入する利点は4つある

まず1つ目の利点。

配達中に怪我をした時は自己負担なしで病院で治療できますし、3日の待機期間はありますけども、4日目以降も休業すると休業補償給付を受けることができますから、配達できない期間に所得補償を受けられますので、悪くない制度です。

2つ目は、労災保険料が所得控除される点。

自分自身が負った業務上のケガや病気だけが労災保険の対象になるのですけれども、その保険料は社会保険料控除と同じ扱いで所得から控除できますし、支払う税金を減らす効果もあります。うまく使えば、業務中の怪我や病気に対して保護をつけるだけでなく、節税の手段にもなります。

3つ目は、自分で特別加入の労災保険料を決められるという点。

給付基礎日額を自分自身で決めることができるため、保険料を自分でコントロールすることができます。この点も利点として大きいところです。

4つ目は、特別加入するかどうかは任意で決めていいという点です。

それらを考えると反対する理由は特にないのではないかと。

加入は任意で、保険料は自分でコントロールでき、怪我をしたら自己負担がなく治療を受けられる。休業したら休業補償給付による所得補償もある。

厚生労働省のウェブサイトに、特別加入する人向けにパンフレットが用意されています。それらを見ると、違いがあるように見えますけれども、色やイラストがちょっと変わってるだけで、パンフレットの中の本文はどれもほぼ同じ内容になっています。

労災保険への特別加入(厚生労働省)

 


自転車の事故は出会い頭が全体の約半分を占める

自転車関連交通事故の状況(警察庁)

2020年中に自転車関連の事故は、67,673件あり、そのうち出会い頭の事故が32,695件、つまり自転車の事故の約半分が出会い頭で起こっていることになります。出会い頭の事故に次いで多いのが左折時や右折時の事故です。転倒による事故は意外と少なく、2020年の転倒事故は2,270件。

転けて怪我をする人よりも出会い頭でぶつかる自転車のほうが多いのですね。

自転車事故のうち、事故の相手方が自動車(四輪車)になっている件数は54,319件ですから、自転車事故全体の約80%が自転車と自動車が当事者となる事故となっています。

出会い頭で、自転車と自動車が接触する。そういう事故が多いというわけです。信号が無い交差点で安全確認が不十分だと、出会い頭でぶつかりそうになりますよね。

自転車と自動車がぶつかれば、怪我をするのは自転車です。自転車にぶつかられて自動車の運転者が怪我をする可能性は低いでしょうから。

業務で自転車を運転している本人が事故で怪我をすれば、労災保険を使って治療を受けるなり休業補償を受けることになります。自動車を運転している人が加入している自動車保険からの補償もあるでしょうけれども、自身が特別加入している労災保険もあれば、自転車を運転する際の安心感が変わってきます。無保険の自動車に衝突される可能性もありますから油断できませんね。

また、単独事故でも、業務中なら労災保険を使えますから、この点も安心ですね。

 

 


労災保険に特別加入している貨物取扱事業者は約1.4%

一人親方等の区分で労災保険に特別加入している人の数は、令和元年度、2019年は626,963人。そのうち個人タクシー・個人貨物運送業者は9,081人でした。フードデリバリーは個人貨物運送業者に含まれますから、一人親方での労災保険へ特別加入している人全体からすると、約1.4%になっています。

最も多いのが建設業の一人親方で、613,996人です(全体の97.9%)。一人親方で労災保険に特別加入しているのは建設業で個人事業主をやっている方が大半です。

自転車でフードデリバリーを行っている人たちが加入するとなると、個人貨物運送業者の中に入ってくるでしょうが、構成割合は約1.4%ですから、自転車で貨物を運送する方が入ってきても、少数派であることは変わりなさそうです。

労災保険に加入するメリットが大きいのは、業務中に自分自身が病気や怪我をする可能性の高い業種です。建設業は、ご存知のように、現場作業中に怪我をしやすい業種ですし、積極的に労災保険に加入するインセンティブがあります。また、取引相手に対して労災保険に入っているかどうかも業務を発注する条件になっていることがあり、建設業では1人親方身分で労災保険に特別加入する人が多いのでしょう。

フードデリバリーサービスでも、一人親方の身分で労災保険に特別加入していることを条件にして、配達業務ができるようになるような規制が今後実施される可能性もあります。自転車での事故がニュースで報道されると、労災保険への加入を条件としたらいいのではないかという話が出てくるのではないでしょうか。

加入する人にとっては利益のある制度ですし、毎月の保険料をいくらにするかは自分自身でコントロールできます。支払った保険料は社会保険料控除として扱われますから、仮に加入することが条件になったとしても、フードデリバリー業務をされる方にとっては、反対するほどの負担にはならないのでは。

交通事故だけでなく、労災保険では自損事故や階段を踏み外して転倒し怪我をした。そういうものでも、業務中であるならば、労災保険を使えます。自転車に乗っていて、車道と歩道との間にあるゼブラゾーンに車輪がとられて転倒した。自転車のタイヤは細いですから、ちょっとした段差で転けることもあります。

しばらく自転車に乗れなくなったら、3日の待機期間はありますが、休業補償給付を受給できます。

相手のいない自分自身の単独事故による怪我もあるわけですから、その場合は相手の自動車保険を使うなんてことはできませんから、自分で治療することになります。そういう場合に、労災保険に特別加入していて良かったと感じるでしょうね。

配達者本人に対する補償は労災保険で対応して、対人・対物の賠償はフードデリバリー会社が用意する保険で対応する。こういう役割分担も考えられます。

対人・対物に特化すれば、少ない保険料で保障を厚くできますから、良いのではないかと。

 

 

労災保険無しで健康保険を使えばいいのでは?

怪我をしても、業務外のアクシデントということにして、3割負担で健康保険を使ってしまおう。こういうのもまぁ確かにフードデリバリーなら可能なのでしょうけれども、健康保険と違い、労災保険なら3割負担はありません。

支払う保険料を減らしたいならば、給付基礎日額を最も低い3,500円に設定しておけば、年間保険料は保険料率1000分の12として、年間の保険料は15,324円です。1ヶ月あたりの保険料は1,000円ちょっとで済むわけです。何度も書いていますが、この保険料は社会保険料控除として所得から控除できます。

労災保険に特別加入して、節税も兼ねたいならば、給付基礎日額を高い水準16,000円とか24,000円といった水準に設定して、支払う保険料を多くすることもできます。逆に、保険料を少なめにして、労災保険を使いたい方は、給付基礎日額を低くして、保険料を抑えるような利用方法もあるわけです。加入者が給付基礎日額を選択できるのが特別加入の良いところですね。これもシツコク書いてますけど。

業務中に怪我をしたときに病院を利用するだけだったら、給付基礎日額はいくらでも構いません。3,500円に設定しようと、25,000円に設定しようと、療養給付の内容は変わりませんから。

なお、休業した場合に給付される休業補償給付は、給付基礎日額に連動しているため、たくさん保険料を払っていると休業した際の給付額も多くなります。

月に1,000円ちょっとで、自己負担なしで病院を利用でき、休業時の補償もあり、保険料は所得から控除されるのですから、給付基礎日額3,500円で労災保険に特別加入しておくのもいいのでは。

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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