「戸籍証明書」とは何か
アルバイトとして高校生を採用するときには、戸籍証明書を事業所に備え付ける必要がありますよね。これは、労働基準法57条1項に書かれているルールです。
ただ、条文には「戸籍証明書」という文言が用いられており、現実には戸籍証明書という書類はありまんせん。市役所などの役場で発行できるのは、戸籍証明書ではなく、戸籍謄本(現在では全部事項証明書という名称を使っている)や戸籍抄本(現在では個人事項証明書という名称を使っている)です。
となると、戸籍証明書とは何なのかが疑問を抱くところです。
素直に考えると、戸籍証明書がないならば、戸籍謄本か戸籍抄本を備え付ければいいのだろうと判断するはず。確かに、戸籍謄本や戸籍抄本は戸籍を証明する書類ですから、戸籍証明書として使えます。それゆえ、労働基準法57条1項の戸籍証明書としても使えます。
現実にも、「戸籍証明書」というと、戸籍謄本や戸籍抄本を思い浮かべる人もいるかも知れない。実際に高校生に戸籍抄本を出してもらっている会社もあるかもしれない。
では、戸籍謄本や戸籍抄本のような公文書を備え付けるべきなのか。それとも、もっと身近な身分証明書で足りるのか。
公文書(住民票記載事項証明書)である必要はない
実務では、そこまで公的な証明書でもって戸籍情報を把握することは不要です。おそらく、高校生を採用するときは、学生証のコピーを備え付けているのではないでしょうか。
私の経験でも、高校生の頃は学生証のコピーを出していました。出していたというよりも、学生証を持って行って会社や事業所でコピーしていましたね。顔写真が貼りつけられ、学校名や名前、生年月日、年齢が記載された面を複写するわけです。余談ですけれども、学生証は、顔写真を貼った部分に、凹凸の形が残る印(エンボス http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%82%B9)を押して、正規の証明書であることを担保しているんですね。
労働基準法57条1項は、年齢を確認するのが目的です。労働基準法では高校生を年少者として取り扱う必要があるので、何らかの方法で本人の年齢を確認する必要があります。通常の労働者とは違って、年少者は22時以降は勤務できませんし、休日労働もできないので、キチンと年齢を把握して、相応の取り扱いをしないといけない。
年齢の確認には、学生証以外にも、免許証(高校生なので、原付か普通自動二輪免許)、住民基本台帳カード、保険証などがある。どれでも使えるでしょうが、「高校生は学生証」というイメージが一般的でしょうか。行政通達では、年少者の年齢確認は、「一般に必要とされる程度の注意義務を尽くせば足りる」と判断しているようですので、年齢を必ずしも公文書で確認する必要はないのですね。
私の経験ですが、高校生の頃、何の証明書も出さずに採用されたところもありました。書類は履歴書だけで、あとは軽い面接で採用され、「いつから来れる?」という流れ。学生証のコピーを取ることもなく、何とも簡単な手続きでした。中には、証明書だけでなく、履歴書も出さずに採用されたこともありましたね。
高校生のアルバイトを採用するときは、戸籍抄本までは要りませんが、キチンと学生証のコピーは作っておいてください。
住民票記載事項証明書を役場に行って無料で取得する必要がある?
戸籍証明書といっても本籍を示す必要があるわけじゃなくて、18歳未満の人が何歳なのかという年齢を証明するために証明書が必要だ、というのが労働契約法57条1項の趣旨です。労働基準法では年齢ごとに規制の内容が変わりますので。
じゃあこの年齢を証明する書類は、どのような書類なら足りるのかが気になるところです。
市役所等に行くと、住民票記載事項証明書というものを発行してもらえるのですけれども、通常だ1通300円かかります。
労働基準法111条では、無料で年齢を証明する証明書を請求できると書かれています。
第111条
労働者及び労働者になろうとする者は、その戸籍に関して戸籍事務を掌る者又はその代理者に対して、無料で証明を請求することができる。使用者が、労働者及び労働者になろうとする者の戸籍に関して証明を請求する場合においても同様である。
ですが、役場で証明書を請求すれば200円とか300円なり一通あたりに料金かかるのが普通ですから、本当に無料で請求できるのかどうかが気になるところです。「法律では無料ってなってるけど、実際に取得に行ったら料金を請求されるんじゃないか」と思ったりするのでは。
市役所に行って証明書を請求するとなると、まず請求書を書いて、代金を払って、請求書を窓口に出して、証明書を発行してもらうまでだいたい30分ぐらいかかるんです。役所によって所要時間は変わりますが、証明書を発行する窓口は混雑しがちです。
年齢を証明するための証明書を取得するために、わざわざ役所に行って、30分ほどかけて証明書を発行してもらって、それを採用される職場に持っていく。この手間と費用を考えると、わざわざ住民票記載事項証明書を用いてまで年齢を証明しなきゃいけないものなのか、と思ってしまいますよね。
18歳未満の年少者の年齢を証明するには、必ずしも公文書でなくてもよく、住民票記載事項証明書以外のものでも構わないとされています。行政通達では。
ということは、年齢を証明できる身分証などがあればいいわけです。学生なら学生証が最も身近なものですし、18歳未満の人でもマイナンバーカードが発行されますから、マイナンバーカードで年齢を証明するのも構わないわけです。
中には、18歳未満であっても原付や普通二輪の免許を取得できますから、運転免許証で年齢を証明できる方もいらっしゃいます。
18歳未満の年少者の年齢を証明する手段としては住民票記載事項証明書でもいいんですけれども、時間と手間を考慮すれば他の方法を用いる方がいいですね。学生証やマイナンバーカード、運転免許証、さらに健康保険証も使えます生年月日が表記されていますから。
というわけで、必ずしも住民票記載事項証明書にこだわる必要はないわけです。
学生が一人暮らしをするとき、住民票を移すかどうか
4月は新生活のシーズンで、住む場所を変えた方もいらっしゃるでしょう。
大学に入学したばかりで、1人暮らしを始めたなんて人も多いはず。
私も、大学生の頃、東京で4年間生活しましたから、引っ越しはなかなか面倒な作業でしたね。
引っ越しするとなると、住民票をどうするかが悩みどころですが、私は移しませんでした。アパートは東京の世田谷区でしたが、住民票はそのまま大阪に。手続きが面倒そうだと思ったのでそのままにしておいたのですが、4年間の生活で「これは困った」という場面はありませんでした。
健康保険証には住所が記載されていますが、大阪の住所であっても東京で利用できますので、困ることはありません。
郵便物は宛先に書かれた住所に送ってくれますから、住民票が置かれたところにしか配達しないなんてことはありません。普通郵便でも、簡易書留でも、宅配便でも、何でも受け取れます。
アパートの賃貸借契約をするときも、住民票の場所は問われません。何の問題もなく住めます。
あとは、大学の窓口での手続き(色々と細々した手続きがあります)も、東京の現住所で対応してもらえるので心配ないです。
日常生活で住民票がネックになったことはほとんどありませんでした。
ここで、「ほとんど」と書いたので、「ん? ちょっとはあったの?」と思うでしょうが、あるにはありました。ほんのチョットですが。
まず、選挙のときに通常通りの投票ができませんでした。都道府県知事選挙、衆議院議員選挙、参議院議員選挙などで投票する時は、近所の投票所に行くのが通常ですが、住民票を移していないと、投票できるのは東京ではなく大阪になってしまいます。つまり、住民票上の選挙区なり都道府県を対象に投票しないといけないわけです。
しかし、選挙のためだけに大阪まで行くわけにもいきません。では、どうなったかというと、遠隔地投票という制度を使って、東京から投票できました。東京から大阪府知事選挙に投票したり、後は大阪の地元の選挙区で立候補する衆議院議員候補者に投票したり、そういうことができるのですね。
2017年の今ならば、遠隔地からの投票など当たり前にできるのでしょうが、当時はまだスマホすら無い頃で、ADSL接続のPCでのインターネットが普及し始めた頃でした。
投票に少し時間はかかりますが、投票そのものは可能です。
あとは、免許の更新でも1つ壁がありました。
私が免許証を更新する年、ちょうど遠隔地更新という制度ができたんです。それまでは大阪府公安委員会で発行された免許証を更新する場合は、大阪まで行かないといけない。そういう仕組だったようです。
確か、免許の更新で新宿の東京都庁に行ったのを覚えています。更新する丁度いいタイミングで遠隔地更新制度ができ、ラッキーな人だった私です。
更新の講習を東京で受けて、免許は大阪から発送される。確かそういう流れだったと記憶しています(随分と前のことなので記憶は曖昧)。これで東京にいながら大阪で取得した免許を更新できたのです。
住民票の情報が影響する選挙と免許更新では少し手間がかかりましたが、あえて言えば不便な点はそれぐらいしかありません。
住民票を移さずに4年間生活しましたが、致命的に不便な状況はありませんでした。
私の経験上、学生が一人暮らしをする場合、住民票を移動せず、そのままにしておいても良いんじゃないかと思います。もちろん、永続的に住居地を変えるならば住民票も移動させたほうが良いでしょうが、期間が限られているならばそのままにするのもありです。