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賞与と退職金を賃金の調整弁にしている
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賞与と退職金の仕組みが不明朗な理由は?
多くの会社では、賞与と退職金についてはブラックボックスになっているのではないでしょうか。
「賞与は夏と冬に支給。退職金は退職時に支給」これだけという会社も少なくないのではないかと思います。「そんなもんじゃないの?」と言ってしまえばそれまでですが、考えてみるとやっぱりヘンです。
中には、なぜ賞与の支給条件や計算方法をキチンと決めないのだろうと疑問を抱く人もいるのではないかと思います。
分けてみると、
1,支給条件も計算方法も両方不明というパターン。
2,支給条件は決まっているが、計算方法は不明というパターン(例えば、勤続年数の条件や出勤状況などを考慮するが、金額の計算方法は分からない)。
(なお、「支給条件は決まっていないが、計算方法は決まっている」というのはちょっと考えられないので外しておく)
3,支給条件も計算方法も決まっている。
おそらく、3つの中で1が最も多いのではないでしょうか。
会社の規模が大きくなっていくと、規程類が整備されて、賞与や退職金についてのルールも固まってくるはずですが、それでも完全に不明朗な部分が除去される状況まで至っているのは稀ではないでしょうか。
なぜ、企業は「賞与は夏と冬に支給。退職金は退職時に支給」という状態で運用するのか。
制度設計に手間がかかるのであえてそのままにしているのか、それとも、意図的にそのままにしているのか。もし、あえて賞与や退職金のルールを決めていないとすれば、どんな目的があるのか。
賞与と退職金は賃金の後払い
賞与と退職金の性質を説明するときによく言われるのは、「賃金の後払い」という主張。毎月の給与を低めに設定し、賞与や退職金でまとめて支払うという方式のようです。また、賞与は後払いという位置づけだけでなく業績連動で支払われるという主張もありますね。退職金は賃金の後払い。賞与は賃金の後払いもしくは業績連動というのが通説でしょう。
ただ、もし賞与が賃金の後払いであるという立場で話を展開すると、本来受け取るべきものだから不払いにできないという結論になりますよね。つまり、毎月毎月、賞与は少しづつ蓄積していき、支給日になると放出されるのがまさに後払いという性質でしょう。この場合、もし賞与の支給条件として支給日在籍を要求していたとしたら矛盾が生じます。賞与は賃金の後払いなのだから、すでに発生している債務は履行するべきですので、増減させる余地が少なくなります。もし、業績連動で支給内容が決まるならば、債務が蓄積するとは考えませんから、増減させる余地は大きくなります。
では、賞与は賃金の後払いなのか、それとも業績連動の報酬なのか。この問にハッキリと答えを言うのは簡単ではありません。なぜならば、後払いとして賞与を位置づけているのか、それとも業績に連動するものとして賞与を位置づけているのかは経営者にしか分からないからです。後払いかもしれないし、業績連動かもしれないし、後払いと業績連動のミックスかもしれない。月給の5ヶ月分とか8ヶ月分というように、ある程度固定的に支払っていれば、賞与の仕組みも透明性が増すのかもしれませんが、中小規模の企業ではおそらく事前に支給額が固定されるような取り決めはしないのではないでしょうか。
では、なぜ賃金を後払いにするのか。払うならば今払えばいいのに、あえて後にするからには何らかの理由があるはず。意味もないのにこのようなことをするとは思えません。
商売でも債務の先延ばしはままあることです。1ヶ月先よりも3ヶ月先のほうが債務者に有利ですし、6ヶ月先よりも3年先の方が債務者に有利です。さらに、金額が確定していないという点も債務者に有利ですし、債務者が金額の増減を決めることができるのですからこの点も企業にとって有利でしょうね。
ゆえに、裁量的にコントロールできる部分(支払い時期、債務額)を残すのが賃金の後払いの目的なのではないかと考えられます。
経営者は、配当、自社株買い、内部留保、賃金配分など、利益を分配する際に裁量的にコントロールしたいでしょうから、賃金のコントロールを賞与と退職金で行っているのかもしれませんね。人はコントロールできない要素が増えるのを嫌います。なるべく自分で裁量的に制御できる余地を残しておきたいと思うものです。
そのため、賞与と退職金で賃金を後払いにして、コントロール出来る部分を増やしたいと考えているのかもしれないですね。
一方、退職金はさらに後払い的性質が強まります。毎月の給与は変動させにくいが、賞与は増減させるのが簡単ですし、退職金に至ってはさらに増減が簡単です。20代や30代の人が退職金のことを気にすることはないですよね。ましてや、10代の人が退職金の支給条件や計算方法がどうなっているかを調べることもまずあり得ないことです。そのため、たとえ毎月の給与を引き上げたとしても、賞与や退職金を抑えることで、賃金の平準化を実現できるわけです。
ただ、ポイント制の退職金を採用している企業だと、「企業は退職金をコントロールできないのでは?」と思うかもしれない。ポイント制退職金とは、勤続年数や役職の在職年数、出勤率、成果、協調性などなどをポイント化して、そのポイントの累積量で退職金の金額を決める仕組みです。そのため、企業が裁量的にコントロールできる部分が少なくなると"思われています"。
しかし、ポイント制退職金であっても、企業が任意で定める支給率を変更すれば金額を変動させることが可能です。
例えば、Aさんの累積ポイントが460pt。Bさんの累積ポイントが460ptだとすると。AさんもBさんも退職金額は一緒であるかのように思えます。
ところが、累積ポイントに会社所定の支給率を掛けたものが支給ポイントだとすると、Aさんへの支給率が0.8で、Bさんへの支給率が0.6とした場合、結果が変わります。
460×0.8=384pt(Aさん)
460×0.6=288pt(Bさん)
というように、結果に変化が出ます。
つまり、最後に掛ける数字をコントロールできるようにしておけば、後から退職金をコントロールできるわけです。
賞与のコントロールにしても退職金のコントロールにしても、なんとなくズルい感じがしないでもないですが、これは経営裁量の範囲であって、ルールに反していることではありません。賃金だけを考えて経営するというわけにはいかないですから、この手の裁量は経営者にあって然るべきなのかもしれません。
ただ、この裁量が外部からは分からないのがちょっと不安ではあります。本当に賞与や退職金を賃金の調整弁として使っているかどうかは給与明細を見ても分からないでしょうし、賃金台帳や賃金規定を見てもおそらく分からないだろうと思います。「もしかして賞与を賃金の調整弁として使っているかも、、、」と推測するぐらいならば可能ですが、断定することは限りなく不可能です。毎月の給与はほとんど変動していないが、賞与は思いのほか増減変動があるならば、調整弁として使っている可能性は高まります。しかし、あくまで推測でしかないのですね。調整弁として使っているかどうかは経営者の頭の中でしか分からないことですので、それ以外の人が知ることは困難です。
賞与と退職金で朝三暮四
月毎の給与は、増やすのは容易だが、一度増やすと簡単に減らせないのが悩みどころです。ちょっとでも調整しようとすれば、伝家の宝刀である「不利益変更という主張」でもって抵抗されてしまいます。
賞与や退職金は考えようによっては、朝三暮四とも言えるのではないでしょうか。
朝三暮四とは、
中国で、宋の狙公(そこう)が、飼っている猿にトチの実を与えるのに、朝に三つ、暮れに四つやると言うと猿が少ないと怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいそう喜んだという「荘子」斉物論などに見える故事から(大辞泉より引用)。
つまり、総量は同じなのに、配分を組み替えるだけで相手の気持ちが変わるわけです。
「毎月の給与」と「賞与、退職金」はまさに朝三暮四の典型ではないかと思います。
賞与や退職金を増やして毎月の給与を少なめにすると不満を感じるが、毎月の給与を増やして賞与や退職金を減らすと満足を感じるのです。
面白いものですよね。
携帯電話の割賦販売も上記に似ています。
一括で8万円を支払うとなると心理的に抵抗感があるけれども、2年間で端末を分割購入し、さらに販売者が購入補助するとなると、急に心理的な障壁が低くなるのです。総支払額はほとんど変動していないが、購入者の心理は大きく変化するわけです。
「私たち=猿」という構図ができてしまうのがちょっと皮肉なものですね。
メルマガ以外にも、たくさんのコンテンツをウェブサイトに掲載しております。
【仕事のQ and A】
決まったことを決まった手順で処理するのは難しいものではありません。例えば、給与計算。毎月1回は給与が支給されるので、その計算作業も毎月ありますけれども、頭を悩ませるほどのものではありません。
他には、雇用保険や社会保険への加入手続きもちょくちょくと発生しますけれども、これも必要な書類を揃えて出すだけですから難しくない。
労務管理ではルーティンな業務があり、それらを処理するには特別な能力や知識は必要ありません。
しかし、時として、普段は遭遇しないような問題が起こります。例えば、休憩時間を1回ではなく何回かに分けて取るのはいいのかどうか。有給休暇を半日や時間単位で細かく分けて取ると便利なのかどうか。仕事着に着替える時間には給与は支払われるのかどうかなど。答えが1つに定まりにくい問題が労務管理では起こります。
- Q:会社を休んだら、社会保険料は安くなる?
- Q:伊達マスクを付けて仕事をするの?
- Q:休む人が多くて勤務シフトに穴が開く。対処策は?
- Q:休憩時間を分けて取ってもいいの?
- Q:残業を許可制にすれば残業は減る?
- Q:残業しないほど、残業代が増える?
- Q:喫煙時間は休憩なの?
- Q:代休や振替休日はいつまでに取ればいいの?
このような問題に対して、どのように対処するか。それについて書いたのが『仕事のハテナ 17のギモン』です。
【1日8時間を超えて仕事をしたいならば】
毎日8時間の時間制限だと柔軟に勤務時間を配分できないので、月曜日は6時間の勤務にする代わりに、土曜日を10時間勤務にして、平均して8時間勤務というわけにはいかない。
しかし、仕事に合わせて、ある日は勤務時間を短く、ある日は勤務時間を長くできれば、便利ですよね。それを実現するにはどうしたらいいかについて書いています。
残業管理のアメと罠
【合格率0.07%を通り抜けた大学生。】
私が社労士試験に合格したのは大学4年のときで、いわゆる「現役合格」です。けれども、3年の時に一度不合格になって、ヘコんだんです。「たかが社労士試験ごときにオチたのか」って。
どうすると不合格になるか。どんなテキストや問題集を使えばいいか。問題集の使い方。スマホをどうやって社労士試験対策に活用するか、などなど。学生の頃の視点で書いています。
社労士試験というと、社会人の受験者が多いですから、学生の人の経験談が少ないんですよね。だから、私の経験が学生の人に役立つんじゃないかと思います。
合格率0.07%を通り抜けた大学生。
【学生から好かれる職場と学生から嫌われる職場】
高校生になれば、アルバイトをする機会があり、
過去、実際に経験した方、
もしくは、今まさに働いている学生の方もいるのでは。
中には、
「学生時代はアルバイトなんてしたことないよ」
という方もいらっしゃるかもしれません。
そういう稀な方は経験が無いでしょうけれども、
学生のアルバイトというのは、
何故か、不思議と、どういう理屈なのか分かりませんが、
雑というか、荒っぽいというか、
そういう手荒い扱いを受けるんです。
若いし、体力もあるし、
少々、手荒に扱っても大丈夫だろうという感覚なのでしょうか。
それ、気持ちとしては分かりますけれども、
法令上は、学生も他の従業員と(ほぼ)同じであって、
一定のルールの下で労務管理しないといけないのです。
もちろん、
18歳未満は夜22時以降は働けないとか、
8時間を超えて働けないとか、
そういう学生ならではの制約は一部ありますけれども、
それ以外のところは他の従業員と同じ。
週3日出勤で契約したはずなのに、
実際は週5日出勤になっている。
休憩時間無しで働いている。
採用時に、1日5時間働くと決めたのに、
実際は1日3時間程度しか勤務させてもらえない。
「学生には有給休暇が無い」と言われた。
テスト休みを取って時給を減らされた。
など、
やってはいけない労務管理がなされてしまっている
という実情もあるようです。
何をやってはいけないかを知らないまま、
間違った対応をしてしまうこともあるでしょう。
(知らないからといって許されるものではありませんけれども)
このような労務管理をすると、学生から好感を持たれ、
辞めていく人が減るのではないか。
一方で、
「これをやってしまってはオシマイよ」
な感じの労務管理だと、
ザルで水をすくうように人が辞めていく。
学生から好まれる職場と嫌われる職場。
その境目はどこにあるのかについて書いたのが
『学校では教えてもらえない学生の働き方と雇い方 - 35の仕事のルール』
です。
「学生が好む職場」と「学生が嫌う職場」 その違いは何なのか。
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