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定年制度が必要な理由は何か

定年

 

 



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電車で席を譲るときは、「どうぞ」と言わなければいけないのだろうか。

頻繁に遭遇するわけではないが、高齢者や妊婦に席を譲る人を電車内で見かけるが、相手に対してどうぞと声をかけていることが多いように思う。確かに、譲る人と譲られる人が席を交代するのだから、「どうぞ」と「ありがとう」が対になるのが当たり前だとも思える。

しかし、あえて声をかけてしまうと、相手が困るときもあるかもしれない。「席を譲られるほどの年寄りではない」とか、「すぐに降りるからあえて座らなくてもいいのに」とか、相手にも色々と事情があるのではないだろうか。また、どうぞと言われて、結構ですと断ると雰囲気が穏やかではなくなる。譲られた方は断りにくいし、譲った方も後に引きにくい。

私ならば、誰かに席を譲ると考えたなら、そのまま黙って他の車両へ移動する。これならば、相手にプレッシャーを与えないし、私も妙な雰囲気に巻き込まれないで済む。表面的なコミュニケーションは欠けてしまうが、暗黙のコミュニケーションは成立していると思う。






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定年制度が必要な理由は何か。
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半ば強制的な雇用の維持。


定年まで特定の組織で働きたいと考える人が増えているらしい。

定年制度は、労働者が一定の年齢に達すると自動的に雇用関係が終了する仕組みであると定義されている。つまり、年齢を理由に雇用契約を終了できる制度ということ。

随分と昔から定年制度は存在していて、会社員や公務員には不可欠な制度と思われているフシもある。「定年はありません」と言われればむしろ驚くはず。


なぜ、定年に達したら仕事を辞めなければいけないのだろうか。60歳以上になると人間は急に仕事ができなくなるのか。それとも、昔からある制度だから今も運用しているし、これからも運用していくと考えているのか。そもそも、なぜ定年制度というものができたのか。

あって当たり前だと思っているものの、考え始めると疑問がいっぱい生まれる。


また、65歳が定年だと言われると、「65歳まで雇用契約を維持しなければいけない」と企業に思わせる効果があるのではないだろうか。つまり、65歳までは原則として解雇できないと意識に刷り込まれるということ。

さらに、高年齢者雇用安定法に基づく継続雇用の要請もある。定年を延長するか、雇用継続や再雇用によって雇用期間を延長するように誘導されつつある。


もし、雇用契約を解除するのが目的ならば、退職や解雇というメニューが用意されています。にもかかわらず、定年退職が必要な理由は何なのでしょうか。

定年はずっと昔からある制度ですから、存続させる何か特別な理由があるのではないか。そう思うのが普通です。

退職と解雇の2つで足りる。


定年制度は「公認された解雇」と言うべきではないかと思う。

一般的には定年"退職"と表現しているが、定年"解雇"とは表現しない。自主性に基づくのが退職のはずだが、本人の意思にかかわらず一定年齢で雇用契約が終了するのに定年"退職"と表現している。おそらく、定年退職ではなく、「定年解雇」と表現するのが実態に合っているだろう。

にもかかわらず、あえて定年退職という表現を使っている点を考えると、非難されずに解雇する手段として定年を利用しているのではないだろうか。普通解雇や整理解雇にクレームが付けられることはあっても、定年退職にクレームは付かないだろう。おそらく、定年退職する人はニコニコして、職場の人から花束とかを渡されるのかもしれない。

例えるならば、定年は学校の卒業式に似ている。小学校は6年で終わり。中学と高校は3年で終わり。大学は4年。社会人は40年で終わり。考えると、会社と学校はよく似ている。会社には「年次」という概念があるが、これは学校の「学年」と同じだ。2004年入学と2004年入社、2009年卒業と2009年定年退職。このように考えていると、会社を学校のようにしようと思って定年退職制度を作ったんじゃないかと思えないこともない。


定年退職は定年年齢まで組織にいれば実現できる。しかし、もし途中で会社が清算されれば定年退職は実現しないだろう。ということは、定年制度は、その人が定年に達するまで会社はなくならないという前提に基づいて成り立っている。ただ、定年まで会社が存続するかはその時にならないと分からないだろう。存続しているかもしれないし、そうではないかもしれない。


雇用契約を終了するイベントを退職と解雇の2つに絞るのも良いと思う。なお、この場合の退職には定年退職は含まない。

60歳や65歳になれば、人は急に使い物にならなくなるわけではないはず。若い段階で転職するかもしれないし、病気やケガで退職したり、死亡したりすることもある。人によっては、50歳代で整理解雇されることもあるでしょう。希望退職者を募集したり、閑職に異動させて雇用を変動させることもできる。ならば、あえて定年を使わなくても人員を調整できるはず。

ただ、「定年以外の方法では避難されたり抵抗されたりするし、労働組合があるとさらに手続きは難しくなる。だから定年制度は必要だ」という考え方もある。特に、「まじめに仕事をしているが成果がイマイチな長期勤続者」を解雇する際の煩わしさを回避したいために定年制度を利用したい気持ちは分からなくもない。また、年毎にベースアップによってジリジリと賃金が上昇していく賃金体系になっているため、60歳以上の人を定期的に追い出さないといけないのかもしれない。

となると、定年とは、「公認された解雇であり、かつ、社会的に非難されること無く解雇する手段」だと言える。公認されているのですから、非難もされないわけです。

また、長期間にわたって人を雇用してきたので、定年の時だけは簡単に雇用契約を解除できるようにしようという「長い間雇用を維持した企業に対するご褒美」とも思えます。


解雇を実施するときは、キチンとした理由が必要で、年齢だけを理由に実施することはできないだろう。労働契約法の16条では、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である必要があるので、一定の年齢に達しただけではおそらく16条の条件を満たせないはず。ここで、「定年による退職は、そもそも解雇ではない」という主張をする人もいるかもしれない。「定年退職であって、定年解雇ではない」と。しかし、本人の自主性に基づかない離職がはたして退職と言うべきかどうか疑問を抱くところです。実態は定年解雇であって定年退職ではないと私は思います。

とはいえ、では定年解雇が労働契約法16条によってストップされるかというと、実際はそのようなことはありません。定年による離職は解雇ではないので、16条が問題にならないのでしょうね。実態は解雇だが、形式的には退職なので、定年制度は労働契約法16条による規制を巧みに回避しているのですね。


ちなみに、有期雇用契約で働く人は定年規制の対象になりません。定年は、期間の定めのない雇用契約に基づいて働いている人が対象であって、年齢とは関係なく一定の期間の経過により契約が終了する人は対象外なのですね。ということは、50歳ぐらいになって、1年ごとの有期雇用契約に転換すれば、定年規制を回避できるかもしれない。何だかズルい方法ですが、あり得る流れです。


通常の解雇を回避するのはトラブルを避けるためなのかもしれないが、話し合う手間を省略しないで解雇の手続きを進めれば平穏に終えることができると思う。一方的に、今月いっぱいで終わりとか、今週で終わりとか、明日から来なくてもいいなどと手続きを省略するから解雇でトラブルが発生する。

年金の支給開始年齢と定年制度の連動。


定年は、定年だけで独立して成立しているわけではなく、年金、退職金、退職所得控除制度と連鎖した一種の制度群の一部ではないかと私は思います。つまり、定年制度が独立して成立しているというよりも、他の制度と影響しあってその存在意義を深めているという考えです。

定年まで勤務すれば最も退職金が多くなる。合わせて退職所得控除制度も利用するはず。さらに、定年に達すると仕事を失うので、年金に手が伸びる。年金の支給開始年齢の引き上げと定年の引き上げは上手に歩調を合わせています。年金の支給開始年齢を引き上げれば、定年年齢を引き上げる理由ができる。逆に言えば、定年年齢を引き上げれば、年金の支給開始年齢を引き上げる理由ができるのですね。つまり、年金と定年は二人三脚と言っても間違いではないのです。

制度の対象年齢が引き上がれば、退職金の支給時期も後ろへズラすことができるし、後払いする賃金も増える。となると、退職所得控除制度の恩恵も大きくなる。退職金には定年間近で支給額が急上昇する傾向があり、これも定年制度を支える効果があるはずです。

「退職金は人質」と言われることがありますが、本質を指摘していると思います。働けば働くほどこの人質の存在は大きくなり、20年や30年も時間を経るともうこの人質を見捨てられないようになる。そして、「定年ー退職金ー退職所得控除制度ー年金」の連鎖の中に入る。


「退職金で賃金を後払いするぐらいならば、毎月の給与で払いきればいいじゃないか」と思う方もいるかも知れません。しかし、実際にはそうはならない。なぜならば、毎月の給与には所得税が課されますが、退職金として後払いにすれば退職所得控除制度によりほぼ無税で賃金を受け取れるからです。そのため、毎月の給与で全てを払いきることはしないのです。毎月の給与は低めに抑えて、後から受け取れば、会社にとってはキャッシュアウトを先送りにする効果があるし、社員にとっては税制による優遇がある。ゆえに、退職所得控除制度は退職金制度を補強し、退職金制度は定年制度を補強する。見事なほどの連携プレイです。


「年金の支給開始年齢を引き上げよ」と提言する人は多い。新聞でもニュースでも、さらにはナントカ委員会やナントカ審議会の人たちも同じです。確かに、年金の支給開始年齢を引き上げれば、年金の財政は安定に向かうでしょう。しかし、支給開始年齢を引き上げると、加入者は早死すると資金を回収できない可能性が高まります。

「でも、遺族基礎年金や遺族厚生年金、さらには死亡一時金によってフォローされているはずだ」と思う方もいるかもしれない。確かに、遺族年金や死亡一時金でフォローはできているのですが、必ずしも満足できるものではありません。まず、遺族基礎年金は男性が受け取ることができません。もし、妻が先に死亡したら、夫が遺族基礎年金を受け取ることはないでしょう。また、遺族厚生年金でも、妻が先に死亡すると都合が悪いです。死亡一時金にいたっては、国民年金の1号被保険者のみが対象ですので、会社員の人は対象外です。


支給開始年齢を引き上げるということは、年金給付のデフォルトを狙っていると考えるのが妥当です。掛け捨てになる資金が発生したほうが制度側には有利ですので、例えば1,000万円の保険料のうち700万円が年金として支給され受給者が死亡すれば、残りの300万円は制度側に残ります。年金の支給開始年齢を引き上げるのは、より多くの資金を制度側に残すという動機があるのです。それゆえ、被保険者として制度に加入している人にとっては制度を避けようとする気持ちが生まれやすくなります。年金の財政を重視すると、加入者がそっぽをむくというトレードオフが発生するのです。


話が脱線しますが、国民年金は60歳から繰り上げ受給できますが、これがベストな選択です。「でも、早く受け取っちゃうと減っちゃうんじゃないの?」と思うかもしれない。確かに、そうです。しかし、随分前ですがシミュレーションをしたことがあり、60歳から国民年金を受け取ったパターンと65歳から受け取ったパターンを比べてみたところ、76歳ぐらいで逆転する結果を得ました。つまり、60歳から受け取った人を65歳から受け取った人が、76歳の時点で追い抜くという結果です。ということは、76歳以降も生きていると予想するならば、65歳から受け取るといい。しかし、76歳まで生きているか分からないならば、60歳から受け取るといいわけです。ただ、先ほど書いたように、年金の受取を先送りすると資金を回収できない可能性が高まるので、年金は可能な限り早く受け取り始めるのが良いです。減額されてでも、50歳ぐらいから年金を受け取るのがいいと私は思います(現実には早くても60歳からですが)。

高年齢者雇用安定法では、「高年齢者雇用確保措置の義務化の年齢について、年金の支給開始年齢の引上げスケジュールにあわせ、平成25年4月までに段階的に引き上げる」との方針があるようですので、ここでも定年と年金の連動性が伺えます。定年年齢を引き上げるならば、年金の支給開始年齢も引き上げる。年金の支給開始年齢を引き上げるならば、定年年齢も引き上げる。60歳から65歳。65歳から70歳。70歳から75歳。どこまで引き上げれば満足なのでしょうね。

高年齢者雇用安定法の本当の目的は、「高齢者の能力を活用する」という点にあるのではなく(全くないわけではなく、主目的ではないだろう)、「年金の支給開始年齢を引き上げる基礎を作る」点にあるのではないかと思う。定年年齢と年金の支給開始年齢の時期にギャップがあると都合が悪い(無所得の期間が発生すると考えられている)ので、そのギャップを埋めるために定年を引き上げる。さりげなく定年を引き上げ、さりげなく年金の支給開始年齢を引き上げる。巧みに設計していますね。


年金はもっと選択の余地を増やすべきでしょう。掛金の選択。年金の受取時期の選択。加入期間の選択。加入の有無の選択など。加入者に任意性を与えるポイントはそれなりにあります。制度に選択の自由がないのが信頼を損なっている最大の理由だと私は思う。強制的な制度は良い側面もありますが、必ずしも良い側面だけではありません。







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