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雇用契約や就業規則を優先するか、社内の慣行を優先するのか

見えにくい会社


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雇用契約や就業規則を優先するか、社内の慣行を優先するのか
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雇用契約や就業規則に根拠が無い手当や休日、休憩を与えていた

もし、雇用契約書や就業規則といった書面の類に書かれていないけれども、慣行として現場で運用されているルールがある環境で働いているとしたら、どうなるでしょうか。

例えば、休日を振り替えれば休日の割増手当は必要ないのが労働基準法のルールですが、もし休日を振り替えるときであっても割増手当を支払っている会社があるとして、ある時点で会社側がこの取扱をヤメると決めたらどうなるか。その時点までは、振替休日であっても手当を用意していたものがこれからはなくなるわけですね。なお、振替休日の割増手当は就業規則や雇用契約書には書かれていないものとします。つまり、規程類には根拠がないけれども、会社として続けてきた取り扱いなのですね。言わば「慣行」です。

この場合、就業規則や雇用契約書には根拠がないのだから、手当の支給をヤメるほうが正しいのか。それとも、今まで続けてきたことなのだからヤメてはいけないのか。

どちらの立場が妥当でしょうか。


割増手当で他の例を挙げれば、「就業規則や雇用契約書には書かれていない扱いだけれども、法定外休日にも休日割増手当を支給していた」という事例があり得ますよね。休日割増手当は法定休日に勤務したときに支給される手当ですが、会社によっては、法定休日に限らず、法定外の休日に勤務しても支給しているところがあるでしょう。

特に規定や契約書には書いていないけれども、休日に勤務した日にはすべて割増手当を支給していた場合、会社側の判断でこの扱いをヤメたらどうなるか。

この場合も、書面での根拠がないのだから、手当の支給をヤメるのがだとうなのか。それとも、今まで手当の支給を続けてきたのだから、一方的にヤメるのはダメだと考えるのか。

どちらでしょうか。


今回の焦点は、書面で根拠がない労務処理を続けてきたものの、ある時点でその処理を終了させたときに生じる「慣行と規定の間での衝突」です。

規定の内容が優先されるのか、それとも、規定よりも慣行が優先されるのか。この両者の競合が問題です。


 

社内の慣行や慣習が法律化するの?

先程の休日割増手当の例だと、社員の立場としては「今まで続けてきたのだから、続けるべき」と考えるでしょうし、一方、会社の立場としては「規程類に根拠がないのだから、やめるべき」と考えるでしょう。

ルールを重視する立場で考えれば、何らかの労務処理を行うにはキチンと就業規則や雇用契約書に書いていないとダメなのだから、会社の判断が妥当だと判断できます。「就業規則や雇用契約書に書かれていることではないので、ヤメるのは構わないだろう」というわけです。

しかし、「慣行として定着しているので一方的に変えることはできない」という考えも間違っていないでしょう。「今までやってきたことなんだから、キチンとした効力を認めるべきだ」と判断するわけです。

そのため、「規定の効力」と「慣行の効力」が競合したら、どっちが優先するのかという点で悩むことになります。


パッと考えれば、「労働基準法、労働協約、就業規則、雇用契約」は手続きを経て作られているけれども、慣行にもとづく手当や休憩は手続きを経ていないのですね。そのため、もしトラブルになっても、根拠の無い慣行は否定されてしまいやすいわけです。規定類は根拠があるけれども、慣行には根拠がないですからね。

今回は、根拠がないものに法的効果を認めることができるのかどうかが問題となるのですが、法的効果を発揮するには根拠が必要でしょう。法律でも国会を通過するという手続きがありますし、労働協約は組合との調整が必要ですし、就業規則は従業員代表の意見書を添付する必要があり、また本文を社員に開示することも必要です。

上記のように手続きを経て運用しているならば主観が入り込む余地は少なくなるのでしょうが、手続きを経ない慣行で労務管理をしていると、どうしても主観を含めた判断をしなければいけなくなり困るわけです。



退職金でも慣行が問題になることがあります。今まで慣行に基づいて退職金を支払っていたけれども、これからはヤメようという場合です。

この場合でも、「退職金を支払う慣行があるのだから、退職金を支払うべき」と理屈を展開するところですが、慣行だけで退職金を支払わせるのは難しいのです。

確かに、「慣行として退職金を支払っていたならば、支払い義務がある」という理屈はあるものの、支払いの根拠は薄弱です。どんな「条件」で退職金を支払うのか。金額の「計算方法」はどうするのか。この2点が決まっていないと、いくら支払い義務があるといっても、退職金を支払うのは容易ではありません。退職金の設計で最も重要なのは、「支給条件」と「計算方法」で、どんな条件を満たして、どんな計算で退職金が算出されるのかという基準がないと、退職金の仕組みは機能しないのです。

それゆえ、慣行があるので支払い義務があるというだけ退職金を企業に支払わせるのは無理があるのですね。

とはいえ、退職金の支給ルールが就業規則などにあったとしても、単に「退職時には退職金を支給する」というだけでは不足です。単に「支給する」だけだと、どんな条件か分かりませんし、金額も不明です。極端なことを言えば、「0円退職金」でも退職金になってしまうわけです。


ただ、慣行であっても、一定の条件を満たすと法的なレベルまで引き上げることもあり得ます。


1、「長期間の継続と反復で慣行を補強する傾向がある」

ずっと慣行に基づく処理を行ってきており、その処理が何度も行われている場合です。「長年続けられているので、労働契約上の労働条件を組成してきた」という過去の判例の解釈もあります。

ただ、長期間といっても、どれぐらいの期間であればいいのかが不明です。1年ぐらいでいいのか、それとも3年ぐらいは必要なのか。それとも6ヶ月ぐらいでもいいのか。

回数や頻度はどのくらいなのか。1ヶ月に何回ぐらいで反復性が認定されるのか。毎週ではなく2週間に1回だけ手当を支給していたらどうか。

ツッコミどころはそれなりにありますよね。



2、当事者が納得しているかどうか。明示的に排斥していないかどうか。

社員が納得して慣行を受け入れているかどうかですが、納得度合いを判定するのは容易ではないでしょうね。主観が入りますし。管理者も同様に慣行を支持しているかどうかという点も同じです。

排斥の点も納得と同じで、排斥しているかどうかの判定がしにくいでしょう。



3、規定類や労働条件の決定権者の規範意識。

これは、経営者や総務部長などが慣習であってもキチンと守る意識があったかどうかという基準です。

慣習にすぎないので守るかどうかは分からないという規範意識ならば、慣行を否定する方に傾斜するでしょうし、一方、規程類には落とし込まれていない慣行だけけれどもキチンと履行しようという規範意識が管理職にあったとすれば、慣行を肯定する方向に傾斜するでしょう。

ただ、規範意識は人の内部感情を構成する要素ですから、外部から判定するのは難しいです。意識があったかどうかは本人に聞かないとわからないし、本人がその意識を言語化できるかどうかも定かではありません。また、規範意識の程度を定量判断するのも厄介ですよね。


1から3の基準を現場に当てはめるのは簡単ではないはずです。判断に主観が入るために、慣行の認定を難しくしています。

慣行として定着していたということを立証するのは社員側です。継続性、反復性、規範意識など想像するだけでも証明するのが困難だとわかるでしょう


もし慣行に法的効果を認める可能性があったとしても、どの時点で法的なレベルに達するのか不明です。確かに、慣行も長期間継続すれば法的な程度まで力を持つことがあるのかもしれない。しかし、どの時点でそうなるのかが分かりません。


上記の基準をあてはめて、慣行に法的効果("準"法的効果と言うべきか)を認めようと試みても、やや強引な論理構成でその法的効果を認めなければいけなくなる。そのため、裁判では慣行の効力は否定されがちです。



労務管理のルールは雇用契約書や就業規則に書く

もし何らかの労務慣行があるならば、慣行のままにせず、労働協約、就業規則、雇用契約書に落とし込むべきです。

慣行を慣行のままでフワフワさせておくと、規定類や契約と実態が乖離し、乖離した部分がトラブルの原因になります。


第三者は「書いていないことは無いもの」と考えますから、ルールと実態はピッチリと合わせていきたいところです。

就業規則も雇用契約書も、その内容通りに労務管理するために作っているのでしょうから、内容に合わない管理をしてしまっては、規程類を作った意味が薄れてしまいますからね。

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労務管理の問題を解決するコラム

職場の労務管理に関する興味深いニュース

【仕事のQ and A】

決まったことを決まった手順で処理するのは難しいものではありません。例えば、給与計算。毎月1回は給与が支給されるので、その計算作業も毎月ありますけれども、頭を悩ませるほどのものではありません。

他には、雇用保険や社会保険への加入手続きもちょくちょくと発生しますけれども、これも必要な書類を揃えて出すだけですから難しくない。

労務管理ではルーティンな業務があり、それらを処理するには特別な能力や知識は必要ありません。

しかし、時として、普段は遭遇しないような問題が起こります。例えば、休憩時間を1回ではなく何回かに分けて取るのはいいのかどうか。有給休暇を半日や時間単位で細かく分けて取ると便利なのかどうか。仕事着に着替える時間には給与は支払われるのかどうかなど。答えが1つに定まりにくい問題が労務管理では起こります。

  • Q:会社を休んだら、社会保険料は安くなる?
  • Q:伊達マスクを付けて仕事をするの?
  • Q:休む人が多くて勤務シフトに穴が開く。対処策は?
  • Q:休憩時間を分けて取ってもいいの?
  • Q:残業を許可制にすれば残業は減る?
  • Q:残業しないほど、残業代が増える?
  • Q:喫煙時間は休憩なの?
  • Q:代休や振替休日はいつまでに取ればいいの?

このような問題に対して、どのように対処するか。それについて書いたのが『仕事のハテナ 17のギモン』です。

 

仕事のハテナ 17のギモン

【1日8時間を超えて仕事をしたいならば】

毎日8時間の時間制限だと柔軟に勤務時間を配分できないので、月曜日は6時間の勤務にする代わりに、土曜日を10時間勤務にして、平均して8時間勤務というわけにはいかない。

しかし、仕事に合わせて、ある日は勤務時間を短く、ある日は勤務時間を長くできれば、便利ですよね。それを実現するにはどうしたらいいかについて書いています。

残業管理のアメと罠

 

残業管理のアメと罠

【合格率0.07%を通り抜けた大学生。】

私が社労士試験に合格したのは大学4年のときで、いわゆる「現役合格」です。けれども、3年の時に一度不合格になって、ヘコんだんです。「たかが社労士試験ごときにオチたのか」って。

どうすると不合格になるか。どんなテキストや問題集を使えばいいか。問題集の使い方。スマホをどうやって社労士試験対策に活用するか、などなど。学生の頃の視点で書いています。

社労士試験というと、社会人の受験者が多いですから、学生の人の経験談が少ないんですよね。だから、私の経験が学生の人に役立つんじゃないかと思います。

大学生が独学で社労士試験に合格する方法: 合格率0.07%の軌跡 Kindle版

 

合格率0.07%を通り抜けた大学生。

【学生から好かれる職場と学生から嫌われる職場】


高校生になれば、アルバイトをする機会があり、
過去、実際に経験した方、
もしくは、今まさに働いている学生の方もいるのでは。

中には、
「学生時代はアルバイトなんてしたことないよ」
という方もいらっしゃるかもしれません。

そういう稀な方は経験が無いでしょうけれども、
学生のアルバイトというのは、
何故か、不思議と、どういう理屈なのか分かりませんが、
雑というか、荒っぽいというか、
そういう手荒い扱いを受けるんです。

若いし、体力もあるし、
少々、手荒に扱っても大丈夫だろうという感覚なのでしょうか。

それ、気持ちとしては分かりますけれども、
法令上は、学生も他の従業員と(ほぼ)同じであって、
一定のルールの下で労務管理しないといけないのです。

もちろん、
18歳未満は夜22時以降は働けないとか、
8時間を超えて働けないとか、
そういう学生ならではの制約は一部ありますけれども、
それ以外のところは他の従業員と同じ。

週3日出勤で契約したはずなのに、
実際は週5日出勤になっている。

休憩時間無しで働いている。

採用時に、1日5時間働くと決めたのに、
実際は1日3時間程度しか勤務させてもらえない。

「学生には有給休暇が無い」と言われた。

テスト休みを取って時給を減らされた。

など、
やってはいけない労務管理がなされてしまっている
という実情もあるようです。

何をやってはいけないかを知らないまま、
間違った対応をしてしまうこともあるでしょう。

(知らないからといって許されるものではありませんけれども)

このような労務管理をすると、学生から好感を持たれ、
辞めていく人が減るのではないか。

一方で、
「これをやってしまってはオシマイよ」
な感じの労務管理だと、
ザルで水をすくうように人が辞めていく。

学生から好まれる職場と嫌われる職場。

その境目はどこにあるのかについて書いたのが
『学校では教えてもらえない学生の働き方と雇い方 - 35の仕事のルール』
です。

 

「学生が好む職場」と「学生が嫌う職場」 その違いは何なのか。

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┃ある日は勤務時間を長くできれば、便利ですよね。
┃それを実現するにはどうしたらいいかについて書いています。
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