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2010/9/27【市町村の臨時職員への賞与支給】



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■市町村の臨時職員への賞与支給◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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正規職員だけが職員
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■正規職員の賞与と臨時職員への賞与。



2010年9月10日に、大阪府茨木市の臨時職員への期末手当について最高裁が判断を出しました。

この事案では、週勤務日数が3日の臨時職員に期末手当を支給し、この支給が条例に根拠が無いので違法であり、茨木市の住民が市長に損害賠償を請求したというのが大まかな構図です。

最高裁のウェブサイトでも内容が公開されていますので、アップロードされているPDFで読むことが可能です。

大阪府茨木市での臨時職員への賞与支給についての最高裁判例
(http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=80668&hanreiKbn=01)

※判例はわざと難しく書かれているので、興味がなければあえて読むこともないです。



内容について詳しく調べると、大阪府茨木市では、平成7年(1995年)から平成16年(2004年)までの10年間に、臨時職員に対し各年度の6月と12月に期末手当を支給していた。この期末手当は、いわゆる賞与ですね。夏の賞与と冬の賞与だと考えればいいでしょう。

平成16年は総額6,689万円の期末手当が支給されている(上期に761人、下期に810人)。内訳を書くと、上期には1人4万円が支給され、4万円×761人=3044万円。また、下期には1人4.5万円が支給され、4.5万円×810人=3645万円。合計で6,689万円ですね。

もし、パートタイム社員に賞与を支給するとすれば、4万円や5万円という金額は妥当なところでしょうね。パートタイム社員にも賞与がある会社もありますが、金額は上記と似たようなものです。勤続年数や役職、階級によって少し違いがあるものの、だいたい5万円程度が相場なのかなと思います。


茨木市では、正規職員の1日の勤務時間の上限は7時間45分までに設定されており、1週間だと38時間45分です。一方、臨時職員の1日の勤務時間の上限は7時間30分まで(正規職員よりも15分短い)に設定され、例えば、週3日勤務だとすると、週22時間30分の勤務時間になりますね。

ここで、正規職員と週3日勤務の臨時職員の週間勤務時間を比較すると、22:30 / 38:45 = 0.58064となり、正規職員に比べて週3日勤務の臨時職員は約58%の勤務時間になっています。つまり、正規職員の勤務時間と比較して60%未満になっているんですね。この点は判例でも指摘されているポイントで、「正規職員と同等の勤務時間として扱えるかどうか」の基準として使われているようです(なぜ60%を境界線にしたのかは分かりませんが、、)。


平成17年11月に臨時職員の給与に関する条例を改正しており、この条例は12月1日から施行されています。その内容は、臨時職員の給与は日額1万3,000円、また、臨時職員の1日の勤務時間は7時間30分がMAXなので、13,000/7.5=1733.33で時給は1730円と設定されています。さらに、「規則で定める通勤手当相当分及び期末手当相当分の賃金を支給することができる」と書かれています。ここがポイントで、新条例では確かに期末手当を支給できるとは書かれているものの、支給条件や手当の計算方法が決められておらず、詳細は規則で決めるとされていますね。条例では詳細を決めずに、内規である規則で詳細を決めてしまっている点は判例の中でも指摘されています。

ここでは、条例と規則の棲み分けが焦点になっていて、地方自治法にキチンと従うならば条例で詳細まで決めるべきと判断できるでしょう。しかし、条例では一般的な規則を決め、規則では詳細を決めるとして役割分担をする立場に立てば茨木市の運用は妥当と考えることもできます。


ちなみに、地方自治法の204条2項では、「普通地方公共団体は、条例で、・・・(各種の手当を)・・・支給することができる」(括弧書きは筆者挿入)と書かれていますし、また、204条の2では、「普通地方公共団体は、いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずには、・・・職員に支給することができない」とも書かれています。

地方自治法の内容を素直に読めば、地方自治法には職員の給与や手当は条例に根拠が必要ですから、臨時職員に対する期末手当について条例に根拠が無いならば支給できないのは当然かもしれません。

しかし、条例を成立させるには議会で採決しないといけないので、そう簡単には変えられません。一方、規則ならば議会の採決は必要なく、内部的に変更することが可能ですので、臨時職員の手当については規則で対処した方が便利だろうと考え、あえて条例(平成17年11月の「臨時職員の給与に関する条例」)には詳細を書かなかったのでしょう。


正面から今回の事案を考えれば、「条例で決めるべき」か、それとも「一般規定は条例で、詳細は規則で対処する」という2つの立場の対立なのでしょうが、深読みすれば「賞与(期末手当)は正規職員のもの」という価値観が一般に浸透しているとも思えます。

企業でも、賞与が支給されるのは正社員だけであって、それ以外の社員は賞与支給の対象外というところが多いです。

「正規職員や正社員には賞与がある、しかし"正しくない"職員や社員には賞与は無い」という一種の偏見のような価値観が今回の判例からもチラチラと私は感じます。


余談ですが、"正規"職員とか"正"社員という概念は誰が考えだしたのでしょうね。どうして「正」という文字を付けるのか、分かりませんね。フルタイム職員とかパートタイム社員という表現を使えば足りるはずなのに、「正」を使うんですね。謎です。








■「賞与は正規職員のもの」という価値観。



今回の最高裁に至までに1審、2審の判断があって、この2つの判断では茨木市長への損害賠償請求は肯定されていました。しかし、最高裁では臨時職員への期末手当の支給は違法なものの、損害賠償請求は棄却されています。つまり、違法だけど、手当の支給に関して市長に過失は無いので損害賠償請求は無しという判断のようです。

市長へ6,600万円の損害賠償請求ですからね、もし6,600万円も請求されたら、ちょっとキツイだろうなぁ、、。市長の報酬は確か2,000万円程度だったはずで、損害賠償請求が通ってしまったら生活できないですから、茨木市長はホッとしているはず。


大阪府では、茨木市以外の市でも臨時職員は働いているものの、臨時職員についての取り決めは手薄になっていて、他の市でも茨木市のようなトラブルが起こりうるのではないかと判例内でも指摘されています。茨木市では約800人の臨時職員がいるようで、1つの市役所で800人という臨時職員は結構な数ではないかと私は思うのですが、ただ正規職員が何人で臨時職員が何人という正確な数字は把握していないので多いか少ないかとは客観的には言えないものの、市役所で働いている結構な数の人が臨時職員なのではないかと思ったりしています。市役所に行くと、「あぁ、この人たちはみんな地方公務員なんだなぁ、、、」と思ったりするものですが、意外と臨時職員だったりするのかもしれませんね。

ちょっと脱線しますが、選挙の立ち会いをしている人の報酬が謎でしたが、茨木市例規集(http://www.city.ibaraki.osaka.jp/office/hobun/reiki_int/reiki_mokuji/r_taikei_main.html)に掲載されている「茨木市非常勤職員の報酬等に関する条例」を見ると分かりますね。選挙立会人で日額11,000円、期日前投票所の投票立会人で日額11,900円とのこと。パイプ椅子に座っている仕事がこんな感じなんですね。へぇ~、、、。


話を戻すと、「同一労働、同一賃金」という言葉は今回の判例の中には出てきませんでしたが、判断をした人たちは、地方自治法や条例による制約を意識しつつも、「同一労働、同一賃金」の点にも意識をしていたと思います。正規職員とほとんど同じような仕事をしているのに、期末手当が支給されないという不満も過去にはあったと予想しますし、その不満を解消するために臨時職員にも期末手当を支給するようになったのかもしれません。


今回の判例では、条例に根拠が必要か、それとも、臨時職員の場合は規則で対処して構わないのか、という2つの立場の対立のように思えるのですが、期末手当を支給するために常勤の職員と同等程度に勤務していることを要求している箇所もあって、「期末手当は常勤の正規職員に支給されるもの」という前提があるようにも思えます。判例の中(最高裁の判断ではなく原審の判断)に、「正規職員と比較して6割以上の勤務」を暗に要求している箇所がありますからね。









■臨時職員やパートタイム勤務であっても賞与があっていい。



原審の判断に「当時の市長であるAはその違法(臨時職員に期末手当を支給するという点)を容易に知り得たというべき」という部分がありますが、これは市長はリーダーなんだから何でも知っているはずだという思い込みによるものでしょうね。

企業でも、社長はリーダーなんだから何でも知っているはずだと思い込んでいる人がいるのと同じように、安易にトップに責任を転嫁する傾向があります。とりあえず一番上の人に責任を回せば簡単だと思うのかもしれませんが、これでは組織のトップに立つ人がかわいそうですよね。

現実には、市長であれ社長であれ、組織で起こっていることの全てを知っているわけではありません。組織で起こっていることを全てを把握するのは現実的に無理です。例えば、飲食チェーンの店舗で、店員が勤務時間中に鼻をほじっていても社長はそのことを知らないはずです。どこの店舗の誰が勤務時間中に鼻をほじっていたかなどという情報が社長まで流れてくることはおそらくないはずです。


茨木市でも、臨時職員の期末手当については、人事課で決められ、企画財政部長の専決で実行されています。もちろん、市長も決裁に関わっているものの、詳しい中身までは知らないのではないでしょうか。単に書類にハンコを押して決裁というだけだったのかもしれません。この程度で市長に過失があると言われても、ちょっと困りますよね。


判例には、「臨時職員に期末手当を支給することは構わないんだけど、地方自治法と条例という2つの制約があるために、安易にGOサインを出せないんです」という趣旨の補足意見がありますが、GOサインを出せない理由は地方自治法と条例だけではなく、「臨時職員は正規職員ではないから」という暗黙の理由もあるのではないかと思います。

「正規職員と同等であるならば期末手当の支給も可能」というところが引っかかりますよね。

条件を正規職員に合わせることを要求してしまうのではなく、条例で臨時職員専用の賞与を別に設定してしまえばいいのです。何も正規職員と比較して6割以上の勤務が必要とするのではなく、5割でも4割でも比例割りで支給すればいいでしょう。


正規職員と臨時職員の違いは「働き方の違い」なのですから。









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