book515(時間外手当が膨らんで標準報酬月額も膨らむ)




■一時的に残業が増えただけだから計算外にすべき?



健康保険料と厚生年金の保険料は、標準報酬月額によって決まる。さらに、標準報酬月額は報酬月額によって決まる。簡単に書くと、報酬月額は毎月の給与だと思っていただければ良いかと思います。毎月の給与によって標準報酬月額が決まるわけです。また、標準報酬月額には等級があって、各等級ごとに報酬月額に対応した標準報酬月額があらかじめ決まっていて、標準報酬月額等級表というものが現場では利用されます。

参考:
標準報酬月額(健康保険版)の等級表

厚生年金の標準報酬月額



標準報酬月額は原則として年に1回計算し、健康保険と厚生年金の保険料も1年間は固定される。具体的には、4月、5月、6月に支給された報酬額を利用して標準報酬月額を計算し、ここで算出された数字を1年間利用します。

ただ、わずか3ヶ月間の数字を利用して1年間利用する数字を算出するため、ときには本来あるべき水準から乖離してしまうこともあります。とくに、4月から6月までの給与のなかに時間外手当が多かった場合や何らかの手当てが多かったとき、想定していた適正な標準報酬月額の水準とは違った結論になる可能性がある。






■手当も報酬です。



とある人が5月1日に会社に入社し、6月15日に初めての給与を受け取った。7月に標準報酬月額の算定処理を行ったところ、想定していた標準報酬月額の水準よりも高いので、社会保険審査会へ審査請求(なお、社会保険審査官への審査請求は通過しており、満足できる結論ではなかったので審査会へ)したという過去の事例があった(社労士の会報に掲載されていたもの)。

この事例の会社では、当月分の給与は翌月の15日に支給するようになっていて、5月は新規出店の準備のため時間外勤務が多くなり、割増手当も多く支給されていた。それゆえ、6月15日に支給される給与では時間外手当が膨らんでいた。

標準報酬月額は4月、5月、6月に支給された給与を利用して計算するため、この人の場合、6月15日の給与のみで標準報酬月額を計算せざるを得なかった。ちなみに、6月分の給与は7月15日に支給されるので計算外となる。となると、6月15日の給与が何らかの手当てにより多く膨らむと、その給与額を基準にして標準報酬月額は計算され、さらに健康保険と厚生年金の保険料も計算される。

一時的に増加した報酬を基準に標準報酬月額を決めずに、適正な水準に標準報酬月額を下げて欲しいと審査請求したのが上記の事例です。


では、標準報酬月額を減額する審査請求が認められるのか、それとも、却下されるのか。

結論から書くと、偶然に新店開店や事業所移転というイベントが算定直前の時期に発生し、時間外勤務が多くなり、それに伴い手当も多くなったとしても、標準報酬月額を減額する理由にはなりません。

標準報酬月額はいわゆる定時決定や随時改定で計算されますが、例外的に職権により決定することもできます。ただし、職権で標準報酬月額を決めるのは、給与遅配(3月に支給される給与が4月に支給された等)、低額の休職給与、ストライキで仕事できずという例外的な場合のみなのです。一時的に残業が多くなり、時間外手当が通常時よりも多く支給されたとしても、職権で標準報酬月額を修正するほどではないのでしょうね。

もし、同じような事例が発生して、「一時的なものだから標準報酬月額の計算では考慮しないで」と申し立てても否決されるはずです。前例がありますので。

「1年間も使う数字なのだから、イレギュラーに手当が増加したのだったら、その影響を除外して計算するべき」という気持ちは分かりますが、4月、5月、6月の給与に影響する勤務は算定処理を見越してキチンと調整するのが妥当ですね。


蛇足ですが、標準報酬月額の算定では、「~月分の給与」ではなく、「その月に支給された給与」で計算します。例えば、3月分の給与が4月20日に支給されるとすると、それは4月分の報酬であると判断されるわけです。実質は3月分の給与なのですけれども、算定処理では扱いが変わるのですね。




山口正博 社会保険労務士事務所
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