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年次有給休暇を取得した日の給与計算

年次有給休暇の給与

 

年次有給休暇を取得した日の給与を計算する方法は3つ

普通の休みの日とは違って、給与が出る休みなのが有給休暇です。休みの日は給与が無く、仕事の日は給与が出る。これが通常ですが、有給休暇は休みだけれども給与が発生する。そういう特殊な休暇なのです。

休んでいるのに給与が出るんですから、嬉しいですよね。働いている人にとって、給与と同じぐらい有給休暇に興味があるはずですから、どういう仕組みなのかは知っておきたいところ。


働いていない日なのに、どうやって給与を決めるのか。そういう疑問を抱くはずです。有給休暇を取った日の給与ですが、計算方法は3通りあります。

「えっ? 3つもあるの? 1つでいいのに」と言いたいところでしょうが、まぁそう言わずに。ここは大事なところですよ。自分の給与ですからね。

  1. 実際に出勤したとみなして給与を計算(雇用契約で決めた時間数に連動)。
  2. 平均賃金を使う。
  3. 健康保険の標準報酬日額を基準にして給与を決める。

 

方法はこの3つです。

3番の内容が何だか難しそうですよね。でも心配しないでください。後で分かりやすく説明しますから。

 

 

通常通り出勤したものと仮定して年次有給休暇を取った日の給与を支給する方法。

では、まず1つ目の方法から。

これは最も簡単な方法ですが、休まず実際に出勤したとみなして給与を算出します。

例えば、1日8時間勤務する日を有給休暇に変えたとすると、給与は8時間分です。また、1日5時間出勤のところに有給休暇を充当すると、給与は5時間分。こういう計算になるんですね。

有給休暇を取得した日の給与を計算する方法としては、最も簡単なものですから、迷ったときはこの計算方法を選択するのも良いですね。


ただし、この方法にはちょっと欠陥というか短所があります。

どういうことかというと、勤務時間が長い日に有給休暇を入れると、給与が多くなります。逆に、勤務時間が短い日に有給休暇を入れると、給与は少なくなります。

「じゃあ、勤務時間が長い日に有給休暇を取れば得だよね」と思いつくわけです。

どの出勤日でも勤務時間は一定な人には関係ないところですが、パートタイムで働く人だと日によって勤務時間がバラバラな人もいます。水曜日は4時間勤務だけど、日曜日は7時間勤務というように日によって勤務時間が違います。

パートタイマーだと、平日は勤務時間が短くて、土日祝日は勤務時間が長くなる。サービス業だと、そういう傾向がありますから、じゃあ年次有給休暇を取るときも、平日じゃなくて土日祝日に取れば、給与を増やせるんじゃないか、と考えるわけです。

有給休暇を取った日の給与をどうやって計算するかについては、就業規則で事前に決めておかなければいけません。年次有給休暇の付与について就業規則に決めるのはもちろんですが、それを取得した日の賃金をどう決めるかも就業規則に含めておきます。

「雇用契約で定めた勤務時間に応じた賃金を支払う」と就業規則で決めているならば、仮に、年次有給休暇を取った日の勤務時間数が7時間の契約だったとするならば、7時間分の賃金を支払う必要があります。

この欠点を受け入れるか。それとも、「何か別の方法はないの?」と考えるか。ここが課題ですね。簡便さでは最も優れていますけれども。

 

 

平均賃金を年次有給休暇の賃金にする方法。

過去3ヶ月分の賃金を平均して、1日あたりの給与を出し、それを有給休暇を取得した日の賃金とする。これが2番目の方法です。

平均賃金(労働基準法12条)を計算する方法は、過去3ヶ月分の給与を、3ヶ月間の総日数で割って計算するものです。

例えば、過去3ヶ月分の給与が合計で94万円だったとしましょう。さらに、3ヶ月間の総日数が90日だとします。この場合は、94万円 ÷ 90日 ≒ 10,400円 なので、1日あたりの平均賃金は10,400円です。

この10,400円が有給休暇で休んだ日の給与となるわけです。

先程の「実際に出勤したとみなして給与を算出する方法(1番の計算方法)」だと、出勤日の勤務シフトによって給与がコロコロと変わりますけれども、この平均賃金を使う方法だと、そういうブレがなくなります。


この方法に短所があるとすれば、平均賃金を算出する手間がかかるという点です。有給休暇を取るたびに平均賃金を計算しないといけませんから、この点が面倒なところ。

ただ、1番の計算方法にあった欠点をクリアできるという良い部分もありますから、一長一短です。

 

 

健康保険の標準報酬日額を基準にして年次有給休暇の給与を決める方法。

では、最後に3番目の計算方法を説明しましょう。

「ちょっと待って。標準報酬日額って何?

まずここが分からないところですよね。分かります。その気持ち。


健康保険の標準報酬日額というのは、健康保険料を決めるための基準になるものです。つまり、標準報酬日額が多ければ健康保険料が多くなり、逆に少なければ健康保険料も少なくなるというものです。

さらに言うと、収入が多くなると、標準報酬日額も多くなり、健康保険料も多くなる。こういう関係なのです。つまり、収入に連動しているのが標準報酬日額というものであり、それを使って健康保険料を決めるというわけ。

「収入に保険料率を掛けて健康保険料を計算すればいいだけじゃないの? 」と思うでしょうが、社会保険料はちょっと特殊な仕組みで決まるんです。

仮に、健康保険料率が10%だとして、月収が51万円だと、健康保険料は5万1千円になりそうですが、実際はそうならないのです。

なぜかというと、収入に保険料率を直接に掛けて計算するのではなく、まず収入から標準報酬月額という数字を出して、その標準報酬月額に保険料率を掛けて健康保険料を出すからです。

月収51万円だと、標準報酬月額は500,000円になります。そして、この標準報酬月額である500,000円に10%を掛けると、保険料は50,000円です。

収入に対して直接に保険料率を掛けた場合よりも、標準報酬月額に保険料率を掛けた方が保険料が安くなっていると分かりますよね。

最初は51,000円だと思っていたものが、計算すると50,000円になるわけですからね。


ちなみに、月収485,000円から515,000円までの人は全て標準報酬月額が500,000円として扱われますので、健康保険料が同じになります。収入は少し差がありますが、保険料は同じです。

詳しくは、標準報酬月額 簡易閲覧表を御覧ください。


さて、有給休暇を取った日の給与の話に戻ると、月収50万円の人だと、標準報酬月額は50万円なので、これを30で割ると、標準報酬日額は約16,700円です。ちなみに、標準報酬月額を30分の1にして標準報酬日額を算出します。1ヶ月分を1日あたりに換算するわけです。

となると、この人が有給休暇を取った場合、給与は16,700円になるんですね。

これが3番目の給与計算方法です。


ここで、「この標準報酬日額を使う方法は、社会保険に入っている人しか使えないの?」と思うところですが、社会保険に入っていなくても標準報酬日額を算出することは可能です。標準報酬月額のテーブル(標準報酬月額 簡易閲覧表)に収入を当てはめれば、標準報酬月額が出ますから、それを30で割れば標準報酬日額を算出できます。

なお、3の方法を利用する場合は会社側と社員側で、「有給休暇を取った日は標準報酬日額で給与を支払う」との労使協定を締結しておく必要があります。

 

 

どの計算方法を使うかを決めたら、途中で変えない。

 前回は2番で計算したけど、今回は1番で。というように都合よく計算方法をコロコロ変えてはダメです。

どの計算方法で有給休暇中の賃金を計算するか。これは就業規則や賃金規定で決めて固定します。

給与を計算する方法は1から3までありますが、その中から1つ選んで決めておきます。

 

 

年次有給休暇を取得した日の給与計算 どの計算方法がオススメですか?

「じゃあ、どの計算方法がいいの?」

そう聞きたいところですよね。

どの方法も一長一短ですから、悩ましい気持ちは分かります。


私ならば、1番を選ぶでしょうね。理由は、最も簡単だから。

勤務時間数のバラつきに対応できないという欠点はありますが、事務処理の簡単さを重視すると1番がベストです。

2番は計算作業が必要になりますし、3番は労使協定を締結してから標準報酬月額を算出して給与を計算しますから、いずれも少しですが手間がかかります。さらに、3番の方法だと、「標準報酬日額って何ですか?」という質問に答える作業も必要になります。

労務管理はシンプルさが一番ですから、有給休暇を取った日の給与計算では1番の方法、実際に出勤したとみなして給与を支払う方法がベストです。

 

 

休日を年次有給休暇にしても月給制の給与は変わらない?

休日を有給休暇に変えたときに、給与も変わるか。休日だと無給ですが、年次有給休暇だと給与が出ますから、無給から有給に変えれば給与も増えるのではないかと思えます。

例えば、月給制の会社で、休日が月9日(公休と週休)と設定されていると仮定します。

そこで、ある社員さんが有給休暇を使うことになり、その人は9日の休日のうち1日を有給休暇として扱いたいと考えたとします。

つまり、1日分の休日を有給休暇に切り替えるということですね。


では、この場合、給与はどのように変化するのでしょうか。

 

「月給制であり、勤務日が増えているわけではないから、給与は変化しない」と判断すべきでしょうか。

それとも、

「確かに月給制だけれども、無給の休日が有給の休暇に変わったのだから、月間の給与に1日分の給与が追加的にプラスされる」と判断すべきでしょうか。


なお、今回は、休日を有給休暇に変えることを会社が許していると仮定します。

 

 

人事予算が変わるとしても、帳尻を合わせる。

結論を言えば、無給が有給に変わったのですから、追加的に1日分の給与をプラスするのが正しいです。


本来、休日に有給休暇は使えませんが、会社が許せば、休日に有給休暇を充てることも可能になります。


ただ、休日を有給休暇に変えてしまうと、月間の人事予算とのズレが生じます(特に、月給制の場合)ので、会社によっては都合が悪いかもしれませんね。

 

もし、月給制を固持したいと会社が考えるならば、休日に有給休暇を充てることを禁止すべきですよね。


しかし、月給制だが、休日に有給休暇を充てることを許すならば、月の給与に有給休暇の分だけの給与を加算する必要があります。

 

 

年次有給休暇を取った日にも手当を支給している

ときに、「通勤費を含めた車両手当を支給しているが、休暇を取得した日にも車両手当は必要なのですか?」と疑問を抱く会社があります。

確かに、休暇中は、仕事で車を使うことはありませんので、車両手当も必要ないのではないかと思えますね。また、交通費も同様ですね。

ただ、人によっては、休暇と言えども、定期的に支給している手当を支給しないとなると都合が悪いのではないかとも考えてしまうわけです。

「休暇中は業務で車両を使わないのだから車両手当は不要」と考えるべきか、

それとも、

「休暇といえども、手当は別枠で支給する」と考えるべきか。

判断が分かれますね。

 

 

年次有給休暇を取得した日には、仕事に連動した手当は出ない

仕事をしなければ発生しない手当は、年次有給休暇として休んだ日には不要です。例えば、残業手当は実際に残業したことに対して支給するものですから、年次有給休暇を取得した日に残業手当を支給する必要はありません。

つまり、車両手当や交通費というのは、仕事を実際に行わなければ発生しない費用ですから、休暇として休んだ日には発生しないわけです。

ゆえに、休暇で休んだ日に車両手当は不要なのですね(交通費も同じです。定期券を買っている場合は1日あたりの運賃での控除が難しいので何もしないこともあるでしょうね)。

有給休暇を取った日は通勤手当が減らされる?


他に、食事手当も上記と同様です。

出勤して仕事をしているときに支給する手当ですから、休んでいるときに食事手当は出ませんよね(「休んでいるけど、御飯代だけ下さい」というのも変でしょう)。


ゆえに、休暇中は、仕事とリンクされた手当は支給されないのが原則です。もちろん、休暇中でも、あえて会社の任意で支給するのは構いません。

 

有給休暇の給与に手当も含めるのかどうか

有給休暇を取った日の給料を計算するとき、実際に出勤した場合と同じ給与を支払うと就業規則なり賃金規定で決めているとしたら、基本となる給与以外の手当も有給休暇の給与として支払うのかどうか。

有給休暇の給与には手当を含めるのか、含めないのか。この点で悩むことがありますよね。

実際に出勤して対応したときにのみ支給される手当なのか、有給休暇を取った日でも支給される手当なのか、ここは賃金規定や就業規則で扱いを決めておく必要があります。

例えば、土日祝日に出勤したとき、休日割増の手当として1時間あたり100円を加算している。この職場で土曜日に有給休暇を取ったら、1時間あたり100円の加算が付くのかどうか。

実際に出勤した日を対象にして支給するのか、それとも有給休暇を取った日でも支給するのか、この点が決まっていないと、土曜日に有給休暇を取得すると時間給が100円増になります。

他の例だと、リラクゼーションサロンが職場で、施術のお客さんから予約が入っていると1件あたり2,000円が時間給とは別に手当として付く。時間給は1,200円だとしましょう。

この職場で有給休暇を取るとして、当日は6時間出勤で、3件の施術予約があったが、前日までにすべてキャンセルされたとしたら、有給休暇の給与はどうなるか。

もし、施術の予約がキャンセルされずに3件とも通常通りに実施していたら、時給1,200円で6時間ですから7,200円。施術予約が3件あったので2,000円で3件ですから6,000円。合計で13,200円。

施術の予約は3件ともキャンセルされたので、ならば有給休暇で休みにしようと考え、この日は出勤せずに有給休暇を取った。施術の手当は出ない日ですから、この場合の有給休暇の給与は時間給の6時間となります。

予約が無ければ出勤せずに有給休暇を使って休みにしようという判断はありそうですよね。 

では、他の人に担当を変更したらどうか。3件の施術予約がキャンセルされずにお客さんが来るとしたら、有給休暇の給与は変わるのかどうか。

他の人に担当が変わったということは、有給休暇で休む人はもうその施術を担当しないのですから、この場合でも施術手当なしで時間給の6時間が有給休暇の給与になります。 

当日に出勤して施術を実施した場合のみ付ける手当だと賃金規定や就業規則でキチンと決めておくと、今回のような場面でも判断できますよね。

手当を作るときは支給条件の設定がキモになりますから、しっかりと仕組みを作り込みたいところです。

 

 

 
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