労務管理のツボをギュッと押す方法を考えます

会社で起こる労務管理に関する悩みやトラブルを解決する方法を考えます。

固定残業代にして、手当に残業代を含めて、残業代をケチる?

 

残業削減

 

誰かが手引きをしているの?

残業代に関する話題は絶えませんね。普通に割増賃金を計算して、普通に支払うだけで残業代の話題はなくなるのでしょうが、現実にはそうはいかないようです。


就活中の学生が気づきにくい、募集要項の落とし穴
http://bylines.news.yahoo.co.jp/uenishimitsuko/20140301-00033140/

上記サイトでは、下記のような事例が紹介されています。

月給 220,000 円(基本給+現場手当)
現場手当(30 時間分の固定時間外手当)を含みます。

月給 220,000 円(「営業手当」を含む)
毎月60 時間相当分の時間外労働手当を「営業手当」として支給します。


前者では、現場手当が残業代となっていて、30時間分の残業代に相当するようです。さらに、基本給と現場手当が混ざっていて、内訳が分からないようにもなっています。

後者は、月給の中に営業手当が含まれていて、その営業手当が60時間分の残業代に相当する内容となっています。こちらも、ベースとなる給与と残業代として扱われている営業手当の内訳が分からないようになっています。


このような募集要項を提示している企業は昔からあったはずで、つい最近出てきたものではないでしょう。

時間外割増手当という名称を使わず、現場手当とか、営業手当という名称を使い、基本部分の賃金と残業代の境目を分かりにくくして煙幕を張る典型的なゴマカシノウハウです。

他にも、30時間、60時間というように残業代に上限を設けているのは、いわゆる固定残業代や定額残業代によるゴマカシノウハウです。また、年俸制に残業代を含めるのも似たようなものですね。


上記のように、各種の手当や残業代に時間制限を設ける方法が残業対策として用いられているようですが、こういうノウハウは会社内の人が発案するのでしょうか。社長とか役員の人とか、他には社長の奥さんや事務の人とか、そういう人たちが手当や時間制限を設けて残業代を減らすように仕掛けを作っているのか。

それとも、外部の人、社労士や弁護士、税理士などが残業代を不適切に減らすノウハウを教示しているのか。

普通に残業を管理していれば、割増賃金も普通に計算して支払うでしょうから、上記のようなゴマカシをすることもなさそうです。となると、誰かが手引きして教えているんじゃないか、そう思えてきます。



スマホのパケット定額と残業代は違う。

時間外割増賃金ではなく、現場手当や営業手当という名称にすれば残業代を減らせるということはありません。また、30時間とか60時間というように、残業時間に上限を設定してそれ以上の残業は認めませんなどとムクれることできません。


2014年時点では、1人1台の割り合いでケータイを持っていても不思議ではなくなり、スマホを持っている人も多くなりました。

スマホの契約では、パケット通信を自由にできる定額サービスがあり、一定の料金でタップリとネットを使えるのが特徴です。

そういうパケット定額サービスと同じような感覚で残業代を扱うと、ナントカ手当とかカントカ手当を用いて残業代を支払ったり、時間に上限を設けて残業代を固定化してしまいます。


ただ、現場手当や営業手当という名目で残業代を支払うことそのものはOKです。ただし、必要な割増賃金がキチンと支払われていることが前提です。

もし、20時間の残業が発生すれば、20時間分の割増賃金を現場手当や営業手当という名称で支払う。これならば、名称に問題があるでしょうが、法的には問題ありません。


残業時間を30時間や60時間に固定する固定残業代や定額残業代でも、固定枠の範囲内で残業をしているならば法的にOKです。

例えば、30時間の固定残業代を支給していて、23時間の残業を実施するとか、14時間の残業を実施するとなれば、法律に違反はしていません。ただし、30時間の枠を超えた場合、例えば37時間の残業が発生したならば、超過した7時間分については、追加で割増賃金を支払う必要があります。

残業の枠を固定することそのものは構いませんが、固定した枠を超えた時に割増賃金を精算する必要があるので、事務作業で二度手間が発生し、固定残業代や定額残業代にメリットはありません。

後から精算するぐらいならば、最初から残業時間に応じた割増賃金を計算すれば1回で事務作業は済みますから、やはり普通に残業代を計算するほうがいいですね。


13時間分の残業は、どんなにコネクリ回しても、13時間分の残業です。
21時間分の残業は、どんなにコネクリ回しても、21時間分の残業です。

ゆえに、普通に残業を取り扱うのが最も経済的です。




労働時間に連動するのが賃金。


「月給50万円。ただし、固定残業代を含む」こんな求人は「違法」じゃないの?
http://www.bengo4.com/topics/2666/


残業代関連の話は終わること無くチョコチョコと出てきますね。

固定残業代、定額残業代、前払い残業代、残業代込みの手当など、残業代を一定の額に固定するような仕組みを採用している企業もあるようで、物議を醸しています。

残業代を一定に固定する話は今に始まったことではなく、随分と前からあって、今でも続いています。


固定残業代制度を導入すれば、法定時間外労働割増賃金の支払いを少なくできる。そう思っている方がいらっしゃるからこそ、固定残業代が話題になるのでしょうね。

ただ、誤解されている点があり、固定残業代はケータイの料金と同じようなものだと考えられているのではないでしょうか。

昔のケータイは、使ったら使っただけ料金を支払う従量制が基本でした。通話料金は高かったですし、パケット通信(懐かしい響き)は繋げただけ料金が発生し、毎月のケータイ代が3万円、5万円に達する人もいました。それにくらべて、2015年現在では、ケータイでネットを使っても月額5,000円程度で定額ですし、さらに音声通話まで定額になり、20年前に比べて遥かに良い環境になりました。

そのようなケータイの料金のように、残業代も定額化できると思われているフシがあります。


固定残業代を悪用する手口についても話が及んでいるようですが、「残業代の正確な金額が分からないように煙幕を張る」これが最大の悪用法です。

いかにして必要な割増賃金を支払わないようにするか。30,000円の割増賃金が必要なところ、何とかして20,000円に減額し、残りの10,000円を踏み倒す。これが固定残業代の狙いです。




固定残業代なのに固定できない。


法定時間外労働に対する割増賃金は、そのルールが労働基準法で決まっており、雇用契約や就業規則で企業が任意に変えられるものではありません。

中には、定額残業代を推奨する人もいて、とある士業の人のウェブサイトで、定額残業代を導入しましょうと書いていたのを思い出します。社労士ではなかったのですが、無理なことを提案しても誰にも利益はありませんから、社労士だけでなく、他の士業の人も残業代を定額化するような提案はヤメておくべきです。


とはいえ、残業代を固定で支払うことそのものは法律に違反せず可能です。ただし、「固定の残業代 > 実際に必要な残業代」という形になっているという前提で。

例えば、固定で毎月、法定時間外労働に対する割増賃金として30,000円を支払われており、とある月に必要な法定時間外労働割増賃金が26,400円だった場合、固定残業代であっても問題ありません。必要な割増賃金以上に支払っていますので、不都合はありません。

問題は、上記の2つが逆転した場合です。つまり、「固定の残業代 < 実際に必要な残業代」という形になったときにトラブルが発生します。

毎月、固定で30,000円分の残業代が支払われているけれども、現実に働いた残業時間に応じた残業代を計算すると、38,270円になった。この場合、「固定の残業代 < 実際に必要な残業代」なので、足りない割増賃金(30,000 - 38,270 = -8,270)、8,270円を追加で支払う必要があります。


必要な割増賃金をカバーできていれば問題ないのですが、オーバーした時が厄介です。「固定なんだから、オーバーしても支払わなくていいんじゃないの?」と思うかもしれませんが、それはできないんです。

「じゃあ、固定で残業代を支払う意味なんてないじゃないの」と思ったら、あなたの頭は正常です。

残業代を固定しても、給与計算の段階で、法定時間外労働の時間数を把握し、その時間数に応じた割増賃金を計算して、固定の残業代と照らし合わせ、過不足がないかチェックする。その結果、不足があれば追加で割増賃金を支払う。

どうです? これでも固定残業代に魅力を感じますか?

もはや固定残業代というよりも、「仮払い残業代」と表現したほうが適切です。


毎月、その都度、割増賃金を計算すれば1回で済むのに、固定の残業代があると、それと照らし合わせる作業が発生する。労務管理を面倒臭くするのが固定残業代なのですね。


残業対策では、「残業代」を削減するのではなく、「残業」を削減するのが正解です。発生してしまった残業代はもうどうしようもなく、支払う以外に手段はありません。

残業代が発生する前の段階、つまり残業の段階で対処するのが正攻法です。


1日8時間。これが標準的な所定労働時間ですが、8時間も同じ密度でミッチリと仕事をしているわけではありません。

お菓子を食べながらミーティングしたり、飲み物を飲んでコーヒーブレイク。作業の手を止めて、同僚と冗談で笑い合う。勤務時間にはこのような時間が多分に含まれていますから、実質の労働時間は1日6時間とか5時間ぐらいに圧縮できるのではないでしょうか。

もちろん、上記のような時間のすべてがムダではないですし、ある程度の気分転換は仕事に必要ですが、実質の労働時間は想像しているよりも短いはず。


仕事のやり方を変えて残業を減らす。妙な仕組みで残業代を減らさない。これがキモです。


山口正博 社会保険労務士事務所
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