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■会社と社員で通勤距離の認識が違う◆◆◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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正しいと思っていた通勤距離が間違っている?
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「会社が把握する通勤距離」と「社員が把握する通勤距離」にズレがある
通勤のために、電車やバス、新幹線、または自家用車を利用している人は多いはず。徒歩や自転車で通勤している人もいるでしょう。
徒歩や自転車だと、会社から交通費が支給されることはおそらくないと思いますが、電車やバスを利用していると、所定の交通費が支給されることがありますね。全額支給という会社もありますし、一定額まで支給という会社もあれば、距離に応じて上限を設定していたりする会社もあります。
交通費を請求するには、何らかの手続きが必要なところもあり、交通費申請書だとか通勤経路申告書という類いの書類に記入して提出しなければいけないシステムだったりします。会社によっては、口頭で通勤経路を話して、どの電車に乗ってきて交通費がいくらかと簡単に確認する程度で交通費を支給するところもあります。一方で、いろいろと書類を書いたり、確認審査をしたりと、厳格な会社もあります。
通勤距離が交通費に連動させている場合、社員が通勤経路と通勤距離を申告し、その申告内容に応じて交通費が算定され、支給される方式を採用している企業があります。通勤実態調査というものを年に1回実施し、通勤の実態を把握して、交通費をキチンと支給するようにしています。
ただ、ときに、「社員が申告した通勤距離」と「会社が把握している通勤距離」が乖離することがあるかもしれません。つまり、社員が把握して申告した通勤実態と会社が調査した通勤実態が異なってしまい、キチンと通勤の実態が定まらないのですね。
この乖離が発生すると、正しい交通費とは違った交通費が支給されてしまい、本来よりも多い交通費が支給されていると分かると、後から過払い分を会社から請求されることもあります。
しかし、わざと嘘の通勤距離を申告したならば、過払い分を返還すべきなのかもしれませんが、正しい通勤距離だと思って会社に申告していたが、どうも実際の通勤距離は違っていたようだという状況になると、簡単に過払いの交通費を返還せよとは言いにくくなります。
そこで、「社員が申告した通勤距離」と「会社が把握している通勤距離」が異なったとき、どのように調整をするかが問題となります。
何はともあれ過払い分は返還してもらうのか、それとも、故意なく過払いが発生したならば過払い分の返還は不要と考えるのか。
通勤手当の額が違っていたら後から清算するの?
もし、電車で通勤しているならば、定期代でキチンと把握できるでしょうから、通勤距離が問題になることはあまりないでしょう。定期を利用していなくても、どの駅からどの駅までという情報がありますから、過払いになることはまずないはず。もちろん、3km以上の通勤距離でなければ、電車は利用できないなどとルールを設けている会社もありますが、通勤距離の長さが問題になることはあまりないはず。
通勤距離が問題になるのは、おそらく自家用車で通勤している場合だと思います。通勤距離に応じて交通費として燃料代を支給している会社が例ですね。距離が長いほど燃料代が多く支給される仕組みになっているものです。
距離に応じて燃料代が支給されるとなると、社員側では「より長い距離を申告しようか」というインセンティブが働きますし、会社側では「より短い距離で燃料代を支給しようか」というインセンティブが働きます。そのため、社員が申告した通勤距離と会社が算定した通勤距離に隔たりができることもあるのですね。この隔たりは、過払い(社員が申告した通勤距離>会社が算定した通勤距離)という結果で出てくることがほとんどであろうと想像します。
通勤距離を調べるとき、どうやって測定するのかというと、地図帳を使って、おおよその距離を算出し、その算出した距離を会社に申告するのが通常でしょう。わざわざ、距離測定装置(車輪が着いた距離を測定するための道具)のようなものを持って、自宅から会社までコロコロと測定装置を転がして通勤距離を測定することはありえないでしょう。1kmぐらいの距離でしたら、このような作業もするかもしれませんが、5kmも8kmもの距離をわざわざキチンと測定する人はいないはずです。それ以上の距離は言うに及ばずです。
それゆえ、厳密に通勤距離を計算できるのかというと、必ずしもそうではないのですね。
社員個人が会社に自分の通勤距離を申告するとしても、大体の距離で申告するしかないわけです。大体の距離で申告するわけですから、実際の距離とは乖離してしまうことも当然ながらあります。厳密に、何メートル、何センチ、何ミリまで通勤距離を測定するのはシンドイですし、会社も社員もお互いに、通勤距離には多少の誤差はあるものと織り込んで受け付けないといけないでしょう。
にもかかわらず、後から通勤実態を調査して、「申告している通勤距離は長いのではないか?」と指摘し、実際に社員の申告内容よりも通勤距離が短かったときに、過払い分を会社に返還せよと言われても、社員さんは困りますよね。
通勤手当が過払いになったら不当利得になる?
もし、社員さんが故意に通勤距離を長く申告していたならば、もちろん過払い分を返還させるもの妥当なところです。
しかし、故意ではなく、申告内容は正しい通勤距離だと考えている場合は、そう簡単に過払い分を返還させるわけにはいきません。
「そうは言っても、適正な申告内容に基づいて支給された燃料代ではないのだから、民法上の不当利得(民法703条)ではないのか」と考える人もいるはず。
確かに、理由無く利益を受け取っているのですから、703条の問題になりそうですよね。
しかし、故意に通勤距離を長く申告しているのではないのですから、この社員さんは悪意(「知っていて、ある行為を行った」という意味)の受益者(民法704条)ではありません。ならば、この社員さんは善意の受益者であり、受けた利益を返還しなければいけないというわけではないのですね。ただ、この解釈は704条を反対解釈して導いたものですから、必ず通せる理屈とは言い切れません。
他方、会社も通勤実態をキチンと把握していなかったという落ち度があります。通勤実態を把握することがそれほど大切ならば、会社自らが調査し、その調査に基づいて燃料費を支給すれば今回のようなトラブルは起きなかったとも考えられます。
社員からの申告内容を受理したということは、それでOKという意味ですから、その後は会社の責任の範囲とすることも無理なことではありません。
後から申告内容を蒸し返し、実態と違うから清算せよというのは、社員さんの立場としては困ります。すでに申告内容を受け付けてくれていたのに、随分と時間が経ってから何かを言ってきても、こちらとしては対処のしようがないと思うのですね。もし間違った申告内容ならば、申告した時点で修正してもらわないと困るわけです。
ゆえに、故意に交通費を詐取する目的で、虚偽の申告をしていたならば返還させるもの真っ当なこと。しかし、交通費を詐取する故意は無く、虚偽の申告もしていないならば、返還させるのは妥当ではありません。この状況で不当利得を成立させるわけにはいきません。
もし、不当利得を成立させたとしても、金額は数千円とか数万円程度でしょうから、会社にとっては費用倒れになる可能性もありますよね。
返還について言い争ったりする時間や手間を考えれば、もし通勤距離が間違っていたとしても、過去にさかのぼって清算するのではなく、間違いを発見したその時点から修正する程度にとどめるのが賢明です。
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