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正社員の手当の方が多い? 同一労働同一賃金は働き方改革の核心部分。

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正社員の手当の方が多い? 同一労働同一賃金は働き方改革の核心部分。
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正社員かそうではないかの身分制度。

正社員になると待遇が厚くなり、その他の社員とは区別される。世間的には、正社員が良くて、それ以外の働き方は良くないというイメージがあります。

名目上は正社員だけれども、仕事に投入している時間や労力を金銭換算すると、想像しているよりも低い数字に。そんなケースもあるのではないでしょうか。

同一労働同一賃金が実現すれば、正社員という名称も無くなるのでしょうが、現実にはまだそれは実現していません。

2018年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン」が厚生労働省のウェブサイトに掲載され、正規・非正規という雇用形態に関わらない均等待遇を確保していくよう方針が示されています。

正規雇用はフルタイム勤務。非正規雇用はパートタイム勤務。この分け方だと、両者の違いは勤務時間のみであって、待遇で差があるのはおかしいだろうと。給与や賞与、各種手当などで両者は同じように取り扱わないといけない。大まかですが、これがガイドラインの示すところです。

2020年4月には、改正されたパートタイム労働法が施行され、正規雇用と非正規雇用の間に説明ができない待遇差を設けることはできなくなります。

正社員を優遇することで、それ以外の社員に対して「正社員になると良いことがあるぞ」と思わせ、一種の「ニンジン」として利用することもできたのですが、今後はそのニンジンに対する魅力も低減することでしょう。


パートタイム労働者を安く買い叩く時代は終わり。

正社員とそれ以外の人の間には「見えない壁」があると言われることがあります。

時給4,000円で働く正社員の人と時給1,000円で働くパートタイマーの差をどう説明するか。「責任の重さが違うから給与も違う」という説明をする方もいますが、聞いた側は納得できるものでしょうか。

パートタイマーにはあえて簡単な仕事しかさせず、低い賃金を正当化させているのではないか。やり方を教えればできるけれども、正社員の人が自らの仕事をパートタイマーに教えず、自分の存在価値が下がらないようにしているのではないか。

中には、給与が高い正社員が、パートタイマーがやるべき仕事をやってしまっているなんてこともあるのでは。時給4,000円の人が食器を洗っている。時給4,000円の人が商品の品出しをしている。時給4,000円の人がレジを打っている。時給4,000円の人がトイレ掃除をしている。

高賃金の人に付加価値が低い仕事をされてしまうと、「そんな仕事をするなら、あなたの給与は時給1,000円で良いじゃないか」と言いたくなるもの。

高い賃金を受け取っているからには、それ相応の価値を提供していかなければいけないでしょうし、そうでないならば、適切な賃金に修正していかなければならなくなります。

低賃金の人に高付加価値の仕事をさせれば、多くの利益を得ることができますが、これは同一労働同一賃金のルールに反します(まさに買い叩きと言っていいでしょう)。また、高賃金の人に低い付加価値の仕事をさせると、利益を出すどころから赤字ですが、これも同一労働同一賃金のルールに反しています(正社員が特権身分になるとこんなことにも)。


フルタイム社員とパートタイム社員で通勤手当の支給内容が違う。

待遇というのは、ものによっては数値換算しにくいところがあり、例えば、転勤可能な人とそうではない人の差をどう金銭的に評価するか。さらに、転勤でも、国内限定なのか、それとも海外もOKなのかによって評価が変わってくるはず。

一方、各種の手当は、通勤に要した費用、住宅費、食事代、家族数に応じて支給されるものなど、支給条件が分かりやすいのです。そのため、正社員とそれ以外の社員で差を設けていると、均等待遇になっていないと指摘するのも難しくありません。

通勤手当 4分の1が支給基準に差異 同一賃金で自主点検 岩手労働局

 岩手県内の大企業の4分の1で、正社員と非正規社員の通勤手当の支給基準が異なっていることが、岩手労働局(小鹿昌也局長)が求めた自主点検により分かった。来年4月(中小企業は再来年4月)施行の同一労働同一賃金規定に基づくガイドラインは、正社員と同一の支給を求めているため、不合理と判断される可能性がある。改正法対応の進捗状況をみても、2割が「対応が未定」と回答しており、対策の遅れが懸念される。


これは、正社員と非正規社員で通勤手当の支給基準が異なっている、という点が問題になっている例です。

どのように異なっているのかは書かれていませんが、一例としては、同じ通勤距離なのに単価が違うケースが考えられます。

交通費は全額支給。ただし、パートタイム社員は上限額が月7,000円、フルタイム社員は20,000円。これは同一労働同一賃金ガイドラインに違反する典型例の1つです。

フルタイム社員だからといって、特別に遠くから通勤するわけではありませんし、パートタイマー社員で電車やバスを利用する方もいらっしゃるでしょう。わざわざ遠くから時間をかけて通勤したい方は多くないはずです。

電車・バス通勤者の通勤手当(国税庁)

通勤手当の非課税枠は月15万円ありますから、パートタイム社員に対して、低い上限額を設ける必要もなさそうです。


パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書では、正社員には通勤手当を支給し、パートタイマーには支給しない例が掲載されていますが、ここまでの差を設けている実例には遭遇したことがありません。どちらに対しても交通費を支給するが、その内容に差があるという例はありますが。

同じ経路ならば、同じ運賃になるのだから、支給する通勤手当も同じにしなければいけないのです。

他には、パートタイム社員は自家用車で通勤できないが、フルタイム社員はそれが可能で、燃料費も支給されるというケースも過去にありました。

パートタイマーで、バイクで通勤されていた方がいたのですが、燃料費などは支給されず、通勤費用は自己負担でした。一方、車で通勤しているフルタイム社員に対しては、駐車場が用意され、通勤距離に応じた燃料費が支給されていたのです。

バイクと車という車種の違いはありますが、どちらも自動車であり、同じように燃料も必要ですから、通勤でそれらを利用しているとなれば、パートタイム社員であっても燃料費は支給されるのが妥当です。

また、自転車で通勤する人にも、何らの手当も用意されていないことがほとんどです。

自動車(四輪車だけでなく二輪車も含む)で通勤する人に燃料費という名目で費用を補填するならば、雇用形態に関わらず、それを支給するのがガイドラインに合った対応でしょう。

自転車通勤に対しても、出勤1日に対して100円なり200円を支給すれば、納得しやすいものになります。自転車を購入するにも費用がかかりますし、パンク修理、タイヤやブレーキの交換もあり、タダで通勤しているわけではありません。

自転車通勤を増やしたければ、自転車にも通勤手当を出す。

中には、自転車で通勤しているにも関わらず、電車で通勤していると偽り、交通費を受け取っている人もいます(稀なケースでしょうが)。金銭がらみの不正は厳しく対処され、懲戒解雇されることもあります。

自転車で通勤する人に対して何らの手当も無いと、「交通費をせしめてやろう」と悪い考えを起こす人も出てきます。そこで、1日につき100円なり200円でも支給すれば、通勤手当を不正受給する人を減らせます。

手当が出るならば、混み合う電車ではなく自転車で通勤しようかと考える方もいらっしゃるのでは。シティサイクル(いわゆるママチャリ)ではなく、ロードバイクのような本格的な自転車だと、より少ない労力で早く走れ、自転車好きの方だとこういうタイプのものに乗っている方もいらっしゃいます。

自動二輪車並みの車両価格(1台で20万円や30万円する自転車も)であるにもかかわらず、あえて自転車を選ぶ。それぐらい自転車を愛している方ならば、片道10kmぐらいの距離なら、「マイチャリで行ってやるぜ」と男らしい反応をするのではないかと。

1日200円の通勤手当があれば、1ヶ月20日勤務すれば4,000円。1年で48,000円です。タイヤやブレーキなどの消耗品を交換してもまだ手当が残るでしょうから、それを新しい自転車を買う費用に充当するのもいいですね。

本人は好きな自転車に乗れるし、維持費や車両費を通勤手当で補填できます。さらに満員電車で消耗することなく、健康的に通勤できますから、利点もそれなりにあるのではないかと思います。

 

まずは手当の支給基準や内容をチェックするところから。

短時間労働者はいないし、有期雇用労働者もいない。このような職場ならば、均等待遇が問題になることおそらくありません。なぜならば、雇用形態が1つであり、待遇に差が無いから。

一方、フルタイムで働く人がいて、短時間で働くパートタイマーの方もいる職場では、同一労働同一賃金ガイドライン、さらには2020年4月から施行される改正パートタイム・有期雇用労働法にも対応していく必要があります。

では、まずどこから手を付けるかというと、それは手当。均等待遇で問題が起こりやすいのは、手当の支給基準や金額です。

ただ、すでに作ってしまった手当を減額・廃止するとなると、不利益変更かどうかで問題になります。

日本郵政では、正規雇用と非正規雇用で、住居手当などの各種手当で差が設けられており、労働組合との交渉の結果、手当を減額、もしくは段階的に廃止し、待遇を均等化させました。

均等な待遇を実現するために、手当を減らす、もしくは無くす方向で調整していくと、均等待遇という目的は実現できるのですけれども、今まで手当を受け取ってきた人からは反発を受けます。

今まで、毎月7万円の住宅手当を受け取ってきたものの、均等待遇を実現するため、毎年1万円づつ減額していき、7年目にはゼロになる。これをすんなり受け入れるのは難しいもの。

手当は一度作ってしまうと、それを受け取っている人には既得権となり、減額や廃止は困難になります。

休暇制度も同様で、リフレッシュ休暇、誕生日休暇、資格取得休暇、ボランティア休暇など、様々な名目で休暇を作ってしまったら、後から「廃止します」とは簡単に言えなくなります。

均等待遇のために、手当を見直すとなれば、低い方を高い方へ合わせていく必要があります。

先程書いた例を持ち出すと、『交通費は全額支給。ただし、パートタイム社員は上限額が月7,000円、フルタイム社員は20,000円』という従来のルールを修正する場合、高い方である20,000円に基準を揃えるのが妥当です。

「パートタイム社員とフルタイム社員、間を取って、両方を月10,000円にするのはどうか」このように考える方もいらっしゃるかもしれません。これだとパートタイム社員は満足しますが、フルタイム社員は通勤手当が月10,000円カットされるようなものですから不満を感じる方も出てきます。

ただ、フルタイム社員で、1ヶ月の交通費が現状で1万円を超えている人がいない場合、上限額を10,000円に揃えたとしても不利益はありません。社員ごとに、毎月、どれだけの交通費が支給されているかを調べて、全体の上限額をどの水準にするかを決めるのも1つの方法です。

他には、すでに在籍している社員の手当はそのままで、今後、新たに入社してくる人には新しい支給基準で手当を支払っていく。このような変更方法もあります。新入社員には既得権がありませんから、どのような基準で手当を支払っていくかを新たに決められます。


手当を作らない。休暇を作らない。良い労務管理は分かりやすい。

労務管理のルールはともすれば複雑になりがちです。何かと理由を付けて制度を作りたがるもので、こういう手当が必要だ、こんな休暇が必要だと、後からメニューを追加していきます。

そしてある時、鶴の一声のごとく「雇用形態の違いで待遇に差を設けてはいけません」と政府が宣言し、制度を変更してくると、良かれと思って作ってきた制度が厄介者に変わります。

休暇を10種類作れば、それぞれに対象者や日数といった条件を決めなければいけません。また、手当を10種類作った場合も、それぞれに対象者や金額といった条件を決めなければいけません。

均等待遇を実現せよと言われたら、全ての休暇制度、各種手当の条件を見直して、調整していかなければならない。これは大変な労力を要する作業です。

ならば、最初から手当や休暇を作らないという判断もありです。

すでに色々な制度が出来上がってしまっている会社では難しいことですが、まだ創業から半年や1年ぐらいだと、労務管理の仕組みも成熟しておらず、シンプルな状態で運用されているはずです。

特別な休暇や手当は作っていない。休みは週に2日で、休暇は年次有給休暇だけ。手当は通勤手当を支給しているのみ。これぐらいシンプルな組織ならば、休暇な有給休暇に一本化し、手当は通勤手当だけにしておくか、作るとしても住宅手当ぐらいにとどめておく。

イベントごとに休暇を作る必要はなく、年次有給休暇の日数を割増して、他の休暇を代替させていく。年次有給休暇に集約しておくと、管理すべき休暇は1つだけになります。また、半日や時間単位で有給休暇を使えるようにはせず、利用する単位は1日単位に限定しておくと、さらに管理は容易になります。

単純な制度だけで運用すれば、きめ細やかな対応はできませんが、労使ともに分かりやすい基準で労務管理が可能です。家族手当や子ども手当など、社員間で不公平な制度もありません。

制度が多いほど、働く人は満足するだろう。そう思うのが自然なのですが、仕組みというのは、複雑になるほどメンテナンスが難しくなり、「あちらを立てればこちらが立たず」の状態が露見してきます。

そのため、休暇や手当はなるべく増やさずに、少数のメニューに汎用性をもたせて運用していくことをおすすめします。

 

 

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