- 正社員は交通費全額支給 パートタイマーは半額まで 同じ通勤で差をつけるのはもうダメ
- 契約形態で通勤費用が変わるものではない
- 手当の待遇差に関する裁判例が出てきた
- 手当はなるべく作らない 制度は作るのは簡単だが後の運用が負担になる
- 休暇制度も作らない 年次有給休暇制度を拡張して対応する
給与は、
基本となる部分の賃金以外に、
手当が色々と付きます。
中でも、
最もよく知られている手当は、
「通勤手当」
でしょう。
正社員は交通費全額支給 パートタイマーは半額まで 同じ通勤で差をつけるのはもうダメ
フルタイム社員には、交通費を全額支給しているものの、パートタイム社員には、半額までしか交通費を支給していない。
労働基準法や労働契約法では、交通費(通勤手当)の支給自体は義務ではなく、会社の裁量で決めることができます。しかし、パートタイム労働者への不合理な待遇差が問題になる場合があります。
こういう職場があるとすれば、
それは労働契約法20条に違反する可能性があります。
労働契約法(第20条:不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
※2020年3月末までは労働契約法に含まれていましたが、2020年4月1日からはパートタイム・有期雇用労働法に内容が移行しています。
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法) 8条(不合理な待遇の禁止)
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
正社員とそれ以外の社員との間で、何かと「身分差別」するのが
当たり前になっていますけれども、
納得できる合理的な差なのかどうか。
それを判断する根拠が労働契約法の20条です。2020年4月1日以降は、パートタイム・有期雇用労働法8条。
契約形態で通勤費用が変わるものではない
正社員とパートで交通費の支給額を変えること自体は違法ではないが、不合理な差別があれば違法なります。
「職務内容」「責任の程度」「転勤・異動の有無」などを総合的に判断し、正当な理由がない差別は禁止です。反対に、きちんと説明できる差ならば認められます。
フルタイム社員だから交通費がかかる。
パートタイマーだから交通費が安い。
そういうものではないですよね。
電車で片道30分かかるところから通勤する
パートタイマーの方がいる一方で、
片道10分、電車に乗って職場まで行ける
フルタイム社員もいるでしょう。
契約形態と交通費との間には
因果関係がありませんから、
フルタイム社員は交通費を全額支給。
パートタイマーは半額まで。
という差を設けるのはダメなんですね。
しかし、例えば、「正社員は異動の可能性があるため交通費を全額支給し、パートは勤務地が固定であるため半額までにする」とするならば、これは合理的な説明ができています。パートタイマーは職場から2km範囲までで通勤しているので、通勤手当(交通費)はフルタイム社員の半額までというわけですね。これは納得できます。
単に「正社員だから全額・パートだから半額」ではなく、合理的な根拠を持って差をつけることが重要です。
手当の待遇差に関する裁判例が出てきた
フルタイムやパートタイム、
契約社員といった契約形態によって、
手当の内容が変わると、
労働契約法20条(パートタイム・有期雇用労働法8条)に違反すると判断した
裁判例が出ています。
正社員には支給されている手当が
契約社員には支給されていない。
先程書いたように、
契約形態によって、
通勤手当の内容が違っているケースもあります。
パートタイマーにも支給されていた
皆勤手当が廃止された(正社員の皆勤手当は継続)。
他にも、無事故手当や作業手当、
給食手当や住宅手当など、
労働契約法20条(パートタイム・有期雇用労働法8条)に抵触するのではないかと
トラブルになる事例が出てきています。
正社員なんだから
手当が充実しているんだ。
それ以外の人は正社員じゃないから、
手当が無かったり、少なかったりしても
いいじゃないか。
このような「身分差別」が通用しなくなりつつあります。
正社員と契約社員の待遇差で、交通費や扶養手当の不支給が争点となったが、正社員の職務内容の違いや異動の有無などを理由に、交通費の不支給は不合理ではないと判断された判例もあります。
形式的に待遇差を設けるのがダメと判断するものではないのですね。合理的に説明できるならば、交通費や扶養手当で差があるのは許容されます。
合理的な説明ができるようにすることが重要ですね。
手当はなるべく作らない 制度は作るのは簡単だが後の運用が負担になる
手当制度を作るのは簡単ですが、
手当額を減額したり、
制度そのものを廃止するとなると、
厄介な交渉が求められます。
「あんな手当があればいいな」
「こういう手当を作ろう」
そう思って、就業規則を変更し、
手当を作るのは難しくありません。
中には軽い気持ちで作ってしまった手当もあるでしょう。
問題は、作った後です。
手当の金額を調整したいなと考え、
減額するとなれば、
- 変更が合理的なのかどうか
- 不利益の程度はいかほどか
- その変更がどれほど必要なものなのかどうか
- 変更後の制度が相当なものなのかどうか
を判断しなければいけないため、
撤退コストが高くなります。
ちなみに、
減額ではなく、
手当額を増額するならば、
特に交渉は必要ありません。
困るのは、
減額するときと手当を廃止するときです。
一度、手当を出してしまうと、
それが既得権になってしまい、
簡単には手を出せないものになります。
ですから、
手当制度を作るときは、
- 本当に必要なものかどうか
- ずっと支給し続けても大丈夫なのか
をよく吟味して、判断しないといけません。
話は変わりますが、
割増賃金を計算するときは
基本部分の給与だけでなく、
手当も含めて計算します。
手当が増えれば、
それだけ給与を計算する手間が
かかります。
ゆえに、
極力、手当を作らずに、
毎月の給与
もしくは
賞与
で調整するのをオススメします。
休暇制度も作らない 年次有給休暇制度を拡張して対応する
手当と同様に、
休暇制度もポンポンと作られがちです。
休暇制度を1つ作るとなれば、
取得条件を決めなければならず、
日数は何日か、
対象者は誰か、
と決めることがいくつもあります。
休暇制度も、
日数を減らしたり、
対象者を減らせば、
手当と同じように不利益変更
が問題になります。
この問題に対処するには、
法定の有給休暇に日数を加算して、
慶弔時、子供の学校行事
に対応させるのが良いです。
6ヶ月勤務して10日、
1年6ヶ月勤務で11日、
というように
有給休暇の日数は決まっていますが、
ここに会社独自で日数を加算します。
6ヶ月勤務して10日 + 3日
1年6ヶ月勤務で11日 + 3日
というイメージです。
この加算された有給休暇でもって、
子供の学校行事、誕生日や結婚式
に対応すれば良いのです。
有給休暇ならば、
取得理由を問わないですし、
対象者は全員。
さらに、
既婚、未婚を問わず、
子供の有無も関係しません。
しかも、
法定の有給休暇に便乗できますから、
制度を設計するのも容易です。
休暇制度ごとに
条件を細々と設定しなくていい
のが最大の利点です。
手当や休暇制度を
一度作ってしまうと、
変更や廃止が難しく、
不利益変更と言われて、
スッタモンダします。
そもそも、
それらが存在しなければ、
不利益変更も生じません。
手当制度を作らない。
休暇制度を作らない。
労働契約法20条(パートタイム・有期雇用労働法8条)に対応するには
手当制度や休暇制度をシンプルに
しておくのが肝要です。
※労働契約法の一部内容がパートタイム・有期雇用労働法に移行されているため、上記内容を加筆・修正しています。

