暇だからといって従業員を休ませると給与が必要になる
使用者、会社側の都合で社員を休ませたり、早退させると、仕事をしてもらっていない場合でも休業手当という形で給与を支払う必要があります。
例えば、週5日で契約しているのに、仕事が少ないという理由で一方的に週3日に減らす。1日6時間勤務で契約しているのに、暇だから1日4時間に減らす。
こういう場合には労働基準法26条(以下、26条)の休業手当を支払う必要があり、ノーワーク・ノーペイの原則とは違う対応になります。
労働基準法26条
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
他方、屋外での作業が主な仕事で、雨が降っているので作業ができない。だから休み。この場合は休業にはなりません。使用者の都合ではなく、天候が理由ですから、26条は適用されません。
休業手当が必要かどうかが問題になるのは、
- 暇だからといって従業員を帰らせてはいけない。
- お客さんが少ないからといって出勤日を休みにしてはいけない。
という場面です。
最低賃金を下回る休業手当でもOKなの?
26条の休業手当は、働いた場合の60%以上の額になりますが、この額が最低賃金を下回るとどうなるのかが問題です。
例えば、とある地域の最低賃金が1,000円だとして、時間給1,200円で働く人を使用者の都合で休業させた場合。
休業手当の支給率が60%だとすると、休業手当の額は1時間あたり720円。一方、最低賃金は1,000円。
この場合、休業手当の額が最低賃金を下回っていますが、これは問題ないのかどうか。
「休業手当 最低賃金」というワードで検索したところ、「これだ」と思える検索結果が無く、悩んでしまいました。
休業手当は最低賃金を下回っても構わないのか。それとも、下回ってはいけないのか。通常の賃金とは違いますから、判断で悩むんですね。
休業手当は賃金なのかどうか
休業手当が賃金であるならば、最低賃金法が適用されます。しかし、賃金ではないならば、最低賃金法は適用されず、最低賃金を下回る休業手当でもOKと判断できます。
まず、賃金の定義から確認すると、最低賃金法の2条3項では、『賃金 労働基準法第十一条に規定する賃金をいう。』と書かれています。
次に、労働基準法11条(以下11条)を見ると、『賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。』と書かれています。
では、休業手当は賃金に該当するのかどうか考えてみましょう。
休業手当という名称ですから、「手当」に該当します。となると、11条の前半部分にあてはまり、この点から判断すると、休業手当は賃金と言えます。
では、休業手当は「労働の対償」なのかどうか。ここが最大の悩みどころ。
名称上、休業手当は賃金に該当します。これは先程書いたとおり。
しかし、「労働の対償」なのかどうかが判断しにくいところ。
休業しているということは、労働はしていない。ならば、労働の対償として休業手当が支払われているわけではないと解釈できる。
となると、労働の対償ではないものとして休業手当が支払われているのだから、「休業手当は賃金ではない」という判断も可能になります。
労働の対償であれば、休業手当は最低賃金の適用を受ける。
労働の対償でなければ、その適用を受けない。
では、どちらなのか。
もし、後者の解釈を採用すれば、労働者を休業させた場合、最低賃金を下回る手当を支払っても構わないと判断できます。
もし、最低賃金法の適用を受けなくても、労働時間ゼロで(最低賃金を下回るが)給与の一部が支払われます。
これは労働者にとっては悪い条件ではないでしょう。仕事以外のことに時間を使えます。買い物に行ってもいいし、食事に出かけてもいい。フィットネスクラブに行っても、日帰り温泉に行っても構わないでしょう。
例えるならば、休業手当が有給休暇に近いものになっているわけです。
だから、最低賃金を下回っても困らないだろう、という理屈もある。
条文から考えても、休業手当は、名称上は賃金であるものの、「労働の対償」とは言い切れないところがあります。
となると、休業手当は賃金ではなく「最低賃金法の適用を受けない」という解釈も間違いとは言えません。
使用者の都合で休ませなければいい
休業手当を支払う場面に遭遇しなければ、今回のような問題は考えなくていいのです。
早退させたら、他の日の勤務時間を延ばして調整する。
休ませる場合は、振り替えで外の日に出勤できるようにする。
雇用契約で約束した内容を履行できれば、休業手当を支払うことはありません。
契約で約束した内容を履行できないことに対して支払われるのが休業手当ですから、一方的に勤務時間を短くしたり、休みを増やさなければ、26条が適用される場面にはなりません。
賃金が最低賃金法で定める基準を上回っているか否かは、一定範囲の賃金項目(時間外労働の賃金、精皆勤・家族手当等)を除外し、時給換算した賃金額と最賃額を比較して判断します。時間給制のパート等の場合、時給と最賃額を比較すれば足ります。1日7時間で契約したパートの場合、法律で1日当たり664円×7時間=4,494円以上の賃金支払いが保障されていることになります。
しかし、休業が実施されれば、1日の賃金総額がそれを下回るケースも想定されます。最低賃金法第4条では、「労働者の都合、または使用者の正当な理由により、所定労働時間の一部について労働しなかった場合、その時間に対応する賃金を支払わないことを妨げない」と規定しています。
労基法第26条に基づく休業手当を支払い、休業させたケースも同様です。
こういう解釈もあるようですが、
最低賃金法4条4項
第一項及び第二項の規定は、労働者がその都合により所定労働時間若しくは所定労働日の労働をしなかつた場合又は使用者が正当な理由により労働者に所定労働時間若しくは所定労働日の労働をさせなかつた場合において、労働しなかつた時間又は日に対応する限度で賃金を支払わないことを妨げるものではない。
この最低賃金法4条4項は、ノーワーク・ノーペイについて書かれているように読めますし、休業手当に最低賃金法が適用されるかどうかを判断できるような回答ではないと思います。
使用者の都合で休ませる場面を作らない。これが一番の解決策です。
やるべき仕事と関係ない仕事は、なるべく省力化して、少ない時間で済ませたいものです。給与計算はバックオフィス業務ですから、本来やるべき仕事とは違い、なるべく簡単に、楽に、早く終わらせるのが賢明でしょう。
こちらにも興味がありませんか?