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手当を減額したり不支給にしたら減給制裁や賠償予定になる?

手当の設計

 

業務中の事故で手当が減額されたら労働基準法16条、91条に抵触する?

給料は基本給だけという会社もあるかもしれませんが、給与明細を見ると他にも支給される項目があるのではないでしょうか。

時間外労働に対する割増賃金もそうですし、休日労働や深夜労働に対する割増賃金、これらも給与に含まれます。割増賃金は法律で決まったものですから、基本給だけでなく、この割増賃金が発生したならば、それは給与の中に含められているものです。

基本給と割増賃金以外にも、各種の手当が支給されている会社もあります。

名称は色々ありますし、対象者、支給条件も色々あって、さらに金額も様々ですけれども、手当の支給条件によっては、減額したり不支給にしたりすることもあるのでは。条件を満たすことができれば満額で手当が支給されるが、条件を満たさなかった場合は手当が減額される、もしくは不支給になる。そういう制度を設計している会社もあるでしょう。 

では、手当てを減額なり不支給にしたとしたら、それは労働基準法91条(以下、91条)の減給制裁に該当するのかどうか。手当も給与に含まれると考えれば、それが減らされたり不支給となれば、減給されているんじゃないかと感じるところです。 

例えば、仕事で事故を起こさなければ1ヶ月に1万円の無事故手当が支給される。しかし、事故を起こすと、その手当が減額されたり不支給になる。このような手当があったとしましょう。ここでの事故というのは、自動車を使う業務で物を破損させたりという場面を考えてみます。積荷が破損したり、交通事故を起こしたり、こういう事故ですね。

じゃあ事故の有無によって手当の額が変動したとしたら、それは減給制裁なのかどうか。

さらに、事故が絡むので、労働基準法16条(以下、16条)の賠償予定の禁止に該当するのかどうか。

 

 

懲戒処分で手当が減るのではないし、実際の損害を手当の減額で補填しているものでもない

会社独自に設けた手当をどのような条件で支給するかどうかは会社が任意に決めることです。色々な手当を用意されている会社もあれば、何の手当も用意されていない会社もあります。手当を作るかどうか、どういう条件にするのかどうか、これらは会社が決めることです。 

91条の減給制裁は、懲戒処分で減給するときは、この91条の制限にかかりますけれども、事故の有無によって手当を支給するかしないかを分けているとなると、それは懲戒処分ではなく手当を支給する条件を満たしたかどうかが焦点です。

仮に、事故で40万円相当の損害が発生したとして、車を運転していた従業員本人にその40万円を負担させるとなると、それは16条の賠償予定の禁止に該当するかもしれませんけれども、実際に発生した損害額ではなくて、支給される手当が不支給もしくは減額調整されるとなると、賠償を予定しているものではなくて、手当を支給する条件に当てはまるかどうかを判断しているだけです。

無事故ならば満額の月1万円が支給されて、事故の損害額が10万円以下ならこの手当が半額になって月5000円になる。損害額が10万円を超えると、この無事故手当は不支給になる。こういう条件設定だったらどうでしょう。

損害を賠償させているのではなくて、損害額に応じて手当の額が変わるというだけのものです。1万円を5000円にしたり不支給にしたところで賠償額には及びませんから、16条が適用される場面ではないのですね。実際の損害額ではなく、10万円という定額を基準にしています。実際の損害額に連動させていないところが重要ですね。 

16条は賠償予定の禁止について書かれていますけれども、仕事で発生させた損害を賠償させることをあらかじめ決めることで、労働者を逃げられないようにする効果があり、そういう労働者を縛り付けるようなことをさせないための条文です。

事故の有無によって手当の支給内容が変わったとしても、それで労働者の自由が制限されるのかというと、おそらくないでしょう。月額1万円の手当、これが支給されないぞというだけで労働者の身動きを制限できるほどの効果があるかというと、さすがにそれはない。オマケ程度の金額ですから。 

例えば、トラックで荷物を運ぶ方だと、雇用契約ではなく請負契約でトラックの運転手をしている方がいて、 運んでいる荷物が急ブレーキによって破損すると、運転手がそれを弁償しなければいけないこともあります。雇用契約ではなく請負ですから、トラックの運転手は自営業者で、自ら損害賠償保険に入って、業務としてトラックを運転しています。事故が起これば、その保険から出る保険金で対応できます。

しかし、雇用契約で働いている方は、自分で損害賠償保険に入らないでしょうし、業務によって発生した利益を会社が取るなら、その業務遂行によって発生した事故の負担も使用者が負担しなければいけないもの。リターンを取るんだったらリスクも取らなきゃいけない。それが雇用契約における使用者の立場なんですね。

懲戒処分として手当を減額したり不支給にしているわけではなく、事故の損害額によって手当を支給したり、しなかったりというだけですから、頻繁に遅刻をするから減給制裁だとか、何か職場で悪いことしたから減給制裁、というような懲戒で行われてるものとは違います。

何らかの理由によって手当を支給しない、もしくは減額するとなると、無事故手当以外にも皆勤手当でも同じ話ができます。先月は皆勤じゃなかったから皆勤手当を支給しませんとなって、それが91条の減給制裁に該当するとなると、手当制度なんか作れませんよね。

他の例だと、先月は掃除当番をやらなかったから掃除当番手当を支給しない制度だとどうか。掃除当番を1回担当すると500円の手当が支給される。そういう手当制度がある会社で、掃除当番を一度もやらなかったとして、掃除当番手当が支給されなかったから91条の減給制裁だという話にはなりません。

無事故で支給される手当でも、事故があったら手当が出ません、もしくは減ります、という条件設定にしたとしても、91条の減給制裁にはならないという結論になります。

事故を起こさなければ手当を支給するということは、業務中に事故を起こさず安全に仕事をしてもらうのが目的であって、この手当制度を利用して労働者に対して制裁を加えるのが目的ではないですよね。

また、手当の額が満額でも月1万円だとすると、仮にその手当てが支給されなかったとしても、生活を脅かされるほどの金額ではありません。

減額なり不支給にするという条件を手当制度で設定していると、労働基準法16条や91条に抵触するんじゃないかとツッコミを受けますから、事故を起こした場合は何も支給しないけれども、無事故だった場合は支給される、という条件ならばマイナスになる要素がありません。

事故を起こしたとしても、本人には不利益はないわけですから。事故起こさなかった時は手当が支給される。つまり労働者本人にはプラスの要素しかないような手当制度になります。

何かよくないことをして罰金を科すような仕組みを作るのではなくて、何かいいことがあった時は手当を支給する。良くないことが起こったとしても何も本人には起こらない。そういう仕組みだったら、16条や91条が問題になることがないのですね。

 

もう給与計算は自動で済ませる時代なんですね。手計算では間違いのもとですし、手間もかかります。
給与の計算は、基本給だけじゃなくて、割増賃金や手当も計算していかなければいけないですし、雇用保険料や社会保険料も控除しなければいけません。複雑な計算を電卓だけで済ませるのは面倒ですし、計算ミスも起こりやすくなります。ですから、しかるべき給与計算ソフトを使うのが賢い判断でしょう。
山口正博 社会保険労務士事務所
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