退職したら健康保険を任意継続するか、それとも国民健康保険に入るか。


退職する人に「協会けんぽ継続セット」を渡す


会社を退職すると、社会保険からも脱退(被保険者資格を喪失)しますから、健康保険も今までのようには利用できなくなります。

退職した後は国民健康保険に加入するという選択肢もありますが、在職時に加入していた健康保険に退職後も加入し続けることが可能です。これを「任意継続制度」と言います。

本来だと、退職すると健康保険からも抜けますから、もう会社経由の健康保険を利用できません。しかし、退職後2年間は、それまでの健康保険を継続できる仕組みがあります。ただし、保険料は全額自己負担に変わります。在職時は会社が保険料の半分を負担していましたけれども、退職後は本人が全て支払う形に変わります。

協会けんぽには、「協会けんぽ任意継続セット」という案内書類が用意されており、退職後に健康保険へ任意で加入するための手続きに必要なものが用意されています。

大阪府の協会けんぽの場合、

1.任意継続被保険者資格取得申出書
2.任意継続制度説明用リーフレット
3.マイナンバーの記入に関するチラシ
4.大阪支部あて提出用封筒(水色)

この4点セットが用意されています。申出書を書いて、封筒で送ればいいわけですね。


事務担当の方へ「協会けんぽ継続セット」をご利用ください


退職する予定の人がいる場合は、このセットを退職する少し前に渡してあげると退職する人は安心できるでしょう。

 



退職後の健康保険料には上限がある


この任意継続の健康保険には保険料に上限があるのも特徴です。在職時であっても社会保険料には上限がありますが、退職後に任意で健康保険を継続する場合は上限額が低くなります。

健康保険は都道府県ごとに少し違いがありますが、一例として香川県の場合ですと、健康保険料の上限額は月額142,336円です(平成29年9月時点)。会社と折半するので、本人が負担するのは月7万円ほど。これが在職時に発生する健康保険料の最大額です。

都道府県別の健康保険料はここで調べられます。

一方、健康保険を任意継続した場合の健康保険料は、28,672円が上限額となります。

在職時だと月あたり約14万円が上限額になり、退職後は上限額が約3万円になるわけです。

どうしてこのような違いがあるのかというと、退職後は標準報酬月額が28万円までに制限されるからです。

標準報酬月額28万円と書かれても、「標準報酬月額って何?」と思うでしょうから説明しましょう。

 


収入が違うのに、保険料は同じ?


収入に社会保険料の料率をかけて社会保険料の額を計算しますが、実際の収入額に保険料を掛けるのではなく、収入を標準報酬月額という数字に変換し、この標準報酬月額に保険料を掛けると実際の社会保険料を算出できます。

つまり、実収入と標準報酬月額には少しズレが生じる場合がありますので、収入に照らして社会保険料が少し多くなる人もいれば、収入の割には社会保険料が少し少なくなる人もいます。

例えば、月収が270,000円から290,000円の人は、標準報酬月額は280,000円になります。つまり、月収27万円から29万円の人は、社会保険料を計算する過程では月収28万円として扱われるのです。実際の収入とは誤差があるのですけれども、その誤差を取り除いて平均的な金額を計算に使うのです。

もし、実際の収入が270,000円だったとしても、社会保険料の計算では280,000円として扱われますので、この場合は社会保険料が少し高くなります。仮に、香川県で勤務している人だとすると、社会保険料は28,672円ですので、収入(270,000円)に占める社会保険料の割合は、10.62%です。

一方、月収が290,000円だった場合、この場合も標準報酬月額は280,000円です(社会保険料は先ほどと同じ28,672円)。実際の収入よりも少なく扱われますから、社会保険料は少し割安になります。この場合は、収入(290,000円)に占める社会保険料(28,672円)の割合は9.89%となります。

収入が少し違うと、社会保険料が僅かですが割高になったり割安になったりするのが特徴です。「実際の収入に保険料を掛けたほうが分かりやすいのに」と思うところですが、社会保険料というのはそういうものなのです。

それゆえ、月収27万円に設定するよりは、月収29万円の方が社会保険料の面では少しだけお得です。

健康保険を任意で継続すると、標準報酬月額は最大で28万円までですので、例えば退職時の月収が76万円だった人でも標準報酬月額は28万円ですし、月収294万円の人でも標準報酬月額は28万円となります。つまり、退職時の月収が29万円を超えていると、在職時よりも健康保険料は少なくなるというわけです。ただし、在職時と違って保険料は全額負担になりますから、絶対額では多くなる可能性はあります。

 

 

任意継続の健康保険だけでなく、国民健康保険も保険料に上限がある


退職後に加入できる健康保険は、在職時の健康保険を任意継続する方法と、さらに国民健康保険に加入する選択肢もあります。国民健康保険も収入に連動して保険料が決まりますが、こちらにも保険料に上限が設定されています。

例えば、大阪市の場合、平成29年度の国民健康保険料は、年間で89万円が上限です。1ヶ月あたりに換算すると約74,000円。

上限を振り切ってしまえば、月収100万円でも月収700万円でも月収5,800万円でも保険料は同じです。そのため、収入が多いほど、収入に占める健康保険料の割合が下がります。この点については先ほども書きましたよね。


先ほど書いた協会けんぽでの保険料の上限は、標準報酬月額が28万円までなので、都道府県ごとに少し違いはありますが、香川県だと1ヶ月あたり28,672円です。他の都道府県でもほぼ似たような保険料ですので、1ヶ月で3万円が健康保険料の上限だと考えればいいでしょう。月3万円ならば、年間だと36万円ですから、在職時に収入が多かった人(月収ベースでだいたい30万円を超えていた人)は任意継続で健康保険に加入する方が負担が少なくなります。

健康保険を任意継続する場合と国民健康保険に加入する場合を比較すると、上記の例だと、月あたりの保険料に2倍ほど差があります。そのため、在職時に収入が多かった方は、在職時の健康保険を任意継続する方が保険料が少なくなる可能性が高いでしょう。


社会保険料は収入に連動して青天井で増えると思っていらっしゃる方もいるでしょうが、税金(上限なしで課金してくる)と違って、社会保険料には上限があるので収入が多い人にとっては良心的な仕組みです。

収入が増えるほど怪我や病気が増えるわけではありませんから、税金のように無制限でお金を集めるのは不合理です。それゆえ、社会保険料には上限があるのです。ちなみに、厚生年金の保険料にも上限がありますので、こちらもお忘れなく。

 

 

 

山口正博 社会保険労務士事務所
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