2つの会社で社会保険に加入すると、社会保険料も会社ごとに按分するの?

健康保険法施行令47条が適用される可能性はあるのか


社会保険に加入するときは、会社員の場合、会社経由で手続きをします。フルタイムで働いているならば、その会社経由で社会保険に加入し、被保険者資格を取得します。

ここまでは何も特別なことはなく、至って普通のことです。

では、1つの会社だけでなく、他の会社でも働いている場合はどうなるか。

例えば、会社Aでフルタイム勤務(週40時間で勤務すると仮定します)で働き、同時に、会社Bでは週21時間働いている場合、社会保険料はどうなるのか。他にも、会社Aで週19時間勤務し、会社Bで週22時間勤務したら、社会保険料はどうなるのか(これはパートタイムを2つ組み合わせた場合ですね)。

さらに、現実には難しい働き方ですが、会社Aでフルタイム勤務、会社Bでもフルタイム勤務であった場合、社会保険料はどうなるのか。

1つの会社だけで働き、社会保険もその会社経由で加入している人にとっては、何のことか分かりにくい話ですが、複数の会社で同時に働いている人にとっては、社会保険をどのように取り扱うかで悩むときがあります。

実務では、2つ以上の事業所で勤務する場合、年金事務所を選択する手続きが用意されています。

健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届(日本年金機構)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/jigyosho-hiho/hihokensha1/20131022.html

被保険者が同時に複数(2か所以上)の適用事業所に使用されることにより、管轄する年金事務所または保険者が複数となる場合は、被保険者が届出を行い、年金事務所または保険者のいずれかを選択します。



健康保険法でも、2つ以上の事業所で勤務する場合を想定している規定があります。

健康保険法 161条4項(以下、161条4項)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/T11/T11HO070.html

被保険者が同時に2以上の事業所に使用される場合における各事業主の負担すべき保険料の額及び保険料の納付義務については、政令で定めるところによる。


この政令というのは、健康保険法施行令のことで、該当する部分は47条です。

健康保険法施行令47条(以下、施行令47条)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/T15/T15CO243.html

47条の内容は、各事業主が社会保険料を按分で負担するというものです。

では、実際にスンナリと按分できるのかどうか。ここが問題です。


ポイントは、「被保険者が同時に2以上の事業所に使用される場合」という言葉の意味です。

「被保険者が2以上の事業所に使用される場合」とはどういう状態か。


「被保険者が同時に2以上の事業所に使用される場合」という部分をどう解釈するかがポイントになりますが、これはどのような状態を意味するのか。

単に2つの会社で働いているだけで該当するのか。まず、「被保険者」と書かれているので、社会保険の被保険者資格を取得している人が対象となります。

ここで、被保険者資格は1人につき1つしか持てないとすると、いずれかの会社経由で被保険者資格を取得していると想定できます。

2つの会社で勤務している場合、いくつかの組み合わせが考えられます。

例えば、事業所Aでフルタイム勤務(週40時間で勤務すると仮定します)で働き、同時に、事業所Bでは週21時間働いている場合(Case 1)。フルタイムとパートタイムの組み合わせですね。

Case 1
事業所A:週40時間勤務。
事業所B:週21時間勤務。

この場合は、事業所Aを経由して社会保険に加入します。同時に、ここで被保険者資格を取得します。一方、事業所Bの方では、社会保険に加入せず、被保険者資格も取得しない。

では、Case 1に該当すると、「被保険者が同時に2以上の事業所に使用される場合」にあてはまるのか。事業所Aを経由して社会保険に加入しているので、被保険者になっています。また、2以上の事業所に使用されています。ならば、161条4項と施行令47条に該当するのかというと、そうはならないでしょうね。

確かに、Case 1は「被保険者が同時に2以上の事業所に使用される場合」に該当しますが、事業所Bでは社会保険に加入する条件を満たさず、被保険者資格を取得していません。

もし、Case 1で、161条4項と施行令47条を適用して社会保険料を各事業所で按分すれば、事業所Bが反発します。「ウチで社会保険に入っていないのに、なぜ社会保険料が発生するのか」と。


次の例は、事業所Aで週19時間勤務し、事業所Bで週22時間勤務した場合です(Case 2)。パートタイム勤務を2つ組み合わせたパターンですね。

Case 2
事業所A:週19時間勤務。
事業所B:週22時間勤務。

この場合に社会保険の取り扱いはどうなるのか。Case 2では、事業所AでもBでも、社会保険に加入する条件を満たしていないので、被保険者にはなりません。

両方の勤務時間を合算すると、週41時間になり、フルタイム勤務と同等ですが、社会保険に加入するかどうかは事業所ごとに判断するため、事業所AもしくはBで加入条件を満たしていない限り被保険者資格を取得しません。よって、161条4項と施行令47条は適用されない。

なお、平成28年10月以降、社会保険に加入する対象者が拡大しますので、週20時間以上かつ月額賃金8.8万円以上であれば、週22時間勤務している事業所Bを経由して社会保険に加入する可能性があります。

もし、事業所Bを経由して社会保険に加入した場合は、先ほどのCase 1と同様に、社会保険料を計算する際には、事業所Bのデータのみが使われます(事業所Aでは社会保険に加入しないため)。事業所Aを含めると、先ほどのように「ウチで社会保険に入っていないのに、なぜ社会保険料が発生するのか」とレスポンスが来ます。


3つ目の例として、事業所Aでフルタイム勤務、事業所Bでもフルタイム勤務であった場合を考えてみましょう。

Case 3
事業所A:週40時間でフルタイム勤務。
事業所B:週40時間でフルタイム勤務。

似た例として、週30時間以上のパートタイム勤務を2つ組み合わせる場合もありますね。

事業所A:週30時間以上のパートタイム勤務。
事業所B:週30時間以上のパートタイム勤務。

前者だと、合計で週80時間勤務。後者は、合計で週60時間勤務になります。

週60時間となると、1日あたり残業無しでも12時間勤務になります(週5日出勤と仮定)し、週80時間だと、1日あたり16時間勤務です。

何とも非現実的な例ですが、Case 3の場合だと、事業所AとB、両方で社会保険に加入する条件を満たすので、161条4項と施行令47条が適用されます。



いずれの事業所でも被保険者である必要があるのか。


「同時に2以上の事業所に使用される」という部分を解釈するのは難しくないでしょう。2つ以上の会社に在籍して仕事をするだけです。

問題は、「被保険者が」という部分です。

2つ以上の事業所に所属し、いずれでも被保険者になれる状態である必要があるのか。それとも、いずれか1つの事業所で被保険者であれば、161条4項と施行令47条が適用されるのか。この点が不明です。

もし、前者の解釈を選択すると、先ほどのCase 3の場合しか161条4項と施行令47条が適用されません。

週60時間、週80時間となると、これほど長時間労働ができる人は限られてきますよね。残業無しで1日12時間勤務または16時間勤務ですから、こりゃぁもう超人です。平成28年10月以降、週20時間以上の勤務で社会保険に加入するようになったとしても、最低でも週20時間+週20時間という組み合わせになり、パートタイムでも週40時間以上の勤務が必要になります。

では、後者の解釈を選択するのか。後者の解釈ならば、Case 3だけでなく、Case 1はもちろん、Case 2も平成28年10月以降ならば、161条4項と施行令47条が適用される余地があります。

ただ、片方の事業所では社会保険に加入する条件を満たしているものの、もう片方では社会保険に加入する条件を満たしていない状況で、社会保険料を双方の事業所で按分負担するとなると、後者の事業所は納得しないでしょう。これはCase 1とCase 2で指摘した通り。

加入者のデータについては、マイナンバー制度もできたことですし、名寄せしようと思えばできるでしょう。また、社会保険料を賃金に合わせて按分することも数字上は可能です。あくまで数字上は、です。

しかし、社会保険に加入する条件を被雇用者が満たしていない事業所に対して、社会保険料を按分負担せよとなると、無理があります。


では、161条4項と施行令47条は、いつ、誰に適用されると想定して設けられたのか。

山口正博 社会保険労務士事務所
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