普通の労災ともう1つの労災。
仕込み作業中に包丁で手を切ってしまった。
高いところに置いている什器を取ろうとして、荷崩れが起き、落下した什器が顔にあたって唇を切った。
建築資材置き場から飛び降りた時に足をケガした。
こういう事故は典型的な労災ですね。
労災というと、仕事中の怪我、業務が原因となった病気、あとは通勤災害も労災の一部です。
職場の環境や自分自身が原因で病気になったり怪我をすると、確かに労災ですが、もう1つ違うパターンの労災があります。
それは、第三者が原因となった労災です。
例えば、仕事中に、部下が何らかのヘマをして、上司が注意したけれども部下がマジメに注意を聞いていないと感じ、上司がプッツンして部下を右頬殴った。その結果、部下は口の中を怪我し、病院で治療を受けた。
これが第三者が原因となった労災の例です。
仕込み作業中に包丁で手を切ってしまったならば、これは誰かが自分の手を切ってきたのではなく自分でやったことです。これは普通の労災。什器を取ろうとして怪我をしたり、資材置き場から飛び降りて怪我をしたり、こういう場合でも誰かが原因となった事故ではなく、あくまで自分で起こした事故です。これらも普通の労災ですね。
しかし、仕事中に上司の鉄拳で口を怪我すれば、これは自分で起こした事故ではなく、第三者である上司が起こした事故です。だから、これを労災保険では普通の労災とは分けて「第三者行為災害」と言います。
自分が原因ではない労災。
第三者行為災害が起こると、これも労災の一種ではあるのですが、労災の費用を事故を起こした本人に政府が請求できるのです(この場合の請求を、「求償」と表現します)。
普通の労災は自己負担なしで病院に行けるのですけれども、第三者が原因となって起こった事故は、原因を作った側にも労災給付に必要となった費用を負担してもらう仕組みになっています。
第三者行為災害のしおり(厚生労働省)
ここでは、「へぇ~、そういうカタチの労災もあるんだねぇ」というぐらいの理解で十分です。頻繁に起こるようなことではないですから、詳しいことを知らなくても特段に困ることはないでしょう。
上記の事例では、部下が上司の注意をチャンと聞いていなかったことが原因なのだから、部下にも責任があると思えます。そのため、労災の費用の全額を政府が上司に請求することはないのかもしれません。
本人に責任がある部分は普通の労災として扱うべき範囲ですから、本人にも責められる部分があるならばその範囲で上司への請求も減額されてしかるべきと考えられます。
とはいえ、どれぐらいを求償するかは政府が裁量的に判断することなので、予め推測しにくいのですが、「保険給付の価額の限度で求償」するとなれば、満額求償以外の選択肢があると考えられます。
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