何らかの疾患のために薬が必要になった場合、まず考えるのは病院に行くことでしょう。体に不調があれば、まず病院。このように考えている方も少なくないはずです。
病院に行けば、健康保険で診察や治療を受けて、薬まで処方してくれますから、便利といえば便利です。
しかし、「あえて病院に行くほどでもないな」と考えて、ドラッグストアで薬を買って対応する人もいます。当然ながら、ドラッグストアで健康保険は使えませんので、薬を購入する費用は自己負担です。
一方は健康保険を利用して薬を手に入れ、もう一方は自己負担で薬を購入する。この差をどう考えるか。
2017年1月から、「セルフメディケーション税制」という制度が始まっており、病院経由で薬を処方してもらうのではなく、ドラッグストアなどで医薬品を購入する場合には、一定額以上の購入額に達すると所得控除を受けられるのです。ダイレクトに健康保険を適用できるわけではありませんが、所得控除という形で間接的に費用を軽減する仕組みです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について |厚生労働省
年間で12,000円を超えた部分が所得から控除されますので、例えば年間で合計30,000円の医薬品を購入した場合は、18,000円が所得から控除されるというわけです。
ただし、対象となる医薬品はOTC医薬品というものに限られ、これは医療用から市販用に転用された医薬品で、対象商品は限られています。ドラッグストアで売っている全てのものが対象ではないのが注意すべきところです。
また、年間で12,000円以上もOTC医薬品を購入するかというと、これは微妙です。普段から、病院にはなるべく行かずに、ドラッグストアで薬を購入している人ならば達する金額かもしれませんが、ドラッグストアでは滅多に薬を買わない人だと年間12,000円のハードルは高いでしょう。
さらに、後から確定申告の手続きが必要な点もネックです。会社員の方は、源泉徴収と年末調整があるため、自分で税金関連の手続きをする機会が少ない。そのため、セルフメディケーション税制の中身を理解して、それを確定申告に反映させる必要があるとなると、「こりゃあ、面倒だな」と感じてしまいます。しかも、控除額は最大で88,000円までですから、所得控除の手続きを放棄する人もいると思います。
https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1120.htm
医療費を支払ったとき(医療費控除)|所得税|国税庁
ちなみに、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制による控除はトレードオフになっていて、セルフメディケーション税制を利用した場合は通常の医療費控除(最大で200万円)は利用できなくなります。
病院で薬を受け取るとなると、その場で健康保険を適用できますので、費用は3割負担になります。また、後から医療費を控除する手続きもしないで済みます。
風邪でも健康保険を使えますし、関節痛や筋肉痛ですら病院で塗り薬や湿布薬を出してもらえます。足を捻挫しても、軽い火傷でも、病院で健康保険を使えてしまうのが現状です。
ならば、あえてドラッグストアで薬を購入するよりも、病院で健康保険を適用して受け取る薬の方が料金が安いし、手間も省けるので、「じゃあ、病院に行くか」と考えてしまうわけです。「薬局で買うよりも病院でもらえる薬の方が効く」というイメージを抱いている人もいますし、薬局に行くよりもまず病院へという判断は合理的です。健康保険制度に負担がかかるという点では合理的ではありませんが、制度の財政よりも自分の財布のことを考えるのが人間です。
さらに、健康保険料も高額ですので、モトを取る気持ちで病院に行く人もいるでしょうから、なおさら自分で薬を買って対処しようとは思わないのです。
私も、たまにドラッグストアで医薬品を購入する(筋肉痛に使う塗り薬や湿布薬など)のですけれども、購入費は年間でも2,000円ぐらいじゃないかと思います。主に購入するのは飲み物や食べ物が多く、スーパーの代わりにドラッグストアを利用しています。
健康保険が簡単に使える状況があり、さらに医療費が多くなれば高額療養費制度があります。その後には税金での医療費控除まで用意されています。このような状況で、あえて自己負担で医薬品を購入するかと言われれば、なかなかそういう行動は取れないものです。
理想としては、市販薬で対応できる範囲の症状(風邪や捻挫など)ならば、病院の窓口で病院側が診察を断り、「この症状の場合は、こういう市販薬を利用すればいいですよ」と伝えて、薬局なりドラッグストアに誘導したいところです。病院で長い時間待たされることを考えれば、ドラッグストアで医薬品を購入して対処できるならば助かります。
しかし、病院がそういう対応を取ると、来訪者からクレームが出て、それが政治家に伝わり、分け隔てなく患者を受け入れるべきという要求が出てきます。そのため、軽い症状は自分で対処し、それを超える場合は病院に。という形の役割分担ができないのが今の状況です。
所得控除が発生するラインを年間12,000円から5,000円ぐらいまでハードルを下げて、対象となる医薬品もさらに広げ、「病院に行くよりはこっちのほうがいい」と人に思わせるところまで持っていかないと、健康保険への依存は減らないでしょう。
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