あやめ社労士事務所 - 労務管理のツボをギュッと押す方法を考えます

あやめ社労士事務所は、会社で起こる労務管理の問題を解決するサービスを提供しています

帰宅途中の通勤で交通事故(通勤災害) 会社に責任はある?

マイカー通勤承認「会社に責任」 滋賀、事故被害者の両親訴え
http://kyoto-np.co.jp/politics/article/20170627000150(リンク切れ)

 2015年2月に滋賀県米原市内で車にはねられて死亡した男子高校生=当時(16)=の両親らが27日、運転していた男性の勤務先の旧三菱樹脂(現三菱ケミカル)に対して1億9千万円の損害賠償を求めて大津地裁に提訴した。男性は同社の承認を受け、ガソリン代を支給されてマイカー通勤していたことから、両親らは同社にも責任があるとしている。

 訴状によると2月27日午後6時50分ごろ、当時高校2年生だった大槻祐仁さんは信号のない交差点の横断歩道を歩行中、滋賀県長浜市内の勤務先から帰宅する男性が運転する速度超過の乗用車にはねられ、その時のけがが原因で5月21日に死亡した。

社員がマイカーで通勤しており、帰宅途中に事故を起こし、相手を死亡させた。この場合に会社は責任を負うのかどうか。ここが問題の焦点です。


事故が起こったのは、午後6時50分で、時期は2月の27日。2月の午後7時頃となると、もう辺りは真っ暗です。5時頃には薄暗くなり、6時にはもう夜が始まる感じで、自転車やクルマはライトを点灯しないといけないぐらいの暗さです。さらに、6時50分だともう完全に夜です。夏の6月だと午後7時でもまだ明るいんですけどね。

そういう暗い時間帯に、信号のない交差点を渡っていた高校生が自動車にはねられて死亡した。

普通の交通事故ならば、運転者の責任で後処理が行われて、他に考えるべき点はないのですけれども、帰宅中の会社員が事故を起こしたものですから、ちょっと考えるところがあります。

勤務先から帰宅している途中での交通事故なので、単に運転している人の責任だけでなく、使用者側である会社にも責任があるのではないかが問題となります。

確かに、民法の715条には使用者の責任について記述があります。

民法715条(以下、715条)
 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

交通事故は事故を起こした本人の責任ですが、今回は715条を根拠に、使用者である企業にも連帯して責任を負わせられるかどうかが焦点になります。


事業を執行する際に、第三者、今回の場合だと高校生ですが、その方に被用者(雇われている社員)が損害を与えると、使用者は責任を負うわけです。

例えば、勤務時間中に営業車に乗って移動している際、横断歩道で高校生と接触し、死亡させたとなれば、まさに715条が当てはまるケースです。

しかし、今回の事例は、仕事が終わって、社員自身が所有する自動車に乗って帰宅する過程で起こった事故です。つまり、勤務時間中の事故ではないのが考えどころです。

乗っていたのは会社の車ではないし、勤務時間中の事故でもない。にもかかわらず、使用者である会社に責任を求められるかどうか。

「もう仕事は終わった後の出来事なのだから、会社の責任ではなく本人だけが責任を負うべき」と考えるのか。それとも、「帰宅途中であっても通勤中だし、通勤中の事故は労災保険の対象になるのだから、使用者にもある程度の責任はあるんじゃないか」と考えるのか。

なかなか悩ましい問題です。



マイカー通勤を承認して、燃料費を支給していたというだけで会社に責任があるという理屈はなかなか通しにくいでしょう。

業務中で、会社が管理権を行使できる範囲内ならば、使用者の責任も問いやすいのですけれども、退社して帰宅している途中の出来事となると、もう会社は管理できない範囲になります。

通勤している時間というのは事業の執行中なのかどうか。ここも物議を醸すところでしょう。通勤そのものは業務ではないですから、その通勤中に事故が起こっても715条は適用されないのではないか。

しかし、通勤は事業の付随行為であると考えて事業に含む解釈もあり得ます。通勤しなければ仕事もできないという両者の密接な関係を考えれば、通勤も事業に含まれると解釈される可能性はあります。



この715条の使用者責任は、随分と使用者が不利になるように解釈される傾向があります。

「ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」という部分を読むと、相当の注意をした場合は使用者は責任を負わないと解釈できます。

ならば、例えば、マイカー通勤する社員が自賠責保険に加入しているか、任意保険にも加入しているか、免許証はチャンと持っているか、有効期限は切れていないか。マイカー通勤者への講習、注意喚起をしていたか。運転時に注意が散漫になるほどの仕事による負荷が生じていなかったかなど。このような「相当の注意」をしたならば、使用者は責任を負わないとも思えますが、そうならないのが法律です。

事業を遂行することで使用者は利益を得ているので、その過程で発生した損害も使用者が引き受けなければいけない、という理屈が法律の世界にはあります。そのため、715条に基づく使用者の責任は随分と認められやすくなっているのです。


通勤は本人がコントロールしている範囲ですし、運転も本人の運転技能、注意力などに依存します。つまり、会社がコントロールできないことなのに、責任を負わされる。ちょっと酷な感じはします。


交通事故でしたら、運転者の任意保険で賠償できる範囲です。自賠責には補償に上限がありますが、任意保険は対人賠償が無制限に設定されているものが主流ですので、仮に賠償金が1億9千万円であっても支払えます。

任意保険で賠償できるならば、使用者責任まで追求しなくてもという感もあります。ただ、個人間の賠償よりも、使用者を巻き込んだほうが賠償額が多くなるという目論見もあって、今回は会社の責任もあるのではないかという論点を持ち込んだとも思えます。


まだ裁判は始まったばかりですから結論は分かりませんが、やはり仕事が終わって帰宅する途中での事故ですので、使用者である会社の責任はゼロではないものの、その程度は少ないものになると思います。

 

 

あやめ社労士事務所
大阪府大東市灰塚6-3-24
i@growthwk.com
人事労務管理の悩みを解決するために問い合わせる

自動音声メッセージによるお問い合わせもできます。
電話(050-7114-7306)をかけると音声メッセージを録音するように切り替わります。
お問い合わせの内容を電話でお伝えください。
内容を確認させていただき折り返しご連絡させていただきます。

© あやめ社労士事務所
登録番号:T3810687585061
本ウェブサイトは、アフィリエイトによるプロモーション、広告を掲載しております。