法律で認められている生理休暇を使おうと思っても使えない
労務管理には休暇というものがあって、よく知られているのは有給休暇でしょうか。他にも、慶弔休暇とか、資格取得休暇、アニバーサリー休暇などというものもありますね。
2014年2月時点では、「失恋休暇」というものもあるようで、まあ多種多様な休暇があるもんですね。
(参考)
「失恋休暇」を制度化した理由 美容院経営のチカラコーポレーション
休暇の中には、「生理休暇」というものもあって、これは女性社員が利用する休暇なのですけれども、この名称は未だに使われているのでしょうか。
体に負担がある生理現象ですから、休暇を設けることはいいとしても、名称については何とかならないものかと思案しています。
例えば、会社で、女性部下と男性上司が同じ職場で仕事をしていて、この女性部下は生理休暇を取得できるのかどうか。
男性の上司に生理休暇を申請するとなると、気持ちに抵抗感があるのではないでしょうか。私は男性ですから、女性の気持ちを全て理解することはできませんけれども、心理的な抵抗感は想像できます。
生理休暇という名称を何か別の名称に変えれば、心理的な抵抗感を低減できるのではないか。そう思います。
名称で印象が変わる ネーミングは大事
例えば、「女性休暇」とか、「スマイル休暇」とか、生理を想像させにくい名称に変えたらどうでしょう。
しかし、「女性休暇と名称を変えても実質は生理休暇なのだから、一緒でしょ?」という反応もありそうです。
確かに、表面的な名前を変えているだけであって、どういう理由で休暇を取得したかは分かってしまう。これは欠点ですね。
現実には、生理休暇を申し出るのではなく、普通に「風邪をひいたので休みます」と偽って休む人もいるのではないでしょうか。休めればいいわけですから、あえて生理休暇という名称を使わずとも、他の理由で休めばいいと判断するのです。
ただ、生理休暇は特別扱いされている場合があって、毎月1日までならば有給で休める会社もあるのではないでしょうか。
有給であっても、「給料なんて要らない。生理休暇という名前を使って休むのがイヤ」と考える女性もいそうです。「生理休暇取るって言える人いる?」と反応することも。
ここまで敏感に考える必要もないかもしれませんが、こういう問題で悩んだりする人もいるかもしれません。
生理休暇を利用しにくい要因として、「男性上司に申請しにくい」が61.8%、「利用している人が少ないので申請しにくい」が50.5%と高い割合になっている。
女性労働者のうち、令和2年度中に生理休暇を請求した者の割合は0.9%。
女性労働者がいる事業所のうち、令和2年度中に生理休暇の請求者がいた事業所の割合は3.3%。
(働く女性と生理休暇について 令和5年9月28日 厚生労働省 雇用環境・均等局雇用機会均等課)
名称を変える以外に、女性限定で有給休暇を加算しておくのもいいかもしれない。具体的には、毎月1日分だけ特別に有給休暇を加算しておいて、翌月以降に持ち越さない休暇として扱えば、実質的に生理休暇を代替できるのではないでしょうか。有給休暇ならば使用目的をゴマかせるので、良い方法だと思います。
しかし、男女に差が生じると、差別とも言われかねないのがネックです。女性限定で有給休暇を加算するとなると、男女で待遇に差を設けていると指摘されるかもしれない。ただ、性差を埋める手段として考えれば、必ずしも差別とまでは言えなさそうですが、どうでしょうね。
男性の私がこんなテーマで話を展開しても説得力が乏しいのでしょうが、生理休暇という名称はもうそろそろ何とかしないといけないんじゃないかと思います。
産休、育児に関することは隠すほどのことでもないですが、生理休暇となるとあまりオープンにできない事情があります。
生理休暇の取得率が0.9%まで低下したとの内容は、平成27年度の雇用均等基本調査に書かれています。
「平成 27 年度雇用均等基本調査」の結果概要 - 厚生労働省
23ページに該当箇所があります。
生理休暇の取得率が下がる最大の原因は、心理的な抵抗感にあります。休暇を利用するには申請が必要ですが、申請すれば自分が生理だと他の人に知られます。女性に知られるだけならばまだしも、職場に男性もいるならば、抵抗感は増します。
さらに、毎月、一定の時期、例えば毎月20日前後に休暇を取得すれば、生理の周期まで人に知られてしまいます。
他の休暇と違って、センシティブな要素を考慮しないといけないのが考えどころです。
第68条
使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。
労働基準法の68条には確かに生理日への対応について書かれており、これに違反すると30万円以下の罰金です。
私は男性側なので休暇を利用する機会はありませんが、女性の立場で考えると、男性社員が多い職場だと、まず生理休暇は取れませんね。法的に認められているとしても、「生理休暇」という言葉を出すことすら難しい雰囲気ではないかと思います。
さらに、女性の体には個人差があり、月経時の負担が大きい人がいれば、そうではない人もいます。動けないほどツライとか、何もヤル気が湧かない、体が痛くて動けない。そういう人がいる一方で、ほとんど体に負担が無い人もいます。
この個人差をどうするかも悩みどころ。負担が大きい人は休暇を取るし、そうではない人は休暇を取らない。こういう差が生じることになります。
さらには、「本当に生理なのか?」という質問をされる場面があったら、どう思うか。休暇を申請したとして、理由を疑われるとなると、これまたキツイ。中には、(実際はそうじゃないけど)生理を装って休暇を取ってやろうという女性もいるのかもしれませんが、休暇の取得理由が事実だったときの傷付き感というかショックはデカイでしょう。
心理的な抵抗感があり、休暇を利用しにくい。さらに女性間でも差がある。けれども、労働基準法では生理休暇を設けるように要求している。
この問題をどうやって解決するか。
私が提案する解決法は、有給休暇を利用する方法です。
法律で付与日数が決まっている有給休暇ですが、これを企業独自に上乗せして増やします。この増やされた休暇でもって、生理日にも対応するわけです。
有給休暇の利点は、
- 生理の負担が大きい人もそうでない人も休暇を利用できる(負担が軽い人は他の目的に休暇を利用できるのでハッピー)。
- 男性社員も休暇が増える。対象が女性だけではないので(男性社員の休暇が増えて嬉しい)。
- 具体的な理由を伝えなくても休暇を取得できる(理由を隠蔽できるため)。
この3点です。
女性間の差を解決(利点1)し、男性と女性との間の差も解決(利点2)。さらに、心理的な抵抗も払拭する(利点3)。
法定の生理休暇は取得率0.9%なので、現実的に取れないのですから、上乗せした有給休暇で吸収するのが妥当な解決策です。
ただ、法律で決まった分の有給休暇を半ば強制的に使わせると、自由に利用させていないことになるので、会社独自に日数を加算して対応します。
「じゃあ、何日上乗せするの?」という疑問が生じますが、これは会社ごとにチューニングが必要です。
月経は28日周期で起こるので、必要な人は毎月、休暇が必要になります。ということは、最大で年に12日も必要なのだが、これは悩ましいところ。
そこで、他の休暇制度(慶弔休暇、誕生日休暇など)を全廃して、有給休暇に一本化し、全社員を対象に、年に12日の有給休暇を会社独自に上乗せする。生理休暇だけでなく、他の目的で利用する休暇も混ぜてしまうのです。
取得率が1%を下回ったということは、もう68条は形骸化しています。しかし、意識を向けさせる効果(アナウンスメント効果)はあるでしょうから、68条そのものはそれでいいと思います。
68条の休暇は心理的な抵抗感のために取れないとしても、その代替措置として有給休暇を置いておく。つまり、法制度がうまく機能しない部分を有給休暇でフォローさせるわけです。
女性社員に無給の休暇を毎月1日付ける
女性社員に毎月1日、無休休暇を付けると、生理休暇について判断する必要がなくなります。
労働基準法68条(以下、68条)には生理日の就業について規定があります。
第68条
使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。
個人差のある現象ですから、休むほど負担が大きい人もいれば、そうでない人もいます。それを区別して、ある人は休んで、ある人は休まずに通常通りに出勤して、とふるい分けていくのも労力が必要です。休まない人は不満に感じることもあるでしょうね。男性の上司だと気を使いますし。
そこで、毎月1日、女性の従業員には無給の休暇をつけておくことで、68条に対応した職場にできます。給与計算期間の1ヶ月間のみ有効で、持ち越しなしという条件にすればどうでしょうか。
男性の従業員には付かない無給の休暇ですけれども、68条に根拠のある無給の休暇ですから納得できるものでしょう。
休暇のネーミングも「生理休暇」ではなく「68条休暇」のように生理という文字を使わないと良いのでは。
毎月1日、条件無しで無給休暇が付くわけですから、必ずしも生理日を理由に休みを取る必要はなく、他の用途で使ってもらっても構わないわけです。
特定の日が分かると、それはそれでセンシティブな部分がありますから、どういう用途で毎月1日の無給休暇を使ったかが分かりにくいようにしておくのも配慮ですよね。
毎月1日、条件無しで女性の従業員に無給の休暇を1日付けると、生理休暇について職場の上司が判断する必要がなく、さらに本人も気を使う必要がなくなりますから、労使ともに望ましい仕組みになるのではないかと。
無給の休暇を毎月1日付けるにあたって年齢で区別すべきかどうか、この点について悩むところです。
閉経すれば生理日もなくなりますが、これもまた個人差のあることですし、無給休暇が付かなくなったということは閉経したのかと他の人に知られてしまいますから、年齢を問わずに毎月1日の無給休暇を付けたほうが気を使わなくて良いのでは。
年齢で分けるとなると、個人別に生理が終わったのかどうかを本人に聞かなければいけなくなりますし、 こういったことを聞くのはさすがに気が引けるものですから、やはり年齢の条件無しで無給休暇を付けていく方が望ましいでしょうね。
特別有給休暇を会社独自に加算して対応する方法
女性だけに独自の休暇制度を作ると、男性社員の方には休暇が付かず不満を感じる方もいるでしょう。
そこで、男女問わずに会社独自に有給休暇の日数を加算しておくことで、理由を問わずに使える有給休暇をそれぞれの個人的事情に合わせて使えるようにします。
特別有給休暇という形ならば、会社で設計できますから、日数や取得日の給与も独自に作れますね。
- 男女を問わない。男女差が無い。
- 取得理由を問わない。周りの人に気づかれにくい。
- 取得手続きが簡素なもので済む。診断書は不要。
- 体に生じる個人差を考慮する必要がない。
体調を整えるために有給休暇を使ってもいいですし、女性に限らず男性も対象になっているので不公平に感じることもありません。無休ではなく有給になる点も歓迎される点です。
特別有給休暇だと目的を限定した休暇ではありませんので、取得理由も「私用のため」と伝えるだけで具体的な理由を明示する必要がなく、感情的にも生理休暇より使いやすくなります。
目的別の休暇制度を特別有給休暇に集約していくと休暇を取りやすい職場になるのではないでしょうか。