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やっぱ退職はナシで 退職を撤回することはできるの?

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退職願と退職届は違うの?

「退職する手続きをしたんですけれども、やっぱり仕事を続けたいので、退職を撤回してください」

退職するかと思っていた人が翻意して退職を撤回する。こんな場面に遭遇した人はそう多くないかもしれませんが、ゼロではないだろうと思います。

自分自身が退職を撤回する立場であれ、退職を撤回される会社側の立場であれ、経験した人はいるのではないでしょうか。


退職する方法は、大きく分けて2つあります。口頭で退職を伝える方法と文書で退職を伝える方法です。

小規模なお店や会社だと、退職するときは口頭で「今月いっぱいで辞めさせていただきたいんですけど、、、」とか、「来月で退職したいんですけど、、、」という感じで直属の上長やお店の店長に伝えたりするのではないでしょうか。

私も、学生時代にバイトをしていたときは、退職届や退職願を書いたことはありません。高校から大学までの間に、8箇所ほどの会社で働いたことがありますけれども、退職の時に書面を作成した記憶がありません。

口頭で退職を伝える以外に、文書を渡して退職の意思を伝える方法もあります。退職願を作成して会社に提出するか退職届を作成して会社に提出するか。文書での手続きはこの2つが多いのではないでしょうか。


では、口頭で退職の意志を伝えた後に、上記のように退職を撤回することができるか。また、退職"願"で退職の意思を伝えた後に退職を撤回できるか。さらに、退職"届"で退職の意思を伝えた後に退職を撤回できるか。

口頭であれ、退職願であれ、退職届であれ、後から撤回はできる、と考えるのか。

それとも、退職届で手続きしたときは撤回できないけれども、口頭と退職願で手続きしたときは撤回できるのか。

はたまた、どの方法でも退職の撤回はできないのか。


口頭、退職願、退職届、手段は3つありますが、それぞれで効果は違うのかどうか。違うとすればどのように違うのか。それとも、どの手段でも効果は同じなのか。

ちなみに、上記での「退職の撤回」というのは、社員側が退職の意思を会社に伝えて、社員側の都合と判断で撤回することを意味します。つまり、会社側は退職の撤回に介入していないと考えてください。一方的に退職すると伝えて、一方的に退職を撤回する。そんな場面を想定していただければ良いかと思います。



退職願だから社員は一方的に撤回できる。それでいいの?

まず結論から書くと、口頭、退職願、退職届、いずれの方法であっても社員側から一方的に退職を撤回することはできない。なぜならば、会社側の期待を損なうから。

自分の意思で退職すると伝えている社員側から一方的に退職を撤回する。これってちょっと気になる点がありますよね。「会社は一方的に撤回されちゃうの?」、「 何も判断はできないの?」、「 ちょっと都合が良すぎるんじゃないの?」など。つまり、会社と社員の間の関係がアンバランスなのですね。

会社は、社員から退職することを伝えられると準備を始めます。人がいなくなるわけですから、新しい人を募集したり、業務の引き継ぎをしたり、会社が貸与している物(ユニフォームや社員証など)を返還してもらったり、送別会の日程を決めたり、退職金の計算をしたり、残った有給休暇を処理したり。チョコチョコとやることがありますよね。

こういう準備を進めているのに、ある時、突然に「やっぱり退職しません」と言われれば、会社の人たちは戸惑います。

会社は「藤村さんは退職するのだな」と考えて手続きをすすめるはずですから、いきなり藤村さんから「退職せずに仕事を続けます」と言われてしまうと、藤村さんが退職することを前提にして動いてきたことがオジャンになります。つまり、会社の「藤村さんは退職するのだ」という期待を損なっているわけです。

ゆえに、どんな形であれ一方的に退職を撤回することはできないのです。

退職するとなれば、社内でその手続きが進んでいきます。ハローワークで離職票を発行するために離職証明書を作るでしょうし、社会保険の被保険者資格喪失届も出します。保険証も回収して、都道府県の健康保険協会に送るなり、健保組合に送るなりしています。他には、貸与しているものを返却してもらうとか、クラウドサービスや社内システムのアカウント利用を停止なども行うのでは。

このように、退職すると伝えたあとは、色々な手続きが進められますから、従業員側から退職を取りやめると言っても、それを受け入れるかどうかは会社次第です。

会社で用意した退職届の用紙には、「提出後、退職の撤回はできません」と書いておかないといけません。

人によっては、「退職願ならば撤回はできるが、退職届ならば撤回できない」と言う人もいますが、「願」であっても「届」であっても、相手方である会社の期待を損なうという点は同じです。退職する手続きは同じように進めるわけですから、書面の名称が違うという理由で扱いを変えることはないでしょう。

それゆえ、退職願であっても社員側から一方的に撤回はできないし、退職届であっても同様です。

誰が退職の書面を受理したかで効果を変える判断もあるようですが、人事の担当者が退職の書面を受け取った場合と直属の上長が書面を受け取った場合で退職の効果が変わるのは不都合です。

本人は退職の書面を提出した段階で退職したと思うだろうし、受け取った方も書面を受け取った時点で退職したと考えるのではないでしょうか。もちろん、引き継ぎの作業や残務処理もあるでしょうから、単純に書面の提出時点を持って退職と考えるわけにはいかない。

退職の効果が発生していないならば、退職届けや退職願を提出した後でも退職を撤回できるというのも、さも妥当な判断のように思えますが、自分の都合で退職を撤回していることに変わりはありません。


退職の意思を会社に伝えた後は、その撤回を認めるかどうかは会社が決めることです。退職の意思を伝えた社員は一方的に撤回できないと考えるのが妥当です。ただし、会社側が退職の撤回について了承した場合は、あえて退職を有効にする必要はありませんから、退職は撤回されます。当事者(社員と会社)が納得していますからね。


民法93条を読むと、心裡留保(シンリリュウホ)というものについて書かれています。

(心裡留保)
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

どういう条文かというと、商品の売買で例えると、売るつもりがないのに売ると相手に伝えて、相手が買うと応じたときは、売り手は売らないといけないというものです。

退職すると伝えて、会社が退職に応じた。ならば、本人は退職しないといけない。形が似ていますよね。ただし、退職するつもりがないのに退職すると会社に伝えるわけではないので、心裡留保そのものの事案ではない。

心裡留保そのものではないけれども、意思表示された相手方(会社)を保護する点は同じです。

自らの意思表示を一方的に表示者(社員)から取り消すのは、相手(会社)に迷惑がかかる。それゆえ、意思表示の撤回には相手方の承諾を必要とするのが妥当でしょう。

ゆえに、口頭であれ退職願であれ退職届であれ、社員側からの一方的な撤回はできないと考えるのが妥当。ただし、会社側が撤回を承諾したならば、当事者双方が撤回について合意しているわけだから、あえて撤回できないとする理由はない。

退職すると伝えたならば、それを撤回できるかどうかは相手方である会社次第と考えるべきなのですね。

 

 

退職する手順には決まりがなく、会社ごとにバラバラだから退職を撤回する人が出てくる

一旦、「退職します」と会社に伝えて、退職する手筈を整えていたにも関わらず、後日、「やっぱり退職を撤回したい」と会社に伝えて来たら、その退職の撤回について会社は応じなければいけないのかどうか。

退職するとなると、その手続きの仕方は会社によって様々に違いがあります。単に口頭で、職場の上長に伝えるだけで退職が成立する会社もあります。「今月いっぱいで辞めます」と職場の直属の上司に伝えれば、それで退職の手続きができる。そういう職場もあるわけです。 他には、退職願を書いて出してもらう会社もあるでしょうし、退職届という書面を用意している会社もあるでしょう。

口頭で伝えるだけで足りる職場もあれば、退職願を自分で用意して出す必要がある職場もあります。退職届というフォーマットを会社が用意して、それを書いてもらう。そういう職場もあって、いずれの方法でも退職する手続きとしては間違ってはいません。

退職する手続きがきちんと定まっていないと、後から「やっぱり退職するのを撤回します」などという人が出てきてしまいます。雑な手続きにしていると、曖昧な態度で退職を撤回したいというような人も出てきてしまうんですね。 

「退職願」だから会社がはっきりと受理したことを証明しない限り、退職を撤回できるという屁理屈もありますけれども、現実には当事者が「退職がどの時点で成立するか」をどのように考えていたかどうか分かりません。

退職願を出した本人は、それを会社に届けた時点で退職が成立した、と考えるかもしれません。一方、受け取る側である会社としては、退職願を受け取るだけでは退職は成立せず、会社側が何らかのレスポンス(退職の辞令書など)を出した段階で退職が成立する、と考えているかもしれません。この場合、本人と会社では退職が成立するタイミングについて理解が異なっています。

口頭であれ、退職願であれ、退職届であれ、退職する社員が出てくるとなれば、会社としては退職する手続きに着手します。その手続きに着手をした時点で、退職が成立したと考えることもできます。例えば、離職証明書を作成し始めたとか、作った離職証明書を管轄のハローワークに送ったとか。他にも、社会保険の被保険者資格喪失届を提出したとか、健康保険証を会社が回収した。こういった退職に関連する手続きに着手した時点で、もう退職の撤回はできない、と考えることもできます。民法557条の「履行の着手」と同じ考え方です。

退職を撤回するのは本人の都合によるものですか、会社に何らかの責任があるわけではありません。本人の一方的な都合で退職を取りやめたいと伝えてきてるわけですから、それに応じるかどうかは会社側に主導権があると考えるのが自然です。

退職するかどうかは、退職すると会社に伝える前に十分に考えておくことであって、数日経ってから「やっぱり退職するのヤメます」みたいに、そう都合よくコロコロ変えられても 会社としては対応しきれません。

過去の判例では、本人が退職すると会社に伝えて、会社から退職の辞令書を交付するなど、雇用契約を解除するとの明示的な承諾の意思を示していなかったことでもって、退職の撤回ができる、事例がありました。しかし、明示的に雇用契約の解除を承諾した、というようなアクションがなかったとしても、退職するに際して必要な手続きに着手をした場合は、会社としては撤回に応じる必要もないのではないかと。

退職に対する承諾の仕方も会社にとって色々あるでしょうから、職場の本人と上長との間での話し合いでもって成立したと考えることも出来ますし、会社の本部のようなとこから何らかの通知でもって退職を承諾したと確定するところもあるでしょう。退職の手続きが確実に成立した時点というのは、会社によって違いがあります。

入社の手続きがルーズ(履歴書と面接だけで採用手続きを済ませてしまう)な会社はありますけれども、退職となるとさらに手続きがはっきりしていない会社が多いんです。

直属の上司に「来月いっぱいでやめます」みたいな形で伝えるだけで退職が成立する職場がありますし、他方で、退職願を書いて封筒に入れて上司に渡す会社もあるでしょう。さらに、会社が用意した退職届に記入して提出するところもあります。退職する際の手続きがはっきりと定まっていなくて、曖昧な状態だから、退職すると言った後に、やっぱり退職を撤回するという話も出てきてしまうわけです。

退職を撤回してほしい、認める、認めない、といったこのトラブルを防ぐためには、退職する際の手続きをきちんと就業規則で定めておく必要があります。一例としては、会社側で 退職届の書面を事前に作っておいて、その書面に記入してもらって、会社側に渡した時点で退職が成立する(提出後の撤回はできません、と注意書きも加えておくと良いですね)、というように決めておけば、退職する時点がはっきりと分かるようになります。

雇用契約書とは?意味や記載事項、労働条件通知書との違いを解説
契約書で決めた通りの内容をお互いに履行する。これが商取引では当たり前ですけれども、会社内の雇用契約では、雇用契約の内容と就業実態がずれてしまうこともあり、往々にして雇用契約が軽く扱われがちです。

 

退職の申出は何ヶ月前までにすればいいのか。短いと引き継ぎに難あり、長すぎると退職者の負担になる

退職する時期は、退職する本人が決めることですけれども、例えば、「今月末で退職します」とか「来月いっぱいで退職します」と伝えて退職するところでしょうが、ではどれぐらい時間的猶予を設けて退職するのがいいのか。

会社側としては、「1ヵ月前に退職を申し出なければいけない」とか「2ヶ月前に申し出るように」、「退職する3ヶ月前には申し出るように」というように義務付けたりできるのかどうかが疑問となります。

会社としてはなるべく早い段階で退職するかどうかを伝えてほしいと考えるものですから、退職する2ヶ月前、3ヶ月前といったかなり早い段階で退職することを伝えるように要求してしまいがちです。

退職するとなると、色々と手続きがありますし、仕事の引継ぎもあるでしょうし、その他細々としたことを処理するための時間として、2ヶ月なり3ヶ月を要求したいと思うところ。確かに、気持ちとしては分かります。 

雇用契約を解除するとなると、民法では2週間前までに通知すれば足りる(民法627条)と決められていますが、労働基準法では解雇予告には30日という基準を設けています(労働基準法20条)。

あまり早い段階で退職を申し出るように求められてしまうと、従業員側には負担です。例えば、退職する3ヶ月前までに退職することを伝えるように求めると、退職日まで時間的に離れすぎていますから、そんなに早い段階で伝えるのは負担だと感じるわけです。

退職って、意外と計画的に決めるようなものではなくて、「もう退職しようかな」、「やめようかな」という気分になった時に、退職することを伝える方が多いのではないでしょうか。3ヶ月前に退職を伝えられるほど計画的に考えて仕事を辞める方は少数派ではないかと。

一方で、あまり時間的猶予を設けずに、それこそ民法のルール通りに、2週間後にヤメますみたいにされてしまうと、退職に際しての引き継ぎや退職の手続き等は間に合わなくなって、これだと会社が困ることになります。

退職するときに、残った年次有給休暇を全部使って退職したい方もいるでしょうし、業務の引き継ぎもあります。会社から貸し出しされている備品やユニフォームといったものも返却しなければいけません。他にも、社会保険の被保険者資格の喪失手続き、雇用保険の被保険者資格の喪失手続きがあります。離職票が必要な人には、会社が離職証明書を作成して、管轄のハローワークにそれを送ってという手続きも必要ですから、こういったことを全部2週間で一気に終わらせるのはちょっと難しいのではないでしょうか。

退職日までの期間が短すぎると、会社はは対応できないこともあります。かといって、退職する3ヶ月前までに伝えるように、と長い期間をとってしまうと、従業員本人の負担になります。ですから、退職日までの期間は、短すぎず長すぎずというところを狙うと、「少なくとも1ヵ月前には伝える」のが妥当な、お互いに納得できる線ではないかと。

少なくとも1ヵ月前までには退職することを伝える、というルールだったら、仮に今現、月の中頃、6月の中旬だとすれば、「来月の7月末に退職します」と伝えた場合、1ヵ月ちょっとの期間がありますから、退職までの時間的猶予としては充分でしょう。

ゆえに、退職する申出は、「少なくとも退職日の1ヵ月前までに伝える」と就業規則に決めておくのが妥当でしょう。

引き継ぎを十分にせずに、短期間で退職してしまうと、会社によっては就業規則に基づいて懲戒処分がされることもあります。そうなると、出勤停止処分を受けて、残った年次有給休暇を消化できない不利益を被る可能性がありますから、やはり少なくとも退職日の1ヵ月前までには退職することを伝える、と求めるのが使用者にとっても労働者にとっても妥当な線であろうかと。

法律で基準を設けるのではなく、使用者と労働者がお互いに感情的に納得できる着地点はどこなのか考えるのも、労務管理では必要なことなのです。労務管理でのトラブルって、お互いに感情的に納得できないところから出発してることが多いように感じますから。 

 

社員の退社手続きをラクに終わらせるには?
人を採用して、その人が入社するとなれば、いろいろと手続きがあります。また、退職するとなった時も手続きが発生するのが労務管理ですから、その手続きをサポートしてくれるようなシステムがあれば助かりますね。
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