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雇用保険の新制度 マルチジョブホルダー制度とは? 65歳以上の従業員がいる職場が対象

雇用保険

 

65歳以上で、2つ以上の会社で働いている人が一定の条件を満たして雇用保険に加入するとき、「マルチジョブホルダー制度」という新しい制度の対象になります。この制度は2022年4月1日から始まります。

カタカナでマルチジョブホルダーと書かれると、複雑な制度のように思えますけれども、イメージとしては、パートタイムで2つの会社で働く、もしくは3つの会社で働く、このような複数の職場で働く方でも雇用保険に入れるようにするのがこのマルチジョブホルダー制度というものです。 

例えば、65歳以上の方がいて、2つの事業所でパートタイマーとして働いているとしましょう。雇用保険の加入条件の1つとして、「週所定労働時間が20時間以上」という点がありますので、事業所ごとに週20時間かどうかを判定します。

AとB、2つの事業所があったとして、事業所Aでは1週間あたり10時間勤務。Bでも1週間あたり10時間働いたとすると、合計で週所定労働時間が20時間になり、この方はマルチジョブホルダー制度の対象になります。

事業所ごとにバラバラに労働時間を把握されていると、週所定労働時間は週10時間になり、雇用保険に入れません。

それぞれの事業所で週10時間ずつ働いているとすると、合計すると1週間に20時間働いているので、雇用保険に加入する基準を満たしていますが、マルチジョブホルダー制度が無ければ、事業所毎に労働時間を把握して、雇用保険に加入するかどうかを判断しますから、1週間で10時間働く方だと雇用保険に加入しません。

事業所毎に所定労働時間が週10時間だと、事業所Aでも事業所Bでも雇用保険に入らないという働き方になります。

そこでマルチジョブホルダー制度を創設することで、労働時間を合算して週20時間以上になれば、雇用保険に加入できるようにしよう、というのがこの制度の目的です。

同時に2以上の事業主に雇用される場合は、主たる賃金を受ける事業主の方で雇用保険に入り、本来ならばどちらか片方を選択するようになっています。マルチジョブホルダー制度の対象になるのは65歳以上の方ですが、65歳未満の方の場合は、従来のように主に賃金を受ける事業主の方で雇用保険に入って、それ以外の事業者の方では雇用保険に入りません。 

労災保険では複数事業労働者に対する給付制度が作られていますから、雇用保険でも2つ以上の職場で働いている方に対する制度変更は今後も行われていくでしょう。

複数事業労働者への労災保険給付(厚生労働省)

マルチジョブホルダー制度も、2022年4月の段階では65歳以上が対象ですけれども、いずれ雇用保険に加入しているすべての被保険者を対象にマルチジョブホルダー制度が適用されて、各事業所での労働時間を合算して雇用保険に入るかどうかを判断していく。そういう制度に変わっていくだろうと予想しています。 

政府としても、雇用保険に加入してもらうことで雇用保険料を集める裾野を広げることができますし、高年齢被保険者も雇用保険から一時金(高年齢求職者給付)ではありますけれども失業手当が支給されるわけですから、お互いにそれなりの利点がある新しい制度です。 

職場に65歳の人たちがいて、その人たちが他の会社でも働いている。この条件を満たす職場では、この雇用保険法の改正によるマルチジョブホルダー制度の影響を受ける可能性があります。

 


高年齢被保険者とマルチ高年齢被保険者の違い

雇用保険の被保険者の区分は、大きく分けて4つあります。一般被保険者、高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者。これら4つの被保険者種別があり、多くの方は、雇用保険に入る時は一般被保険者の区分で雇用保険に加入しています。フルタイムで働く方やパートタイムで働く方は、一般被保険者の区分で雇用保険に入っています。

高年齢被保険者というのは、65歳以上で雇用保険に入る方の区分で、マルチジョブホルダー制度が適用されると、「マルチ高年齢被保険者」という区分になります。よく似た表現なので混同しがちですけれども、1つの会社だけで雇用保険に入っていれば高年齢被保険者になり、2つ以上の会社で雇用保険に入っていると、マルチ高年齢被保険者と呼ばれるようになります。

 

 

失業手当が毎月出るのではなく高年齢者求職者給付として一時金が支給される

65歳以上の方が失業すると、失業手当を一時金で支給され、高年齢者求職者給付が本人に支給されます。

雇用保険の失業手当というと、毎月、失業の認定をしてもらって、継続的に給付を受ける。そういう制度として認知されていますけれども、高年齢被保険者、もしくはマルチ高年齢被保険者の場合は、失業の認定をしてもらって、失業手当が月ごとに出る形ではないんですね。

雇用保険に入っていた期間が1年未満の方は、基本手当日額の30日分が一時金として支給され、1年以上雇用保険に入っていた方だと基本手当日額の50日分が一時金として一括で支給されます。これが高年齢求職者給付金です。離職の日の翌日から1年間が受給期限ですから、離職した後は速やかに高年齢求職者給付を受ける手続きをすると良いでしょう。 

基本手当日額というのは、イメージとしては在職していた頃の1日分の給与の5割から8割の間で決められる数字のことです。日給換算で1万円だったとすると、基本手当日額は大体その6割(6,000円)ぐらいかな、と想定していただければ、基本手当日額をおおよそで把握できます(年齢や賃金日額で個々に違いがあります)。給与が多い方の場合は基本手当日額が少なくなるようになっていて、一方で、給料が少なかった方は、基本手当日額が多くなるように設計されています。

 

 

3つ以上、4つ以上の職場で働いている65歳以上の人もマルチジョブホルダー

2つではなく、3つ以上の職場で働いている方もマルチジョブホルダー制度の対象にはなります。逆に、3つから2つに職場が変わったとしても、2つの職場で働いているわけですから、以前と同様にマルチ高年齢被保険者のままです。

片方の職場を離職して働く職場が1つになった場合は、マルチ高年齢被保険者から通常の高年齢保険者に切り替わります。また、2つの職場で合計した週所定労働時間が20時間未満となった場合は、マルチ高年齢被保険者の資格を喪失します。他には、1つの職場で週所定労働時間が20時間以上になったら、その職場だけで雇用保険に入ることになり、他の職場では雇用保険に入らなくなりますから、マルチ高年齢被保険者から通常の高年齢被保険者に切り替わります。

週所定労働時間が合算して20時間以上になっているかどうか。ここはマルチジョブホルダー制度が適用されるかどうかを判断する上でのポイントになっています。 


マルチ高年齢被保険者になる条件は3つあります。

  1. 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者である。
  2. 2つの事業所の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上である。なお、1つの事業所での所定労働時間が5時間以上20時間未満という条件もここに加わります。 
  3. 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上である。

ここでの条件では、2つの事業所という表現になっていますから、3つもしくは4つの会社で働く方であっても、そのうちの2つの事業所で条件を満たしていればマルチ高年齢被保険者になります。

働いている事業所全てで条件を満たす必要はなく、そのうちの2つの事業所で条件を満たしていれば対象者になるんですね。

例えば、事業所1で週15時間働き、事業所2では週8時間働いている。さらに、事業所3では週6時間働いている。このように3つの職場で働いている65歳以上の方がいるとしましょう。

2つの事業所での労働時間を合計して週20時間以上ですから、事業所1と事業所2を組み合わせると週23時間になりますので、この方はマルチ高年齢被保険者になります。この場合、雇用保険に入るのは事業所1と事業所2ですから、事業所3では雇用保険の対象外となります。

その後、事業所2での仕事を離職したとすると、事業所1と事業所3が残りますけれども、週15時間と週6時間を合わせると週21時間になりますから、1と3の組み合わせでもマルチジョブホルダー制度が適用され、この方はマルチ高年齢被保険者になります。

組み合わせる事業所が変わると、一旦、雇用保険の被保険者資格を喪失させて、その後、改めて新しい組み合わせで雇用保険の被保険者資格を取得する手続きをします。事業所の組み合わせが変わると、被保険者資格の喪失手続きと取得手続きが必要になるというわけです。 

考えだすと複雑に感じますけれども、職場に65歳以上の方がいるかどうか、その方が他の職場でも働いているかどうか、まずはここを把握するところから始まります。 

職場に65歳以上の方がいるならば、このマルチジョブホルダー制度の対象になるのかどうかについては調査しておく必要があります。もし対象になるなら、会社の方から情報を提供しておかないと、雇用保険の適用が漏れますので、会社の中で労務を担当する方は、このマルチジョブホルダー制度について知っている必要があります。

65歳となると既に定年退職している方が大半でしょうし、働くとしても、雇用保険の対象になるような働き方をするとすれば、パートタイムの仕事を2つや3つ掛け持ちでやっていくのでしょうから、マルチジョブホルダー制度で雇用保険に入る方も出てくるのでしょうね。

 

 

雇用保険に加入する手続きを行うのは会社ではなく65歳以上の労働者である本人が行う 

雇用保険に入る時は、会社を経由して加入手続きをするのが一般的ですけれども、65歳以上の従業員を対象とするマルチジョブホルダー制度の対象になった方は、自分自身で雇用保険に加入する手続きをします。

事業所ごとの労働時間を把握するのは難しいので、本人の方で雇用保険の被保険者資格取得手続きをする必要があるのですね。

資格取得手続きで使う書類に、事業所ごとに記載をする必要があり、資格取得届(雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届)をそれぞれの事業所、先程の例だと事業所Aと事業所Bに持っていって、必要事項を記入してもらい、それを本人がハローワークに持っていくなり郵送するなりして雇用保険に加入する流れになります。

退職して雇用保険の被保険者資格を喪失する手続きも、会社でやってくれるわけではなく、本人がやることになります。被保険者資格を取得する時と同じように、資格喪失手続きの時も、雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届へ各事業主に記入してもらう部分があって、それをそれぞれの事業主に記入してもらい、後に本人が資格喪失手続きをするわけです。

申請書の書類を本人が持って回って、必要な部分を事業主に書いてもらって、最後に本人が申請書を出します。会社に全部お任せとはならないのがこのマルチジョブホルダー制度の手続きです。

雇用保険や社会保険の手続きは、会社で働く方だと、色々な手続きを会社任せにして(源泉徴収や年末調整も同様)、お互いにおんぶに抱っこのような状態で任せっきりにしてしまうものですけれども、65歳以上の方で、マルチジョブホルダー制度が適用されるとなれば、雇用保険に加入する本人が動いていかなければいけないのです。

雇用保険にマルチ高年齢被保険者として加入した後は、本人が自発的に雇用保険から脱退することはできません。雇用保険から抜けたいならば、雇用契約を変更して所定労働時間を減らして、被保険者資格喪失する条件に該当すれば雇用保険から抜けることが可能です。労働時間を合算して、週20時間以上にならなければいいので、20時間未満になるように週所定労働時間を調整すると雇用保険の被保険者資格喪失できます。 

職場に65歳以上の方がいて、複数の職場で働いているということを会社が把握したならば、今回のこのマルチジョブホルダー制度についての情報を積極的に本人に伝えていかなければいけないでしょう。

雇用保険マルチジョブホルダー制度について

~ 令和4年1月1日から65歳以上の労働者を対象に「雇用保険マルチジョブホルダー制度」を新設します~

マルチジョブホルダーとして雇用保険に加入することを望まないならば、他の会社で働いているということを職場に伝えなければ、職場の方にはマルチジョブホルダーかどうかが分かりませんから、雇用保険に入らずに働き続けるという選択肢もあるのではないかと。

雇用保険に入らずに、そのまま過ごしていて、何らかの形で雇用保険に入る必要があると判明すると、過去2年分に遡って雇用保険に加入する可能性がありますけれども、社会保険に比べて雇用保険料は低額ですから、遡及加入のリスクをあえて取り、雇用保険に入らずに働き続けることを選ぶ人も出てくるのではないかと想像しています。

雇用保険に入る本人はマルチジョブホルダー制度について知っているのかどうか。職場の人たちも今回のこの新しいマルチジョブホルダー制度について理解してるのかどうか。本人や職場の労務担当者が制度を理解していなかったら、知らないまま手続きがされない、なんてことも想定できます。

社会保険にせよ雇用保険にせよ、1人の人間につき仕事が1つという前提で制度が設計されていて、2つ、3つの職場で同時に働く人が存在すると想定して精度が作られていません。ですから、後付でこういう制度を作る作らざるを得ないのが現実なのでしょう。 

 

雇用保険料を間違えないように自動で計算してくれる給与計算ソフトは?
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