- 固定残業代制度にあまり良いイメージがない?
- 固定残業代制度の残業時間数と賃金の内訳が不明瞭な求人情報
- 固定残業代制度を求人情報できちんと表示する条件
- 固定残業代制度で残業を減らす
- 欠勤した日に固定残業代を控除するには?
固定残業代制度にあまり良いイメージがない?
固定残業代制度に対してどのようなイメージを持っていますか。
残業代を減らすために導入しているんじゃないか。
割増賃金をごまかすために導入しているのでは。
残業代の内訳を分かりにくくして煙幕を張っていると感じる。
固定で支払った残業代を超えて働かせ放題になるんじゃないの?
このようにあまり良いイメージを持たれていないのではないかと想像します。
固定の残業代ですからね。「これ以上は払わんぞ」という意思が伝わってきますから良いイメージを抱かれないのも当然。
しかし、固定残業代制度にも良いところはあり、事前に定めた時間数よりも短時間で仕事を終えれば、労働者の時間あたりの賃金単価が上昇します。つまり、なるべく残業しないように仕事をすれば給与が増えるので、残業を減らしていく効果を期待できます。
残業代ではなく残業を減らすために利用するのが固定残業代制度なのです。
固定残業代制度の残業時間数と賃金の内訳が不明瞭な求人情報
「初任給42万円(固定残業代80時間分を含む)」
このような 求人情報があったとして、あなたはこれを魅力的だと感じるでしょうか。
初任給が月に42万円という部分に意識が向いてしまって、初任給で42万円だったら良い条件なんじゃないかと思って反応してしまう方もいるのでは。これが新卒初任給で月42万円だったら、反応する学生もいるでしょうね。
ちょっと気になるのは、初任給42万円に固定残業代が80時間分含まれているところです。
「80時間分の固定残業代か、具体的にはよくわからないけれども、初任給42万円だから悪くないのだろう」、と良いように解釈しますか?
80時間分と書かれていても、じゃあ具体的に金額はいくらなのかは表示されていません。金額が不明なので、時間あたりの単価も分かりません。
落ち着いて考えると、この固定残業代制度は大丈夫なのか不安に感じますよね。
固定残業代制を導入するときは、固定残業代が何時間分に相当するのか、金額ではいくらなのかを明示しておく必要があります。
未払いの残業代が発生しないようにきちんと条件を示して分かりやすくしておきます。
固定残業代が何時間分なのか、金額ではいくらで、時間あたりいくらなのかが分かる。これだと求職者にも判断ができます。
さらに、基本給と固定残業代を分けて表示しているのかどうか。事前に決めた固定残業代の時間数を超えた場合は追加で割増賃金を支給すると表示しているか。これらの点もチェックするポイントです。
働く条件の書き方が曖昧なまま固定残業代制度を導入すると、きちんと残業代が払われているのかどうか不信感を持たれます。さらに、残業代をごまかしているんじゃないかとも思われてしまいます。きちんと正しく賃金を計算して支払っていたとしても、事前に示した情報が曖昧なままだと相手に不安感を与え、それが不信につながります。
固定残業代制度を求人情報できちんと表示する条件
固定残業代の条件の提示の仕方として良い例が厚生労働省の労働条件明示の解説ページの中にあります。
求職者の皆様へ ~ 求人票・募集要項等のチェックポイント ~ <職業安定法が改正されます> 施行日:2018(平成30)年1月1日(2ページ目 賃金より)
固定残業代制度を正しく表示するための3条件
- 基本給と固定残業代の部分を分けて表示している。
- 固定残業代の部分は時間数と金額を併記している。
- 指定した時間数を超える時間外労働については追加で割増賃金を支給すると表示している。
この3つが明記されているのが良いところです。
固定残業代を80時間分を含むという表示だけだと金額と併記されていないため1時間あたりの固定残業代がいくらか分かりません。これではきちんと固定残業代の条件について明示したとは言えません。
付け加えると、固定残業代を含む賃金が最低賃金法で定められた基準を下回らないようにするのは当然です。
さらに、固定残業代80時間分を含むと書かれた場合、この80時間分の中身は割増賃金のみで80時間分なのか、基本給と割増賃金を合わせて80時間分なのか、この点も不明確です。基本給と固定残業代を分けて明示すれば明確になります。
初任給42万円という表示の仕方だと、基本給の部分と固定残業代の部分を分けて表示していないため、求職者に正確な情報が伝わりません。
事前に決めた月80時間を超えたときは追加で割増賃金を支給すると書かれていないところも求職者には不安です。固定の残業代で働かせ放題になるんじゃないかと思いますよね。判例では、固定残業代の設定が曖昧で、実際に労働者がどれだけ残業したかに関わらず、一定の額を固定残業代として支払っていたケースがあります。
固定残業代が実際の残業時間に見合った額であること。実際の残業時間で計算した時間外労働の割増賃金が固定残業代を超える場合は、追加の残業代を支払う必要があります。
固定残業代制を導入するときは、上記の3つの条件を満たすように労働条件通知書や雇用契約書、就業規則、賃金規定に定めます。
判例では、固定残業代が基本給に含まれていることが適切に区別され、労働者に明確に説明されていなければ、その有効性は認められないとされています。基本給と固定残業代の内訳が分かるように求人情報を記載し、労働条件通知書や雇用契約書でも固定残業代と基本給が明確に区別するよう書面を作成します。
基本給を減らして、減らした分を固定残業代に回して賃金の総支給額を変えないようにして裁判になった例もあります。賃金体系を変更した後、基本給が以前よりも低く設定され、その代わりに固定残業代が高く設定されることで、総支給額を変えずに残業代の支払いを避ける試みが問題となりました。
固定残業代制度で残業を減らす
予め80時間分の固定残業代を払うわけですから、もし1ヶ月の時間外労働が60時間だったとしても事前に決めた80時間分の固定残業代を支払います。そのためなるべく残業をせずに仕事を終える方が労働者には有利です。
より短時間で仕事を終わらせるインセンティブを与える効果が固定残業代制にはあります。
例えば、「固定残業代80時間分の時間外手当として12万円を支給」と表示されていたら。
この固定残業代を割増賃金とすると、基本賃金の25%が12万円になりますから、1時間あたりに換算すると1,500円です。ここから計算すると基本給は1時間あたり6,000円。
この人が時間外労働した場合、基本給が6,000円と割増賃金が1,500円ですので、1時間あたり7,500円の賃金になります。
もし、1ヶ月の時間外労働が60時間だと、1時間あたりの固定残業代は2,000円。残業すれば基本給と合わせて1時間8,000円になります。
これならば「なるべく残業しないようにしよう」と思えますよね。
残業代を減らすために固定残業代制度を採用するのではなく、残業を減らすのが固定残業代制度の目的です。
欠勤した日に固定残業代を控除するには?
欠勤した日に固定残業代が控除されるかどうかは、就業規則や労働契約書の内容により異なります。労働者が欠勤した場合、その日数に応じて固定残業代も比例して減額されると考えますが、具体的な取り扱いについては、会社の規定を確認することが必要です。
固定残業代を欠勤控除する定めが就業規則や労働契約書で無ければ、欠勤でそれを減額すると賃金の全額払い(労働基準法第24条)に違反します。
そのため、欠勤日に定額残業代を控除するには、就業規則や労働契約書にその旨をあらかじめ定めておきます。
欠勤による固定残業代の控除を就業規則で定める場合、不利益変更とみなされる可能性があります。採用時の契約締結時に説明していればいいのですが、在職者には別途対応が必要です。個別に説明し、労働者の同意を得て欠勤控除の仕組みを実施します。休んだ日に応じた控除ですから同意は得やすいでしょう。
固定残業代の欠勤控除を就業規則で定める場合の一例
欠勤による控除
労働者が欠勤した場合、欠勤1日につき、固定残業代の月額を所定労働日数で除した金額を固定残業代から減額します。
このような決まりが就業規則や労働契約書にあれば、欠勤した日の固定残業代を減額することができます。
契約書で決めた通りの内容をお互いに履行する。これが商取引では当たり前ですけれども、会社内の雇用契約では、雇用契約の内容と就業実態がずれてしまうこともあり、往々にして雇用契約が軽く扱われがちです。