- 病気でもなく健康なのに、感染症対策という名目で一方的に仕事を休みにされる
- 感染症だからといってノーワーク・ノーペイは通用しない
- 短期間の臨時休業ならば、他の休みの日と振り替えて対応できる
- 滅多に起こらないことを過大評価するのが人間
- 従業員が持っている年次有給休暇を使わせることはできない
- 雇用調整助成金で現金の減りを遅くする 助成金で手持ちのお金は増えない
病気でもなく健康なのに、感染症対策という名目で一方的に仕事を休みにされる
いよいよコロナウイルスの感染が拡大してきて、学校では春休みが前倒しになり、お店は臨時休業や短縮営業を実施し始めています。他にも、会社がしばらく休業したり、アミューズメントパークが休園し、色々と自粛する雰囲気が出てきています。
公立の図書館まで臨時休館する状況ですからね。大して混み合うような場所でもないのでしょうが、あれもこれも休止となると、図書館も後を追うしかないのでしょう。
お客さんが少なかったり、製品を製造するだけの注文がなければ、従業員を休ませて、自宅で待機させようか、と考える使用者もいるはず。
自宅待機すれば、感染するリスクを下げることができるのでしょうし、生産活動も止めることができますから、さも合理的な判断であるかのような感じがします。
では、無給で、給料を払わずに、従業員を自宅待機させることは、可能なのかどうか。この点が問題となります。
感染症だからといってノーワーク・ノーペイは通用しない
自宅待機しているということは、仕事をしていないわけだから、給与も出ないんじゃないのかと。
こう考える方もいらっしゃるかもしれませんが、仕事ができる状態の従業員を、使用者の判断で休ませてしまうと、 それは使用者の都合による休業となり、仕事をしていなくても、一定以上の給料を払わなければいけなくなります。
コロナウィルスに限らずですが、例えば、台風が来て、お客さんが少ないからお店を休みにするとか、従業員を早退させる場合も、使用者の責任による休業になります。
仕事ができる、営業ができるならば、そのような状況で、お店なり、会社なりを閉めてしまうと、それは使用者の責任になってしまうのです。
雇用契約を締結して人に働いてもらっていると、使用者はその契約通りに労働者が働けるようにしないといけないのです。
仮に、週5日で出勤すると契約で決めていれば、使用者側の一方的な都合で、週3日にしてみたり、週4日にしてみたりすることはできないのです。
週5日と決めているわけですから、週5日働けるように環境を整えるのが、使用者の義務なのです。
物を買う時でも、1個1,000円で、100個買う、と約束していたなら、ちゃんと約束通りに、その品物を買わないといけません。
何らかの材料を仕入れる場面で、買主の都合で、「1個1,000円じゃなくて800円にしてくれ」とか、「100個買うつもりだったけど30個で十分」だとか、そういうことを一方的に売主に対して主張することはできないのです。
注文を受けた側としては、買ってくれることを前提に準備しているのですから、買う側が一方的に、値段を下げたり、購入する数量を減らすとなれば、契約違反であり、違約金を請求されます。
そういう商取引では、当事者の一方が、一方的に取引を打ち切ってきた場合、違約金に関する条項が契約書に書かれていて、補償するのが通例です。
買主から受け取っている手付金を売主が没収する。キャンセル料を請求する。違約金を請求する。このような手段で売主は買主に補償を求めます。
「購入を取りやめた額の80%を違約金として売主に支払う」 というのが一例です。1個1,000円で、70個分の注文をキャンセルすれば、56,000円が違約金になるわけです。
ホテルの宿泊キャンセルでも、キャンセル料の設定がありますよね。
雇用契約でも、元気な人を自宅待機させると、休業手当(労働基準法26条)が必要になり、無給だと法律違反になります。休業手当は、キャンセル料や違約金に相当するわけです。
働ける人を休ませたときは、ノーワークノーペイの理屈は通じません。
ただし、既に病気を発症した人ならば、通常通りに病欠として扱うことができます。
短期間の臨時休業ならば、他の休みの日と振り替えて対応できる
元気な人を休ませている、という点が問題で、病気を発症していない人まで休ませてしまうと、給料が必要になってしまいます。
臨時休業するとなると、その職場の人全員が休むわけですから、その中には健康な人も多く含まれているはずです。全員がコロナウィルスに感染して、ゼイゼイ、ハアハアと苦しんでいるとは考えにくいでしょう。
働こうと思えば、問題もなく働ける。そういう人もひっくるめて休業させてしまうと、仕事をしてもらっていなくても、一定以上の給料を払わなければいけないのです。
ただ、臨時休業でも、短期間、例えば二日間だけとか、三日間だけならば、他の休日と振り替えることで、出勤日を減らさないようにできます。
例えば、火曜日、水曜日、木曜日、この3日間を臨時休業としたならば、他の休みの日(3日分)を、その3日間の代わりに出勤日に変えます。
他の日と出勤日を入れ替えて、振替休日の形にすれば、それは休業にはなりません。名目上は臨時休業ですが、実質は振替休日ということ。
休業にして、そのまま休みを取っただけ。減った分の出勤日を、他の日で補填しない。そういう場合は、使用者の責任による休業になってしまいます。
ですから、短期間の臨時休業で済むならば、他の休日と入れ替えて対応すれば、休業手当を支払うことなく、臨時休業を実施できます。
しかし、休業の期間が2週間とか1か月という期間になると、さすがに振り替えて対応できる日数ではありませんから。こういう場合は、休業手当を支払う必要があります。
なお、フルタイムの正社員だけではなく、パートタイムで働く人や学生も休業手当の支給対象になります。
滅多に起こらないことを過大評価するのが人間
新型コロナウィルスに対して過剰な反応をしがちなところは、飛行機事故に遭遇したときに似ています。
自動車の事故は頻繁に起こり、怪我をする人や死亡する人も多いのですが、人はさほど驚きません。普段からよく起こる事ですから。
しかし、飛行機が墜落する事故は滅多なことでは起こりません。もし起こった場合は、テレビで報道され、「飛行機は怖い」というイメージを人に与えます。
自動車の方が飛行機に比べて、怪我や死亡の可能性は高いのですが、飛行機の方が危ない、怖いと考える人はそれなりにいます。
インフルエンザで感染者や死者が出ても、人は普通のことと反応しますが、コロナウィルスで感染者や死者が出れば、メディアは積極的に報道しますし、情報に接した人も過敏に反応します。
事業なり商売を止めたりせずに、通常通りに営業しておけば、休業手当は払うかどうかで悩む必要はありません。
自粛、休業が広がる中、通常通り営業しているお店や会社もあります。
職場を毎日消毒する。手をマメに洗う。洗った後は必ず消毒する。マスクを着用して仕事をする。
そういった予防を講じた上で、いつもと同じように商売をする、というのも一つの選択肢です。
お店なり会社なりで行われる商売というのは、自分のところだけで完結しているものではなくて、取引先があったり、仕入先があったり、毎日のようにお店に来てくれる常連さんがいて、そういった方々のことも考えて商売をしなきゃいけないわけです。
一方的に商売を止めます、お店を閉めます、というのではうまく回らないところも出てきます。
感染が広がらないようにするのは大事ですが、社会というのはお互いに関連しあって動いているという点も大事なところです。
感染する人をゼロにするというのは不可能ですから、ある程度の対策をしても、感染者はそれなりに出てくるだろうと織り込んで、日常生活になり仕事をしていくんだ、という判断もあって良さそうですが、現実にはなかなかそうなってないようです。
従業員が持っている年次有給休暇を使わせることはできない
休業時に、従業員が持っている年次有給休暇を使わせるのはダメです。
特別有給休暇を別枠で用意して、それを使って休ませるならば、労働基準法26条の内容を履行していることになるので問題ありません。
しかし、法律に基づいて、労働者に付与された年次有給休暇を使って自宅待機させると、それは使用者の都合による休業になります。
休業という形にせず、年次有給休暇が残っているんだから、それを使って休んでもらえばいいだろう。さらに、年次有給休暇の取得義務化にも対応できて一石二鳥だ。
そんな考えも出てくるかもしれませんが、法律に基づいて付与される年次有給休暇は、労働者本人が使うかどうかを決めるものですから、コロナウイルスの影響で仕事を休みにするから年次有給休暇を使ってくれ、と会社から要求することはできないのです。
ただ、法定の年次有給休暇とは別枠で、特別な形の有給休暇、会社が追加で用意する特別有給休暇ならば、従業員の年次有給休暇は減りませんし、実質的に休業手当を支払ったものと同じになります。
従業員が持っている年次有給休暇を減らさない形で、会社が特別有給休暇を設定して、それで休んでもらうというのは構いません。
特別有給休暇でしたら、26条の休業手当の内容も含んだ形にできますから、休業手当を支払う手間を省けます。
雇用調整助成金で現金の減りを遅くする 助成金で手持ちのお金は増えない
現金がなくなれば会社は潰れます。
働いてもらっていないのに、給与を支払っているとなれば、会社のお金は減っていきます。営業していませんから。
会社というのは、営業していなくても費用が発生するもので、その費用をカバーできなくなると、銀行から融資を受けるか、資金ショートで倒産することになります。
休業手当を支払うと、雇用調整助成金でその費用を補助してもらうことができます。
雇用調整助成金とは、会社が従業員を休ませて、休業手当を支払ったときに、その費用の一部を補助するものです。
ただ補助するといっても、休業手当の全額が助成金として支給されるわけではなくて、その一部が支給されるに止まります。
助成金を支給されていたとしても、徐々に会社のキャッシュは減っていきますから、そのキャッシュが尽きるまでの間に、通常営業に復帰しなければいけないわけです。
コロナウィルス感染への対応として、雇用調整助成金の特例が実施されているのですが、厚生労働省のウェブサイトから特例の内容を記載したPDFが削除されています。
特例の内容を変更するために一時的に非公開にしているのだろうと思いますが、3月の段階では流動的に内容が改定されていくはずです。
新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置の対象事業主の範囲の拡大について
中国関連の取引で影響を受けていた事業主に限定されていたものが、「新型コロナウィルス感染症の影響を受ける事業主」に変わり、対象が随分と広くなりました。
2008年の末から2009年の初め頃にかけて、申請手続きをやった経験がありますが、労働局の窓口がまた1時間待ち、2時間待ちになるのでしょうか。あの待ち時間が辛いんです。
雇用調整助成金で休業手当が補助される金額は、中小企業は2/3、中小企業以外は1/3です。
仮に、1日分の休業手当が1万円だとすると、中小企業ならば約6,600円が助成金として補助され、残りの3,400円を会社が支払うという内訳になります。
雇用調整助成金を利用しても、会社はある程度の費用を支出しますから、それに耐えられるだけのキャッシュがあるかどうかが分かれ道になります。